「銀河ヒッチハイク・ガイド」鑑賞


「銀河ヒッチハイク・ガイド」こと「THE HITCHHIKER’S GUIDE TO THE GALAXY」を劇場へ観に行く。

この映画は欧米でカルト的な人気を誇るイギリス人作家ダグラス・アダムズ(故人)の原作をもとにしたSFコメディで、最初は1978年にラジオ番組として登場したものが小説化され、TVシリーズになり、今回やっと映画化されることになったわけだ。以前に新潮社(だっけ)から出ていた邦訳を読んだときは、実はあんまり面白いという印象を受けなくて、これが世界的な人気作品なのか?と思った記憶がある。よって今回の映画版もあんまり期待しないで観に行ったんだけど…予想以上に面白い作品でした。

ストーリーは主人公アーサー・デントの家がバイパス工事のために取り壊されるところから始まる。これに抗議しようとする彼を友人のフォード・プリフェクトがパブに連れて行き、意外な事実を彼に打ち明ける:何と地球がヴォゴン人による銀河バイパス工事のために破壊されるというのだ。そしてその直後に本当にヴォゴン人の宇宙船団が出現し、地球を爆破してしまう。しかしフォードは実は宇宙人であり、銀河のあらゆる情報を網羅した事典「銀河ヒッチハイク・ガイド」のために地球に来ていたのだった。そして彼とアーサーは地球の爆発を逃れてヴォゴン人の船に乗り込むものの、やがて捕まって宇宙に放り出されてしまう。しかし偶然にも彼らは宇宙船「ハート・オブ・ゴールド」号を盗んで逃亡中の銀河大統領ザフォッド・ビーブルブロックスと、その連れの地球人女性トリリアンに救われる。そしてアーサーは「人生・宇宙・そして全てのこと」に対する「答」に対する「質問」をめぐるザフォッドの冒険に巻き込まれるなか、地球の意外な事実を知るのだった…というのが主な内容。

特殊映像や特殊メークがかなり大がかりに使われていて、ビジュアル的なジョークもふんだんに出てくるものの、そのシニカルな話の展開や意外と哲学的な内容などはいかにもイギリス的で、SFコメディとしては「ギャラクシー・クエスト」よりも「宇宙船レッドドワーフ号」に近いものがある。コメディのようでシリアスな所もあり、スラップスティックのようでホロリとさせる所もあり、先が読めるようで実は何が起きるか分からないなど、いい意味で観客の予想を裏切ってくれる映画になっている。今回の映画化については原作の熱心なファンから不満の声も挙がっているようだけど、SFのセンス・オブ・ワンダーというか「この先は一体どうなるんだろう」という気持ちをずっと抱かせてくれる映画を、久しぶりに観れた気がする。

またキャスティングもなかなか秀逸。主人公のアーサーを演じるマーティン・フリーマンは大傑作TVシリーズ「THE OFFICE」のティム役で有名な役者で、この作品でも周囲の状況に困惑しながらも身近な女性に想いをよせる役を好演している。この人が演じるサエない男には共感せずにいられないんだよなあ。大統領役のサム・ロックウェルはちょっとケバすぎる気もしないでもないが、まあ原作通りなので仕方ないか。そしてモス・デフ演じるフォード・プリフェクトって原作だともっとエキセントリックな人物だと思ってたけど、派手なロックウェルに対する「受け役」になっていて意外といい感じだったりする。またトリリアン役のズーイー・デシャネルって女優を今まで知らなかったけど、芯が強い一方でちょっと物悲しいところのある女性をうまく演じている。顔もかなり好みのタイプ。映画版のオリジナル・キャラであるジョン・マルコヴィッチの役はちょっと小さかったかな。他にもビル・ナイやケリー・クラークソン、声の出演でスティーブン・フライやアラン・リックマンといったイギリスの名優たちが出演していて、特にリックマンが声を演じる鬱病ロボットのマーヴィンが観客の笑いを一番誘っていた。彼の連発する悲観的なセリフにリックマンの口調が実によく合っていてとにかく面白い。しかもロボットの「中の人」はワーウィック・デイビスだ。

話の展開がかなり奇抜なので、原作をある程度知っていないと理解しづらい部分もあるかもしれないが(「42」とか)、個人的にはとても楽しめた作品だった。未解決のプロットも多少あるような気がするものの、その続きは次回作「銀河の果てのレストラン」にて…。

