「リトル・ミス・サンシャイン」鑑賞

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「リトル・ミス・サンシャイン」を観てきた。「AVクラブ」のレビューでは肯定的なものと否定的なものの両方があったので、あまり期待せずに観たんだが…。

うーん、なんか惜しい映画。それぞれ悩みを抱えた家族のメンバーが、娘の美少女コンテスト参加のためにバンに乗って旅をするうちに、自分たちがそれまで持っていた価値観よりも大切なものがこの世にあることに気づく…というのが、まあものすごく大まかな話の流れであるんだけど、各人が持っている悩みというか価値観というのが「自己啓発の本が売れない」とか「ゲイの恋人にふられた」とかという、なんかとってもアメリカンなもので、いまいち共感できるところがないんだよね。

そもそも物語の発端となった美少女コンテストだって、プラスチック製の人形のような女の子が大人にわざとらしく愛嬌をふりまくという非常におぞましいものであって(ジョンベネちゃん殺人事件もあったし)、そんなものに娘を参加させようとした時点で「あんたらどこか変じゃないの?」と思わずにはいられないのです。あと息子が××だということが判明するシーンもあるけど、普通もっと早く日常生活で気づかないかあ?

こういう映画って観る人がいかに登場人物に感情移入できるかというのが非常に重要なポイントなんだけど、残念ながら個人的には共感できるところが少なかったかな。だからといってダメダメな作品かというと必ずしもそうでなく、感動できるシーンはいくつかあったし、グレッグ・キニアやスティーブ・カレルの演技もとてもハマっていて良かったと思う。それだけに前述のような理由で楽しめなかったのが惜しまれるところであります。残念。

「COCAINE COWBOYS」鑑賞

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1980年代前半のマイアミにおける麻薬ビジネスの闇を扱ったドキュメンタリー「COCAINE COWBOYS」を観る。 比較的警察の数が少なく、海路によって南米からのアクセスも容易だったマイアミは1970年代の後半からコカインやマリファナといった麻薬の密輸が急激に増え始め、何百キロ・何千キロといった量の麻薬がマイアミへと流れ込んでいく。これによって麻薬ビジネスに関わっていた者たち(特にコロンビアン・マフィア)には莫大な富がもたらされるものの、これと同時にマフィア同士の抗争も増加し、幼い子供を含め年に500人以上もの人が殺されるという異常事態に発展する。これを重く見たマイアミ警察は警官の大幅な増員をはかるものの「麻薬の経験がある者はお断り」という制限のおかげでろくに人が集まらない始末。警官の殺害や汚職逮捕も増加し、マイアミの事態は全国的な問題へと発展していく。そんななか、ビジネスの大半を牛耳るコロンビア人の女ボスの存在が明らかになってくる…。というのが大まかなプロット。

興味深いのは、本来ならば闇のビジネスである麻薬取引があまりにも巨額の利益を関係者にもたらしたことで、彼らを通じてナイトクラブや銀行に金がもたらされ、結果的にマイアミの経済成長に大きく貢献することとなったという点。これによってアメリカ全土が不景気にあえいでいるときもマイアミだけは好景気に湧き、麻薬が街の「主産業」となって半ば公然と使用され、多大な献金を行ったことで麻薬ディーラーが政治家たちとねんごろになった時期もあったという。結局は国のメンツをかけた大規模な取り締まりによって麻薬ビジネスは縮小してくのだけど、これにあわせてマイアミの景気も減衰していったというのが何とも皮肉なオチになっている。街の建物などはボロボロになり、80年代後半の「マイアミ・バイス」の成功などによって街は観光地へと変化したんだとか。

ちなみにこの作品は麻薬の運び人をやってた人たちや警官、医師たちのインタビュー映像および当時のマイアミの写真・映像によって構成されているんだけど、昨日の「THE WILD BLUE YONDER」なんかとは対極的に短くて素早いカットが多用され、「マイアミ・バイス」のテーマ曲で知られるヤン・ハマーの音楽にのせて犯罪の物語が語られていく。良くも悪くも扇動的というか、タブロイド的な作りのドキュメンタリーといえばいいのかな。冒頭から観る人を惹きつけていくのには成功してるんだけど、1時間くらいすると観てて疲れてくるのも確かではある。

闇ビジネスが大きくなって1つの都市を乗っ取ったという意味で、非常に見応えのあるドキュメンタリー。日本では夕張市が財政不足にあえいでるらしいけど、北朝鮮あたりから麻薬を密輸して売りさばけばあっという間に大金持ちになれまっせ。長期的な影響はどうなるか責任とれないけど。

「THE WILD BLUE YONDER」鑑賞

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鬼才ヴェルナー・ヘルツォークの「THE WILD BLUE YONDER」を観る。いちおう冒頭のクレジットでは「SFファンタジー」だと紹介されるんだけど、従来のSFとはまるで違ったとても不思議な作品だった。

