「シャン・チー/テン・リングスの伝説」鑑賞

まだ公開したばかりなので感想をざっと。いちおうネタバレ注意。マーベル・コミックスの原作のキャラクターにはそんなに思い入れがなくて、「燃えよ!カンフー」やブルース・リーに始まる70年代のカンフーブームに便乗して登場した、アジア人から見たら違和感を感じるアジア人キャラ、というのが最初見たときの印象だったな。ポール・グレイシー&ダグ・メンチによる一連の作品は面白いらしいですが。

ポール・グレイシーの連続コマ、カッコいいよね!

70年代のスタイルだと流石にもはや政治的に正しくないので、近年になってからはもっとスポーティな若者ルックになって登場して、それが今回の映画版のもとになってるようです。

内容もきちんとアジア人に配慮したものになっていて、サンフランシスコの中国系コミュニティから話が始まり、マカオに移って、それから謎めいた部族が長い間守り続ける秘境の存在が明らかになって、そこを守るために主人公は立ち上がる…ってこれ「ブラック・パンサー」のプロットじゃないか?あれもカリフォルニア→釜山→アフリカと話が移っていったし、外部からの襲撃に備えて部族が武装するあたり、「これ前にも観たぞ?」と思ってしまったよ。

それを考えるとアフロフューチャリズムでテーマが一貫していた「パンサー」と異なり、こっちはスーパーヒーロー映画、カンフー映画、ファンタジー映画、ついでに最近のディズニーが好きなハリウッド風エスニック映画の要素をいろいろ盛り込んできて、結局はすべてにおいて中途半端に終わっている感じだった。テン・リングスの仕組みとか、最後の敵とか、もうちょっと細部を詰めれば良かったのに。テレパシー?が使えるならさ、単に暴れさせるだけじゃなくて自分の野望とか語らせれば良かったんじゃないの。

デスティン・ダニエル・クレットン監督の過去作は未見。「ショート・ターム」とか評判良いのだけどね。主役のシム・リウはコミックのシャン・チーに比べておっさん顔のような気もするが、トロント出身のアジア人ということで個人的には応援します。オークワフィナもいい役者になったよな。彼女とミシェル・ヨーとロニー・チェンと、「クレイジー・リッチ!」に出てきた役者が3人もいるあたり、ハリウッドにおけるアジア人俳優の層ってやはり薄いんだろうか。シャン・チーの妹役のメンガー・チャンはこれが映画デビュー作?なんでこんな大役にいきなり起用されてるの?この作品の中国公開が決まってないことを考えると、中国市場に媚を売るためとも思えないしなあ。

そして役者としてはやはりトニー・レオンがいちばん巧くておいしい役を演じていて、むしろ彼を主役にしたほうが良かったんじゃないの。「ブラック・パンサー」もそうだったがヒーローに対して複雑な感情を抱く敵役のほうがずっとキャラクターとしては面白いのだけど、ディズニーはそういったキャラを主役には持ってこないだろうね。

マーベルのスーパーヒーローもの、というよりはディズニーのファンタジー作品という印象が強くて個人的にはどうも好きにはなれなかったけど、シャン・チーは今後もマーベル映画に登場してくるでしょうから、アジア人ヒーローとして活躍してくれることに期待します。

「レミニセンス」鑑賞

日本だと来月公開ですがHBO MAX経由でお先に。監督がリサ・ジョイ、製作がジョナサン・ノーランという「ウエストワールド」の夫婦コンビによるSF作品。以降はネタバレ注意。

舞台は近未来のマイアミ。国境を跨いだ何らかの大規模な戦争があったことが示唆され、その影響により海面が上昇して街の半分がヴェニスのように水に沈み、一部の金持ちだけが乾いた土地に住んで一般市民の反感を買っていた。そんな街でニックは相棒のワッツとともに、特殊な機械を用いて顧客に過去の思い出を追体験させる商売を営んでいた。そんな彼の店にメイという謎めいた女性が現れ、ニックと彼女は恋に落ちるのだが彼女は謎の失踪を遂げ…というあらすじ。

ニックの店にある機械は、顧客がヘッドバンドをつけて水槽に横たわり、ニックの音声ガイドとともに電流を流すことで、顧客が自分の好きな思い出を追体験することができる、という仕組みらしい。この思い出はニックを含めて他の人が外部から見ることができるので、ニックとワッツは警察にも呼ばれて容疑者の記憶探りなども手伝ったりしている。というかなんでそんな重要なテクノロジーを政府が管轄してないで、小汚い店などで運営できているのかはきちんとした説明なし。

