2020年は公私にわたってヒドい年でしたが、映画の鑑賞にあたってはやはり公開の延期や配信でのリリースが増えて、劇場に足を運んだ回数が激減した1年であった。在宅の機会が多かったので年間で視聴した本数は例年よりも多かったはずだけど、やはり年のはじめに劇場で観た作品の方が印象に残っているような。配信ものは今となってはオチを覚えていないものもいくつか。あと尺が短いもの(「グレイハウンド」とか)のほうが家で観るのには適しているというか、集中して鑑賞できたと思う。そんな環境下でしたが、昨年同様に上位5位と下位5位を順不同で観た順に並べていく。
<上位5位>
・「Monos」
これ結局日本で公開したの?独特で美しい高原の景色を背景に、野生化していく少年兵たちの姿が印象的だった。
・「The Personal History of David Copperfield」
例によってアレな邦題をつけられて日本では1月公開だそうな。シニカルなアーマンド・イアヌーチの作品にしては珍しく、主人公が不遇な環境にもめげずに奮闘する元気いっぱいの物語。どの役をどんな肌の色の役者が演じたっていいだろ、という証明でもあった。
・「グレイハウンド」
これなんかはコロナの影響をもろに受けて配信ストレートになってしまったが、もっと多くの人に観られるべき作品だった。トム・ハンクスが航海用語たっぷりの脚本を書き上げ、一息つくこともできない艦長を演じた、短い尺で濃い内容の快作。
・「Palm Springs」
これのおかげでホール&オーツの「When The Morning Comes」を今年はずっと聴いていた。タイムループものをうまくアレンジして、スカッと楽しめる内容に仕上げていたラブコメディ。日本では劇場公開もされるようで。
・「Small Axe: Mangrove」
TVシリーズではなく映画とみなす。世間的には次の「Lover’s Rock」のほうが評判よいみたいだけど、個人的にはこっちのほうが良かった。クライマックスにおいて読み上げられる評決を聞く主人公の姿が忘れられない。
<下位5位>
・「フォードvsフェラーリ」
これなんかはやはり劇場で観てなんぼの作品。熱い音楽が流れるなか、主人公が相手の車を追い抜くところはベタであっても手に汗握る出来だった。
・「The Lighthouse」
意味不明といえばそれまでなのですが、どんどん混沌としていく主人公ふたりのやりとりが記憶に残る一本。これなんで日本公開しないのだろうね。
・「アンカット・ダイヤモンド」
厳密には去年の映画だが今年観た。ふわふわとした幻想的なシンセが鳴り響くなか、アダム・サンドラーが渾身のクズ男の演技を終始見せてくれる。なおダイヤモンドは出てきません。
・「Welcome to Chechnya」
観ていて気持ちの良くなるような作品では決してないのだが、チェチェン当局による同性愛者の迫害を告発した迫真のドキュメンタリー。被害者のひとりが報道陣に実名を明かすとともに、それまでCGで加工されていた素顔が明らかになるシーンには圧倒された。
・「Vivarium」
少し詰めの甘いところもあるものの、こういう不条理SF的作品って個人的には評価したい。イモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグ、いいコンビだよな。
あとは「The Way Back」とか「The Burnt Orange Heresy」なんかも良かったな。ジム・キャリーの久々のコメディ演技が観れた「ソニック・ザ・ムービー」も嫌いじゃないよ。
印象に残った役者はやはりロバート・パティンソンですかね。大スターなんだけど主役にこだわらずに「テネット 」「The Lighthouse」「Waiting for the Barbarians」といった多様な映画に出演して演技の幅を広げている。これが「ザ・バットマン」にどう影響してくるか。あとはミカ・レヴィが音楽を手掛けた作品(「Monos」「Mangrove」「Strasbourg 1518」)をよく観た年だった。
今年は後半になって配信ストレートの作品でもちょっとネタ切れが起きていたような気がするけど、コロナウィルスの影響は来年も続くわけで、今後は製作も公開もどうなっていくんでしょうね?Disney+やHBO MAXといった配信サービスの台頭によって劇場公開をとばす傾向が加速するのかどうか、その場合日本での公開はどうなるのか。日本の歴代の興行成績が「鬼滅の刃」に塗り替えられた一方で、洋画の存在感がさらに薄くなっていくのかもしれない。