「MIRRORMASK」鑑賞

もはや伝説となった感のあるファンタジー・コミック「サンドマン」の名コンビ、ニール・ゲイマンとデイヴ・マッキーンによる映画「MIRRORMASK」を観る。もちろん脚本がゲイマンでアート&監督がマッキーン。ゲイマンによるとマッキーンのインプットのほうが多い作品なんだとか。 作品の冒頭の舞台はイギリスのブライトン。サーカスの一家に育ったヘレナは反抗期を迎えようとしているティーンの少女。彼女はサーカスでの暮らしに飽き飽きしていたが、あるとき母親が病気により倒れてしまう。彼女を見舞ってから帰宅したヘレナは、夜になって自分が不思議な世界に入り込んでいることを知る。そこは奇妙な生物が徘徊し、すべての住民がマスクをつけている幻想の世界だった。そしてそこは光と闇の国に分かれており、闇の国の王女の策略により光の国の女王が昏睡状態に陥ってしまい、世界は闇に包まれようとしていた。ヘレナは光の国を救うため、知り合った青年ヴァレンタインとともに、光と闇のバランスを正す「ミラーマスク」を探すことになるのだった…というのが主なストーリー、のはず。話がけっこう抽象的なので俺の理解が間違ってるかも。

素朴なファンタジーのようで奥が深く、ハイブローなセリフの裏に知的なユーモアが見え隠れするゲイマン節は健在。製作がジム・ヘンソン・スタジオということもあって「ラビリンス」や「ダーク・クリスタル」に似た雰囲気があるかな。少なくとも10年くらい前にゲイマン原作でつくられたTVシリーズ「ネヴァーウェア」よりはずっと面白い。

そして何よりもこの作品を際立たせているのが、全編を通じて溢れんばかりに画面を満たすマッキーンのアート。「サンドマン」の表紙の世界が映像となって縦横無尽に動くのだから本当に綺麗。見てて何かすごく得した気分にさせてくれる感じ。機械じかけの人形たちがヘレナを化粧していくシーンなんかは頭がシビれるくらいに美しい。相当な低予算で作られたらしく、映像が「NHKスペシャル」並のCGになってしまう箇所もあるものの、その独創的な芸術世界には惹き込まれずにいられない。観て損はない傑作。

こういった感性の映画は、まずアメリカからは出てこないすね。日本では公開するのかな。

「THE PROPOSITION」鑑賞

このブログの名前はニック・ケイヴの詩集「キング・インク」に由来してるわけだが、そのケイヴが脚本を担当したオーストラリアン・ウェスタン「THE PROPOSITION」を観た。監督は同じくケイヴが脚本を書いた「ゴースツ・オブ・ザ・シビル・デッド」のジョン・ヒルコート。「ゴースツ」と違ってケイヴ自身は出演してないものの、ガイ・ピアースをはじめダニー・ヒューストンやエミリー・ワトソン、ジョン・ハートといったなかなか豪華な顔ぶれが出演している。 舞台となるのは1880年代のオーストラリア。殺人とレイプの罪で指名手配されていたバーンズ3兄弟のうち、次男のチャーリーと三男のマイクが逮捕されるところから話は始まる。彼らを捕らえたスタンリー隊長は、残る長男のアーサーを始末するためチャーリーに1つの条件(Proposition)をつきつける:アーサーを探し出し、自らの手で彼を殺害しろ。さもないとマイクは死刑に処せられる、と。こうしてチャーリーは兄を見つけるため、荒野へと一人旅立っていくのだった…というのが話の主な内容。美しくも過酷なオーストラリアの大自然を舞台に、兄を捜すチャーリーの姿と、彼の帰還を待つスタンリーとその妻の姿が描かれていく。

プロット自体は比較的ストレートなウェスタンで、隠れ家が蜂の巣にされる衝撃的なオープニングに比べてラストが多少弱い気がする(スタンリーがどんどん軟弱になっていく)ものの、ケイヴの歌の世界そのままの血で血を洗うバイオレンスで全編が彩られていて、見る者を飽きさせない。もちろんケイヴが担当している音楽も効果的に使用されていていい感じだ。

フィクションとはいえ時代考証はかなり詳しくやっているらしく、ウェスタンにおけるインディアンの存在はこの映画だとアボリジニにそのまま置き換えられているわけだが、先住民の隷属化や大自然の西洋化といった出来事がアメリカだけでなくオーストラリアでも起きていたことを再認識させられる点が興味深い。ちなみに4頭のラクダが引く馬車が劇中に出てくるんだけど、あんなものが昔は本当に道を走ってたのかな。

「ヒストリー・オブ・バイオレンス」鑑賞

デビッド・クローネンバーグの最新作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」を観る。米アマゾンからDVDを購入したんだけど、もう日本でもやってんだって?劇場に行くの面倒だからまあいいや。 これは「クラッシュ」や「スパイダー」といったクローネンバーグの他の作品に比べると、意外なくらいにストレートな内容の映画だった。後半のストーリー展開が原作とかなり違っているけど、映画版は独自にうまく話をまとめていっているし、細かく比較するのは野暮でしょう。

