「ワンダーウーマン 1984」鑑賞

公開されたばかりだけどいろいろ書きたいことはあるので、以下はネタバレ注意。

  • パラダイス・アイランド セミッシラから人間の世界にやってきたダイアナのカルチャー・ショックが重きを占めてちょっと頭でっかちな印象があった前作に対し、今回はダイアナも人間の世界に慣れてるし、アクションシーンも洗練されたものになって前作よりも優れた出来になっていた。
  • 1984年が舞台ということで80年代カルチャーが大々的にフューチャーされて、アクションシーンなんかも80年代のブロックバスターを意識したものになってるかな。冒頭のショッピングモールまでのドタバタはリチャード・レスターの「スーパーマンIII」の冒頭によく似てると思いました:
  • しかしゲーセンに1987年発表の「オペレーション・ウルフ」があったり、83年に解散したマイナー・スレートのポスターが貼ってあったりと時代考証が甘いぞ。当時の日本にガストはなかったし。いや別にどうでもいいんですけど。
  • 願いを叶える石というチート的なアイテムの登場は賛否両論あるかもしれないが、それもまた80年代的な荒唐無稽さがあっていいんじゃないですか。しかしおかげでマックスウェル・ロードがメインのヴィランになってチータがサイドキック扱いになるとは思わなかったが。
  • ロードのおかげで中東を中心に世界が騒乱に巻き込まれるのだが、いちばん騒ぎそうなイスラエルが言及されなかったのはガル・ガドーに配慮してるのかな。
  • 脚本にジェフ・ジョーンズが関わってることもあってか、アメコミファンも納得できる内容かと。WW関連以外のキャラではサイモン・スタッグが出てましたね。あのキャラはTVシリーズのザ・フラッシュにも出てるそうで、スーパーヒーローの娘婿よりも露出が多いんだな。
  • 2時間半の長尺の割にはアクションシーンが少なめでドラマ部分が多いが、展開が早いので飽きさせない。2回目以降の視聴ではどう感じるかな。ダイアナがトレバーと別れるところなんかは、女性監督ならではの演出だなと思いました。
  • アクションシーンは少ないとはいえ前回以上に洗練されていて、特に投げ縄を用いたアクションが巧みになっていました。コミックでも最近は盾や剣を構えてることが多いようだけど、やはり投げ縄を使ってこそワンダーウーマンだよね。
  • WWが走るシーンが特に爽快で、走行中の車から降りてスタスタ走るところとかカッコ良かったな。ファンサービスの飛行機が出たあとに空を飛べるようになるのですが、今後の続編でも走ることに期待。
  • でもホワイトハウスを出た後に空を飛んでたようですが、あれどこに向かってたの?あのあと近所のアパートに帰ったよね?

というわけでキャストもスタッフも手慣れた感じになっていて、個人的にはあまり心に残るものがなかった前作よりも、大幅に楽しめるものになっておりました。例によってアメリカでは劇場公開とともに配信サービスで提供という憂き目に遭って、経済的に成功するのかどうか、監督が続投するのかどうかもよく分からないけど、続編を作るならいまの面子でもう一本いってほしいところです。

「The Burnt Orange Heresy」鑑賞

そこそこ良い評判を聞いていたサスペンス。原作は「コックファイター」と同じ作者による1971年の小説らしいが、うまく話の内容を現代に置き換えている。

舞台はイタリア。才能はあるものの過去の過ちにより活躍の場を絶たれた美術評論家のジェームズ・フィゲラスは観光客相手のレクチャーを行なって暮らしていたが、バーニスという女性と出会って恋仲になる。そして彼はキャシディというアートディーラーに招かれてバーニスとともに彼の屋敷に向かうのだが、そこでキャシディはジェームズに、隠遁した伝説の画家ジェローム・デブニーが彼の敷地に住んでいることを伝える。そしてデブニーにインタビューを申し込むふりをして、彼が描いているらしい絵画を手に入れるようキャシディはジェームズに依頼する。これは自分の名声を取り戻すチャンスだと考えたジェームズはその依頼を受けるのだが…というあらすじ。

アートと批評家の関係についてのレクチャーから話が始まるので、アート業界を皮肉った内容になるのかと思ったら必ずしもそうではなく、スタイリッシュなサスペンスというわけでもなくて、自分の野望に追い込まれる男の物語といったところかな。完全にお互いのことを信用しているわけではないジェームズとバーニスのやりとりを中心に話が進んでいく。

ジェームズ役にクレス・バング、バーニス役がエリザベス・デビッキ、デブニー役がドナルド・サザーランド。「テネット」や「コードネーム U.N.C.L.E.」ではその背の高さが際立ったデビッキだが、今回はバングもサザーランドも190センチ台のデカブツなのでバランスはとれている。つうかみんなデカすぎるでしょ。あとはキャシディ役をミック・ジャガーが演じていて、重要なところにチョコっと出てきて偉そうな顔をするあたりは「フリージャック」の役と似てなくもないが、あの時よりも年取ってヨボヨボになってるので、良い意味で不気味さを醸し出していました。今後は役者業にも力を入れるのかね?

