「IDIOCRACY」鑑賞

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やあみんな!「IDIOCRACY(イディオクラシー)」っていう映画を知ってるかい?知ってる君は、俺みたいに海外の映画サイトをウロついてるオタクだね!ちょっとは外に出て遊ぼうぜ!…という哀しい冗談はさておき、去年ほとんど誰も観れなかった幻の映画「IDIOCRACY」を観た。

これは「ビーバス&バットヘッド」や「キング・オブ・ザ・ヒル」といったアニメで知られるマイク・ジャッジが、異様なカルト人気を誇る作品「リストラ・マン」に続いて監督した実写映画。なんで去これが幻の映画かというと、いちおう劇場公開はされたものの配給会社のフォックスがいっさい何の宣伝もせず、トレーラーさえも作らずに(!)ごくごく少数の映画館で短期間公開してすぐに打ち切ってしまった、えらく不運な映画なのだ。なんでフォックスがこんな仕打ちをしたのかについては後で述べるが、まかりなりにもマイク・ジャッジはエミー賞受賞作の「キング〜」や「リストラ・マン」でフォックスにそれなりの利益をもたらしてるわけで、それをあんな露骨に邪険にするなんていくらなんでも非道いよなあ。

まあ単に「映画の出来が悪いから打ち切られた」という可能性も考えられなくはないんだが、俺はティーンエイジャー(「B&BH)」)からサラリーマン(「リストラ・マン」)そして中年オヤジ(「キング〜」)の日常を的確にとらえるジャッジの才能は評価しているので、こないだ発売されたDVDをさっそく購入してみたんだが…

なにこれ、すげー面白いじゃん!

ルーク・ウィルソン演じるジョー・バウアーズは米軍に勤務するごく平凡な兵士。彼はあらゆる面で平凡であったため、逆にそれに目をつけられて軍の冷凍睡眠プロジェクトに参加させられる。彼はそこで一般人のリタという女性(実は売春婦)とともに冷凍カプセルで1年間の冬眠をする計画だったのだが、責任者が売春容疑で逮捕されたことからプロジェクトは人々に忘れられていき、なんと彼は500年もの冬眠をしてしまう。そして彼が目覚めた2505年には、そこはあらゆる人々の知的水準が著しく下がった世界があった。服や壁には広告がベタベタ貼られ、人々はトイレつきの椅子に座って流動食を食べながら一日中テレビを見て、医者や弁護士もとんでもないボンクラばかり。裁判は「ジャッジ・ジュディ」みたいな見世物ショーになりさがり、死刑はスタジアムにおいてモンスター・トラックと戦わされるというものだった。こんな世界に目覚めたジョーはふとしたことから逮捕されて刑務所に送られるものの、そこで受けた知能テストにおいて彼がこの世界では最高の知性を持っていることが判明。これによって彼は大統領(元プロレスラーでポルノ男優)から国の問題を解決するように頼まれるのだが…というのが大まかな話。

いちおう「The Marching Morons」というSF小説をちょっとベースにしてるらしいけど、「フューチャラマ」にも話は似てるかな。ジャスティン・ロングやトーマス・ヘイデン・チャーチもちょっと出てるでよ。「リストラ・マン」に比べてCGがふんだんに使われており、全体がゴミためと化した未来の都市の描写はなかなかリアル。1つの街ほどもある巨大なショッピングモールのシーンなんかは、「未来世紀ブラジル」の未来をさらに奇怪に歪めたような感じだ。

この作品の中心的なアイデアは何かというと、21世紀の現在において、学歴があってそこそこ収入があるようなカップルは経済的負担などを考えて子づくりに慎重になるけど、逆に無学で低所得の人たち(例えばいわゆるレッドネック)は後先も見ずにセックスばかりやってるから子だくさんになり、結局のところ未来の社会はこういった連中でいっぱいになり、知的水準はどんどん下がっていくだろうというもの。(詳しくはこのクリップを見よ)悪貨は良貨を駆逐するってやつか。日本でもヤンキー夫婦に限って子だくさんだったりするよね。

