「シン・シティ」を観た

明日(4/1)の公開日が待ちきれないので、夜の先行公開で「シン・シティ」を観る。9時半の回を観ようとしたら既に売り切れだったので10時のやつにすることに。それだけ皆の期待度が高い作品なんだろう。10時の回も場内は観客で一杯だった。客層はコミックのファンというよりも普通の若者グループやカップルが多かったかな。本編開始前に「エピソード3」の予告編が流れてダース・ベーダーが一瞬だけ登場したら、皆が一斉に拍手してたのが面白かったっす。

そしてついに姿を現した劇場版「シン・シティ」。ロバート・ロドリゲスが監督組合を脱退してまで作ったこの映画は原作に徹底的に忠実に作ることを目的としており、原作者のフランク・ミラーが共同監督としてクレジットされているほどである。白と黒のコントラストが強烈な原作そのままに、映画のヴィジュアルもまた灰色を省いた白黒を使い、赤や青といった原色を効果的にワンポイントで入れたりしている。画面構成も原作に近いものになっており、ストーリーやセリフはほとんどそのまんま。原作のファンとしては嬉しい限りの大サービスといった感じか。「コンスタンティソ」を作った連中に見せてやりたい。

ただコミックをそのまま持ってくれば同じ雰囲気を保てるというと必ずしもそうではないわけで、そういう意味では損をしてるような箇所がいくつかあったと思う。特に話のペースが急ぎ気味だったかな。あと原作は極度のバイオレンスをブラック・ユーモアと美しいスタイルのアートが中和しているようなところがあったけど、映画では暴力描写だけが際立ってしまっているのが残念だった。電気イスのシーンなんか原作はもっと美しくまとまってると思うんだが。

■映画は3つの長編と1つの短編からなる一種のオムニバス形式をとっているので順に感想を述べる:

「THE CUSTOMER IS ALWAYS RIGHT」:原作は短編で、映画ではブックエンド形式をとっている。原作は未読だが可も不可もない出来上がりじゃないでしょうか。

「THAT YELLOW BASTARD」:これまたブックエンド形式。老刑事役のブルース・ウィリスがいい。ジェシカ・アルバも(意外ながら)良かった。YELLOW BASTARD役のニック・スタールは外見が原作そのままなのはちょっとアレかと。

「THE HARD GOODBYE」:ミッキー・ロークが山ほどメイクをして久しぶりに元気な姿を見せてくれている。殺人鬼役のイライジャ・ウッドも意外なくらい役にはまってた。さらにはルトガー・ハウアー御大も登場ときては喜ぶしかあるまい。ただすいぶんペースが忙しい話になっているような気がした。ここらへんが、自分で読む速度を調節できるコミックスと映画の大きな違いなんだろう。前述したように暴力描写がちょっとキツいのが難点か?
ちなみに司祭を演じるのはフランク・ミラー。

「THE BIG FAT KILL」:個人的には一番好きな原作。ドワイト役にクライブ・オーウェンが見事にハマっていた。デボン・アオキもちょっと背が高いことを除けばミホ役を好演。途中で出てくる傭兵の集団がアイルランド人だったとは知らなんだ。原作だと非常に印象的な恐竜のシーンが短かったことが残念かな。あと同じフランク・ミラー原作の「マーサ・ワシントン」シリーズに出てくる軍隊のマークが(原作通り)ちょこっとフィーチャーされてた。
タランティーノが監督してるという車中のシーンは、個人的には間延びしててダメ。

そして全体的な感想としては、満足できる出来なんだけれども、コミックを映画化する場合どの程度まで忠実であればいいのかを良くも悪くも示した作品になっている。コミックと映画というのはやはり違う媒体なんだなあと変なところで感心してしまった。とりあえず観に行く前に原作にざっと目を通しておくことをお勧めします。

ちなみに聞いた話ではロドリゲスはコミックの全てのエピソードを映画化したがってるという話なので、続編があるとすれば「FAMILY VALUES」や「A DAME TO KILL FOR」あたりが来るか?

