「バットマン・ビギンズ」鑑賞

本日公開の「バットマン・ビギンズ」をさっそく観てくる。入場料がちょと高いIMAXに行けば混んでないかな、と思ってたら何とほぼ満席状態。広いIMAXシアターが人で溢れてる光景はなかなか壮大ですね。映画の開始時、バカでかいスクリーンにDCの新ロゴが映し出されたのにも感動。 そして作品の内容は、もう最高。コミックに比べて人物設定などが多少違ってるものの、原作の本質的な要素をうまく取り出して昇華することに成功した傑作となっている。

内容は「バットマンの成り立ち」を扱ったものなので、最初の1時間くらいは主人公ブルース・ウェインの幼少時代や修行の光景が描かれる。バットマンのアクションを冒頭から期待してると肩すかしをくらうかもしれないが、いかにブルースが悪と戦うことを決意したかということと、この作品のテーマである「恐怖の克服」についてが深く語られ、観ててどんどん話に引き込まれていく。極端な話、この映画ってアクション以上に人間ドラマの方が面白かったりするのだ。

主演のクリスチャン・ベールは今までの誰よりもブルース・ウェインを的確に演じきり、バットマンとしてゴッサム・シティから悪を追放しようとする熱意がよく伝わってくる。リーアム・ニーソン演じるヘンリ・デュカードってコミックだとゴルゴ13みたいな孤独なヒットマンなのに対し、この作品ではブルースを鍛える師匠のような役割になっている。そして彼のボスである渡辺謙もなかなかミステリアスな雰囲気があっていい。でもやはり英語が出来ないと、今後の海外での活躍の支障になるかな。彼の演じるラーズ・アル・グールはもっとも原作とかけ離れたキャラクターになってるが、あまり詳しくは説明しません。

他にもモーガン・フリーマンやゲイリー・オールドマン、トム・ウィルキンソンにルトガー・ハウアー御大と、実に渋いオヤジたちが次々と登場してストーリーを盛り上げている。特筆すべきはマイケル・ケインで、他の役者を圧倒するような存在感をもって執事のアルフレッド役を好演。すました演技から真剣な演技まで何でもござれといった感じで、この人の巧さにあらためて感心してしまった。

一方若者ではキリアン・マーフィーが悪役スケアクロウとして登場。公開前は「何故スケアクロウみたいな比較的マイナーな悪役が出るんだ?」と思ってたけど、恐怖ガスをまき散らすという彼の戦法が、前述した「恐怖の克服」にうまく結びついていて納得。やられ方はカッコ悪いけど。紅一点のケイティ・ホームズも、抑え気味の演技でもってブルースの幼なじみを好演している。

悪名高いシューマッカー版バットマンのみならず、世間では比較的高い評価を得ているティム・バートン版のバットマンも監督の趣味が出過ぎてるようで個人的には好きではなかったんだが、「バットマン・ビギンズ」はもう、これこそがバットマンだ!という感じで非常に楽しい。製作者が原作の魅力をちゃんと理解し、アクション大作だからって変に家族向け映画にせず、シリアスな作品にしたことに拍手を送りたい。ちなみにミスター・ザズがちょろっと出てたり、「バットマン:イヤー・ワン」そっくりな展開があったりと、原作のファンならニヤリとするようなシーンもあります。

あえて不満を挙げるとすれば、前述したように人間ドラマに比べるとアクションの部分がどうしても凡庸に見えてしまうことかな。特にバットモービルでのカーチェイスはやり過ぎかと。あんな目立つ車で逃走しようとするのは無理があると思うんだが…。バットマンにはオフビートなアクションが似合うと思うけど、まあ大作映画なんだし仕方ないか。

とにかく観て損はない映画。THE DARK KNIGHT HAS RETURNED!!

