「アルジェの戦い」鑑賞

ジッロ・ポンテコルヴォ監督の疑似ドキュメンタリー映画「アルジェの戦い」(1965)をDVDで観る。傑作だという話は聞いていたものの、ここまで衝撃的な作品だとは思わなかった。 作品の内容は1950年代後半における、アルジェリアのフランスからの独立抗争を扱ったもの。祖国独立のために女性や子供を使ってまで爆弾テロをしかける抵抗組織や、それに対し拷問や無差別攻撃も厭わずに抵抗運動を潰そうとするフランス側の姿を、モノクロの強烈な描写で映し出していく。決して扇動的な内容ではないものの、全体的に抵抗組織よりの視点をもった作品になっていて、祖国を占領された人々がテロに走るさまや、抵抗組織の仕組みなどが観ていてよく理解できる。2003年にもイラクの抵抗組織を理解するための教材として、実際にアメリカの国防総省で試写が行われたらしい。それほど真実味の感じられる作品なのだ。

最近では疑似ドキュメンタリーというと「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」とか「ブラディ・サンデー」のようにカメラがひたすらグラグラ揺れるスタイルがかなり一般的になってきたが、必ずしもそんなスタイルをとらなくても、まるで記録映像を観ているかのような雰囲気を味わえることを、この作品は如実に証明していると思う。登場人物の心理描写を確実にとらえた撮影や編集にエンニオ・モリコーネの抑え気味ながら効果的な音楽が加わり、爆弾テロに至るまでの一連のシーンなどはハンパじゃない緊迫感に満ちた内容になっている。

50年近く前の出来事を扱った作品だが、その内容の多くが現在のイラク戦争とダブっていることには驚かされる。記者団の前では明確には認めないものの、情報を得るために抵抗組織のメンバーを拷問することを承認しているフランス軍の指揮官など、今のアメリカ軍そのままではないか。その指揮官が第二次世界大戦では対ナチのレジスタンスに加わっていた、というのも皮肉な話である。

歴史は繰り返すというけれど、状況は繰り返されるのに解決法が未だ見つかっていないのが問題なんだよなあ。

「STATE AND MAIN」鑑賞

玄人受けのする脚本家/監督であるデビッド・マメットの映画「STATE AND MAIN」をDVDで観る。 ヴァーモント州の小さな町に映画の撮影隊がやってきて巻き起こす騒動を描いた群像劇で、ティーンの女の子にすぐ手を出す主演男優(アレック・ボールドウィン)やヌードになるのを拒否するバカ女優(サラ・ジェシカ・パーカー)、時代劇なのにコンピューター会社の広告を入れようとする監督(ウィリアム・H・メイシー)、撮影が始まってるのに脚本を完成させてない脚本家(フィリップ・シーモア・ホフマン)など、なかなか豪華なキャストがそろってドタバタやってるのが楽しい。撮影スタッフを利用して利益を得ようとする地元の政治家や市長の妻なども絡んできて、映画製作の裏側をうまく風刺した作品になっている。予想もしなかったトラブルに直面して、どんどん映画の内容を変更していくスタッフの姿が見ていて笑える。

ややセリフが多くてペダンティックになる部分がある(特にホフマンのシーン)一方で、詳しい説明を避けて観客の想像力をかき立てるような演出が巧み。抱腹絶倒するような映画ではないが、よく出来た小品。

「キングダム・オブ・ヘブン」鑑賞

創価学会員のオーランド・ブルームがキリスト教徒を演じる映画「キングダム・オブ・ヘブン」を観る。監督はリドリー・スコット。十字軍遠征下のエルサレムを舞台にした作品だが、十字軍って異国に兵士を山ほど送って「聖地」を奪還しようとしたその意義が現在では疑問視されているわけで、この映画もイスラム教徒の描写などが公開前からずいぶん論議を醸していたらしいけど、それなりに公平な描写をしているというのが識者の意見らしい。しかし残念ながら、「政治的に正しい」作品にしようとしたばっかりに、肝心のストーリーがずいぶん盛り上がりに欠けるものになってしまったと思う。 物語はフランスで鍛冶屋をやっていた主人公バリアンが、十字軍に参加する騎士と出会い、彼が自分の父親だと知らされるところから始まる。そして彼は父親とともにエルサレムへ行こうとするが、途中で父親は死んでしまう。単身エルサレムに着いた彼はライ病持ちの王と会い、キリスト教徒とイスラム教徒は平和的に共存していくべきだと語る彼の思想に感銘を受ける。しかし王の義理の兄弟で好戦的なギーは、王の没後に軍の指揮権を手中にし、イスラム教徒に戦争をしかけようとする。そしてバリアンはイスラム教徒の思想を理解しながらも、エルサレムの民を守るため、迫り来る彼らと戦う決意をするのだった…というもの。