物語の主人公・語り手となるのはブラッド・ドゥーリフが演じる宇宙人。彼らはアンドロメダ星雲の彼方にある、死にゆく惑星「ワイルド・ブルー・ヨンダー」を離れて何百年も宇宙をさまよい、居住可能な惑星を探して地球に百年くらい前に到達し、地球人にまじって暮らしていたのだった。でも宇宙人だからといって超能力が使えるといったわけでもなく、彼らは外見も能力も地球人そのままで、才能があるとすれば宇宙のことをちょっと知ってるというくらいで、大都市を建設しようとするものの見事に失敗して「僕らはサイテーだ」とボヤいてる始末。

そんな間にNASAはロズウェル事件での落下物(実は宇宙人の送った探査機)を再調査するのだが、そこから正体不明の細菌が流出したことを危惧した彼らは、地球が汚染されて住めなくなる可能性を考慮して、居住可能な惑星を探す任務を一機のスペースシャトルに託す。そのあと細菌は無害であることが判明するが、シャトルは長い旅をそのまま続けることとなった。そしてNASAの数学者の考案によって、宇宙人たちも知らなかった宇宙旅行の近道が発見され、シャトルは宇宙の彼方へと進んでいく。そこで彼らが見つけた居住可能な惑星、それは「ワイルド・ブルー・ヨンダー」だった…というのが大まかなストーリー。

こうしてストーリーだけ書くとバリバリのSF作品のように聞こえるだろうけど、SFX映像などは一切なし。シャトルのシーンなどにはNASAによる実際の映像が使用され、水の惑星「ワイルド・ブルー・ヨンダー」のシーンには、南極の海の中の映像が使用されている。NASAの作業を撮影したごく普通の映像でも、「これは極秘の映像だ」なんていう”宇宙人”のナレーションがかぶさると全然別の映像に見えてしまうのが不思議。しかも作品の6割くらいにはナレーションもなく、宇宙と海中の神秘的な映像がオペラなどにのせて流されるので、半ばドキュメンタリーを観てるような感じになってくる。そこらへんがヘルツォークらしさでもあるんだけどね。

この非常に特殊なスタイルが100%効果的に働いているかというと、必ずしもそうじゃないんだが、何にせよ非常に印象的な作品になっていることは間違いない。行き先不明の長旅を続ける宇宙飛行士たち、そして故郷をしのぶ宇宙人の何ともいえない悲哀が話のベースにあるのも素晴らしい。作品の大半がフッテージ映像でありながら、ハリウッドではとんと作られなくなった「知的なSF映画」をきちんと作ってしまっているところが見事。J・G・バラードあたりの短編を映像化したらこんな感じになるのかな。もはや大ベテランの監督でありながらこんな作品をしれっと作ってしまうんだから、やはりヘルツォークは侮れない。

「悪魔とダニエル・ジョンストン」鑑賞

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「悪魔とダニエル・ジョンストン」を観た。 なんかすごく痛々しいドキュメンタリー。雰囲気的には、あの大傑作ドキュメンタリー「クラム」のミュージシャン版といった感じなんだが、あちらは主人公の兄弟が精神病スレスレだったのに対し、こちらは主人公が実際に精神病ということでさらに痛々しい。

アメリカの片田舎の、絵に描いたように平和そうで敬虔なキリスト教徒の家庭に育ったダニエルが、音楽やマンガに興味を持ち始めて芸術的才能を開花させていき、それで有名になっていくのと同時に現実世界との接点が少しずつズレていき、だんだん言動がヤバくなっていくさまはそこらのホラー映画なんかよりもずっと怖い。そしてミュージシャン仲間にもらったドラッグによって精神の崩壊は加速するわけだが、彼を助けようとする周囲の人々と、発作によって暴走を繰り返す彼の騒動の繰り返しは言っちゃ悪いがものすごくシュールなところまで到達してしまっている。

例えばソニック・ユースのスティーブ・シェリーと仲良くなってニューヨークに来たのはいいけど発作を起こしてケンカし、家を飛び出して行方不明になっていたのをサーストン・ムーアとリー・レナルドによってニュージャージーで発見され、実家に帰してもらったはずが2日後にはちゃっかりニューヨークに戻ってCBGBでファイヤーホースの前座をやってたなんてのは普通の人間にできることじゃないっすよ。それから彼はハーフ・ジャパニーズともコラボをやるわけだが、彼に比べるとジャド・フェアーがものすごくマトモな人に見えてしまうのには驚愕するしかない。

その後の彼は全国的に有名になると同時に精神の崩壊が進んでいくわけで、カート・コベインが彼のTシャツを着てたおかげでメジャーレーベルと契約を交わすもアルバムが5000枚くらいしか売れなかったとか、大観衆を前にライブをやった直後に父親が操縦する飛行機のキーを投げ捨てて墜落を引き起こしたなんて話が、彼の光と影を如実に表している。