「COMICBOOK: THE MOVIE」鑑賞

マーク・ハミルがギーク心まるだしで監督・製作・主演した映画「COMIC BOOK: THE MOVIE」をDVDで観る。 作品の形式はいわゆる疑似ドキュメンタリー。高校教師で熱心なコミックファンの主人公ドナルド・スワン(ハミル)は、彼の大好きなコミック「コマンダー・カレージ」がハリウッドで映画化されることになったため、映画会社にコンサルタントとして雇われる。そして彼は映画の関係者や「カレージ」の原作者の孫たちを連れてコミック・コンベンションの製作発表会へと向かうものの、映画の内容が徹底的に「ハリウッド化」され、彼の愛する原作とはまるで別物にされることを知ってこれを阻止しようとするが…というのが大まかなプロット。

原作者の孫を演じるビリー・ウエストをはじめ、主な出演者はハミルの声優仲間で揃えられているほか、サンディエゴのコンベンションなどでカメオ出演するメンツの顔ぶれがすごい。スタン・リーやケヴィン・スミスといった「定番」をはじめ、ヒュー・ヘフナーやブルース・キャンベル、マット・グレーニング、ピーター・デイビッド、ブルース・ティム、ロイド・カウフマンなどなど。本来ならばマーク・ハミル自身がコンベンションの目玉になりそうなものだけど(だってルーク・スカイウォーカーだぜ)、スワン役になりきって有名人たちにインタビューする姿が見てて笑える。

低予算のビデオ用作品なので、映画としての出来は必ずしも優れてるとは言えず、映像が不鮮明だとか脚本が練りきれてないとかいった欠点もあるものの、それを補って余りあるくらいにコミックに対する愛情にあふれた内容なので、つい観てるうちに主人公に感情移入してしまう。この作品を面白いと思うかどうかで、観る人のギーク度が測れるかも。主人公がコマンダー・カレージのコスプレをして、製作発表会まで駆け抜けるラストには不覚にも感動してしまった。あと全米最大のコミック・コンベンションの様子を知るのにも格好の作品かと。

それにしてもビリー・ウエスト(「フューチャラマ」のフライ役の声優)があんな中年オヤジだとは知らなかった。

「WERNER HERZOG EATS HIS HIS SHOE」鑑賞

ニュー・ジャーマン・シネマの鬼才ヴェルナー・ヘルツォークがアマゾンの奥地で怪作「フィツカラルド」を撮影する姿を記録したドキュメンタリー「BURDEN OF DREAMS」のDVDを借りたので、特典としてついていた短編「ヴェルナー・ヘルツォーク、自分の靴を食う」を先に観る。 これはヘルツォークが知り合いの若き学生に映画製作を勧めて、「君が作品を完成させることができれば、私は靴を食べてみせよう」と約束したことから始まったもので、実際にその学生が作品を完成させたため、その試写会において靴を食べてみせたというもの。マンガみたいな話だけど、実際にやってのけるところがヘルツォークらしい。

ニンニクやトマトとともに5時間くらい煮込まれた革靴を、細かく切って黙々と食べていく姿が笑える。片方しか食べてないとか、靴底を食べてないとか細かい不満はあるものの、まあいい。

ちなみに彼が映画製作を勧めた学生とは、後に「フォッグ・オブ・ウォー」でアカデミー賞を獲得するエロール・モリス。彼が大成したのはヘルツォークのおかげ、ということになるのか。

「MIX TAPE」鑑賞

昨日から今週末にかけて、ここトロントでは「NORTH BY NORTHEAST」(略称NXNE)という音楽のフェスティバルが行われていて、いろんなライブハウスに無名のバンドがわんさか出演して、一つの盛り上がりを見せているのであります。テキサスでやってる同様のフェスティバル「SOUTH BY SOUTHWEST」を意識して始めたものだろうけど、あちらは20年の歴史を誇る大御所なのに比べてこちらは5年ほどだから、大手メディアの取扱いも天と地ほどの差があったりするわけだ。それでも元ストラングラーズのヒュー・コーンウェルとかニューヨーク・ドールズとか、ちょっと興味をそそられるミュージシャンも来ていたりする。 そしてライヴだけでなく音楽関係の映画やドキュメンタリーの上映会もちょろっと行われるということで、2003年のインディペンデント映画「MIX TAPE」を観に行ったんだが…。とってもつまらない作品でした。

