「MARIA FULL OF GRACE」鑑賞

昨年いろいろ話題を呼んだ「MARIA FULL OF GRACE」こと「そして、ひと粒のひかり」をDVDで観る。何すか、この邦題は? 麻薬を詰めた袋を胃の中に何十個も入れ、コロンビアからアメリカへ密輸する「ドラッグ・ミュール」つまり「麻薬ラバ」となるティーンの女の子の物語で、内容は決して明るくない。というかひたすら暗い。

主人公のマリアはコロンビアの町工場で働く少女だが、ろくでもない彼氏のおかげで妊娠してしまう。貧しい家の出身である彼女は妊娠したことを家族に告げることもできず、お金を得るためにドラッグ・ミュールとなってアメリカへ麻薬を運ぶ仕事を引き受けるのだが…。というのが主なストーリー。当然ながら怖そうなお兄さんたちもいろいろ出てきて、麻薬が税関で見つかれば逮捕・麻薬の運送に失敗すれば家族が殺される・麻薬の袋が胃の中で破裂すれば即死、という極限の状態に置かれた少女の姿が淡々と映し出されていく。誤って体外に出た袋をまた飲み込む、なんてシーンもあります。

主演のカタリーナ・サンディノ・モレノはこれが映画デビュー作にしてアカデミー主演女優賞にノミネートされるほどの評価を得たわけだが、ニューヨークに1人でやってきて、右も左も分からない状態で不安感に苛まれながらも、どうにか道を切り開いていこうとする女性を好演している。監督/脚本のジョシュア・マーストンもこれが実質的なデビュー作であり、今後もこの2人の活躍が期待される。

こないだニューヨークに行ったとき「相変わらず皆がスペイン語しゃべってんなあ…」と思ったけど、そうした人々はこの映画の登場人物のような、貧しいがために故郷を捨ててアメリカにやってきた、という人が大半なんだろう。少しショッキングなラストも含めて、いろいろ考えさせられる映画だった。

「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」鑑賞

観てきました。平日の昼間だってのに会場は満席状態で、やはり若者が圧倒的に多かったです。ネタバレは極力避けるつもりですが、以下の文章にはそれなりにネタバレが含まれてますのでご注意ください。 今回の作品で「スター・ウォーズ」 の壮大なサーガがついに幕を閉じることになったわけだが、既に公開されたストーリーの「過去」を描くことって、「あのキャラクターの出生の秘密はこうだった!」などといった新鮮な驚きをファンに与えてくれる一方、既存のストーリーにつながるような内容にしていかなければならないわけで、それが逆に物語の展開を制限してしまうデメリットが生じていたと思う。
特に「エピソード3」ともなると前に2作、後ろに3作を抱え、新旧3部作の橋渡しの役割を務めざるを得ないために、どことなくせっつかれたような、少しこじつけに近いような感じのする部分があったものの、全体的な出来としては「エピソード1」&「エピソード2」をはるかに凌ぐ良作となっている。
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「アルジェの戦い」鑑賞

ジッロ・ポンテコルヴォ監督の疑似ドキュメンタリー映画「アルジェの戦い」(1965)をDVDで観る。傑作だという話は聞いていたものの、ここまで衝撃的な作品だとは思わなかった。 作品の内容は1950年代後半における、アルジェリアのフランスからの独立抗争を扱ったもの。祖国独立のために女性や子供を使ってまで爆弾テロをしかける抵抗組織や、それに対し拷問や無差別攻撃も厭わずに抵抗運動を潰そうとするフランス側の姿を、モノクロの強烈な描写で映し出していく。決して扇動的な内容ではないものの、全体的に抵抗組織よりの視点をもった作品になっていて、祖国を占領された人々がテロに走るさまや、抵抗組織の仕組みなどが観ていてよく理解できる。2003年にもイラクの抵抗組織を理解するための教材として、実際にアメリカの国防総省で試写が行われたらしい。それほど真実味の感じられる作品なのだ。

最近では疑似ドキュメンタリーというと「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」とか「ブラディ・サンデー」のようにカメラがひたすらグラグラ揺れるスタイルがかなり一般的になってきたが、必ずしもそんなスタイルをとらなくても、まるで記録映像を観ているかのような雰囲気を味わえることを、この作品は如実に証明していると思う。登場人物の心理描写を確実にとらえた撮影や編集にエンニオ・モリコーネの抑え気味ながら効果的な音楽が加わり、爆弾テロに至るまでの一連のシーンなどはハンパじゃない緊迫感に満ちた内容になっている。

50年近く前の出来事を扱った作品だが、その内容の多くが現在のイラク戦争とダブっていることには驚かされる。記者団の前では明確には認めないものの、情報を得るために抵抗組織のメンバーを拷問することを承認しているフランス軍の指揮官など、今のアメリカ軍そのままではないか。その指揮官が第二次世界大戦では対ナチのレジスタンスに加わっていた、というのも皮肉な話である。

歴史は繰り返すというけれど、状況は繰り返されるのに解決法が未だ見つかっていないのが問題なんだよなあ。

「STATE AND MAIN」鑑賞

玄人受けのする脚本家/監督であるデビッド・マメットの映画「STATE AND MAIN」をDVDで観る。 ヴァーモント州の小さな町に映画の撮影隊がやってきて巻き起こす騒動を描いた群像劇で、ティーンの女の子にすぐ手を出す主演男優(アレック・ボールドウィン)やヌードになるのを拒否するバカ女優(サラ・ジェシカ・パーカー)、時代劇なのにコンピューター会社の広告を入れようとする監督(ウィリアム・H・メイシー)、撮影が始まってるのに脚本を完成させてない脚本家(フィリップ・シーモア・ホフマン)など、なかなか豪華なキャストがそろってドタバタやってるのが楽しい。撮影スタッフを利用して利益を得ようとする地元の政治家や市長の妻なども絡んできて、映画製作の裏側をうまく風刺した作品になっている。予想もしなかったトラブルに直面して、どんどん映画の内容を変更していくスタッフの姿が見ていて笑える。

