「ザ・インタープリター」鑑賞

シドニー・ポラック監督の「ザ・インタープリター」(THE INTERPRETER)を観た。個人的には「つかみ」が何も感じられない作品だったんだけど、まあショーン・ペンが出ているということで。

ストーリーはアフリカのマトボ共和国の出身で、現在は国連の通訳として働いている主人公シルビア(ニコール・キッドマン)が、独裁者として悪名高いマトボの大統領を暗殺するという何者かの会話を国連本部内で偶然耳にしてしまう。シルビアはすぐに当局に通報するものの、まるで誰かが彼女の命を狙っているような出来事が身の周りで頻発するようになる。そしてシークレット・サービスのエージェントであるトービン(ショーン・ペン)は事件の調査に乗り出すものの、やがてシルビアが過去に活動家であったことを知り、彼女に対する疑念を深めていく…といったもの。
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「WHERE THE BUFFALO ROAM」鑑賞

かなり遅れての追悼という意味で…という訳でもないが、ビル・マーレーが故ハンター・S・トンプソンを演じた「WHERE THE BUFFALO ROAM」(1980)をDVDで観る。マーレーが「ゴーストバスターズ」以前、つまり比較的無名だった頃に出演した映画で、ストーリー上では主人公を演じているものの、クレジットのトップは相棒のカール・ラザロ(モデルはオスカー・アコスタ、つまり「ラスベガスをやっつけろ」のドクター・ゴンゾ)を演じるピーター・ボイルに与えられている。直接の原作となった記事(「THE GREAT SHARK HUNT」に収録されてるらしい)は未読だが、それなりにフィクションも含まれているようだ。

ストーリーはあってないようなもので、1968年のヒッピー裁判、70年のスーパーボウル、72年の大統領選挙などを背景に、当時「ローリング・ストーン」誌の名物記者だったトンプソンと異端の弁護士であるラザロの巻き起こす珍騒動を愉快に描いていく。酒とクスリでラリってばかりで、ホテルの部屋などを徹底的に破壊していくトンプソンの姿が面白い。面長のトンプソンに比べてマーレーって丸顔すぎる気もするが、周囲の迷惑を顧みずに自分流のゴンゾ・ジャーナリズムを貫くトンプソンの姿をうまく演じきってると思う。

ただトンプソンってその奇行ばかりが注目されがちだけど、ちゃらんぽらんな文章を書いているようで実はアメリカの政策や情勢に関する鋭い観点を持っていたからこそ人気があったわけで、この映画は彼の滑稽な部分だけにしか焦点を当てていないのが残念なとこだ。一応トイレで出会ったニクソンに演説らしきものをぶつ場面もあるのだけど不発に終わっている。テリー・ギリアムの「ラスベガスをやっつけろ」もそうだったけど、トンプソンの文章にある冗談と真剣さの微妙なバランスって、映画だとなかなか表現しにくいのかもしれない。現在は彼の数少ないフィクション小説「ラム酒日記」が「ウィズネイルと僕」のブルース・ロビンソン監督により映画化が進められてるらしいので、そちらに期待しよう。

ちなみに主題歌はニール・ヤングが歌っている。彼は作品中の音楽にも関わってるらしいのだが、なんかサエない曲が多いな…と思っていたら、どうもDVD版はオリジナルやビデオ版に比べて曲が差し替えられてるらしい。使用料の問題によるものだろうけど、元はヤングやジミ・ヘンドリックスの曲などがずいぶん使われていたらしい。何か損した気分。

「スウィート・スウィートバック」鑑賞

70年代のブラクスプロイテーション映画の先駆けとなった「スウィート・スウィートバック」こと「SWEET SWEETBACK’S BAADASSSSS SONG」をDVDで観る。主演・製作・監督・編集その他をこなすのはメルヴィン・ヴァン・ピーブルズで、無名時代のアース・ウィンド&ファイアーが音楽をやってるとか。

売春宿に育ったスウィートバックはセックスの腕前を活かして白黒ショーのパフォーマーをしていたが、ひょんなことから警察によるブラックパンサーの活動家のリンチの場に立ち会ってしまう。彼は活動家を救うために警官たちを殴り倒してしまったため、その日から彼の長い逃避行が始まる…。というのが主なプロット。ブラクスプロイテーション映画の常として途中にセックス&バイオレンスがふんだんに盛り込まれているものの、基本的には警察の追跡とスウィートバックの逃避行が延々と描かれている。

かなりの低予算で製作され、X指定映画として公開されたにもかかわらずヒットを記録し、黒人映画が台頭するきっかけを作ったとして伝説になった作品だが、その出来自体ははっきり言ってショボい。かなり突拍子のない映像のモンタージュ(というかツギハギ)や多重露出、音楽の挿入などがクドいくらいに使われているものの、お世辞にもあまり芸術的な使い方とは思えず、経験のない監督が奇をてらってみたらこうなった、といった印象が残る。とりあえずズームとかインポーズとかいろいろ使って「ほら、映画ってこんなことできるんだよ〜」と言ってるような、まるで見せ物を披露してるような感じがするのだ。でもたぶん製作側も意図的に見せ物的な映画にしたんじゃないだろうか。当時の観客が冒頭の白黒ショーでニタニタ笑い、警官が殴られるシーンで歓声をあげ、逃げるスウィートバックを応援してる姿を想像するのは難しくない。音楽にも「頑張れ!スウィートバック!」なんて掛け声が入ってたりする親切設計だし。