そして彼は今でも両親に面倒を見てもらい、マウンテンデューをガブ飲みしながら親の運転する車に乗って買い物に行き、地下室で音楽を作っているわけだが、両親は確実に年をとってきているわけで、「私たちももう先が短いのです…」という父親の言葉で終わるラストはあまりにも哀しい。結局いちばん苦労するのは親なんだよね。

ちなみに前にヘンリー・ダーガーのドキュメンタリーを観たときにも思ったんだが、俺を含む多くの人々って、ダニエル・ジョンストンの音楽が純粋に好きだという気持ちよりも彼のフリークぶりに興味をもってこういったドキュメンタリーを観るわけで、なんかフリークショーを好奇の目で見てるような罪悪感を感じてしまうんだよね。それに関連して、ダニエルの友人が言っていた「僕はゴッホを天才として扱わなかった彼の友人たちを軽蔑してたけど、いざ自分が似たような立場に置かれたら、僕もやはりダニエルを精神病院に送ることしかできなかった」という彼の言葉がなんかとても印象に残っている。

「クラークス2」鑑賞

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ケヴィン・スミスの新作「CLERKS II」を観る。以前はちょっと否定的なことを書いたけれども、ネット上の評判が結構いいのと「30代になったサエないオタクたち」というテーマが心の琴線に響くところがあり、観てみた次第なのです。

で、まあ、確かに30超えてもロクな生活してない男たちの物語ではあるんだが、それ以前に:

下ネタ多すぎ。

同世代の女と結婚するのと17歳の学生と遊んでるのではどっちがいいかという話から”Ass To Mouth”の是非についての長い議論につながり、”Pussy Troll”の話が出てきて、しまいにはロバさんまでが登場してものすごくヤバいことになってしまうんだが、単なるオゲレツ映画と違って、これらの会話がキャラクターの設定にちゃんとつながっているのが巧いところか。

そして監督のトレードマークである「スター・ウォーズ」に関する話もちゃんと出てきて、今回は「ロード・オブ・ザ・リング」のファンとの舌戦を繰り広げてくれる。こういうポップ・カルチャーの解釈に関する大論説とかって最近の映画ではまるで見られなくなったね。タランティーノのパクリが流行ってたころはみんなやってたのに。90年代は遠くになりけり。でも肝心の登場人物たちは、ジェイ&サイレント・ボブが相変わらずラリってて、ランダルはやること全てムチャクチャで客にケンカ売ってるし、ダンテだけが1人でオロオロしてて前作の頃と誰も変わってないでやんの。もちろんみんな年とって肌のツヤもなくなってきてるんだが、昔の友人と会ったら何も変わってなくって懐かしかった、といった感じでちょっと嬉しいかも。ちなみに主人公たちの高校の同級生で大金持ちになったイヤな奴が登場するんだが、ジェイソン・リーが演じてるんで全然金持ちに見えないでやんの。

そんな彼らにも人生の岐路は訪れるわけで、前作の舞台だったコンビニが火事で焼失してしまい、ダンテとランダルがファストフード店(「ドグマ」に出てきたムービーズだ)でしがない仕事をするようになってから1年。ダンテが結婚するために婚約者とフロリダに去る前日というのが今回の設定。フロリダでの幸せな生活を目前にしながらもダンテは相変わらず優柔不断で、1夜をともにしてしまった職場の上司ベッキー(ロザリオ・ドーソン)のことが気になっていた。そんな彼の悩みをまるで知らないランダルは盛大なさよならパーティーを企画するが、ベッキーの意外な秘密が明らかになって…。というのが主なプロットで、前作同様に小話がいくつもつながって1つの大きな話になってるといった感じ。でも単なる楽屋オチの集まりだった「ジェイ&サイレント・ボブ 帝国の逆襲」と違って、ちゃんと最後にはホロリとするシーンもあったりする。ここらへんは監督の成長の度合いが表れてんのかな。ロザリオ・ドーソン(俺の好み)がダンテのようなダメ男を好きになるというのは絶対ウソだと思うけど。

そもそも「クラークス」って、20代の若者のダメダメだけど気楽な生活を同世代の監督が徹底的な低予算で描いたところが魅力だったんだが、今回も結局のところ30代のやっぱりダメダメだけど気楽な生活を描いてるわけでだ。そしてラストに至っては「そこまで何も変わらんのか?」というくらいの展開になってしまうんだが、これが逆に俺のようなダメ人間にとっては自分の生活を肯定されてるようで、それはそれで楽しいことなのです。まあ現実はそううまく行かないんだけどね。ケヴィン・スミスは40代になったダンテとランダルの姿も描きたいと言ったらしいので、彼らが10年後にどうなってるかに今から期待しておこう。

ちなみに俺はこれで「世界で一番パパが好き!」以外のケヴィン・スミス作品、つまりいわゆる「ヴュー・アスキューバース」の作品を全部観たわけだが、好きな順に並べると:

 1、クラークス
 2、チェイシング・エイミー
 3、クラークス2
 4、モールラッツ
 5、ジェイ&サイレント・ボブ
 6、ドグマ

みたいになるかな。他の人のはどうなんだろう。