技術を通じて現実逃避するというコンセプトは「ウエストワールド」に通じるものがあるし、ノーランつながりで言えばクリストファー・ノーランの「インセプション」に雰囲気はよく似ている。ただし人が現実から逃れて過去の甘美な思い出に浸りたがるというテーマの掘り下げが不十分で、ニックの機械が単なる「過去に何があったのか」の種明かしマシーンになっていたような。2時間以下の尺に近未来のコンセプトとかワッツの物語とかをきっちり入れ込んだ脚本は手堅いが、セリフが微妙に説明口調なのと、1つの手がかりから別の手がかりへと話が進んでいくあたりが、映画というよりも「バイオショック」みたいなPCゲームを見ているような気になってしまったよ。

主演のニック役はヒュー・ジャックマンで、ワッツ役が「ウエストワールド」のタンディ・ニュートン。フェミ・ファタールのメイ役がレベッカ・ファーガソンで、ほかにクリフ・カーチスなんかが出演している。キャストは豪華だしマイアミのセットも凝ってる一方で、アクションシーンが微妙にショボかったりして、これは予算の関係なんだろうか、それとも監督の手腕によるものなんだろうか。

これだけの独創的なコンセプトを打ち出しているので、いろいろもっと深堀りできるところはあっただろうし、そういう意味ではどうしても中途半端な印象を抱いてしまうのだが、手堅く作られたSF作品としては十分に楽しめる映画じゃないでしょうか。

「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」鑑賞

『“極”悪党、集結』とか言われてもそんなダサい邦題、誰も使わんがな。本編でも字数の関係からか、チーム名を「決死部隊」とか訳していて何だかなあと思ったり。「ジャスティス・リーグ」を「正義同盟」とは呼ばんでしょ。公開したばかりなので感想をざっと:

  • 「スーサイド・スクワッド」に何を求めるか?といえば、やはりキャラクターが使い捨てでバンバン死ぬなかでどうにかミッションをこなしていく姿でして。そういう点では「貴重な」キャラが多かった前作に比べて、今回はC級・D級のキャラがいろいろ出てきて冒頭からどんどん死んでいくあたり、ジェームズ・ガンのお下劣テイストとあわせて、作品のセールスポイントをうまく捉えていたんじゃないですか。
  • ストーリーが比較的シンプルで大きなヒネリがない一方で、時系列がたまに過去に戻ったりする演出はちょっと気になったものの、ヒーローのモラルとかジレンマを説かずに、ただただカッコいいアクションと映像を映し出すスタイルは嫌いじゃないですよ。
  • 前作はチームの一員がヴィランであったことで、いまいちヴィランとの戦いも煮え切らないところがあったか、今回はヴィラン戦がまんま怪獣映画なので勧善懲悪のスカッとする感じがありますね。いまでこそコミックのほうでもスターロってコミックリリーフみたいになったけど、昔はまっとうなヴィランだったのだぞ。小スターロが一般人の顔にひっつく描写とかが見れて満足。
  • マーゴ・ロビーとかジョエル・キナマンとかも前作より軽快な演技していて良いんじゃないですか。あの何をやってもクドいジャレッド・レトのジョーカーがいなくなった効果は大きいな。初登場のイドリス・エルバことストリンガー・ベルと、ジョン・シナの掛け合いなどもナイス。なぜピースメイカーがスーサイド・スクワッドにいるのかよく分からんが、あのムキムキの筋肉はやはりヒーロー映画向きだな。これだけキャストが多いのにアメリカ人俳優が少ないのもハリウッド映画ならではか。ピーター・カパルディ、スコットランド訛りが全開でしたな。

観たあとに何か心に残るような作品でもないし、微妙にグロいので万人に勧められるものではないけれど、イカしたサントラにあわせてカッコよく決めたヒーローたちが暴れるアクション映画としては十分に面白かったと思う。初週の興行はパッとしなかったようだけど、ピースメイカーのTVシリーズが面白くなることに期待。

「PIG」鑑賞

評論家に絶賛されているニコラス・ケイジの新作。これドンデン返しなどはないものの、話が進むにつれて登場人物の過去がいろいろ明らかになっていく内容になっていて、どこまでストーリーを語って良いのか悩むのですが、とにかく以下はネタバレ注意。

舞台はオレゴン州ポートランド。ロブは山奥の小屋にて世捨て人のように暮らし、ペットのブタとともにトリュフ狩りをして、それを街からやって来るキザな若者のアミールに売って暮らしていた。しかしある晩、ロブは小屋で何者かに襲われ、ブタを盗まれてしまう。そのため彼はアミールの手を借りて街に繰り出し、ブタの居場所を探すためトリュフにまつわる裏社会に飛び込んでいくのだった…というあらすじ。

