「NIMIC」鑑賞

先日「FAMILY ROMANCE, LLC」を無料公開していた、アートハウス映画を扱う配信サービスMUBIが3ヶ月間で100円(ドルでなくて円で請求)という大ディスカウントをやっていたので早速加入。海外の配信サービスにありがちなジオブロッキングもなく、日本からサクサク観れて意外と快適。カタログ方式というよりもキュレーション型なので、観たいものを検索するというよりもオススメされたものを観るような感じだが、世界各国の聞いたこともないような映画がいろいろ観られるようなので結構面白いかもしれない。

それでまず観たのがヨルゴス・ランティモスの新作短編「NIMIC」。10分ほどの作品で、マット・ディロンが演じる主人公はニューヨーク?に住む一家の父親で、オーケストラでチェロを弾いている。ある日彼が地下鉄でとある女性に声をかけたところ、彼女はそのまま彼の家にまでついてきて、さらには一家の父親であると主張する。主人公の妻子も誰が父親であるか判断できず、ついに主人公は家を追い出されてしまう…という内容。

アイデンティティの喪失とか実存的なホラーといった難しい説明もできるのでしょうが、単純に不条理な作品として興味深いものであったよ。魚眼レンズで撮ったような映像もいい雰囲気を醸し出している。おれ最近のランティモスの作品ふたつは初期の作品に比べてあまり好きではないのだけど、この作品は家庭の雰囲気が「DOGTOOTH」っぽいところがありました。

「Bloody Nose, Empty Pockets」鑑賞

年の初めにはアートムービーを。昨年批評家に高い評価を得たドキュメンタリー。

ラスベガス郊外にある「Roaring 20’s」というちっぽけなバーが舞台で、そこが店を閉じることになったので常連が集まって最後のときを楽しむ姿を、昼間から明け方まで18時間に渡って追ったもの。バーで寝泊まりしている元俳優のいい顔のオッサンを皮切りに、いろんな客がやってきて他愛もない話をただ繰り広げていく。バーテンダーが途中で交代するとか、バーテンダーの息子がビールを盗むといった出来事も途中であるものの、特に大きな盛り上がりもなく、しんみりした展開もなしに与太話が続くだけ。

トランプのことが言及されたり、元兵士の客が戦場での話をしたりするものの、政治的なトーンも特になし。題名のように殴り合いが起きるわけでもなく、金が払えない客が出るわけでもない。ただ客が酒を飲んでだべってるだけ。おれ酒も人付き合いも苦手なのでこういうバーに行くことはまずないのですが、常連の支払いってどうなってんだろうな。バーテンダーが何も言わずに酒を振る舞ってるように見えるのだが。

なおネタばらしをすると、これ実は現実の話ではなくて撮影もニューオリンズのバーで行われたもので、近所の住人に集まってもらって台本なしにただ与太話をしてもらったらしい(プロの役者が一人だけいる)。よって「これはドキュメンタリーなのか?」という議論がアメリカでも起きてるらしいが、まあ批評家が好きそうな作品ではあるわな。かなりの低予算で撮影されたらしいが、劇中ではバーのラジオからマイケル・ジャクソンの曲がかかったり、ゲームショーの映像がテレビで流れたりしてるのだけど、ああいうのの権利処理ってどうしたんだろう?

劇場で黙って鑑賞するのにはキツいかもしれないけど、内容はホンワカしていて決して悪い作品ではないのですよ。「バッド・チューニング」の主人公たちが年取ってバーに集まったらこんな感じになるのかな、というような不思議な小品。

2020年の映画トップ10

2020年は公私にわたってヒドい年でしたが、映画の鑑賞にあたってはやはり公開の延期や配信でのリリースが増えて、劇場に足を運んだ回数が激減した1年であった。在宅の機会が多かったので年間で視聴した本数は例年よりも多かったはずだけど、やはり年のはじめに劇場で観た作品の方が印象に残っているような。配信ものは今となってはオチを覚えていないものもいくつか。あと尺が短いもの(「グレイハウンド」とか)のほうが家で観るのには適しているというか、集中して鑑賞できたと思う。そんな環境下でしたが、昨年同様に上位5位と下位5位を順不同で観た順に並べていく。

