「ナイロビの蜂」鑑賞

欧米で玄人受けしている「THE CONSTANT GARDNER」こと「ナイロビの蜂」の試写会に行ってきた。監督は「シティ・オブ・ゴッド」(俺は未見)のフェルナンド・メイレレスで、原作はジョン・ル・カレ。

ケニアに外交官として駐在しているジャスティン・クエイル(レイフ・ファインズ)は、難民の救援活動に積極的だった妻のテッサ(レイチェル・ワイズ)が旅の途中に惨殺されたことを知る。警察や同僚たちは妻の不倫相手による殺人だとして片付けようとするものの、いくつもの奇妙な事実に不審を抱いたジャスティンは自ら妻の死の真相を突き止めようとして、国家的な陰謀に巻き込まれていくのだった…といのが主なストーリー。映画の前半はテッサの生前の政治活動が主に描かれ、後半からジャスティンによる探求が始まっていく。政治サスペンス50%、恋愛物語30%、社会批判が20%といった内容か。

最近のジョン・ル・カレ原作の映画といえば、ジョン・ブアマン監督の傑作「テイラー・オブ・パナマ」があったが、あちらが重々しい緊張感を持っていたのに対し、「ナイロビ」は鮮烈な色彩や素早いカッティングなどを多用した、ずいぶんスタイルの異なった映画になっている。ストーリーが重々しいのは同じだけど。

内容は意外なくらいに政治的だけど、明らかにされる陰謀があまり驚くべきものじゃない(観ててすぐ予想がつく)うえ、話の展開が速すぎるきらいがあるため、サスペンスとしてはちょっと弱いものがあるかもしれない。「テイラー・オブ・パナマ」は政府や巨大企業の陰謀なんかじゃなく、個人のあざとさを描いてたのが良かったんだけどね。
また全体的に説教くさいところがあって、例えば「ホテル・ルワンダ」では「国連は何の手助けもしてくれない」という事実を前提にしたうえでのストーリー展開がよく出来てたんだけど、この映画は「国連や政府は何もしてくれない!それでいいのか!」といったような、なんか青っちょろい主張をしてるようなのが個人的には好きになれなかったかな。ちなみに「実際にアフリカで起きてる非人道的行為にくらべれば、この映画で描かれてることなんて絵ハガキみたいなもんだ」なんていうル・カレによるメッセージがクレジットの最後に流れてた。

んでこの映画のいちばんの見所は、壮大なるアフリカの大地を舞台にしたヒューマンドラマにあるんだろう。貧しい人々を助けるために精力を尽くすテッサ、そして亡き妻の幻影を追ってアフリカからヨーロッパ、そしてまたアフリカへと旅を続けるジャスティンの姿ははかなげで美しい。観て爽快になるような映画では決してないんだけど、心に残る映画であることは間違いない。ビル・ナイやピート・ポッスルスエイト、ジェラルド・マクソーリーといった怪しい顔のオヤジたちがいろいろ出てたのも良かったです。

ちなみに俺の横に座ってたのがどこぞの映画評論家らしく、こまめにメモをとりながら「俺はこの映画を十分理解してんだぞ、ヘヘン」といった感じで含み笑いを連発してたのが非常にウザいのなんのって。

「Ultimate Avengers」鑑賞

マーヴェルがアニメでDVD市場に参入することになり、その第1弾「Ultimate Avengers」を観る。配給はライオンズゲート。 タイトルが示すように「アルティメイツ」と「アヴェンジャーズ」をごっちゃにしたような作品だけど、ストーリーや設定は「アルティメイツ」を大幅にベースにしている。キャプテン・アメリカの発見から始まり、アヴェンジャーズの結成、そして地球侵略を狙うエイリアンとの決戦へと話が進んでいくが、原作を急ぎ足でなぞった感じが否めず、なんか話の展開に盛り上がりが欠けるきらいがあるかな。チームの団結力の欠如によりエイリアン1匹に手玉にとられるところとか、エイリアンを撃退した直後に味方のはずのハルクと戦うとか、なんか観ててスカッとするような内容になってないのは問題だろう。

