「キングダム・オブ・ヘブン」鑑賞

創価学会員のオーランド・ブルームがキリスト教徒を演じる映画「キングダム・オブ・ヘブン」を観る。監督はリドリー・スコット。十字軍遠征下のエルサレムを舞台にした作品だが、十字軍って異国に兵士を山ほど送って「聖地」を奪還しようとしたその意義が現在では疑問視されているわけで、この映画もイスラム教徒の描写などが公開前からずいぶん論議を醸していたらしいけど、それなりに公平な描写をしているというのが識者の意見らしい。しかし残念ながら、「政治的に正しい」作品にしようとしたばっかりに、肝心のストーリーがずいぶん盛り上がりに欠けるものになってしまったと思う。 物語はフランスで鍛冶屋をやっていた主人公バリアンが、十字軍に参加する騎士と出会い、彼が自分の父親だと知らされるところから始まる。そして彼は父親とともにエルサレムへ行こうとするが、途中で父親は死んでしまう。単身エルサレムに着いた彼はライ病持ちの王と会い、キリスト教徒とイスラム教徒は平和的に共存していくべきだと語る彼の思想に感銘を受ける。しかし王の義理の兄弟で好戦的なギーは、王の没後に軍の指揮権を手中にし、イスラム教徒に戦争をしかけようとする。そしてバリアンはイスラム教徒の思想を理解しながらも、エルサレムの民を守るため、迫り来る彼らと戦う決意をするのだった…というもの。

上記したように、イスラム教徒はかなり公平というか好意的に描写されている。イスラム教とキリスト教それぞれの思想や文化、狂信者などが紹介され、両軍がどのような理由で戦争に赴いたのかを描いていることによって話に歴史的な深みを加えていた。でも「どちらの軍にもいい人がいます」と説明されたうえで両軍が殺し合うのを見せられるのって、ものすごく気が滅入るものがあると思う。アクション大作のはずなのに、どうも不完全燃焼してるんだよなあ。せめてもうちょっと「戦争の悲惨さ」とか「人はなぜ戦うのか」といったテーマを盛り込んでくれれば面白かったかもしれないが、各場面の切り替えがやけに突然なので、物語にあまり余韻が感じられなかったような気がする。

またアクションの面では、「トロイ」を観た時にも感じたことだけど、城壁の戦闘シーンって「王の帰還」がほぼ完璧にやってしまったものだから、あれに比べるとどの映画もチンケに見えてしまう。「王の帰還」は攻める側が怪物集団であったことから善悪の区別がハッキリしていて、攻める側の脅威と守る側の不安感が非常に上手く描けてたのに対し、この作品はどちらの側にもいまいち感情移入しにくいようになってたのは問題かと。でも熟練した監督だけあって戦闘シーンは映像が美しく、見応えがあった。なぜ元・鍛冶屋の主人公が兵法にやたら詳しく、敵の攻撃をことごとく防げたのかは不明ですが。

その主人公を演じるオーランド・ブルームは決して悪い役者ではないものの、残念ながらこれだけの大作の主役を務められるほどの技量はなかったようだ。この作品で彼はずっと暗い顔をしてるばかりで、どうも感情表現に欠けているものがある。別にハデな演技をしろというわけではないが、ただの鍛冶屋が才能を認められて王の信頼を受け、やがて騎士だけでなく人民をも戦いに導けるほどのカリスマ性をもったリーダーに成長していく姿がうまく描けていないので、ラスト間際の演説もなんかショボく聞こえてしまう。
そしてヒロイン役のエヴァ・グリーンは何考えてるんだか分からないゴスのねーちゃんといった感じ。ジェレミー・アイアンズはそれなりに存在感があるものの、脇役なので抑え気味の演技をしてるのは残念。リーアム・ニーソンはカメオ出演(笑)。あっという間にいなくなります。あとはブレンダン・グリーソンとかエドワード・ノートンとか出てるものの、個人的には「スタートレック:DS9」のドクター・ベシアことアレキサンダー・シディグが結構重要な役で出てたのが良かったかな。

結局この映画を観た時に感じた「もどかしさ」って、映画で描かれているキリスト教徒とイスラム教徒の関係や、エルサレムの管轄権の問題が、1000年近く経った現在でも身近な問題として残っているからだと思う。「ナチス対連合軍」や「トロイ対ギリシャ」といった戦争の映画ならば「過去のこと」として楽しめるのに対し、この映画は誰も侮辱しないように細心の注意を払った結果、なんか味気ない作品になってしまったということなんだろうか。でも軍勢が押し寄せてくる場面なんかは非常に迫力があるし、当時のイスラム教徒の姿が分かるという意味では優れた映画かと。原作をボロボロに改変した「トロイ」なんぞよりかはずっといい作品です。