ちなみに肝心のスウィートバックは全部で6回しか話さないような無口な奴で、反逆児のヒーローといったイメージはあまりない。子供の頃に童貞を失うシーン(演じるのは息子のマリオ・ヴァン・ピーブルズ)をはじめに、出会った女性とはとりあえず寝て、気持ちよくさせてあげて、代わりに助けてもらうという展開の連続には笑ったけど。

個人的にはあまり本数観てないんで偉そうなこと言えないけど、ブラクスプロイテーション映画って、文字通り「黒人を搾取した」と見るか、逆に「黒人映画を世に広めた」と見るかでえらく評価が違ってくるんじゃないだろうか。この作品も「権力に我慢ならないブラザーとシスターたちにこの映画を捧げる」なんて文句が冒頭に出てきて、「カッコいいなあ」と思う反面、「煽ってるよなあ」と考えたりもしてしまう。この作品の乱雑さは上で述べたが、それを荒削りな魅力としてとらえる人もいるだろう。とりあえず映画としての出来よりも、歴史的な意味で重要な作品かと。

「グライド・イン・ブルー」鑑賞

70年代の隠れた名作「グライド・イン・ブルー」をDVDで観る。原題が「ELECTRA GLIDE IN BLUE」で「エレクトラ・グライド」というバイクが出てくる話なんだから、この邦題は何かヘンじゃないか?まあいい。

主人公のジョンはアリゾナの砂漠で勤務する、生真面目な白バイ警官。ヒッピーの車を止めて尋問するような生活にうんざりしていた彼は、殺人課の警部の仕事に憧れていた。そして人里離れた小屋での老人の殺人事件に関わった彼は、その功績を認められて殺人課に転属する。しかしそこでも警察による権力の悪用が蔓延していることを知った彼は、自分の正義感が空回りするのを感じ、疎外感を強めていくのだった…。というのが大まかな内容。

アメリカン・ニューシネマ的とでもいうのか、「自分たちの居場所を見つけられない人々」がテーマのストーリーは「イージー・ライダー」に通じるものがある。特にラストは「イージー・ライダー」そのまんまなんだけど、こちらは体制側の人間を主人公にしているのが対比的だ(「イージー・ライダー」の写真を撃ち抜くシーンがあったりする)。低予算映画ながら、バイク・チェイスのシーンなんかも迫力があって楽しめる。撮影は名匠コンラッド・ホールだとか。ストーリーや編集は荒削りなところもあるものの、夢破れた男女の物語が淡々と語られていくのが印象的だ。

主人公を演じるロバート・ブレイクは去年あたりに妻殺しの容疑で逮捕されて以来、その裁判が全米で注目され変な意味で時の人となった俳優だが、チビのマイク・マイヤーズみたいな容姿ながら、この作品では自分の職務に忠実な警官の孤独をうまく演じきってると思う。白バイを西部劇の馬のごとく操り、荒野を走る姿がなかなかカッコいい。

ちなみに監督のジェームズ・ウィリアム・ガルシオはシカゴ(バンドだよ)のマネージャーだったらしいが、この作品にもピーター・セテラをはじめシカゴのメンバーが何人か出演してる。80年代になれば甘ったるいラブソングばかり歌うようになるシカゴだが、この頃はまだヒッピーみたいな姿だったんすね。

「氷海の伝説」鑑賞

外は天気がいいってのにカゼが抜けきらないので、ずっと家にいて「氷海の伝説」こと「ATANARJUAT: THE FAST RUNNER」をDVDで観る。以前に岩波ホールでやってた時は観に行けなかったので。カナダ政府から助成金をもらって撮影された映画であり、全編イヌイット語のフィクション映画という意味では世界初の作品らしい。

舞台となるのは数百年前のイヌイットの部族の居住地。部族の長の息子であるオキにはアートゥワという娘と結婚することになっていたが、これは親同士の取り決めに夜結婚であり、アートゥワ本人は「足の速い人」ことアタナグユアトと恋仲にあった。横暴なオキはこれを気に入らずアタナグユアトと勝負をするものの、アタナグユアトは逆にオキを打ち負かしアートゥワを妻にめとる。その後にアタナグユアトはオキの妹プヤも妻にするが(一夫多妻制らしい)彼女は災いの種となり、復讐心に燃えるオキたちによってアタナグユアトの兄アマクヤックは惨殺され、アタナグユアトは氷の張った海へ裸のまま逃亡することになる。奇跡的に氷の海を駆け抜け一命をとりとめたアタナグユアトは、やがてオキやアートゥアのいる部落へと帰ってくるのだが…。というのが主なストーリー。イヌイットに伝わる物語を映像化したもので話自体はシンプルなものの、日本の昔話にも通じるようなところがあり観てて飽きがこない。

役者は当然のことながら監督を含むスタッフのほぼ全員がイヌイットであり、衣装から道具、住居のすべてにいたってが細かい調査と伝統的な手法によって作られていて、当時のイヌイットの生活風景が見事なくらいに再現されている。最初はイヌイットの習慣が理解しにくかったり、登場人物の顔がみんな同じに見えたりするかもしれないが、やがて話にグイグイ引き込まれて3時間という長さがあまり気になってこなくなるほどだ。いわゆるハリウッド的な演出や展開は皆無で、全体的にはとても淡々とした雰囲気があるものの、それがかえって新鮮に感じられる。(恐らく)照明なしのビデオ撮りによる作品だが、映像の質もそんなに気にならなかった。

それにしても雪と氷と岩しかない環境で生きるイヌイットたちの何とタフなこと。男たちが狩ってきた動物の骨や皮からあらゆるものを作りあげ、氷の家に住み、犬ぞりに乗る彼らの姿を見ているだけでも楽しい。あんなところで暮らしたいとは思わないけど。