<上位5位>
・「Monos
これ結局日本で公開したの?独特で美しい高原の景色を背景に、野生化していく少年兵たちの姿が印象的だった。

・「The Personal History of David Copperfield
例によってアレな邦題をつけられて日本では1月公開だそうな。シニカルなアーマンド・イアヌーチの作品にしては珍しく、主人公が不遇な環境にもめげずに奮闘する元気いっぱいの物語。どの役をどんな肌の色の役者が演じたっていいだろ、という証明でもあった。

・「グレイハウンド
これなんかはコロナの影響をもろに受けて配信ストレートになってしまったが、もっと多くの人に観られるべき作品だった。トム・ハンクスが航海用語たっぷりの脚本を書き上げ、一息つくこともできない艦長を演じた、短い尺で濃い内容の快作。

・「Palm Springs
これのおかげでホール&オーツの「When The Morning Comes」を今年はずっと聴いていた。タイムループものをうまくアレンジして、スカッと楽しめる内容に仕上げていたラブコメディ。日本では劇場公開もされるようで。

・「Small Axe: Mangrove
TVシリーズではなく映画とみなす。世間的には次の「Lover’s Rock」のほうが評判よいみたいだけど、個人的にはこっちのほうが良かった。クライマックスにおいて読み上げられる評決を聞く主人公の姿が忘れられない。

<下位5位>
・「フォードvsフェラーリ」
これなんかはやはり劇場で観てなんぼの作品。熱い音楽が流れるなか、主人公が相手の車を追い抜くところはベタであっても手に汗握る出来だった。

・「The Lighthouse
意味不明といえばそれまでなのですが、どんどん混沌としていく主人公ふたりのやりとりが記憶に残る一本。これなんで日本公開しないのだろうね。

・「アンカット・ダイヤモンド」
厳密には去年の映画だが今年観た。ふわふわとした幻想的なシンセが鳴り響くなか、アダム・サンドラーが渾身のクズ男の演技を終始見せてくれる。なおダイヤモンドは出てきません。

・「Welcome to Chechnya
観ていて気持ちの良くなるような作品では決してないのだが、チェチェン当局による同性愛者の迫害を告発した迫真のドキュメンタリー。被害者のひとりが報道陣に実名を明かすとともに、それまでCGで加工されていた素顔が明らかになるシーンには圧倒された。

・「Vivarium
少し詰めの甘いところもあるものの、こういう不条理SF的作品って個人的には評価したい。イモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグ、いいコンビだよな。

あとは「The Way Back」とか「The Burnt Orange Heresy」なんかも良かったな。ジム・キャリーの久々のコメディ演技が観れた「ソニック・ザ・ムービー」も嫌いじゃないよ。

印象に残った役者はやはりロバート・パティンソンですかね。大スターなんだけど主役にこだわらずに「テネット 」「The Lighthouse」「Waiting for the Barbarians」といった多様な映画に出演して演技の幅を広げている。これが「ザ・バットマン」にどう影響してくるか。あとはミカ・レヴィが音楽を手掛けた作品(「Monos」「Mangrove」「Strasbourg 1518」)をよく観た年だった。

今年は後半になって配信ストレートの作品でもちょっとネタ切れが起きていたような気がするけど、コロナウィルスの影響は来年も続くわけで、今後は製作も公開もどうなっていくんでしょうね?Disney+やHBO MAXといった配信サービスの台頭によって劇場公開をとばす傾向が加速するのかどうか、その場合日本での公開はどうなるのか。日本の歴代の興行成績が「鬼滅の刃」に塗り替えられた一方で、洋画の存在感がさらに薄くなっていくのかもしれない。