上記したように、イスラム教徒はかなり公平というか好意的に描写されている。イスラム教とキリスト教それぞれの思想や文化、狂信者などが紹介され、両軍がどのような理由で戦争に赴いたのかを描いていることによって話に歴史的な深みを加えていた。でも「どちらの軍にもいい人がいます」と説明されたうえで両軍が殺し合うのを見せられるのって、ものすごく気が滅入るものがあると思う。アクション大作のはずなのに、どうも不完全燃焼してるんだよなあ。せめてもうちょっと「戦争の悲惨さ」とか「人はなぜ戦うのか」といったテーマを盛り込んでくれれば面白かったかもしれないが、各場面の切り替えがやけに突然なので、物語にあまり余韻が感じられなかったような気がする。

またアクションの面では、「トロイ」を観た時にも感じたことだけど、城壁の戦闘シーンって「王の帰還」がほぼ完璧にやってしまったものだから、あれに比べるとどの映画もチンケに見えてしまう。「王の帰還」は攻める側が怪物集団であったことから善悪の区別がハッキリしていて、攻める側の脅威と守る側の不安感が非常に上手く描けてたのに対し、この作品はどちらの側にもいまいち感情移入しにくいようになってたのは問題かと。でも熟練した監督だけあって戦闘シーンは映像が美しく、見応えがあった。なぜ元・鍛冶屋の主人公が兵法にやたら詳しく、敵の攻撃をことごとく防げたのかは不明ですが。

その主人公を演じるオーランド・ブルームは決して悪い役者ではないものの、残念ながらこれだけの大作の主役を務められるほどの技量はなかったようだ。この作品で彼はずっと暗い顔をしてるばかりで、どうも感情表現に欠けているものがある。別にハデな演技をしろというわけではないが、ただの鍛冶屋が才能を認められて王の信頼を受け、やがて騎士だけでなく人民をも戦いに導けるほどのカリスマ性をもったリーダーに成長していく姿がうまく描けていないので、ラスト間際の演説もなんかショボく聞こえてしまう。
そしてヒロイン役のエヴァ・グリーンは何考えてるんだか分からないゴスのねーちゃんといった感じ。ジェレミー・アイアンズはそれなりに存在感があるものの、脇役なので抑え気味の演技をしてるのは残念。リーアム・ニーソンはカメオ出演(笑)。あっという間にいなくなります。あとはブレンダン・グリーソンとかエドワード・ノートンとか出てるものの、個人的には「スタートレック:DS9」のドクター・ベシアことアレキサンダー・シディグが結構重要な役で出てたのが良かったかな。

結局この映画を観た時に感じた「もどかしさ」って、映画で描かれているキリスト教徒とイスラム教徒の関係や、エルサレムの管轄権の問題が、1000年近く経った現在でも身近な問題として残っているからだと思う。「ナチス対連合軍」や「トロイ対ギリシャ」といった戦争の映画ならば「過去のこと」として楽しめるのに対し、この映画は誰も侮辱しないように細心の注意を払った結果、なんか味気ない作品になってしまったということなんだろうか。でも軍勢が押し寄せてくる場面なんかは非常に迫力があるし、当時のイスラム教徒の姿が分かるという意味では優れた映画かと。原作をボロボロに改変した「トロイ」なんぞよりかはずっといい作品です。

「銀河ヒッチハイク・ガイド」鑑賞


「銀河ヒッチハイク・ガイド」こと「THE HITCHHIKER’S GUIDE TO THE GALAXY」を劇場へ観に行く。

この映画は欧米でカルト的な人気を誇るイギリス人作家ダグラス・アダムズ(故人)の原作をもとにしたSFコメディで、最初は1978年にラジオ番組として登場したものが小説化され、TVシリーズになり、今回やっと映画化されることになったわけだ。以前に新潮社(だっけ)から出ていた邦訳を読んだときは、実はあんまり面白いという印象を受けなくて、これが世界的な人気作品なのか?と思った記憶がある。よって今回の映画版もあんまり期待しないで観に行ったんだけど…予想以上に面白い作品でした。

ストーリーは主人公アーサー・デントの家がバイパス工事のために取り壊されるところから始まる。これに抗議しようとする彼を友人のフォード・プリフェクトがパブに連れて行き、意外な事実を彼に打ち明ける:何と地球がヴォゴン人による銀河バイパス工事のために破壊されるというのだ。そしてその直後に本当にヴォゴン人の宇宙船団が出現し、地球を爆破してしまう。しかしフォードは実は宇宙人であり、銀河のあらゆる情報を網羅した事典「銀河ヒッチハイク・ガイド」のために地球に来ていたのだった。そして彼とアーサーは地球の爆発を逃れてヴォゴン人の船に乗り込むものの、やがて捕まって宇宙に放り出されてしまう。しかし偶然にも彼らは宇宙船「ハート・オブ・ゴールド」号を盗んで逃亡中の銀河大統領ザフォッド・ビーブルブロックスと、その連れの地球人女性トリリアンに救われる。そしてアーサーは「人生・宇宙・そして全てのこと」に対する「答」に対する「質問」をめぐるザフォッドの冒険に巻き込まれるなか、地球の意外な事実を知るのだった…というのが主な内容。