THE YES MEN

WTO(世界貿易機関)などのメンバーになりすまし、世界中のテレビや講演会で珍妙な言動を繰り広げる社会派イタズラ集団「イエス・メン」の活動を追ったドキュメンタリー「THE YES MEN」をDVDで観た。監督は「素晴らしき映画野郎たち」のクリス・スミスら3人。マイケル・ムーアもちょこっと出てる。

イエス・メンの中心メンバーとなるのはビデオゲーム「シムコプター」にパンツ姿の男たちがゾロゾロ登場させるプログラムを書いていたアンディ・ビクルバウム(仮名)と、G.I.ジョー人形とバービー人形の声を入れ替えて店に置いてくるという活動をしていた「バービー解放戦線」のマイク・ボナーノ(仮名)の2人。彼らはまずインターネットで「www.gwbush.com」というサイトを立ち上げ、ジョージ・W・ブッシュの公式サイトをおちょくることに成功する。それからWTOの公式サイトを完全にコピーしてパロディ化したサイト(見比べてみよう)を立ち上げるのだが、そのあまりのそっくりさにダマされた世界中の人々から講演会の招待を受けたことをきっかけに、彼らはWTOの職員になりすまして滑稽なプレゼンテーションを行い、先進国の利益ばかりを追求するWTOの偽善ぶりをコケにしていくのだ。

まず最初の講演会で「イタリアやスペインにおけるシエスタ(昼寝)の廃止」および「売買できる投票権」のプレゼンテーションに成功した彼らはフィンランドに向かい、第三世界の労働者をモニター上で管理する「遠隔奴隷制」と資本家の娯楽時間の確保を両立させる新発明「マネージメント・レジャースーツ」を発表する。金ピカのボディースーツの股間から巨大な棒形の風船が生え、その先にモニターがついてるこのスーツのデザインはかなりマヌケ。しかも講演会で背広を破り捨てて突然そのスーツ姿になるのだから最高に笑える。こんなプレゼンテーションをやってれば普通は追い出されるか警察を呼ばれそうなものだけど、なんと観客たちはイエス・メンの説明をまるで疑おうともせずに拍手までしてしまうのだ。これは人がWTOなどの巨大団体の言うことをそのまま信じてしまうことのいい証明だろう。特典のコメンタリーによると、このプレゼンテーションに文句を言った人は1人しかいなかったとか。

こうして誰にも疑われることなくフィンランドを後にしたイエス・メンの次なる活動場所はアメリカの大学。ここでハンバーガーの有効的なリサイクルについて学生たちにプレゼンを行うのだ。彼らは人体は食物の栄養の20%しか摂取しないことを説明したのち、先進国の人々が食べて「排泄した」ハンバーガーをリサイクルし、発展途上国の人々に与えるという、これまたとてつもない案を発表する。事前に腹の空いた学生たちにハンバーガーを配っておいてからこんな発表をするのが笑える。若い学生が相手だということもあってプレゼン後はかなりの論議が巻き起こるものの、ここでも誰も彼らが偽者だと気づく人がいないのが興味深い。

それから最後に彼らはオーストラリアの講演会に向かい「WTOの解散」を宣言するものの、このネタはちょっと規模が大きすぎて不発に終わったかな。それでもこの話を信じて議会で取り上げた議員がカナダにいたらしい。そしてこれ以降は彼らはWTOから手を引き、標的を別の団体に移していく。

イエス・メン本人たちに言わせると、彼らのやってることはWTOなどの団体が貧しい国々をいかに苦しめているかという真実の姿を人々に見せるための「アイデンティティ訂正」であるらしい。直接WTOを批判しているわけではなく、職員の姿を借りてコケにしているわけだから「批判」よりも「中傷」の色合いが強いかもしれないが、テレビの討論や観客との質疑応答をうまくこなしてしまう姿を見ると、WTOの活動について実によく勉強していることがすぐ分かる。単なる愉快犯だったらあそこまで出来ないでしょ。
しかし講演会の内容がメディアとかに大きく取り上げられてるのに、WTOがまるで気づかなかったのは何故なんだろう。ちなみに以前にWTOがシアトルで会議を開いた時に起きた大暴動は、実はデモ隊の後ろに潜んでいた私服警官がわざと起こしたものだという話を聞いたことがあるが、その一方ではイエス・メンのような連中がWTOに潜んで活動してるわけだ。

この映画の完成後もイエス・メンはいろんなところから講演の依頼を受け続け、最近ではダウ・ケミカルのスポークスマンになりすましてBBCに出演したらしい。今後はどんなところに彼らは出現するのだろう?

