THE YES MEN

WTO(世界貿易機関)などのメンバーになりすまし、世界中のテレビや講演会で珍妙な言動を繰り広げる社会派イタズラ集団「イエス・メン」の活動を追ったドキュメンタリー「THE YES MEN」をDVDで観た。監督は「素晴らしき映画野郎たち」のクリス・スミスら3人。マイケル・ムーアもちょこっと出てる。

イエス・メンの中心メンバーとなるのはビデオゲーム「シムコプター」にパンツ姿の男たちがゾロゾロ登場させるプログラムを書いていたアンディ・ビクルバウム(仮名)と、G.I.ジョー人形とバービー人形の声を入れ替えて店に置いてくるという活動をしていた「バービー解放戦線」のマイク・ボナーノ(仮名)の2人。彼らはまずインターネットで「www.gwbush.com」というサイトを立ち上げ、ジョージ・W・ブッシュの公式サイトをおちょくることに成功する。それからWTOの公式サイトを完全にコピーしてパロディ化したサイト(見比べてみよう)を立ち上げるのだが、そのあまりのそっくりさにダマされた世界中の人々から講演会の招待を受けたことをきっかけに、彼らはWTOの職員になりすまして滑稽なプレゼンテーションを行い、先進国の利益ばかりを追求するWTOの偽善ぶりをコケにしていくのだ。

まず最初の講演会で「イタリアやスペインにおけるシエスタ(昼寝)の廃止」および「売買できる投票権」のプレゼンテーションに成功した彼らはフィンランドに向かい、第三世界の労働者をモニター上で管理する「遠隔奴隷制」と資本家の娯楽時間の確保を両立させる新発明「マネージメント・レジャースーツ」を発表する。金ピカのボディースーツの股間から巨大な棒形の風船が生え、その先にモニターがついてるこのスーツのデザインはかなりマヌケ。しかも講演会で背広を破り捨てて突然そのスーツ姿になるのだから最高に笑える。こんなプレゼンテーションをやってれば普通は追い出されるか警察を呼ばれそうなものだけど、なんと観客たちはイエス・メンの説明をまるで疑おうともせずに拍手までしてしまうのだ。これは人がWTOなどの巨大団体の言うことをそのまま信じてしまうことのいい証明だろう。特典のコメンタリーによると、このプレゼンテーションに文句を言った人は1人しかいなかったとか。

こうして誰にも疑われることなくフィンランドを後にしたイエス・メンの次なる活動場所はアメリカの大学。ここでハンバーガーの有効的なリサイクルについて学生たちにプレゼンを行うのだ。彼らは人体は食物の栄養の20%しか摂取しないことを説明したのち、先進国の人々が食べて「排泄した」ハンバーガーをリサイクルし、発展途上国の人々に与えるという、これまたとてつもない案を発表する。事前に腹の空いた学生たちにハンバーガーを配っておいてからこんな発表をするのが笑える。若い学生が相手だということもあってプレゼン後はかなりの論議が巻き起こるものの、ここでも誰も彼らが偽者だと気づく人がいないのが興味深い。

それから最後に彼らはオーストラリアの講演会に向かい「WTOの解散」を宣言するものの、このネタはちょっと規模が大きすぎて不発に終わったかな。それでもこの話を信じて議会で取り上げた議員がカナダにいたらしい。そしてこれ以降は彼らはWTOから手を引き、標的を別の団体に移していく。

イエス・メン本人たちに言わせると、彼らのやってることはWTOなどの団体が貧しい国々をいかに苦しめているかという真実の姿を人々に見せるための「アイデンティティ訂正」であるらしい。直接WTOを批判しているわけではなく、職員の姿を借りてコケにしているわけだから「批判」よりも「中傷」の色合いが強いかもしれないが、テレビの討論や観客との質疑応答をうまくこなしてしまう姿を見ると、WTOの活動について実によく勉強していることがすぐ分かる。単なる愉快犯だったらあそこまで出来ないでしょ。
しかし講演会の内容がメディアとかに大きく取り上げられてるのに、WTOがまるで気づかなかったのは何故なんだろう。ちなみに以前にWTOがシアトルで会議を開いた時に起きた大暴動は、実はデモ隊の後ろに潜んでいた私服警官がわざと起こしたものだという話を聞いたことがあるが、その一方ではイエス・メンのような連中がWTOに潜んで活動してるわけだ。

この映画の完成後もイエス・メンはいろんなところから講演の依頼を受け続け、最近ではダウ・ケミカルのスポークスマンになりすましてBBCに出演したらしい。今後はどんなところに彼らは出現するのだろう?