この予想が本当に当たるかは分からないけど(文章にすると選民思想みたいでイヤだな)、よくよく考えると劇中の未来社会で行われてることの大半は、アフリカやアジアあたりの教育水準が低い国で既に行われてそうだし、いまのアメリカ大統領とか欧米のリアリティー番組を見てると、500年も待たなくても人類みんなバカになりそうな気はする。でもこの映画では話が決して真剣にならず、とにかく最初から最後までジャンクカルチャーを徹底的に風刺してるのが非常に笑える。個人的には「40歳の童貞男」くらいに面白かったかな。

んでなんでこんな傑作が配給会社に無視されたかという話だけど、今のところフォックスはこの映画への処遇について公式なコメントを出しておらず、ファンのあいだではいろんな噂が飛び交っているようだ。いくつかの企業の描写(例えばスターバックスが風俗店になってる)に関して訴訟を恐れたなんて話もあるみたいだけど、これって単に例によって「会社のお偉いさんがバカな判断をした」という理由によるものだと思うんだけど、どうなんだろう。フォックスといえば「ボラット」の前例もあるしね。でもこれだけ面白い映画なので、ぜひ日本では劇場公開して欲しいところです。

「SF巨大生物の島」鑑賞

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レイ・ハリーハウゼン大先生が特殊効果を担当なされた「SF巨大生物の島」を観た。

いちおう原作はジュール・ベルヌの「神秘の島」なんだけど、邦題のごとく巨大生物が登場しまくって原作とはかなり内容のことなるものとなっていた。でもハリーハウゼン先生にはやはりダイナメーションで怪物をグリグリ動かしてもらわないと、ねえ。その肝心の巨大生物だけど、カニ(本物の殻を使ったらしい)やハチ、タコ、やけに色のハデなニワトリなど日常生活でみかける動物ばっかなので「アルゴ探検隊の大冒険」や「タイタンの戦い」に出てくる神話上の怪物たちに比べてインパクトは弱いものの、それでも精一杯動いて話を盛り上げてくれる。巨大カニが温泉に落ちてカニ料理になる、なんてお茶目な展開があるのもまたよし。

無人島に漂着した主人公たちがやけに気楽な暮らしをしてるように見えてしまうものの、要所要所にセンス・オブ・ワンダーを醸し出す演出がしてあって、観る人を飽きさせない。「LOST」なんかよりも面白いんじゃない?ネモ船長の初登場時のコスプレ(背中に巨大な巻貝を背負っている)はあまりにもマヌケすぎて笑ったけど。

特殊効果は確かに現在のものに比べればショボいけど、結局のところ話が面白ければ現在観ても十分楽しめるということを証明した良作。

「ニーベルンゲン~クリームヒルトの復讐」鑑賞

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巨匠フリッツ・ラングが1924年に公開した「ニーベルンゲン」2部作の後編「ニーベルンゲン~クリームヒルトの復讐」を観た。第1部の「ジークフリート」は5年くらい前に観たのかな。120分を超えるバージョンもあるらしいけど、俺が観たのは90分ちょっとのものだった。

俺は前から神話とか民間伝承が大好きで、現代の偽善的な「政治的に正しい」平等主義などお構いなしに、人間(もしくは神々)のあざとさとかえげつなさが意外と露骨に描き出されているところに魅力を感じるのです。例えば日本神話の国産みの話だって、女(イザナミ)のほうが男(イザナギ)よりも性行為に積極的だったからという理由で障害児(ヒルコ)が産まれ、仕方ないから船に乗せて流して捨てたという実に差別的なものであるわけで、別に俺は差別を助長する気はないけど、このように現代社会では明らかにタブーとされている内容に逆に新鮮味を感じてしまうわけだ。

そしてこのドイツの民間伝承(叙事詩)である「ニーベルンゲン」も本で読んだときは大きな衝撃を受けたっけ。ワグナーの「指輪」のような耽美的でナヨナヨとしたものとは違い、文字通り血で血を洗う争いが繰り広げられるその内容にはただ圧倒されるのみ。英雄ジークフリートが暗殺によって非業の死を遂げる場面が特に有名だが、あれだってもともとは妻のクリームヒルトが兄貴の妻にミエを張って痴話ゲンカをしたのが発端なわけで、そんなことのためにジークフリートは殺されたわけですよ。

