「コントロール・ルーム」鑑賞

アラブ諸国で一番の人気を誇る衛星テレビ局「アルジャジーラ」の、イラク戦争時の光景を追ったドキュメンタリー「CONTROL ROOM」をDVDで観る。

オサーマ・ビンラーディンの声明を放送したりすることから、アメリカのラムズフェルド国防長官なんかには敵視されているアルジャジーラだが、一方では旧フセイン政権からも「アメリカの手先だ」なんて糾弾されていたらしい。アルジャジーラ自体は偏見のない公明正大な報道をポリシーとしているものの、そのスタンスは明らかにアラブ・イスラム諸国寄り。個人的には報道側の主観が混じらないジャーナリズムなんて存在しないと思ってるので、米フォックス・ニュースなどに代表されるようなアメリカべったりの放送局の対極に存在するチャンネルだと思えばいいんじゃないでしょうか。

作品はイラク戦争の開戦直前から始まり、アルジャジーラのスタッフやジャーナリスト、アメリカ軍のプレス・センターの人々などのコメントを交えながら、戦況を追うメディアの裏側を紹介していく。戦争の状況をいかに報道するか、ということでアルジャジーラ側とアメリカ軍側の両方の意見が聞けるのが興味深い。最後はブッシュの戦争終結宣言(例の空母の上でやったやつ)で終わり、その後のイラクの混乱を描いてないのは残念だが、いずれまた別のドキュメンタリーが出来るだろう。

たび重なるアメリカの糾弾を受けながら、涼しい顔をして報道の姿勢を崩さないアルジャジーラのスタッフの態度はとにかくプロフェッショナル(半ばヤケになってるようなところもあるけど)。政治家や芸能プロの顔色を常にうかがう日本の放送局とは違いますね。「私はアメリカ憲法を信じている。アメリカ帝国を倒すのはアメリカ国民だ」というジャーナリストの言葉が印象的だ。
しまいにはアメリカ軍の「誤爆」によりバグダットの特派員が命を落とすのだが、記者会見に集まった他局のジャーナリストたちに向かって、特派員の妻が「夫のためにも、自国のポリシーに左右されないで、どうか真実を隠さずに皆に伝えてください」と述べるシーンが胸を打つ。
続きを読む

「愛の落日」 鑑賞

「愛の落日」こと「THE QUIET AMERICAN」をDVDで観る。その「反アメリカ的」な内容が9/11テロ直後のアメリカで問題になり、公開が1年近くも延期された作品だが、日本ではこんな邦題で公開されていたとは。

1952年のベトナムを舞台に、ベトナム対フランスの第1次ベトナム戦争と、共産国家の台頭を恐れたアメリカの介入による政治不安を背景にしながら、イギリス人の老記者と若きアメリカ人、そしてベトナム人の美女の三角関係を描いた傑作。歴史の大きなうねりを黙って見つめる記者役のマイケル・ケインの演技が光るが、謎めいたアメリカ人役のブレンダン・フレイザーもなかなかのもの。「ゴッド・アンド・モンスター」もそうだったが、この人はコメディやアクションよりもシリアスな演技の方が似合ってると思う。

アメリカ対ベトナムの第2次ベトナム戦争を予期したグレアム・グリーンの原作は未読だが、面白そうなので今度読んでみようかな。

「SLACKER」鑑賞

ケヴィン・スミスと並ぶ90年代のインディペンデント映画界の雄、リチャード・リンクレイターの実質的デビュー作品「SLACKER」をDVDで鑑賞する。1991年に公開された本作はスミスに「クラークス」を撮らせる触発を与えた映画であり、90年代のインディペンデント映画の元祖的作品のはずなのだけど…正直言ってかなり退屈な映画だった。

ストーリーの展開は無いに等しく、テキサス州オースティンの1日を舞台に、いろんな若者の姿をダラダラ追ってるだけ。まあ題名が「SLACKER(ダラけた奴、という意味)」なのでそれがコンセプトなんだろうけど。映画の構成は緩やかにつながった短いシーンの連続で成り立っていて、あるシーンでAとBが話してれば、次はBとCが話してるシーンになり、次はCとDが…といった感じで映画が進んでいく。登場する人物はみんな口が達者で陰謀論とか哲学を何気ない顔でベラベラ喋りまくるような連中ばかりで、どのシーンも演技よりもセリフ主体になってるため全体的に頭でっかちな印象を受ける。ジム・ジャームッシュの「パーマネント・バケーション」みたいな感じかな。そしていかにも90年代的な、「私ってinsecureだから…」と言ってる奴とか、「レザボア・ドッグス」の冒頭よろしくポップ・カルチャーの脱構築をしてる連中が出てくるのを見ると、90年代は遠くになりけりと変に実感してしまった。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのレコードを久しぶりに聞いてみたらものすごくカッコ悪かった、というような感じ。俺も年だなぁ。

リンクレイターはこの作品の次に場外満塁ホームラン的大傑作「バッド・チューニング」を世に出すことになるのだが、あの映画の原型となるような要素(ユルい若者たちの24時間、とか)が随所に見られるのが興味深い。監督のペダンチックさがこの映画でうまく消化されて、「バッド・チューニング」の爽快感に昇華されていった、ということか(語呂合わせでなく)。

ちなみにクライテリオン版のDVDは2枚組で、リンクレイターの短編映画とかコメンタリーが山ほど収録されている。低予算映画のノウハウを学びたい人にはいい教材になるんじゃないでしょうか。