BORN INTO BROTHELS

「スーパーサイズ・ミー」などを抑え、こないだアカデミー賞を受賞したドキュメンタリー作品「BORN INTO BROTHELS」を観た。

舞台となるのはカルカッタの売春地区。ここの生活環境は非常に劣悪で衛生状態もひどく、最貧層の人たちが狭い部屋にひしめきあって暮らしている所である。わずかな稼ぎを得るために女性は男たちに身を売り、ここに産まれた子供たちはろくに教育を受けることもままならないまま、幼い頃から親に虐待されながら朝から晩まで働かされるのだ。彼らにとってきちんとした学校に通っていい職に就くというようなことは夢のまた夢であり、特に女の子の場合は彼女の母や祖母がそうだったように、売春業に身を染めるしか生活の手段がないということがほぼ決まってしまっているのだ(作品中には14歳で親に売春を強制される子が出てくる)。10歳くらいの子がせっせと水くみをしながら「僕の人生に希望なんてないから…」と語る姿は胸を打つ。

ちなみに子供たちの父親は何をしているかというと、母親にカネをせびっている以外は酒をちびちび飲んでるか、ハシシをきめてラリってるだけ。まさしく典型的な「ヒモ」であり、家長的な祖母や仕事と家事に専念する母親と比べると、女王アリやハタラキアリに対するオスアリのごとく、実に何の役にも立ってないのが情けなかった。

こんな売春地区を長年に渡って取材してきたカメラマンのザナ・ブリスキ(どうでもいいがジル・ヘネシー似)は、子供たちにカメラを与えて自由に自分たちの生活の光景を撮影させ、彼らの芸術心を持たせることを発案する。こうしてカメラを手にした子供たちが気ままに映す街角の風景は、素朴で荒削りながらも見る人に訴えかけるものがある(色彩が特に素晴らしいのはインドだからだろうか)。やがて写真は慈善団体を通じてニューヨークで展示・販売さて話題を呼び、インドでも子供たちのことは注目されるようになった。そしてこの成功を目にしたザナは、展示会の収益によって子供たちを全寮制の学校に通わせ、売春地区から抜け出す機会を与えようと奔走するのだが…というのが話の大まかな流れ。売春地区の陰惨な暮らしと、そんなとこに住んでいながらも決して陽気さを失わない子供たちの対比が強烈な作品になっている。ただし陽気さを強調するあまり、ミュージック・ビデオのような映像になる場面がいくつかあったのには気になったが。

最近はIT産業の成長やアメリカなどからのアウトソーシングで活気づいてるインドだが、その裏にはまだまだ貧困に苦しむ人々がいるということを実感させてくれる作品。子供たちの入学に必要な書類を集めるにあたって、ボンクラな官僚主義の連中に手を焼く光景なども興味深いものがあった。子供たちがどうにか入学できても、全員が無事に卒業できるわけではないという現実を思い知らされるラストが哀しい。自分により近いものの話に思われる、という意味では「スーパーサイズ・ミー」のほうが個人的には好きだけど、観て損はしない作品じゃないでしょうか。

MILLIONS

ダニー・ボイル監督の最新作「MILLIONS」を観る。「トレインスポッティング」や「28日後」などのキワモノ的作品も撮っているボイルだが、今回の作品は非常にストレートで心暖まる家族向け映画になっている。

舞台となるのはイギリスのとある住宅地。母親を亡くし、父親とともに引っ越してきたアンソニーとダミアンの幼い兄弟はすぐに新しい家に夢中になる。そしてダミアンは家の裏にある線路の横に段ボールの家をつくり空想にふけるが、ある日突然そこに大金の入ったボストンバッグが降ってくる。親や警察に伝えればお金が没収されてしまうと考えた彼とアンソニーは大金を自分たちで使うことにするのだが、やがて英ポンドがユーロに切り替えられ、彼らのお金が使えなくなる日が近づいてくる…というのが大まかなストーリー。無垢な兄弟(特にダミアン)が大金を手にしたとき、彼らはどのようなことに使っていくのかという光景を、社会風刺などは殆ど絡めずに率直に描いていっている。ダミアンはキリスト教の聖人にやたら詳しいという設定だが特に宗教色が強いわけでもなく、むしろ彼の前に実際に登場する聖人たちが非常に人間くさく、話に笑いを沿えている。
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ダブリン上等!

「ダブリン上等!」(INTERMISSION)をDVDで観る。何の特典も付いてないDVDなんてこっち来てから初めて見た。

内容は、まあ、「トレインスポッティング」になろうとしてなれなかった多くの作品の1つといった感じでしょうか。なんかどの登場人物にも感情移入できないというか、奇をてらうあまり率直にストーリーを語ることができてない印象を受けてしまう。とりあえずパブ帰りの酔っぱらいが撮影したようなカメラの揺れはどうにかしてくれ。グラグラ揺れ過ぎだっての。あと覆面をしたまま話すシーンが多いのも問題だろう。暴力が日常茶飯事で、パブかクラブに行く以外何も娯楽がないダブリンの田舎っぽさはうまくとらえてると思うけど。

コルム・ミーニーやケリー・マクドナルド、コリン・ファレル、キリアン・マーフィーといったそれなりに豪華なキャストが出てて、ニール・ジョーダンが製作やってるんだからもうちょっと出来のいいものが欲しかった。