「THE AMUSEMENT PARK」 鑑賞

ゾンビ映画の始祖、ジョージ・A・ロメロが1973年に撮った幻の作品。老人の虐待問題を喚起するためにウエストバージニアのルター派団体がロメロに製作を依頼した50分ほどの「教育映画」だが、内容がショッキングすぎるということでオクラ入りになっていたもの。いやあなたたちジョージ・A・ロメロに何を期待していたのですか、と聞きたくなるが、それがこのたび16ミリフィルムが発見され、4K修復されてホラー専門の配信サービスSHUDDERで初公開されたというわけ。

教育映画ということで冒頭にリンカーン・マーゼルという役者が、視聴者に「老人の虐待は深刻な問題です。そしてあなたたちもいずれは年をとるのです…」と説教くさいことを語って物語は始まる。特に明確なストーリーがあるわけでもなく、セリフも非常に少なくて、老人生活のメタファーとしてのシーンがいろいろ続く内容になっている。

舞台は名もなきアミューズメント・パーク。マーゼル演じる老人が胸を膨らませてそこにやって来るのだが、そこは老人生活の象徴としての遊園地だった。乗り物のチケットは時計などの所有物を買い叩かれて購入し、乗り物に乗るにも最低年収が定められ、金持ちには最高級の食事が用意される一方で貧乏人にはろくに食事も与えられない。

客はマーゼルのほかにも中高年が多く、マーゼルは彼らの不遇を傍観してる立場だったのが、やがて自身も文字通り踏んだり蹴ったりの目に遭っていく。子供たちに優しく接していると変人扱いされ、詐欺師に金銭を盗まれ、リハビリ施設に連れ込まれたり。不幸な目に遭うのは老人だけでなく、占い師のところにやってきた若き男女も、貧しい夫婦生活を送っている未来の姿を見せられて真っ青になったりする。

ロメロの作品とはいえゾンビは出てこなくて、バイクに乗った暴走族が登場するのが彼っぽいかな。ホラーとして見ると別に怖いシーンがあるわけではないのだが、実に救いようの無い内容になっていて陰惨な気分にさせてくれるものでした。「シンプソンズ」でバートが怖い話の代わりにマギーの今後の教育費を語って、ホーマーが心底震えあがるというネタを連想したよ。

最後はマーゼル本人がまた登場し、「あなたの将来はあなたが全て決められるものではないですが、とりあえず今から皆んなに優しくしておきましょう」みたいな、あまり助けにならないメッセージを訴えて終わり。観ていてうちの親はどうなのかとか、自分もやがてこうなるのかとか、いろいろ気が滅入ることを考えられずにはいられない作品でした。このリンカーン・マーゼル、撮影時に71歳だったがそのあと106歳まで長生きしたそうで、彼自身の老後の生活はどんなものだったのだろう。

劇中のアミューズメント・パークはあくまでもメタファーだが、現実世界でもゲームセンターのメダルコーナーには暇を持て余した老人たちがたむろしているし、西武園ゆうえんちは昭和レトロ風味に改装されたそうで、我々にはアミューズメント・パークで惨めに過ごす老後が待ち受けているのかもしれない。

「PLAN B」鑑賞

米HULUのオリジナルムービーで、誰も知らない傑作TVシリーズ「THE MIDDLEMAN」などで知られるナタリー・モラレスの初監督作品。

舞台はサウスダコタ州。厳格な家庭で育ったサニーとルペの少女ふたりは学校でも人気のないタイプだったが、特にサニーの方は彼氏を作りたくてウズウズしていた。そこでサニーは親が不在のときにハウスパーティーを開き、意中の少年を含む同級生をいろいろ招くものの、物事はうまく行かず別の少年を相手に初体験をしてしまう。さらにその際に使ったコンドームに不手際があったことから、避妊に失敗したのではとサニーは恐怖にかられる。急いで彼女とルペは薬局にアフターピル(通称プランBピル)を買いにいくものの、薬剤に販売を拒否されてしまう(本人のモラルに基づいて販売を拒否できるという変な法律があるらしい)。そのためサニーとルペは、遠く離れたプランド・ペアレントフッドに向かうことを決意し、親の車を拝借して避妊の旅に出るのだったが…というあらすじ。

製作はブラッド・ピットのプランB …では残念ながらないが、「ハロルド&クマーのプロデューサー」という宣伝文句からも察せられるように、バディふたりが一晩の道中でさまざまなトラブルに見舞われるコメディ。主人公が女性ふたりという点では、同じく女優の監督デビュー作だった「ブックスマート」に似ているところがあるけど、あれよりはもっとお下劣で、モロチンとかも出てきます。