こうして書くとイヌの代わりにブタが動機になる「ジョン・ウィック」みたいだが、冒頭は確かにあれっぽくて、地下闘技場みたいなところにロブが乗り込んでいって体を張って情報を聞き出そうとする。しかし徐々にロブとアミールの過去が語られていくにつれて話は渋いものになっていき、過去と喪失に向き合う男たちのドラマへと展開していく。ロブの過去の職業が話の大きなポイントなのだが、それはここでは明かさない。しかしロブ、仕事するときは手だけでなくて血まみれの顔も洗えよ。

ご存知のように、ニコラス・ケイジってここ10年くらいは「頭のおかしい暴力おじさん」みたいな役ばかり演じていて、自分が観たうちでも「ウィリーズワンダーランド」「カラー・アウト・オブ・スペース」「マンディ」「マッド・ダディ」などの一連の作品は正直なところ面白いとは思わなかった(評判のよい「グランド・ジョー」は未見)。今回も「ブタを盗まれて復讐に狂うおじさん」のような役を演じるのかな、と思いきやブタはマクガフィンでして、過去を抱えて生きる寡黙な男を好演している。評論家にも「かつてのケイジが戻ってきた!」と称賛されてるようで、個人的にも彼の演技が良いと思ったのは20年前の「アダプテーション」以来かなあ。

そんなロブと分かち合っていくアミール役に「ジュマンジ」のアレックス・ウルフ。「ヘレディタリー」のおかげで彼が車を運転すると同乗者の首がぽーんと飛ぶのではないかとハラハラしてしまうのです。あとはアダム・アーキンが年取ってなかなか渋い外見になって登場していた。

これ監督&脚本のマイケル・サーノスキーってほぼ新人の監督のようだけど、よく長編デビュー作からニコラス・ケイジやアレックス・ウルフみたいな役者を起用できたな(ケイジはプロデューサーも務める)。話の設定もそうだが、アミールとケンカしたロブが自転車を盗んで走り出すあたり、コメディっぽい展開を真面目に撮れるセンスがあるのかもしれない。パトリック・スコラによる撮影も美しいです。

海外で絶賛されているほどのクオリティを感じるかどうかは人それぞれだろうけど、とても良くできた作品ですよ。ニコラス・ケイジの復讐アクションなどは期待しないように。さてこのあとケイジはまた暴力おじさんに戻っていくのか、それともアカデミー賞俳優としての尊厳を取り戻すことができるのか?

「THE PAPER TIGERS」鑑賞

何も知らずに観て、大変面白かったカンフー・コメディ映画。

90年代にカンフーの達人である師父のもとで修行を積んだ3人の少年たち。彼らは「スリー・タイガー」と呼ばれ、武術試合でもストリートファイトでも圧倒的な強さを誇っていた。しかしそれから30年後、彼らはお互いとも師父とも疎遠になり、カンフーもやめてしがない日々を送っていた。仕事の合間に離婚した妻との子供の面倒をみているダニー、建設現場でヒザをやられたヒン、カンフーの代わりにブラジリアン柔術を教えているジム。しかし彼らは師父が亡くなったことを知って久しぶりに顔を合わせることになり、さらに師父の死には不審な点があることを知って、彼らは調査に乗り出すのだが…というあらすじ。

調査にあたっては血の気の多い連中が登場して、カンフー勝負(「比武」というのですね)で決着をつけるのだが、スリー・タイガーたちは体が鈍ってるのでへなちょこ勝負になっている。でも格闘シーンはよく撮れていて本格的だよ。その過程において、彼らが疎遠になった理由や、師父に対する後悔の念などが語られていく。主人公がダメ男という時点で個人的にはポイント高いのですが、30年遅れてやってきた青春ものというかバディものの要素もあって、ドラマとしてもよくできた作品であった。「コブラ会」が好きな人は楽しめると思う。

ダニーを演じるアラン・ウイって俳優を知らなかったのだけど、「Helstrom」に出てた人か。悲しい目をしたタイカ・ワイティティみたいな感じで主役を好演している。あとはヒン役に「ムーラン」のロン・ユアン。「ベスト・キッド2」のユウジ・オクモトがプロデューサーを務めるほかチョイ役で出ています。カンフー映画とはいえスタッフは中国系ばかりではなく、アラン・ウイは中国系とフィリピン系のハーフだし、監督のトラン・クオック・バオはベトナム系。クレジットにもアジア系の名前がズラズラと並んでいて、白人スターに頼らなくてもこういう映画が作れるようになったんだなあと感慨深いものがあった。

最後の展開とかはかなり読めてしまうのだけど、微笑ましい結末もあっていいんじゃないですか。お勧めの作品。

https://www.youtube.com/watch?v=1zM3IpjY3CI