原作では主人公ひとりの「暴力の歴史」に焦点が当てられていたのに対し、映画では1つの暴力行為がさらなる暴力を呼び、さまざまな人々(特に主人公の息子)に影響を与えていくという点が興味深い。しかもその暴力の大半は無差別・無意味な殺人なんかではなく、自分が生き残るために必要な行為として淡々と行使されていく。まるで人間はどんなに文明化しようとも、結局は暴力的な生き物なんだよと示すかのように。そしてその代償として、ごく普通の家庭だったはずの主人公一家の結束にはヒビが入っていく。でもここらへんの描写はかなり微かなものだし、エッチなシーンやアクションもそれなりにあるので、そのままテレ東の木曜洋画劇場向けの作品になりそうかも。プロット自体はトラッシュ映画、という点では「ザ・フライ」とかに通じるものがあるかな。んでもってラストはちょっとホロッとさせてくれる。

冒頭に出てくる、いい年した奥さんのコスプレにはちょっと引いたけどね。

「BURDEN OF DREAMS」鑑賞

鬼才ヴェルナー・ヘルツォークの名作「フィッツカラルド」の悪夢のような製作過程を追ったドキュメンタリー「BURDEN OF DREAMS」のクライテリオン版DVDを観る。かつて南米のジャングルで「アギーレ 神の怒り」という大傑作(観ろ!)を撮るのに成功したヘルツォークだが、同じく南米の奥地を舞台に「フィッツカラルド」を作るのにあたり、さすがに今回は映画が完成できないかもしれないと危惧して、ドキュメンタリー作家のレス・ブランクに製作過程の一部始終を撮らせたのがこの作品になったらしい。

そんなヘルツォークの不安は現実のものとなり、アマゾンの先住民からの反発や天候の影響、備品の不足などによって製作はズルズルと延びていく。当初は主役を務めるはずだったジェイソン・ロバーツとミック・ジャガーが撮影途中で降板したり、蒸気船が浅瀬に座礁したために撮影が何ヶ月も遅れるなど、映画を作る者にとっては悪夢のような出来事が次々と続いていくわけだが、それでも淡々と(半ば放心状態で)自分のヴィジョンを語るヘルツォークの姿が印象に残る。ストーリーの山場となる蒸気船の峠越えにおいても鉄のフックがちぎれるといったトラブルが頻発するわけだが、先住民を大量動員して船を動かそうとするヘルツォークの姿が、そのまま劇中のフィツカラルドとダブっているのが興味深い。ちなみにヘルツォーク自身はフィッツカラルドと違って先住民を搾取するようなことはせず、自然と共に暮らす彼らの文化を賞賛し、それが西洋文化によって消えていっていることを嘆いている。そして結局映画が完成されるまでに4年かかったとか。

全体的に盛り上がりに欠けるのでドキュメンタリーとしては凡庸なんだけど、自然の極限の地において夢を追い求めるヘルツォークの姿には強く惹き込まれる。あとDVDの特典に収められている、スタッフに対して激しく怒り狂う一方で、チョウを肩に乗せて無邪気に笑うクラウス・キンスキーの映像がとても印象的だ。

「MR.MOTO’S LAST WARNING」鑑賞


ドイツの怪優ピーター・ローレが日本人の秘密エージェント、モト・ケンタロウを演じた「ミスター・モト」シリーズの1つ「Mr. Moto’s Last Warning」を観る。ずっと前にトロントのウォルマートでDVDを1ドルくらいで買ってたのです。どうもパブリック・ドメインに属している作品らしく、archive.orgでもダウンロードできるようだ。

1939年に製作されたこの作品は古典的なハリウッドのサスペンス映画といった感じで、イギリスとフランスの仲を悪化させて第2次世界大戦(!)を引き起こそうとする某国の陰謀を阻止するため、エジプトを舞台にミスター・モトが奮闘する…といった感じのストーリー。ジョン・キャラダインをはじめ、そこそこ名の知れた往年のスターが共演してるみたい。不穏な時代の北アフリカが舞台という意味では、同じくローレが出演した「カサブランカ」に通じるものがあるかな。

神出鬼没の敏腕エージェント、ミスター・モトは当時流行ってた中国人探偵「チャリー・チャン」を明らかにパクったキャラクター。少し出っ歯で丸メガネという外見がちょっとアレだが、頭脳明晰で武術の達人というカッコいい主人公であるため、あまり人種差別的なキャラクターという印象は受けない。カタコトの英語しか喋れないフリをして、気を許した白人から情報を聞き出すシーンもあったりする。そもそもローレがどうやっても日本人に見えないんだけど、冒頭で殺される彼の替え玉役にはしっかりアジア人俳優が使われてたりする。まるで似てない替え玉を使ってどうすんだよ。当時の観客はローレのことを本当に日本人だと思い込んで観てたんだろうか。

尺が70分くらいしかなく、プロットも荒削りなところがあるものの、お茶目なラストまで飽きずに観ることができる好作品。現在のハリウッドはこんな映画つくんなくなちゃったなあ。