「SORRY TO BOTHER YOU」鑑賞

ザ・クー(The Coup)のブーツ・ライリーの初監督作。ザ・クーって日本での知名度はゼロだろうが、「革命」を意味するグループ名のごとく、ラジカルな左寄りのメッセージソングを唄ってることで知られる人たちなのですね。2001年にアルバムを出す直前にタイミング悪く9/11テロが起きて、そのジャケット(下)が物議を醸したのがいちばん話題になったときかもしれない。

んでこの映画の脚本自体は数年前に出来上がってたらしく、当初は映画化する金がないので脚本をもとに同名のコンセプトアルバムを作ったのだが、それが今年になってめでたく映画化されたらしい。当然ながらサントラはザ・クーの曲ばかりになっていた。

舞台となるのはオークランド。カシアスは金がなくて叔父の家に寝泊まりしている黒人の若者で、家賃を稼ぐためにリーガルビュー社でテレマーケティングの仕事に就くことになる。当初は全く顧客が捕まえられずに狼狽するカシアスだったが、やがて鼻にかかった「白人の声」で電話をかける技を習得し、電話先の相手に自分が白人だと思わせることで数々のセールス案件を獲得していく。その一方でリーガルビュー社の労働環境は劣悪なものになっていき、カシアスの仲間の労働者たちは組合を結成して会社に対抗しようとしていた。そんな彼らに同調するカシアスだったが彼は成績が上司に認められ、より高給取りの職員が勤務するという上階のフロアへの異動を命じられる。期待と不安を抱えながら上のフロアへと向かったカシアスだったが、そこで彼を待ち受けていたのは…というあらすじ。

当初は階級闘争とか人種差別などのテーマが絡んでいて、ああブーツ・ライリーらしいな…と思っていると話があらぬ方向に飛んで行って、なんじゃあこりゃあ?という展開になる作品であった。マイク・ジャッジの「オフィス・スペース」と「イディオクラシー」を足した感じに似ているというか。シュールな設定を盛り込んだ風刺的なコメディになっているのだけど、奇をてらいすぎて毒味が薄れてしまったような感がしなくもないかな。

主人公のカシアスを演じるのは「ゲット・アウト」のラキース・スタンフィールド。あとは監督のコネがあったのか有名俳優がいろいろ出ていて、ダニー・グローバーにテッサ・トンプソン、アーミー・ハマー、スティーヴン・ユァンなどなど。カシアスの「白人の声」をデビッド・クロスが吹き替えているほか、声だけのカメオ出演もいろいろあるでよ。

「黒人の声ではテレマーケティングが失敗するのに、白人の声だと成功するのはなぜか」というテーマを掘り下げていったらそれはそれで結構面白い内容になったかもしれないが、あまりにも設定を詰め込みすぎて全体のフォーカスがぼやけてしまったのが残念。しかし話をいろいろ入れ込んだ野心作であることは間違い無いので、今後もしまたブーツ・ライリーが映画を作るとしたら、結構面白いものが出来上がってくるかもしれない。この作品もこれからカルト人気を誇るものになっていくでしょう。

「LEAVE NO TRACE」鑑賞

今年のベストにちらほら挙げられている映画で、「ウィンターズ・ボーン」のデブラ・グラニックの久しぶりの監督作品。

ウィルと娘のトムの親子はオレゴンの自然公園の山奥で自給自足の生活を営み、自分たちの生活の痕跡を消すことを徹底し、人目を避けて暮らしていた。しかしトムがトレッキング中の人物に目撃されたことで、ふたりは当局に逮捕され、福祉局の保護のもとに置かれることになる。そして住居と仕事をあてがわれる親子だったが、ウィルは人と接して暮らすことを嫌い、文明にも馴染んできていたトムを連れて再び別の場所の山奥へと向かうのだったが…というあらすじ。

いまいち頼りにならない父親と、しっかり者の娘という設定は「ウィンターズ・ボーン」に通じるものがあるな。劇中では明言されていないがウィルは元兵士でPTSDに苦しんでいるようで、彼に支給されている薬物を他人に売りさばくことで多少の現金を得て、たまに町に買い出しに出てくるという内容になっている。

親子は他人との接触を避けているとはいえ、彼らが出会う人々はむしろみんな良い人たちで、福祉局は住居や仕事を紹介してくれるし、別の土地で出会う人たちも彼らの世話をしてくれるのだが、ウィルは野生動物のごとき衝動をもって山奥に消え去りたいという願望をもっているため、彼についていくべきか、それとも自分なりの道を進むべきかというトムの葛藤が主要なテーマになっている。

ウィルを演じるのがベン・フォスターで、トム役がニュージーランド出身のトーマサイン・マッケンジー。今をときめくジェニファー・ローレンスも「ウィンターズ・ボーン」でブレイクしたわけで、今回のマッケンジーも同様にこれでブレイクするんじゃないのかな。それだけ演技は繊細で良かった。

ストーリーにさほど起伏があるわけでもなく、「ウィンターズ・ボーン」に比べると面白い作品だとは思わなかったけど、美しい自然の描写をバックに、父と娘の関係が描かれるさまが印象的な作品でした。

「WIDOWS」鑑賞

これも海外で見てきた。邦題は「妻たちの落とし前」らしいが、日本公開はいつだ…いつだ…。「それでも夜は明ける」のスティーブ・マックイーンの監督作品で、1983年のTVシリーズを映画化したものなんか?