「BAADASSSSS!」鑑賞

こないだ「スウィート・スウィートバック」を観たんで、その撮影の舞台裏を描いた作品「BAADASSSSS!」をDVDで観る。監督・脚本・主演はマリオ・ヴァン・ピーブルス、つまり「スウィートバック」を作ったメルヴィン・ヴァン・ピーブルスの息子。彼は自分自身の父親を演じ、いかにメルヴィンが様々な障害を乗り越えながら「スウィートバック」を完成させたかを力強い演技で見せつけてくれる。

舞台になるのは1970年。大手スタジオのために「WATERMELON MAN」を撮り終えたメルヴィンは、次の映画は黒人を前面に押し出した作品にしようと決意する。しかしどのスタジオもそんな映画を作ることを認めようとはしなかったため、彼は独力で映画を完成させようと製作にとりかかる…。というところから話がスタートして、組合の縛りから逃れるために黒人用のポルノ映画を作ってると申請したとか、音楽を担当したアース・ウィンド&ファイアーへの報酬に金がなかったので空手形を書いて渡したとか、カメラを持ってた黒人のクルーが「バズーカを持っている」と勘違いされて逮捕されたとか、いろいろ面白いエピソードが列挙されていく。

ストーリーには黒人が主人公の映画を作ることに関する主張なども多分に含まれているけれど、インディペンデント映画の黎明期における映画製作の大変さを描いているという点で特に興味深い作品になっている。プレミア公開は客が入らずガラガラだったけれども、やがてブラック・パンサー党員などが大挙して押し掛けてきて記録的な大ヒットを飛ばすラストなどは非常に印象的だ。

この作品も「スウィート・スウィートバック」同様に低予算で製作されたらしいが、「スウィートバック」の映像やスタイルを各所にうまく取り込みながら、全体的にとても洗練された雰囲気に仕上がっている。作品そのものは「スウィート・スウィートバック」よりもずっと優れているんだけど、「スウィートバック」を観てないと理解しづらいのは仕方ないことか。

「ザ・インタープリター」鑑賞

シドニー・ポラック監督の「ザ・インタープリター」(THE INTERPRETER)を観た。個人的には「つかみ」が何も感じられない作品だったんだけど、まあショーン・ペンが出ているということで。

ストーリーはアフリカのマトボ共和国の出身で、現在は国連の通訳として働いている主人公シルビア(ニコール・キッドマン)が、独裁者として悪名高いマトボの大統領を暗殺するという何者かの会話を国連本部内で偶然耳にしてしまう。シルビアはすぐに当局に通報するものの、まるで誰かが彼女の命を狙っているような出来事が身の周りで頻発するようになる。そしてシークレット・サービスのエージェントであるトービン(ショーン・ペン)は事件の調査に乗り出すものの、やがてシルビアが過去に活動家であったことを知り、彼女に対する疑念を深めていく…といったもの。
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「WHERE THE BUFFALO ROAM」鑑賞

かなり遅れての追悼という意味で…という訳でもないが、ビル・マーレーが故ハンター・S・トンプソンを演じた「WHERE THE BUFFALO ROAM」(1980)をDVDで観る。マーレーが「ゴーストバスターズ」以前、つまり比較的無名だった頃に出演した映画で、ストーリー上では主人公を演じているものの、クレジットのトップは相棒のカール・ラザロ(モデルはオスカー・アコスタ、つまり「ラスベガスをやっつけろ」のドクター・ゴンゾ)を演じるピーター・ボイルに与えられている。直接の原作となった記事(「THE GREAT SHARK HUNT」に収録されてるらしい)は未読だが、それなりにフィクションも含まれているようだ。

ストーリーはあってないようなもので、1968年のヒッピー裁判、70年のスーパーボウル、72年の大統領選挙などを背景に、当時「ローリング・ストーン」誌の名物記者だったトンプソンと異端の弁護士であるラザロの巻き起こす珍騒動を愉快に描いていく。酒とクスリでラリってばかりで、ホテルの部屋などを徹底的に破壊していくトンプソンの姿が面白い。面長のトンプソンに比べてマーレーって丸顔すぎる気もするが、周囲の迷惑を顧みずに自分流のゴンゾ・ジャーナリズムを貫くトンプソンの姿をうまく演じきってると思う。