特殊映像や特殊メークがかなり大がかりに使われていて、ビジュアル的なジョークもふんだんに出てくるものの、そのシニカルな話の展開や意外と哲学的な内容などはいかにもイギリス的で、SFコメディとしては「ギャラクシー・クエスト」よりも「宇宙船レッドドワーフ号」に近いものがある。コメディのようでシリアスな所もあり、スラップスティックのようでホロリとさせる所もあり、先が読めるようで実は何が起きるか分からないなど、いい意味で観客の予想を裏切ってくれる映画になっている。今回の映画化については原作の熱心なファンから不満の声も挙がっているようだけど、SFのセンス・オブ・ワンダーというか「この先は一体どうなるんだろう」という気持ちをずっと抱かせてくれる映画を、久しぶりに観れた気がする。

またキャスティングもなかなか秀逸。主人公のアーサーを演じるマーティン・フリーマンは大傑作TVシリーズ「THE OFFICE」のティム役で有名な役者で、この作品でも周囲の状況に困惑しながらも身近な女性に想いをよせる役を好演している。この人が演じるサエない男には共感せずにいられないんだよなあ。大統領役のサム・ロックウェルはちょっとケバすぎる気もしないでもないが、まあ原作通りなので仕方ないか。そしてモス・デフ演じるフォード・プリフェクトって原作だともっとエキセントリックな人物だと思ってたけど、派手なロックウェルに対する「受け役」になっていて意外といい感じだったりする。またトリリアン役のズーイー・デシャネルって女優を今まで知らなかったけど、芯が強い一方でちょっと物悲しいところのある女性をうまく演じている。顔もかなり好みのタイプ。映画版のオリジナル・キャラであるジョン・マルコヴィッチの役はちょっと小さかったかな。他にもビル・ナイやケリー・クラークソン、声の出演でスティーブン・フライやアラン・リックマンといったイギリスの名優たちが出演していて、特にリックマンが声を演じる鬱病ロボットのマーヴィンが観客の笑いを一番誘っていた。彼の連発する悲観的なセリフにリックマンの口調が実によく合っていてとにかく面白い。しかもロボットの「中の人」はワーウィック・デイビスだ。

話の展開がかなり奇抜なので、原作をある程度知っていないと理解しづらい部分もあるかもしれないが(「42」とか)、個人的にはとても楽しめた作品だった。未解決のプロットも多少あるような気がするものの、その続きは次回作「銀河の果てのレストラン」にて…。

「BAADASSSSS!」鑑賞

こないだ「スウィート・スウィートバック」を観たんで、その撮影の舞台裏を描いた作品「BAADASSSSS!」をDVDで観る。監督・脚本・主演はマリオ・ヴァン・ピーブルス、つまり「スウィートバック」を作ったメルヴィン・ヴァン・ピーブルスの息子。彼は自分自身の父親を演じ、いかにメルヴィンが様々な障害を乗り越えながら「スウィートバック」を完成させたかを力強い演技で見せつけてくれる。

舞台になるのは1970年。大手スタジオのために「WATERMELON MAN」を撮り終えたメルヴィンは、次の映画は黒人を前面に押し出した作品にしようと決意する。しかしどのスタジオもそんな映画を作ることを認めようとはしなかったため、彼は独力で映画を完成させようと製作にとりかかる…。というところから話がスタートして、組合の縛りから逃れるために黒人用のポルノ映画を作ってると申請したとか、音楽を担当したアース・ウィンド&ファイアーへの報酬に金がなかったので空手形を書いて渡したとか、カメラを持ってた黒人のクルーが「バズーカを持っている」と勘違いされて逮捕されたとか、いろいろ面白いエピソードが列挙されていく。

ストーリーには黒人が主人公の映画を作ることに関する主張なども多分に含まれているけれど、インディペンデント映画の黎明期における映画製作の大変さを描いているという点で特に興味深い作品になっている。プレミア公開は客が入らずガラガラだったけれども、やがてブラック・パンサー党員などが大挙して押し掛けてきて記録的な大ヒットを飛ばすラストなどは非常に印象的だ。

この作品も「スウィート・スウィートバック」同様に低予算で製作されたらしいが、「スウィートバック」の映像やスタイルを各所にうまく取り込みながら、全体的にとても洗練された雰囲気に仕上がっている。作品そのものは「スウィート・スウィートバック」よりもずっと優れているんだけど、「スウィートバック」を観てないと理解しづらいのは仕方ないことか。