もともと「アルティメイツ」はマーク・ミラーの風刺がきいた、どちらかといえば年長者向けのコミックだったけど、この映画はそれを変に子供向けにアレンジしてるものだから、セリフやストリーが単純な割にはキャラクターに毒があって、スーパーヒーローなのにどうも嫌な性格の連中が揃ってるというのもどうかと。どうしてもマーヴェルはDCにくらべてアンチ・ヒーローが多いので、チームものをやると仲間同士のいざこざが目立つのはコミックでも同じだけど。

アニメの出来も中途半端で、リアルにしたいのかカートゥーンっぽくしたいのかいまいち理解しにくいし、映像効果なんかに金をかけてるのは分かるんだけど、そのわりには全体的にやたらチープな感じがするし。フォックスの失敗アニメ「タイタンA.E.」に雰囲気が似ている、といえば分かってもらえるでしょうか。アメコミをアニメ化するのって意外と難しいことだと思うけど、独自のスタイルを確立させたブルース・ティムがいかに偉大であるかを、この作品を観て再認識した次第です。いっそのことマーヴェルもティムを雇って作品を作ればいいのに。劇中のキャラクターと全く似てないビライアン・ヒッチの絵が、最後に流れるのは皮肉だよなあ。

これだけ書いといて何だけど、マーヴェルがこうしたアニメをつくることになったのはファンとして嬉しいことだし、作品の内容も決して原作を改悪したようなものではないことは十分理解できるのです。全体的な評価としては、良くないんだけど決して悪くはない作品といった感じ。ネット上でも同様の意見が多いようだ。今後マーヴェルはDVD向けに本作の続編や「ドクター・ストレンジ」(なぜ?)などのアニメを続々製作するみたいなので、とりあえずクオリティの向上を期待したいところです。

「Vフォー・ヴェンデッタ」鑑賞


試写会に行ってきた。いい気になってネタばらしをするわけではないが、とりあえず印象に残ったことを書いてみる: ●アメコミ原理主義者にとっては「頑張ってるのはとってもよく分かるんだけど、やはり原作には遠く及ばなかった映画」という感じ。

●ストーリーを詰め込みすぎてるために、話の展開が急でセリフばかりがやたら多く、原作のダウンビートな雰囲気はなくなっている。かといって「マトリックス」みたいにアクション満載、というわけでもない。

●”V”がやけに感情的なキャラクターになってることと、ロンドンの住民が比較的いい暮らしをしてるため、政府の圧政に対する彼の行為がどことなく軽薄に感じられ、空回りしているように見えることがある。

●ただしイヴィー(ナタリー・ポートマン)が自分の家族のことを語るところあたりから政府の横暴さがよく分かるようになるので、物語に感情移入しやすくなると思う。現実世界の出来事(イラク戦争とか、爆弾テロとか)を暗喩になってるシーンなんかは意外と心を打たれるんだけど、これをもっと露骨にやってほしかった、というのは無理な願いか。

●ジョン・ハートが演じる政府の党首と、スティーブン・フライのゴードンは原作よりも良かった。どちらも原作では薄いキャラクターだったからね。スティーブン・フライはファンなのです。スティーブン・レイも相変わらずいい感じ。

●字幕の誤訳が2つ:「フィンガーメン」は政府の手先なんだから「自警団」とするのは変。他のところで「公安部」と訳してるんだから、普通に「公安」とか「特高」とかにすればいいのに。あと「給与が20万ドル〜」とかいうセリフは、もちろん「20万ポンド」が正解。

●全然関係ないけど、「ブレイブストーリー」とかいうアニメの予告編を見せられたので一言。アニメを作るなら声優にまっとうな役者を起用しろ。セリフをかんでるアイドルを使うな。

製作側の原作に対する愛情はちゃんと伝わってくるものの、映画化にあたり加えたアレンジが役に立ってないのが残念なところです。でもそんじょそこらの映画とは一風変わった作品であることは間違いないから、一見の価値はあるかもしれない。