ただトンプソンってその奇行ばかりが注目されがちだけど、ちゃらんぽらんな文章を書いているようで実はアメリカの政策や情勢に関する鋭い観点を持っていたからこそ人気があったわけで、この映画は彼の滑稽な部分だけにしか焦点を当てていないのが残念なとこだ。一応トイレで出会ったニクソンに演説らしきものをぶつ場面もあるのだけど不発に終わっている。テリー・ギリアムの「ラスベガスをやっつけろ」もそうだったけど、トンプソンの文章にある冗談と真剣さの微妙なバランスって、映画だとなかなか表現しにくいのかもしれない。現在は彼の数少ないフィクション小説「ラム酒日記」が「ウィズネイルと僕」のブルース・ロビンソン監督により映画化が進められてるらしいので、そちらに期待しよう。

ちなみに主題歌はニール・ヤングが歌っている。彼は作品中の音楽にも関わってるらしいのだが、なんかサエない曲が多いな…と思っていたら、どうもDVD版はオリジナルやビデオ版に比べて曲が差し替えられてるらしい。使用料の問題によるものだろうけど、元はヤングやジミ・ヘンドリックスの曲などがずいぶん使われていたらしい。何か損した気分。

「スウィート・スウィートバック」鑑賞

70年代のブラクスプロイテーション映画の先駆けとなった「スウィート・スウィートバック」こと「SWEET SWEETBACK’S BAADASSSSS SONG」をDVDで観る。主演・製作・監督・編集その他をこなすのはメルヴィン・ヴァン・ピーブルズで、無名時代のアース・ウィンド&ファイアーが音楽をやってるとか。

売春宿に育ったスウィートバックはセックスの腕前を活かして白黒ショーのパフォーマーをしていたが、ひょんなことから警察によるブラックパンサーの活動家のリンチの場に立ち会ってしまう。彼は活動家を救うために警官たちを殴り倒してしまったため、その日から彼の長い逃避行が始まる…。というのが主なプロット。ブラクスプロイテーション映画の常として途中にセックス&バイオレンスがふんだんに盛り込まれているものの、基本的には警察の追跡とスウィートバックの逃避行が延々と描かれている。

かなりの低予算で製作され、X指定映画として公開されたにもかかわらずヒットを記録し、黒人映画が台頭するきっかけを作ったとして伝説になった作品だが、その出来自体ははっきり言ってショボい。かなり突拍子のない映像のモンタージュ(というかツギハギ)や多重露出、音楽の挿入などがクドいくらいに使われているものの、お世辞にもあまり芸術的な使い方とは思えず、経験のない監督が奇をてらってみたらこうなった、といった印象が残る。とりあえずズームとかインポーズとかいろいろ使って「ほら、映画ってこんなことできるんだよ〜」と言ってるような、まるで見せ物を披露してるような感じがするのだ。でもたぶん製作側も意図的に見せ物的な映画にしたんじゃないだろうか。当時の観客が冒頭の白黒ショーでニタニタ笑い、警官が殴られるシーンで歓声をあげ、逃げるスウィートバックを応援してる姿を想像するのは難しくない。音楽にも「頑張れ!スウィートバック!」なんて掛け声が入ってたりする親切設計だし。

ちなみに肝心のスウィートバックは全部で6回しか話さないような無口な奴で、反逆児のヒーローといったイメージはあまりない。子供の頃に童貞を失うシーン(演じるのは息子のマリオ・ヴァン・ピーブルズ)をはじめに、出会った女性とはとりあえず寝て、気持ちよくさせてあげて、代わりに助けてもらうという展開の連続には笑ったけど。

個人的にはあまり本数観てないんで偉そうなこと言えないけど、ブラクスプロイテーション映画って、文字通り「黒人を搾取した」と見るか、逆に「黒人映画を世に広めた」と見るかでえらく評価が違ってくるんじゃないだろうか。この作品も「権力に我慢ならないブラザーとシスターたちにこの映画を捧げる」なんて文句が冒頭に出てきて、「カッコいいなあ」と思う反面、「煽ってるよなあ」と考えたりもしてしまう。この作品の乱雑さは上で述べたが、それを荒削りな魅力としてとらえる人もいるだろう。とりあえず映画としての出来よりも、歴史的な意味で重要な作品かと。