「銀河ヒッチハイク・ガイド」鑑賞


「銀河ヒッチハイク・ガイド」こと「THE HITCHHIKER’S GUIDE TO THE GALAXY」を劇場へ観に行く。

この映画は欧米でカルト的な人気を誇るイギリス人作家ダグラス・アダムズ(故人)の原作をもとにしたSFコメディで、最初は1978年にラジオ番組として登場したものが小説化され、TVシリーズになり、今回やっと映画化されることになったわけだ。以前に新潮社(だっけ)から出ていた邦訳を読んだときは、実はあんまり面白いという印象を受けなくて、これが世界的な人気作品なのか?と思った記憶がある。よって今回の映画版もあんまり期待しないで観に行ったんだけど…予想以上に面白い作品でした。

ストーリーは主人公アーサー・デントの家がバイパス工事のために取り壊されるところから始まる。これに抗議しようとする彼を友人のフォード・プリフェクトがパブに連れて行き、意外な事実を彼に打ち明ける:何と地球がヴォゴン人による銀河バイパス工事のために破壊されるというのだ。そしてその直後に本当にヴォゴン人の宇宙船団が出現し、地球を爆破してしまう。しかしフォードは実は宇宙人であり、銀河のあらゆる情報を網羅した事典「銀河ヒッチハイク・ガイド」のために地球に来ていたのだった。そして彼とアーサーは地球の爆発を逃れてヴォゴン人の船に乗り込むものの、やがて捕まって宇宙に放り出されてしまう。しかし偶然にも彼らは宇宙船「ハート・オブ・ゴールド」号を盗んで逃亡中の銀河大統領ザフォッド・ビーブルブロックスと、その連れの地球人女性トリリアンに救われる。そしてアーサーは「人生・宇宙・そして全てのこと」に対する「答」に対する「質問」をめぐるザフォッドの冒険に巻き込まれるなか、地球の意外な事実を知るのだった…というのが主な内容。

特殊映像や特殊メークがかなり大がかりに使われていて、ビジュアル的なジョークもふんだんに出てくるものの、そのシニカルな話の展開や意外と哲学的な内容などはいかにもイギリス的で、SFコメディとしては「ギャラクシー・クエスト」よりも「宇宙船レッドドワーフ号」に近いものがある。コメディのようでシリアスな所もあり、スラップスティックのようでホロリとさせる所もあり、先が読めるようで実は何が起きるか分からないなど、いい意味で観客の予想を裏切ってくれる映画になっている。今回の映画化については原作の熱心なファンから不満の声も挙がっているようだけど、SFのセンス・オブ・ワンダーというか「この先は一体どうなるんだろう」という気持ちをずっと抱かせてくれる映画を、久しぶりに観れた気がする。

またキャスティングもなかなか秀逸。主人公のアーサーを演じるマーティン・フリーマンは大傑作TVシリーズ「THE OFFICE」のティム役で有名な役者で、この作品でも周囲の状況に困惑しながらも身近な女性に想いをよせる役を好演している。この人が演じるサエない男には共感せずにいられないんだよなあ。大統領役のサム・ロックウェルはちょっとケバすぎる気もしないでもないが、まあ原作通りなので仕方ないか。そしてモス・デフ演じるフォード・プリフェクトって原作だともっとエキセントリックな人物だと思ってたけど、派手なロックウェルに対する「受け役」になっていて意外といい感じだったりする。またトリリアン役のズーイー・デシャネルって女優を今まで知らなかったけど、芯が強い一方でちょっと物悲しいところのある女性をうまく演じている。顔もかなり好みのタイプ。映画版のオリジナル・キャラであるジョン・マルコヴィッチの役はちょっと小さかったかな。他にもビル・ナイやケリー・クラークソン、声の出演でスティーブン・フライやアラン・リックマンといったイギリスの名優たちが出演していて、特にリックマンが声を演じる鬱病ロボットのマーヴィンが観客の笑いを一番誘っていた。彼の連発する悲観的なセリフにリックマンの口調が実によく合っていてとにかく面白い。しかもロボットの「中の人」はワーウィック・デイビスだ。

話の展開がかなり奇抜なので、原作をある程度知っていないと理解しづらい部分もあるかもしれないが(「42」とか)、個人的にはとても楽しめた作品だった。未解決のプロットも多少あるような気がするものの、その続きは次回作「銀河の果てのレストラン」にて…。

「BAADASSSSS!」鑑賞

こないだ「スウィート・スウィートバック」を観たんで、その撮影の舞台裏を描いた作品「BAADASSSSS!」をDVDで観る。監督・脚本・主演はマリオ・ヴァン・ピーブルス、つまり「スウィートバック」を作ったメルヴィン・ヴァン・ピーブルスの息子。彼は自分自身の父親を演じ、いかにメルヴィンが様々な障害を乗り越えながら「スウィートバック」を完成させたかを力強い演技で見せつけてくれる。