BORN INTO BROTHELS

「スーパーサイズ・ミー」などを抑え、こないだアカデミー賞を受賞したドキュメンタリー作品「BORN INTO BROTHELS」を観た。

舞台となるのはカルカッタの売春地区。ここの生活環境は非常に劣悪で衛生状態もひどく、最貧層の人たちが狭い部屋にひしめきあって暮らしている所である。わずかな稼ぎを得るために女性は男たちに身を売り、ここに産まれた子供たちはろくに教育を受けることもままならないまま、幼い頃から親に虐待されながら朝から晩まで働かされるのだ。彼らにとってきちんとした学校に通っていい職に就くというようなことは夢のまた夢であり、特に女の子の場合は彼女の母や祖母がそうだったように、売春業に身を染めるしか生活の手段がないということがほぼ決まってしまっているのだ(作品中には14歳で親に売春を強制される子が出てくる)。10歳くらいの子がせっせと水くみをしながら「僕の人生に希望なんてないから…」と語る姿は胸を打つ。

ちなみに子供たちの父親は何をしているかというと、母親にカネをせびっている以外は酒をちびちび飲んでるか、ハシシをきめてラリってるだけ。まさしく典型的な「ヒモ」であり、家長的な祖母や仕事と家事に専念する母親と比べると、女王アリやハタラキアリに対するオスアリのごとく、実に何の役にも立ってないのが情けなかった。

こんな売春地区を長年に渡って取材してきたカメラマンのザナ・ブリスキ(どうでもいいがジル・ヘネシー似)は、子供たちにカメラを与えて自由に自分たちの生活の光景を撮影させ、彼らの芸術心を持たせることを発案する。こうしてカメラを手にした子供たちが気ままに映す街角の風景は、素朴で荒削りながらも見る人に訴えかけるものがある(色彩が特に素晴らしいのはインドだからだろうか)。やがて写真は慈善団体を通じてニューヨークで展示・販売さて話題を呼び、インドでも子供たちのことは注目されるようになった。そしてこの成功を目にしたザナは、展示会の収益によって子供たちを全寮制の学校に通わせ、売春地区から抜け出す機会を与えようと奔走するのだが…というのが話の大まかな流れ。売春地区の陰惨な暮らしと、そんなとこに住んでいながらも決して陽気さを失わない子供たちの対比が強烈な作品になっている。ただし陽気さを強調するあまり、ミュージック・ビデオのような映像になる場面がいくつかあったのには気になったが。

最近はIT産業の成長やアメリカなどからのアウトソーシングで活気づいてるインドだが、その裏にはまだまだ貧困に苦しむ人々がいるということを実感させてくれる作品。子供たちの入学に必要な書類を集めるにあたって、ボンクラな官僚主義の連中に手を焼く光景なども興味深いものがあった。子供たちがどうにか入学できても、全員が無事に卒業できるわけではないという現実を思い知らされるラストが哀しい。自分により近いものの話に思われる、という意味では「スーパーサイズ・ミー」のほうが個人的には好きだけど、観て損はしない作品じゃないでしょうか。

MILLIONS

ダニー・ボイル監督の最新作「MILLIONS」を観る。「トレインスポッティング」や「28日後」などのキワモノ的作品も撮っているボイルだが、今回の作品は非常にストレートで心暖まる家族向け映画になっている。

舞台となるのはイギリスのとある住宅地。母親を亡くし、父親とともに引っ越してきたアンソニーとダミアンの幼い兄弟はすぐに新しい家に夢中になる。そしてダミアンは家の裏にある線路の横に段ボールの家をつくり空想にふけるが、ある日突然そこに大金の入ったボストンバッグが降ってくる。親や警察に伝えればお金が没収されてしまうと考えた彼とアンソニーは大金を自分たちで使うことにするのだが、やがて英ポンドがユーロに切り替えられ、彼らのお金が使えなくなる日が近づいてくる…というのが大まかなストーリー。無垢な兄弟(特にダミアン)が大金を手にしたとき、彼らはどのようなことに使っていくのかという光景を、社会風刺などは殆ど絡めずに率直に描いていっている。ダミアンはキリスト教の聖人にやたら詳しいという設定だが特に宗教色が強いわけでもなく、むしろ彼の前に実際に登場する聖人たちが非常に人間くさく、話に笑いを沿えている。
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ダブリン上等!