ちなみに原作者のクレジットは「デビッド・ロイド画に基づく」となっていた(笑)。アラン・ムーアは意地でも自分の名前を出したくなかったんだろう。1年くらい前のムーアのインタビューをこないだ読んだんだけど、自分の作品が映画になって改悪されるのに嫌気がさしたので、今後は映画の利益をすべてアーティストにあげることに決めたら、たてつづけに「コンスタンティン」や「ヴェンデッタ」の映画化の話が舞い込んできて、その大金は魅力的だったんだけど信条にもとづいてみんなアーティストにあげた、みたいなことが書いてあった。誰もあなたを咎めたりしないから、印税くらいもらっときましょうよムーア先生。

「Star Wreck: In the Pirkinning」鑑賞

フィンランドのトレッキーが7年かけて製作した、「スター・トレック」のパロディ映画「Star Wreck: In the Pirkinning」をダウンロードして観る。 ここ最近のスタトレのファン映画は、コンピュータの性能が向上したことを反映して、「特撮は一流・演技は二流」なものが多いというのは前にもどっかで書いたけど、この作品も例にもれず出演者の演技が素人くさいかな。でも特撮は本当に目を見張るくらいの出来で、そこらへんのハリウッド映画に比べても遜色のないレベルになっているのが本当に凄い。エンタープライスAやDやEにディファイアントなんかが縦横無尽に飛び回るさまなんかは、「ファースト・コンタクト」の冒頭の先頭シーンなんかよりもカッコいいんじゃないだろうか。おまけに「バビロン5」のパロディも多分にやっていて、「トレック」対「B5」という、ファン映画ならではのアクション・シーンが満喫できる。

演技は素人くさいとはいえ、特撮の出来があまりにも素晴らしいことと、ストーリーが単なるパロディではなく、ちゃんと山場のあるものになっているため、観ていて意外と出演者に感情移入できる展開になってるのもいい。コメディはベタだし英文字幕の出来もイマイチだけど、それを差し引いても十分に楽しめる映画になっている。本当に特撮は凄いよ。

この作品は普通のコンピュータを使って、ごく僅かな予算でコツコツと製作されたらしい。予算の都合でセットも一切作らず、宇宙船の内部などは全部ブルースクリーン撮影なんだとか。そしていざネット上で公開されたら世界中からダウンロードが殺到して、何と史上最も多くの人に観られたフィンランド映画になってしまった。何か冗談みたいだけど本当の話。

この作品は権利的にはクリエイティブ・コモンズに属していて、公式サイトなどから無償でダウンロードできる。これも前に書いたけど、「スター・トレック」のような作品は、メジャー・スタジオが大金をかけて新作を製作するよりも、いっそファンに製作権を解放して、そこからロイヤリティをとるような仕組みにしたほうが効果的なんじゃないだろうか。ちょうどこの作品を観たあとにパラマウント主催のスター・トレックのイベントに足を運んだのだけど、遠い地方からわざわざやってくるようなファンの熱気を見てると、バーマン&ブラガなんかよりもずっとスタトレに誠実な作品を作ってくれそうな気がしてならないのです。

「THE FAST AND THE FURIOUS」 鑑賞

51w2bn45dzl_ss500_.jpg

ロジャー・コーマン大先生が1954年に製作した映画「THE FAST AND THE FURIOUS」(「速き者、激しき者」)をarchive.orgからダウンロードして鑑賞する。こんな作品まで無料で入手できるんだから、パブリックドメインて本当にいいよなあ。 ユニバーサルののアクション映画「ワイルド・スピード」(「THE FAST AND THE FURIOUS」)がタイトル使用権を買い取ったことで知られる映画だが、内容は全然違う。無実の罪で刑務所に入っていた男が脱走し、女性レーサーを人質にとって逃避行を敢行。そして2人はレースに紛れ込んでメキシコに逃亡しようとするのだが…というのが大まかなストーリー。話の展開が都合良すぎるとか、前半のスリリングな逃避行シーンに比べて後半の展開がが少したるむ感じがあるものの、主演のジョン・アイアランド(監督も兼任)とドロシー・マローンの演技が手堅いことや、最後のレース・シーンがちゃんと迫力的であることなどから、低予算映画とはいえ十分鑑賞に値する作品になっている。ちなみにコーマンによると「ワイルド・スピード」のストーリーは、彼の別の作品「T-Bird Gang」をパクったものなんだとか。本当かどうかは知りませんが。

観るだけ時間のムダだった「ワイルド・スピード」なんぞよりもずっと面白い作品。