ややセリフが多くてペダンティックになる部分がある(特にホフマンのシーン)一方で、詳しい説明を避けて観客の想像力をかき立てるような演出が巧み。抱腹絶倒するような映画ではないが、よく出来た小品。

「キングダム・オブ・ヘブン」鑑賞

創価学会員のオーランド・ブルームがキリスト教徒を演じる映画「キングダム・オブ・ヘブン」を観る。監督はリドリー・スコット。十字軍遠征下のエルサレムを舞台にした作品だが、十字軍って異国に兵士を山ほど送って「聖地」を奪還しようとしたその意義が現在では疑問視されているわけで、この映画もイスラム教徒の描写などが公開前からずいぶん論議を醸していたらしいけど、それなりに公平な描写をしているというのが識者の意見らしい。しかし残念ながら、「政治的に正しい」作品にしようとしたばっかりに、肝心のストーリーがずいぶん盛り上がりに欠けるものになってしまったと思う。 物語はフランスで鍛冶屋をやっていた主人公バリアンが、十字軍に参加する騎士と出会い、彼が自分の父親だと知らされるところから始まる。そして彼は父親とともにエルサレムへ行こうとするが、途中で父親は死んでしまう。単身エルサレムに着いた彼はライ病持ちの王と会い、キリスト教徒とイスラム教徒は平和的に共存していくべきだと語る彼の思想に感銘を受ける。しかし王の義理の兄弟で好戦的なギーは、王の没後に軍の指揮権を手中にし、イスラム教徒に戦争をしかけようとする。そしてバリアンはイスラム教徒の思想を理解しながらも、エルサレムの民を守るため、迫り来る彼らと戦う決意をするのだった…というもの。

上記したように、イスラム教徒はかなり公平というか好意的に描写されている。イスラム教とキリスト教それぞれの思想や文化、狂信者などが紹介され、両軍がどのような理由で戦争に赴いたのかを描いていることによって話に歴史的な深みを加えていた。でも「どちらの軍にもいい人がいます」と説明されたうえで両軍が殺し合うのを見せられるのって、ものすごく気が滅入るものがあると思う。アクション大作のはずなのに、どうも不完全燃焼してるんだよなあ。せめてもうちょっと「戦争の悲惨さ」とか「人はなぜ戦うのか」といったテーマを盛り込んでくれれば面白かったかもしれないが、各場面の切り替えがやけに突然なので、物語にあまり余韻が感じられなかったような気がする。

またアクションの面では、「トロイ」を観た時にも感じたことだけど、城壁の戦闘シーンって「王の帰還」がほぼ完璧にやってしまったものだから、あれに比べるとどの映画もチンケに見えてしまう。「王の帰還」は攻める側が怪物集団であったことから善悪の区別がハッキリしていて、攻める側の脅威と守る側の不安感が非常に上手く描けてたのに対し、この作品はどちらの側にもいまいち感情移入しにくいようになってたのは問題かと。でも熟練した監督だけあって戦闘シーンは映像が美しく、見応えがあった。なぜ元・鍛冶屋の主人公が兵法にやたら詳しく、敵の攻撃をことごとく防げたのかは不明ですが。

その主人公を演じるオーランド・ブルームは決して悪い役者ではないものの、残念ながらこれだけの大作の主役を務められるほどの技量はなかったようだ。この作品で彼はずっと暗い顔をしてるばかりで、どうも感情表現に欠けているものがある。別にハデな演技をしろというわけではないが、ただの鍛冶屋が才能を認められて王の信頼を受け、やがて騎士だけでなく人民をも戦いに導けるほどのカリスマ性をもったリーダーに成長していく姿がうまく描けていないので、ラスト間際の演説もなんかショボく聞こえてしまう。
そしてヒロイン役のエヴァ・グリーンは何考えてるんだか分からないゴスのねーちゃんといった感じ。ジェレミー・アイアンズはそれなりに存在感があるものの、脇役なので抑え気味の演技をしてるのは残念。リーアム・ニーソンはカメオ出演(笑)。あっという間にいなくなります。あとはブレンダン・グリーソンとかエドワード・ノートンとか出てるものの、個人的には「スタートレック:DS9」のドクター・ベシアことアレキサンダー・シディグが結構重要な役で出てたのが良かったかな。

結局この映画を観た時に感じた「もどかしさ」って、映画で描かれているキリスト教徒とイスラム教徒の関係や、エルサレムの管轄権の問題が、1000年近く経った現在でも身近な問題として残っているからだと思う。「ナチス対連合軍」や「トロイ対ギリシャ」といった戦争の映画ならば「過去のこと」として楽しめるのに対し、この映画は誰も侮辱しないように細心の注意を払った結果、なんか味気ない作品になってしまったということなんだろうか。でも軍勢が押し寄せてくる場面なんかは非常に迫力があるし、当時のイスラム教徒の姿が分かるという意味では優れた映画かと。原作をボロボロに改変した「トロイ」なんぞよりかはずっといい作品です。