それから物語の後半となる「クリームヒルトの復讐」では壮絶なる復讐劇が繰り広げられ、何千人もが血祭りにあげられるという実に凄まじい展開になってしまう。しかも悲劇の王女だったクリームヒルトはすぐに復讐に燃える悪女になってしまうし、その兄のギュンター王は何もできないデクノボーだし、ジークフリートを殺したハーゲンは悪役のくせにやたらカッコいいし、誰ひとり善人がいないまま殺戮が繰り返され、何の教訓も残さないまま終わる物語は素晴らしいとしか言いようがない。

そしてこの映画版だが、内容は基本的に原作(?)に忠実。ハーゲンのフン族の国への訪問よりもクリームヒルトの嫁入りに時間を割いてるかな。セットが小さくて人物に寄ったショットが大きく、字幕の画面が頻繁に出てくることもあって、なんか紙芝居を見てるような気になってしまう。ラングがこの後に撮った史上最高の大傑作「メトロポリス」の壮大さが無いのは仕方ないにしろ、第1部の竜退治のようなシーンもなく、全体的にチマチマした印象を受けるのは否めない。でもクリームヒルトの衣装デザインなどは凝っている。あと原作で火攻めにあったハーゲンたちがのどの渇きをいやすために、仲間の死体の血をゴクゴク飲んで「ああ、うめえ!」なんて言うとんでもないシーンはなし。ちょっと期待してたんだが。

ちなみに冒頭に「ワグナーはこの作品をもとにオペラを作った」という説明が流れるんだが、1924年といえばドイツではナチスが台頭してきた頃でもあるわけで、この映画はワグナー絡みのプロパガンダの一環として作られたんだろうか(ラングは後に亡命するけど)?でもまあ前述したように、観終わっても心に何の教訓も残らない作品ではあるんだけどね。

「コブラ・ヴェルデ」鑑賞

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ヴェルナー・ヘルツォークが気違い男クラウス・キンスキーと最後に組んだ作品「コブラ・ヴェルデ」を観る。

ブラジルで山賊をやっていた主人公コブラ・ヴェルデはその腕を見込まれサトウキビのプランテーションの管理役をまかされるのだが、やがて農場主たちの奸計によってアフリカへと派遣される。そこで彼は地元民たちの信頼を得て奴隷商売を成功させるのだが、やがてその国の王に目をつけられることになり…というのが大まかなストーリー。

ブラジルでの公開ムチ打ちからアフリカの王の儀式まで、なんかモンド趣味が満開の映画になっていた。奴隷やら女戦士やら障害者やらがとんでもない数で出てきて、もうお腹いっぱいといった感じ。公開は1987年と比較的最近の映画だけど、こんなのいま作ったら差別的だって非難されるよなあ。でも単なるゲテモノ映画になっておらず、ちゃんと荘厳な雰囲気の作品になっているのは監督の手腕か。ヘルツォークの風景描写の技量はハンパじゃないですからね。CGなぞ使ってない大群のシーンにも圧倒される。ちなみに音楽は例によってポポル・ヴーが担当してた。

キンスキーが自ら運命を切り開くようなタイプの人間でなく、周囲の人間の企みに翻弄される人を演じていることなどからも「アギーレ」や「フィッツカラルド」にくらべて見劣りする作品ではあることは間違いないが、それでもそんじょそこらの作品なんぞよりはずっと面白い。

「スカーフェイス」鑑賞

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こないだ「COCAINE COWBOYS」を観たからというわけでもないんだが、まだ観たことがなかった「スカーフェイス」を鑑賞する。なんか登場人物の服装とか見てると、80年代は遠くになりけり、としみじみと思ってしまう。あの当時のファッションとか音楽とかってカッコ悪かったなあ。

キューバ難民の事情とかを背景に、一介のチンピラが大物に成り上がっていく描写は決して悪くないものの、アル・パチーノはこれと似たことを「ゴッドファーザー」でずっと上手く演じているわけで、何か全体的に古くさいというか、話が典型的すぎてる気がするのは否めない。まあこの作品をパクった映画が多いので新鮮味がなくなっただけ、という見方もできるんだが。

とにかく主人公が基本的にアホなので、マイケル・コルレオーネなんかと違って観てても感情移入できないんだよね。これはギャングスタ・ラッパーたちに評判が高いことで知られる作品だけど、やはりアホ同士で共感できるところがあんのかな。決して悪い映画ではないんだが、俺の好きなタイプの作品ではなかったと思う。