舞台になるのは1970年。大手スタジオのために「WATERMELON MAN」を撮り終えたメルヴィンは、次の映画は黒人を前面に押し出した作品にしようと決意する。しかしどのスタジオもそんな映画を作ることを認めようとはしなかったため、彼は独力で映画を完成させようと製作にとりかかる…。というところから話がスタートして、組合の縛りから逃れるために黒人用のポルノ映画を作ってると申請したとか、音楽を担当したアース・ウィンド&ファイアーへの報酬に金がなかったので空手形を書いて渡したとか、カメラを持ってた黒人のクルーが「バズーカを持っている」と勘違いされて逮捕されたとか、いろいろ面白いエピソードが列挙されていく。

ストーリーには黒人が主人公の映画を作ることに関する主張なども多分に含まれているけれど、インディペンデント映画の黎明期における映画製作の大変さを描いているという点で特に興味深い作品になっている。プレミア公開は客が入らずガラガラだったけれども、やがてブラック・パンサー党員などが大挙して押し掛けてきて記録的な大ヒットを飛ばすラストなどは非常に印象的だ。

この作品も「スウィート・スウィートバック」同様に低予算で製作されたらしいが、「スウィートバック」の映像やスタイルを各所にうまく取り込みながら、全体的にとても洗練された雰囲気に仕上がっている。作品そのものは「スウィート・スウィートバック」よりもずっと優れているんだけど、「スウィートバック」を観てないと理解しづらいのは仕方ないことか。

「ザ・インタープリター」鑑賞

シドニー・ポラック監督の「ザ・インタープリター」(THE INTERPRETER)を観た。個人的には「つかみ」が何も感じられない作品だったんだけど、まあショーン・ペンが出ているということで。

ストーリーはアフリカのマトボ共和国の出身で、現在は国連の通訳として働いている主人公シルビア(ニコール・キッドマン)が、独裁者として悪名高いマトボの大統領を暗殺するという何者かの会話を国連本部内で偶然耳にしてしまう。シルビアはすぐに当局に通報するものの、まるで誰かが彼女の命を狙っているような出来事が身の周りで頻発するようになる。そしてシークレット・サービスのエージェントであるトービン(ショーン・ペン)は事件の調査に乗り出すものの、やがてシルビアが過去に活動家であったことを知り、彼女に対する疑念を深めていく…といったもの。
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「WHERE THE BUFFALO ROAM」鑑賞

かなり遅れての追悼という意味で…という訳でもないが、ビル・マーレーが故ハンター・S・トンプソンを演じた「WHERE THE BUFFALO ROAM」(1980)をDVDで観る。マーレーが「ゴーストバスターズ」以前、つまり比較的無名だった頃に出演した映画で、ストーリー上では主人公を演じているものの、クレジットのトップは相棒のカール・ラザロ(モデルはオスカー・アコスタ、つまり「ラスベガスをやっつけろ」のドクター・ゴンゾ)を演じるピーター・ボイルに与えられている。直接の原作となった記事(「THE GREAT SHARK HUNT」に収録されてるらしい)は未読だが、それなりにフィクションも含まれているようだ。

ストーリーはあってないようなもので、1968年のヒッピー裁判、70年のスーパーボウル、72年の大統領選挙などを背景に、当時「ローリング・ストーン」誌の名物記者だったトンプソンと異端の弁護士であるラザロの巻き起こす珍騒動を愉快に描いていく。酒とクスリでラリってばかりで、ホテルの部屋などを徹底的に破壊していくトンプソンの姿が面白い。面長のトンプソンに比べてマーレーって丸顔すぎる気もするが、周囲の迷惑を顧みずに自分流のゴンゾ・ジャーナリズムを貫くトンプソンの姿をうまく演じきってると思う。

ただトンプソンってその奇行ばかりが注目されがちだけど、ちゃらんぽらんな文章を書いているようで実はアメリカの政策や情勢に関する鋭い観点を持っていたからこそ人気があったわけで、この映画は彼の滑稽な部分だけにしか焦点を当てていないのが残念なとこだ。一応トイレで出会ったニクソンに演説らしきものをぶつ場面もあるのだけど不発に終わっている。テリー・ギリアムの「ラスベガスをやっつけろ」もそうだったけど、トンプソンの文章にある冗談と真剣さの微妙なバランスって、映画だとなかなか表現しにくいのかもしれない。現在は彼の数少ないフィクション小説「ラム酒日記」が「ウィズネイルと僕」のブルース・ロビンソン監督により映画化が進められてるらしいので、そちらに期待しよう。

ちなみに主題歌はニール・ヤングが歌っている。彼は作品中の音楽にも関わってるらしいのだが、なんかサエない曲が多いな…と思っていたら、どうもDVD版はオリジナルやビデオ版に比べて曲が差し替えられてるらしい。使用料の問題によるものだろうけど、元はヤングやジミ・ヘンドリックスの曲などがずいぶん使われていたらしい。何か損した気分。