「BOTTLE ROCKET」鑑賞

「天才マックスの世界」や「ロイヤル・テネンバウムズ」を手がけたウェス・アンダーソン監督のデビュー作「BOTTLE ROCKET」をDVDで観る。主演&共同脚本はアンダーソン作品ではお馴染みのオーウェン・アンダーソンで、他にもルーク・ウィルソンやアンドリュー・ウィルソン、クマー・パラーナといったアンダーソン作品の常連がいろいろ出ていて楽しい。あと何故かジェームズ・カーンが出てたりする。

神経衰弱のため精神病院に入っていたアンソニー(ルーク・ウィルソン)が悪友のディグナン(オーウェン・ウィルソン)と再会し、友人のボブも含め3人で書店に強盗に入る。金を奪った彼らは田舎町のモーテルに逃亡するが、そこでアンソニーはイネスというメイドと恋仲になってしまう。しかし彼らは再び故郷の街に戻ることになり、ディグナンのボス(カーン)に誘われるがまま、ある工場の金庫から金を盗むことにするのだが…というのが大まかなストーリー。前半はアートっぽい映画かな、と思わせておいて中盤は「サイドウェイ」みたいになり、後半は「ライフ・アクアティック」ばりのドタバタ劇になる話の流れはかなり一貫性に欠けているが、テンポの速いストーリーと凝ったカメラワークによって飽きがこない内容になっている。

後のアンダーソン作品のトレードマークとなる絶妙な選曲のBGMはあまり聞けないものの、音楽と映像のタイミングの合わせ方などはなかなか見事。プールでのショットやスローモーションで終わるラストなどにも、後に確立される彼のスタイルの片鱗が見てとれる。

それなりに低予算の映画なんだけれど、ツボをしっかり押さえた内容になっているし、27歳の若さにしてこれだけの作品を仕上げた監督の技量には感服する。彼のファンなら観て損はしない作品かと。

(4月20日に「アンソニーのハッピー・モーテル」という邦題でDVD発売されるとか)

「FEVER PITCH」を観た

フォックスのラブコメディ「FEVER PITCH」を観た。主演はドリュー・バリモアとジミー・ファロンで、監督はピーター&ボビーのファレリー兄弟。「メリーに首ったけ」なんかのお下劣路線で名を馳せたファレリー兄弟にとっては異色のストレートなコメディになるのかもしれないが、彼らの作品はあまり観たことないのでよく分かりません。一応それなりに低俗なネタが出てきます。そして原作は「ハイ・フィデリティ」や「アバウト・ア・ボーイ」で知られる作家ニック・ホーンビィ。以前にもこの原作は「僕のプレミア・ライフ」なんて邦題で映画化されてるとか。原作は弱小サッカーチームであるアーセナルの勝敗に一喜一憂するファンの心理を描いたノンフィクションだったのに対し、映画は例によって舞台をアメリカに移し、弱小野球チームであるレッドソックスのファンを題材にしたフィクションになっている。これじゃ原作とまるで別物じゃないか?
なお原作はアーセナルが久しぶりに優勝するところで終わってるが、映画も撮影中にレッドソックスが何と86年ぶりに優勝してしまったため、急いで結末を書き換えることになったらしい。これに対し旧来のレッドソックスのファンからは「あざといソクスプロイテーションだ」という声が挙がってるとか。何だよ「ソクスプロイテーション」って。

バリモアが演じるのはキャリアウーマンのリンジー。彼女は教師のベン(ファロン)と知り合い、すぐに恋仲になるのものの、実はベンはレッドソックスのあまりにも熱狂的なファンだった。彼女はベンのために自分の仕事を犠牲にしてまで一緒に試合に行ったりしていたものの、レッドソックスのことしか眼中にない彼との間にやがて亀裂が生じてきて…というのが大まかなストーリー。昇進を目前にしたキャリアウーマンが30歳になったからって、恋人がいないことに突然オロオロして小汚い低所得の教師と付き合うようになるなんて絶対ウソだと思うけど、その点にだけ目をつむれば比較的よくまとまったラブコメディになっている。

ただ原作のファンにとっては、ベンよりもむしろリンジーの観点に沿ってストーリーが進んでいくことに不満を感じる。基本的にニック・ホーンビィって従来の小説界では軽視されていた「男のいじらしさ」を描くのが優れている作家で、個人的にも「ハイ・フィデリティ」に出てくる、好きな女の子のためにせっせとミックス・テープを作る主人公の姿にひどく共感した覚えがある。しかしこの映画ではリンジーが主人公なので、レッドソックスのファンたちが「理解不能なオタク」として描かれてしまっている。そのため原作の魅力である、スポーツやレコード・コレクションといった些細なことに愛情と情熱を注ぐ男性たちの心理描写がかなり薄れてしまっているのだ。「レッドソックスのファンであるということは何を意味するのか」についてベンが激白するシーンも一応あるものの、いかんせんファロンの演技が下手なので「小汚いオタクの裏に隠れた繊細な自分」を表現することに失敗している。対するバリモアの演技が非常に艶やかなので、男性陣の代弁者であるべきファロンが役立たずにしか見えないのが残念。

男性側の心情がしっかり描けていた「ハイ・フィデリティ」や「アバウト・ア・ボーイ」に比べれば明らかに劣る作品だけど、これはあくまでも原作を読んだことのある男性としての意見なので、普通にデート・ムービーとして観る分には悪い映画ではないんじゃないでしょうか。ラストのクライマックスには感動できたし。

ただし予告編はジョークのオチばらし&本編に入ってないシーン満載なので、出来れば予告編を見ないで劇場に行くことをお勧めします。