「ワンダーウーマン 1984」鑑賞

公開されたばかりだけどいろいろ書きたいことはあるので、以下はネタバレ注意。

  • パラダイス・アイランド セミッシラから人間の世界にやってきたダイアナのカルチャー・ショックが重きを占めてちょっと頭でっかちな印象があった前作に対し、今回はダイアナも人間の世界に慣れてるし、アクションシーンも洗練されたものになって前作よりも優れた出来になっていた。
  • 1984年が舞台ということで80年代カルチャーが大々的にフューチャーされて、アクションシーンなんかも80年代のブロックバスターを意識したものになってるかな。冒頭のショッピングモールまでのドタバタはリチャード・レスターの「スーパーマンIII」の冒頭によく似てると思いました:
  • しかしゲーセンに1987年発表の「オペレーション・ウルフ」があったり、83年に解散したマイナー・スレートのポスターが貼ってあったりと時代考証が甘いぞ。当時の日本にガストはなかったし。いや別にどうでもいいんですけど。
  • 願いを叶える石というチート的なアイテムの登場は賛否両論あるかもしれないが、それもまた80年代的な荒唐無稽さがあっていいんじゃないですか。しかしおかげでマックスウェル・ロードがメインのヴィランになってチータがサイドキック扱いになるとは思わなかったが。
  • ロードのおかげで中東を中心に世界が騒乱に巻き込まれるのだが、いちばん騒ぎそうなイスラエルが言及されなかったのはガル・ガドーに配慮してるのかな。
  • 脚本にジェフ・ジョーンズが関わってることもあってか、アメコミファンも納得できる内容かと。WW関連以外のキャラではサイモン・スタッグが出てましたね。あのキャラはTVシリーズのザ・フラッシュにも出てるそうで、スーパーヒーローの娘婿よりも露出が多いんだな。
  • 2時間半の長尺の割にはアクションシーンが少なめでドラマ部分が多いが、展開が早いので飽きさせない。2回目以降の視聴ではどう感じるかな。ダイアナがトレバーと別れるところなんかは、女性監督ならではの演出だなと思いました。
  • アクションシーンは少ないとはいえ前回以上に洗練されていて、特に投げ縄を用いたアクションが巧みになっていました。コミックでも最近は盾や剣を構えてることが多いようだけど、やはり投げ縄を使ってこそワンダーウーマンだよね。
  • WWが走るシーンが特に爽快で、走行中の車から降りてスタスタ走るところとかカッコ良かったな。ファンサービスの飛行機が出たあとに空を飛べるようになるのですが、今後の続編でも走ることに期待。
  • でもホワイトハウスを出た後に空を飛んでたようですが、あれどこに向かってたの?あのあと近所のアパートに帰ったよね?

というわけでキャストもスタッフも手慣れた感じになっていて、個人的にはあまり心に残るものがなかった前作よりも、大幅に楽しめるものになっておりました。例によってアメリカでは劇場公開とともに配信サービスで提供という憂き目に遭って、経済的に成功するのかどうか、監督が続投するのかどうかもよく分からないけど、続編を作るならいまの面子でもう一本いってほしいところです。

「The Burnt Orange Heresy」鑑賞

そこそこ良い評判を聞いていたサスペンス。原作は「コックファイター」と同じ作者による1971年の小説らしいが、うまく話の内容を現代に置き換えている。

舞台はイタリア。才能はあるものの過去の過ちにより活躍の場を絶たれた美術評論家のジェームズ・フィゲラスは観光客相手のレクチャーを行なって暮らしていたが、バーニスという女性と出会って恋仲になる。そして彼はキャシディというアートディーラーに招かれてバーニスとともに彼の屋敷に向かうのだが、そこでキャシディはジェームズに、隠遁した伝説の画家ジェローム・デブニーが彼の敷地に住んでいることを伝える。そしてデブニーにインタビューを申し込むふりをして、彼が描いているらしい絵画を手に入れるようキャシディはジェームズに依頼する。これは自分の名声を取り戻すチャンスだと考えたジェームズはその依頼を受けるのだが…というあらすじ。

アートと批評家の関係についてのレクチャーから話が始まるので、アート業界を皮肉った内容になるのかと思ったら必ずしもそうではなく、スタイリッシュなサスペンスというわけでもなくて、自分の野望に追い込まれる男の物語といったところかな。完全にお互いのことを信用しているわけではないジェームズとバーニスのやりとりを中心に話が進んでいく。

ジェームズ役にクレス・バング、バーニス役がエリザベス・デビッキ、デブニー役がドナルド・サザーランド。「テネット」や「コードネーム U.N.C.L.E.」ではその背の高さが際立ったデビッキだが、今回はバングもサザーランドも190センチ台のデカブツなのでバランスはとれている。つうかみんなデカすぎるでしょ。あとはキャシディ役をミック・ジャガーが演じていて、重要なところにチョコっと出てきて偉そうな顔をするあたりは「フリージャック」の役と似てなくもないが、あの時よりも年取ってヨボヨボになってるので、良い意味で不気味さを醸し出していました。今後は役者業にも力を入れるのかね?

ちょっと吹っ切れてないというか、少しおとなしめの印象を受けたけど、いい役者が揃ってることもあり悪い作品ではなかったな。「ドラキュラ」もそうだったけど、自分の自信が揺らぐ時の演技がクレス・バングは上手いと思う。