前評判からは「ハイ・フィデリティ」みたいに、ミックス・テープ作りに全力をそそぐ男たちの心情を深く突いた内容かと思ってたんだけど、ただ単に音楽好きでチャラチャラしてるシカゴの男女を延々と描いただけの内容で、撮影・音響・演技のどれもが素人まるだしなので嫌気がさして途中で退席する。これに比べると「SLACKER」がいかにきちんと製作されていたかが実によく分かる。いくら超低予算でビデオ撮りしか出来なかったとはいえ、世の中にはレイモンド・ペティボンの「SIR DRONE」みたいな傑作も存在するわけだから、もっと作り込むか凝縮しろっての。

また本編の上映前にはトロントで撮影されたアマチュア・バンドのミュージック・ビデオも紹介されたが、これも男女がカラオケパブとかで踊ってるだけのお粗末な内容だった。映像作品の発表っていうと何か敷居が高いような気がするけど、とりあえず「発表したもの勝ち」のときもある、ということを学んだという意味ではいい勉強になったかもしれない。

「シンデレラマン」鑑賞

「シンデレラマン」を劇場へ観に行く。ロン・ハワード&ラッセル・クロウのコンビってあまり個人的には興味がなく、実は「ビューティフル・マインド」もまだ未見だったりする。クロウの前作「マスター&コマンダー」は傑作だったけど。 これはアメリカの恐慌時代に活躍したボクサー、ジム・ブラドックの姿を描いた伝記映画。彼は貧困やスランプに悩まされながらも、妻や子供たちに励まされてリングに復帰し、やがて世界チャンピオンのマックス・ベアーに挑戦するのだった…という、まあ、それだけの話。

とにかく内容がベタ。展開がまるで少年マンガのようで、かなり先まで読めるストーリーになってしまっている。いくら事実をもとにした話とはいえ、もうちょっとヒネリを加えても良かったのに。上映中に時計を見て「あと30分くらい暗い状況が続いて、次の30分は主人公が再起して、残りの15分くらいがクライマックスの試合かな」と考えたら、大体そんな感じで話が進んでいった。あと夜中に両親が悩んでるところを陰から見つめる娘とか、子供たちから隠れて涙を流す母親とか、日本のテレビドラマ並みに古くさい演出がされているのも興ざめだった。

主要な登場人物はクロウ演じる主人公と、その妻役のレネー・ゼルウィガー、およびセコンド役のポール・ジアマッティしかいないのだが、クロウは抑え気味の演技がそこそこ効果的であるものの、ゼルウィガーはただ役をこなしてるって感じ。家族がどんな極貧状態にあってもやけに恰幅が良く、疲れ果ててるような印象が全く伝わってこない。もうちょっと薄幸そうな女優さんが役を演じれば良かったのに。またジアマッティも今回は演技が過剰気味で、いつもの良さがあまり出てないような印象を受けた。

でも話のポイントとなるボクシングのシーンはなかなか迫力があって楽しめる。特にラストの試合は両者がボコボコに殴り合ってる雰囲気が伝わってきて良かったかな。ボクシング映画としては「レイジング・ブル」の足下にも及ばないが、「ミリオンダラー・ベイビー」よりかは面白かった(後者をボクシング映画と呼べるかは不明だが)。ベタな内容とはいえ一種のサクセス・ストーリーなので、娯楽作品だと割り切って観ればそれなりに楽しめる作品でしょう。

ちなみに自分がこの映画を観にいった一番の理由は、撮影がここトロント、しかも家の近くの通りで行われていたということ。俺がトロントに来る前(去年の夏)のことなので撮影自体は見ていないものの、話を聞く限りでは建物に1930年代風の飾りをつけたりして相当大がかりなセットを作ったらしい。エキストラもかなり雇ったらしいので、参加したかったなあ。