ちょっと吹っ切れてないというか、少しおとなしめの印象を受けたけど、いい役者が揃ってることもあり悪い作品ではなかったな。「ドラキュラ」もそうだったけど、自分の自信が揺らぐ時の演技がクレス・バングは上手いと思う。

「PENINSULA」鑑賞

「半島」こと「PENINSULA」は英題で、邦題は「新感染半島 ファイナル・ステージ」で来年1月公開?邦題から分かるように日本でもヒットした「新感染 ファイナル・エクスプレス」の続編。監督は前作と同じくヨン・サンホだが、キャストは一新されている。以下はかなりネタバレ注意。

舞台は前作から4年後。韓国はゾンビが蔓延する土地になり、世界から隔離された国となっていた。元韓国軍兵士のジョンソクは隔離前に国外へ脱出できたものの、脱出する船のなかで姉と甥をゾンビによって殺され、今は香港で市民権も与えられずにあてもなく暮らしていた。そんなある日、彼は裏社会の人間に、韓国で乗り捨てられたトラックにUSドルが大量に積まれているという話を聞き、韓国に潜入してそれを奪還してくるよう依頼される。そこでジョンソクは義兄(姉の夫)たちとともにインチョンへ潜入するが、そこではゾンビに加えて韓国に残された民兵集団の631部隊が跋扈していた…というあらすじ。

(そもそも4年のあいだ、大量のゾンビたちは何を喰って生き延びてたんだ?という野暮な質問はなしにする。)

これ前作の評価が高かったのは、釜山に向かう列車という状況において徐々に日常の生活に歪みが生じていく描写と、老姉妹や夫婦といった人々がゾンビによって急に悲しい別れを迎えてしまうという「泣き」の展開があったことなのだと思うのですね。それが今回はゾンビが存在するのが日常という世界の話だし、冒頭の姉のような別れはあるものの、前作のように「突然理不尽な不幸に見舞われる」という悲しみはなし。

また前作の主人公は一介のビジネスマンだったが、今回のジョンソクは元兵士ということでケンカ強いし銃も使える強いやつ。一般人がゾンビ相手に奮戦するというシチュエーションがなくなって、「バイオハザード」のような典型的なゾンビアクション映画になってしまった。ソウルを支配する631部隊にしても一般人とゾンビを競技場で戦わせて楽しむヒャッハーな人たちで、なんかすごいありきたりなんですよね。(ちなみに部隊をいちおう取り仕切ってる隊長が、バブル時代の原宿にいたようなシティボーイ(死語)の格好をしてるのだけど、いまの韓国ってああいうファッション流行ってるのか?)

クライマックスでは乗り捨てられた車でいっぱいだったはずの道路が突然ガラ空きになって、インチョンの港までのカーチェイスが繰り広げられるのだけど、そこで「マッド・マックス」やられてもなあという感じ。車がCG処理されてるので、微妙に重量感がなくてアクションがチャチなのよな。前作は列車を追いかけるゾンビとか、もっと緊迫感があったのに。

なお話の冒頭では北朝鮮が国境封鎖によりゾンビの被害を受けていないことが示唆されていて、そこがストーリーに絡んでくるかな…と思ったら何もなかった。展開によっては面白そうな要素なんだがなあ。

最後の伏線はちょっと面白かったし、アクション描写もアジアのゾンビ映画でここまで出来るんだ、という印象は受けたので、ゾンビ映画としては決して悪い作品ではないと思うのですよ。単発の映画として観れば及第点はあげられるくらい。しかし前作が傑作だった故に、常に前作と比べつつ観てしまい、そしてその期待に応えることができなかった、ある意味不遇な作品であった。

「HAPPIEST SEASON」鑑賞

米HULUのオリジナル・ムービーで、まあ名前から分かるようにクリスマスをテーマにしたロマンティックコメディ。

アビーとハーパーは街で一緒に暮らすレズビアンのカップル。クリスマスに帰省するハーパーはアビーに一緒に自分の実家に来るように誘うが、実はハーパーの一家は由緒ある保守的な家庭で、父親は市長に立候補を検討しており母親もハイソなタイプ、ふたりの姉ともハーパーはあまり仲が良くなかった。そんな一家だったからハーパーは自分がレズビアンであることを実は明かしておらず、アビーにもただのルームメイトとして振る舞うように懇願する。恋人と親密になれずその家族にも冷遇されて落ち込むアビーだったが、さらにハーパーの元彼氏と元彼女まで現れて…というあらすじ。

まあユリユリなカップルが災難に巻き込まれ、一時はケンカするもののやがて再びお互いの愛を確かめ合う…という王道のようなストーリーが繰り広げられる映画。ホリデー・ムービーだから最後はこれでもか!というくらいの大団円を迎えたりするのですが、いいんだよそれで!このしみったれた2020年の最後(11月だけど)にこんな映画があったって!というわけで現地の視聴者の評判はずいぶんいいみたいです。