ティーンの少女が避妊(中絶)を求めて親に黙って遠出するという内容は、昨年高い評価を受けた「NEVER RARELY SOMETIMES ALWAYS(17歳の瞳に映る世界)」と同じだけれども、当然ながらあんなヘビーな話ではない。とはいえ少女がアフターピルを入手するのには相当苦労し、ろくに避妊も行えないというアメリカの現状がうまく織り込まれているかな。サニーだけでなく親友のルペも、彼女なりの悩みを抱えているのがポイント。サニーはインド系でルペはヒスパニックなのだが、最近は非白人の家庭の方が保守的になってきているのだろうか。インド系の情報はそのコミュニティ(劇中では「インディアン・マフィア」と呼ばれる)で瞬時に拡散されるのでサニーは気が抜けない、というネタが面白かった。

サニー役のクフー・ヴァーマやルペ役のビクトリア・モロレスをはじめ、出演者はみんな比較的無名の役者ばかりかな。個人的に好きなコメディアンのレイチェル・ドラッチが1シーンだけ出ています。

コメディとソーシャルコメンタリーのバランスがちょっと悪い気もするし、初監督作品ということで演出が少しこなれてない感があるものの、苦境にめげずに頑張る少女ふたりの姿が面白い良作ですよ。

「BUTT BOY」鑑賞

ジョン・ウォーターズ御大が昨年のベスト映画だと称賛していた作品。主人公は中年なので明らかにボーイではなくてマンなのだが、「バット・マン」という題名はいろいろ法的に問題があったのでしょう。以下はネタバレ注意。

小さなオフィスでIT係として黙々と働くチップ・ガッチェルはしがない中年男性で、妻との仲もうまく行っていなかった。そんなある日、彼は前立腺の検診を受けたことで肛門への異物挿入に目覚め、小さな文房具から始まりテレビのリモコン、さらには子犬といった大きなサイズのものまで彼の肛門は飲み込んでしまう。しまいに彼は公園にいた子供さえも飲み込んでしまうが、罪の意識に駆られて自殺を試みて失敗する。その9年後、挿入断ちをしていた彼はAAの集いでラッセルという男性と出会う。ラッセルが語るアルコールへの誘惑を聞いたチップは、再び異物挿入の魅力に取り憑かれて様々な物を飲み込み、同僚の子供までも手に(尻に?)かけてしまう。しかし偶然にもラッセルは刑事であり、ラッセルが起こした一連の事件の捜査をしていくうちにチップが怪しいと考えるのだったが…というあらすじ。

設定を聞くと下ネタB級コメディのように思われるだろうがコメディ要素は皆無で、あくまでも真面目なサスペンスとして作られている。エロ・グロ描写もほとんどなし。低予算作品ではあるものの役者のわざとらしい演技もなく、撮影や音楽も臨場感があって意外なくらいに手堅い出来になっていた。とはいえ内容が内容なので真剣にとらえることは難しいのだが、「RUBBER」のカンタン・デュピューの一連の作品に雰囲気はよく似ているかと。アホな設定を真面目に撮ってるというやつ。

チップが異物挿入の誘惑に逆らえずにあらゆるものに手を出す一方で、刑事のラッセルはアルコールの誘惑を断ち切ろうと努力しているわけで、これは「レクイエム・フォー・ドリーム」のごとく中毒性をテーマにした映画でもある。話が進むにつれてチップの肛門は絶大な力を持つようになり、ブラックホールのごとく周囲のものを引き寄せて飲み込むことができ、クライマックスはそれに飲み込まれてしまったラッセルの逃亡劇が描かれるのだが(いや本当に)、それはもはやクローネンバーグのボディ・ホラーのよう。つまりこの作品はSFでもありホラーでもあり、刑事ドラマそして中毒を扱ったサスペンスでもあり、まあ結局のところは全部中途半端になっているわけだが、この設定でこういう映画を作れてしまうのは凄いことかと。

チップを演じるタイラー・コーナックって監督も務めていて、さらに脚本と音楽も担当している。この人のこと全く知らなかったけど他の作品もチェックしてみたいな。ラッセルを演じるタイラー・ライスという役者も、自分流を貫く刑事を好演している。

どうしてもその設定のためにイロモノ扱いされるのは免れないが(デートや食事中には観ないほうがいいよ)、普通によくできた映画でした。アイデアの勝利。

「Shadow in the Cloud」鑑賞

クロエ・グレース・モレッツ主演のB級アクションホラー。アメリカとニュージーランドの合作になるのかな?