「ダブリン上等!」(INTERMISSION)をDVDで観る。何の特典も付いてないDVDなんてこっち来てから初めて見た。

内容は、まあ、「トレインスポッティング」になろうとしてなれなかった多くの作品の1つといった感じでしょうか。なんかどの登場人物にも感情移入できないというか、奇をてらうあまり率直にストーリーを語ることができてない印象を受けてしまう。とりあえずパブ帰りの酔っぱらいが撮影したようなカメラの揺れはどうにかしてくれ。グラグラ揺れ過ぎだっての。あと覆面をしたまま話すシーンが多いのも問題だろう。暴力が日常茶飯事で、パブかクラブに行く以外何も娯楽がないダブリンの田舎っぽさはうまくとらえてると思うけど。

コルム・ミーニーやケリー・マクドナルド、コリン・ファレル、キリアン・マーフィーといったそれなりに豪華なキャストが出てて、ニール・ジョーダンが製作やってるんだからもうちょっと出来のいいものが欲しかった。

THE WEATHER UNDERGROUND


70年代の左翼ゲリラ「ウエザーメン(別称ウエザー・アンダーグラウンド)」を扱ったドキュメンタリーで、アカデミー賞にもノミネートされた「WEATHER UNDERGROUND」をDVDで観る。大学間の学生団体から過激派が脱退し、当時世界中で起きていた革命や暴動に感化されてウエザーメンが結成されたいきさつから始まり、その活動や衰退などを当時のメンバーが淡々と語っていく内容。ちなみに作品中の音楽にはフガジのイアン・マッケイが関わっていた。

ボブ・ディランの歌詞「風向きを知るのに天気予報士はいらない」からとった団体名や、ヒッピーのグルであるティモシー・リアリーの脱獄などでアメリカでの知名度は高いウエザーメンだが、他に行ったことはマニフェストの朗読や無人の政府施設の爆破くらいで、他の団体ほど凶悪なことはあまりやってない(異論はあるだろうが)。ブラック・パンサー党にも刺激をうけ、白人の若者の間に革命思想を広めようとするが、当のブラック・パンサーには嫌われていたとか。確かにメンバーは白人ばかりだし、田舎の金持ちの娘などが所属してたわけで、政府により幹部が組織的に暗殺されていったブラック・パンサーにとってみれば甘っちょろい若造の集団に見えたのだろう。その過激な口調のマニフェストなどが逆にニクソン政権にうまく利用され、ベトナム戦争から国民の目をそらすのに使われたという指摘は興味深い。

作品中でイラク戦争のことは特に言及されないが、記録映像で映し出されるベトナム戦争時のアメリカと、現在のアメリカの類似点は誰の目にも明らかだろう。長引く海外での戦争と積み重なる犠牲者に嫌気がさした若者たちがアメリカ政府に宣戦布告する、という出来事は現在でも十分起きかねない。ただ当時はアメリカ側の残虐行為や戦死者がそれなりに大きく報じられ、それが全国的な反戦運動につながっていったのに対し、現政権は報道を制御することによってうまく戦争の真実から国民の目をそらしてるかな、という感はあるが。

そしてベトナム戦争やニクソン政権の終焉ともに、ウエザーメンの活動もまた終わりを迎える。左翼ゲリラのキリのいい終わり方なんて、革命に実際に成功するか警察に全員射殺されるかくらいしかないわけで、そういう意味ではメンバーが次々と自首していくウエザーメンの終わり方は非常に寂しいものがある。でもFBIの捜査が違法な手段を用いていたために、彼らの多くが釈放されたという話には驚いた。しかもメンバーうち何人かは現在教師をやってるとか。どんなこと教えてるんだ?

観たあとの感想としては、彼らの活動内容に関心したというよりも、むしろ若気の至りで始まった集団の盛衰の物語を観たという感じである。意義のあるドキュメンタリーだとは思うが。メンバーの1人が最近のテロリズムを例に挙げ「自分たちが道徳的に勝っていると信じ込むことは非常に危険であり、恐ろしい結果を招くことになる」と語っているのが印象的だ。