キャストは非常に豪華で、主人公カップルにクリステン・スチュワートとマッケンジー・デイビス。ほかにもアリソン・ブリーやオーブリー・プラザ、ビクター・ガーバーにメアリー・スティーンバージェンなど。ダン・レヴィ演じるアビーのゲイの友人がいい役やってんなあと。あとUCB出身のメアリー・ホーランドという役者が脚本を描いているのに加えてハーパーの姉を演じてるのだけど、顔の輪郭がマッケンジー・デイビスに似ていて妙に似合ってました。監督も女優のクレア・デュヴァルで、確かに女性受けしそうな出来になってましたね。

傑作かというとそういうわけでもないのだけど、そのテーマといい、これからクリスマスの定番としてカルト人気を誇ることになるかもしれない作品。

「THE NEW MUTANTS」鑑賞

FOXの「X-MEN」系列の作品でありながらディズニーの買収騒動に巻き込まれて2年間も公開延期になってたもので、冒頭にFOXのおなじみのファンファーレが鳴るのに出てくるロゴが「20世紀FOX」ではなく「20世紀スタジオ」となっていたのには1つの時代の終わりを感じてしまったよ。以下はかなりネタバレしてるので注意。

ネイティブ・アメリカンのダニエル・ムーンスターは超常的な存在によって居住地が破壊され、唯一の生き残りとして病院施設に収容される。そこではセシリア・レイズ医師の指導のもと、4人のティーンが暮らしていた。ダニエルは自分が他の4人と同じく特殊な能力を持ったミュータントであることを告げられ、Xメンのようになるべく自分たちの能力をコントロールすることを学ぶため施設に収容されていると伝えられる。しかしレイズ医師の行為はなにか不自然なものがあり、さらには施設内では不気味な現象が起きるようになるのだった…というあらすじ。

原作は80年代に登場した同名のコミックで、次なる世代のXメン候補として集められた若きミュータントたちの活躍を描いたもの。90年代にアーティストがロブ・ライフェルドになったことでタイトルが「Xフォース」になったことはアメコミファンにはお馴染みですね。

映画に登場するのはダニエル・ムーンスター(ミラージュ)のほか、狼に変身するレイン・シンクレアー(ウルヴズベイン)、飛行能力を持つサム・ガスリー(キャノンボール)、太陽光をパワーに代えるロベルト・ダコスタ(サンスポット)といったオリジナルメンバーの面々。オリジナルメンバーとしてはサイキックパワーを持つシャン・コイン・マン(カルマ)が唯一登場してなくて、代わりにあとから入ったメンバーであるイリアナ・ラスプーチン(マジック)が出演している。

マジックは人気キャラだから登場したのも理解できるのだけど、テレポート能力に加えて魔法が使えるというのがミュータントっぽくなくて個人的にはあまり好きじゃないんだよな。カルマが登場しないのは、サイキック・パワーという絵的には地味な能力を持っているからかもしれない。しかし実は高速で飛行するキャノンボールが、隔離された施設という設定にいちばん合ってなくて、ろくに能力を披露できてないのであった。空を飛ぶキャラとそうでないキャラの組み合わせってコミックよりも映像のほうが難しいのかもしれない。

監督が「きっと、星のせいじゃない。」のジョシュ・ブーンということもあり、ティーンの男女を主人公としたヤングアダルト路線を狙ったのかな?パワーをコントロールできない若者が情緒不安定になる描写とか、原作にはない同性愛的な要素とかがそれっぽいのだけど、その一方で監督はどうもホラー映画を撮りたかったらしく、最初の予告編とかポスターは確かにそれっぽい雰囲気が出ていた。しかしディズニーがあとから注文をつけたのかずいぶん後に再撮影が行われ、ホラー的な要素も薄まって、結局のところ何をしたいのかよく分からない中途半端な作品になってしまった。同じくFOXの「ファンタスティック・フォー」もそうだったけど、いろいろ手直しが入ったんだな、と観ていて分かってしまう作品というのは決して面白いものにはならないですね。

話のベースになってるのは原作の「THE DEMON BEAR SAGA」のあたりだが、あれはビル・シェンキヴィッチの幻想的なアートがうまくスピリチュアルな話に合っていたから評価が高いわけで、それをただ設定だけ持ってきてクマを出されても困ってしまうのだクマ。

キャストは多国籍なキャラクターにいちおう配慮して、ダニエル・ムーンスター役にはネイティブ・アメリカン系のブルー・ハントを、ブラジル系のロベルト・ダコスタにはブラジル人のヘンリー・ザガをキャスティングしてるのだが、ヘンリー・ザガの肌がずいぶん白くてコミックに似ていないことは原作者のひとりであるボブ・マクレオドも批判してたな。いつもはいい演技をみせるアニャ・テイラー=ジョイも、ロシア人のマジック役を演じてるためロシア訛りのセリフが耳障りであったよ。

いちおう他の「X-MEN」映画とのつながりも示唆されてるが、これがFOXとして最後の「X-MEN」作品になるため、そこらへんの伏線は回収されないままになるんでしょう(そもそもエセックス社の黒幕ってあんま怖くないヴィランだしぃ)。長年の人気を誇ったシリーズがこうして地味に終わってしまうのは寂しいが、いずれディズニーが「X-MEN」を復活させるときは「フューチャー&パスト」くらいの傑作を作ることができるのだろうか。