舞台は1943年のニュージーランドの空軍基地。日本軍との戦火が激しくなるなか、サモアに向けて飛び立とうとする爆撃機に一人の女性隊員が乗り込んでくる。モードという名の彼女は司令官に極秘任務を命じられたということで、謎めいた荷物とともに同行することになった。しかし女性の隊員はまだ珍しく、他の男性クルーたちは彼女を侮蔑的に扱って胴体下部の銃座に押し込んでしまう。荷物を運ぶためその仕打ちにも耐えるモードだったが、その爆撃機には機体を分解していまうという怪物グレムリンも乗り込んでいたのだった…というあらすじ。

飛行中の航空機におけるグレムリンとの戦い、というと「トワイライト・ゾーン」の「2万フィートの戦慄」が有名だが、こちらは主人公が爆撃機の銃座にいることから「世にも不思議なアメージング・ストーリー」の「最後のミッション」にも似ているところがあるかな。特に前半は銃座に閉じ込められたモードと他のクルーが無線で話す密室劇(?)が延々と続き、製作費お安いんでしょうねーと思ってしまった。

後半になってモードの持ち込んだ荷物の謎が明かされ、日本軍の戦闘機が攻めてくるなかでグレムリンとも戦わなければならない状況になってくるとそれなりに面白くなってくるものの、いろんな要素が微妙に噛み合ってない印象があって、ちょっと工夫すればもっと面白くなったんじゃないかと思う。BGMも実に場違いなシンセ音楽が多用されてて、なんか80年代のB級サスペンスみたいなノリになってるのだが、あれ狙ってやってるのかな。

モレッツ以外の役者や監督はよく知らない人たちばかり。脚本はマックス・ランディスが書いていて、あいつハラスメントで叩かれてるのによく起用されたな、と思ったらプロデューサーからは外されて、脚本も監督がそれなりに書き直しを加えたみたい。冒頭でモードに投げかけられる侮蔑的な言葉のどのくらいをランディスが書いたのかはちょっと興味あるな。

決して出来のいい作品ではないもののアクション部分はそれなりに楽しめるし、90分もなくてサクッと観られる作品なので、ビールでも飲みながら何も考えずに観るには適してる作品でしょう。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」鑑賞

アカデミー賞にもいろいろノミネートされて話題の作品。日本は7月公開かな。以下はネタバレ注意。

30歳になるキャシーはかつて医大にも通っていた前途有望な女性だったが、ドロップアウトしていまは実家で暮らし、コーヒーショップでダラダラ働いていた。しかし彼女には裏の顔があり、それはナイトクラブで酔った振りをして、彼女に言い寄って部屋に連れ込む男たちを逆に痛い目に遭わせることだった。周到な準備をして男たちに仕置きをしていくキャシー。いったい何が彼女にそのような行為をさせるのか…というあらすじ。

話が進むうちにキャシー自身でなく幼なじみの親友が大学で性的暴行を加えられたことが示唆され、それに対する復讐としてキャシーがビジランテ的行動をとっていることが明らかになってくるのだが、「Ms.45(天使の復讐)」みたいなバイオレンスものではなくて、武器も使わずにもっと個人的な辱めを加えていくといった感じ。彼女の復讐の対象は男性に限らなくて、事件を揉み消した学長や同級生たちにも及んでいく。

ここ最近のMeTooムーブメントを強く反映しているような内容で、まあ男性が観るといろいろ気まずい思いを抱くんじゃないだろうか。キャシーはいい年してパステルカラーのギャルっぽいファッションをしている人で、実家の部屋もお屋敷みたいな内装になってるわけだが、これ若い頃で彼女の時間が止まっていて、そのときから今まで彼女が物事を明らかにできなかったことを象徴してるのでしょうね。セットデザインといえば弁護士の家の花が枯れてるところも印象的だった。

監督のエメラルド・フィネルってこれが監督デビュー作だが、イギリスでは役者やってるほかに「キリング・イヴ」のショウランナーもやってた人だそうで、この作品の雰囲気もイギリスのドラマっぽかったかな。銃が出てこないところとか、キャシーと両親の小ぢんまりとした関係とか。

キャシー役のキャリー・マリガンはいま35歳だそうだが、キャシーの痛々しいファッションがよく似合っております。最初は観ていてドン引きするものの、やがて孤独な仕置人のコスチュームみたいに見えてくるから不思議。共演者がやけに豪華で、クランシー・ブラウンやアルフレッド・モリーナ、アリソン・ブリー、コニー・ブリトン、モリー・シャノンなんかが出ています。プロデューサーはマーゴ・ロビーだぞ。

観てスッキリするかというと全くそんなことはない作品なのだけど、時代をうまく反映した作品だなとは思う。モヤモヤは残るけどね。