舞台はシカゴ。プロの泥棒のハリーは地元のボスであるジャマールから200万ドルを強奪するが、逃走中に警察に追われて3人の仲間とともに爆死してしまう。残された妻のベロニカはハリーの行為を少し知っていただけで深くは関わっていなかったが、ジャマールから200万ドルを返すように強要される。シカゴの議員選挙に出馬して勝つために、ジャマールは資金を必要としていたのだ。金を返す必要に迫られたベロニカは、同じく寡婦となったハリーの仲間たちの妻ふたりと組んで、ハリーの残した別の犯罪プランをもとにして、自分たちも大金を盗み出す計画を立てるのだったが…というあらすじ。

TVシリーズとおおまかなプロットは一緒のようだけど、舞台がイギリスからシカゴに移り、地元の選挙戦という設定が加わっているみたい。よって話自体は比較的シンプルなケイパーものだけど、シカゴの犯罪問題とか、Black Lives Matter的な要素が含まれているといったところか。

スティーブ・マックイーンは今までアートシネマっぽい作品を撮ってた人なので、こういうジャンルの作品を撮るのは意外かもしれない。人の顔を超アップで妙に艶やかに撮影しているあたりは「ハンガー」に通じるところがあったかな。あとはベロニカのパートナーとなる妻たちが貧困やDVに悩んでいたり、選挙で地元の黒人票を取るための駆け引きがあったりと、社会派な内容もいろいろありました。

アカデミー賞とった監督の作品ということもあってか、出演陣はやけに豪華。ベロニカをヴィオラ・デイビス、ハリーをリーアム・ニーソンが演じているほか、地元の議員にロバート・デュバル、その息子にコリン・ファレル。ほかにもダニエル・カルーヤやミシェル・ロドリゲス、ギャレット・ディラハント、キャリー・クーン、ジョン・バーンサルなどといった役者がわんさか出ています。個人的にはベロニカのパートナーとなる薄幸な寡婦を演じるエリザベス・デビッキが良かったな。あと「スパイダーバース」に続いてブライアン・タイリー・ヘンリーが出ています。

「オーシャンズ8」みたいなクライムサスペンス、かというとアートシネマっぽい部分もあるのですっきり観られるような作品ではなかったりしますが、やはり出演陣が豪華なことと、いろいろ展開にヒネリもあり普通に楽しめる作品であった。あまり監督の名前にとらわれずに観るべき作品かと。

「スパイダーマン:スパイダーバース」鑑賞

年末のこの時期に海外に行くと、ホリデーシーズン向けの大作がいろいろ公開されているのであります。まあ海外に比べて日本での公開が数カ月も遅れている現状は憂れるべきことなのだが、時間をつくって一足先に観てきてしまったのだよ。以下はネタバレ注意。

原作のコミックに詳しい人はキャラクターの姿を見ただけでピンとくるだろうが、話の内容はマイルズ・モラレス版のスパイダーマンを主人公にして、数年前に話題になったマルチバースことスパイダーバースのストーリーを絡めたものになっている。マイルズ君は本家スパイダーマンとは別ユニバースに属する「アルティメイト・スパイダーマン」誌で登場したキャラで、そっちのピーター・パーカーが死んだことを受けてスパイダーマンになった黒人とヒスパニックのハーフ。ピーターの能力に加えて透明になれたり、指先から強力なショックを与えることができるんだっけな。

いっぽうのスパイダーバースは本家スパイダーマンに加えて、マイルズ君を含む多次元のスパイダーマンたちが山ほど登場して共闘したストーリーで、東映版スパイダーマンがレオパルドンに乗って登場したのは日本でも話題になってましたね。そこでグウェン・ステイシー版スパイダーマンことスパイダー・グウェンなどが登場したのだっけな。

そして映画はマイルズ君を主人公に、多次元へのポータルを私欲のために開通させようとする悪役キングピンと、ポータルを通じて他の次元からやってきたピーター・パーカーやグウェン・ステイシーなど5人のスパイダーマンが戦いを繰り広げ、そのなかでマイルズがヒーローとして成長していくさまが描かれていく。

スパイダーマンはその長い歴史のなかで少年から青年、大人へと成長していったキャラクターであるので、今までの劇場版はその歴史のどこか一部を切り取って映像化する必要があり、おかげで学生時代に主軸をおくと仕事先のジェイムソン編集長が出てこなくなる、といった弊害があったわけだが、今回は少年のマイルズと大人のピーターが出てくることで、オリジン話を描くと同時に、すでに熟練したヒーローの話も描けるというお得な内容になっているわけですね。

とにかくストーリーが凝縮されていて、情報量がハンパじゃないんですよ。アニメというメディアを最大限に生かしてアクションは緩みがなく、無駄なコマ遣いが全くないという感じ。車や電車がビュンビュン飛び交う格闘シーンを目にすると、もうスパイダーマン映画って実写じゃなくアニメでいいんじゃね?という気になります。キャラクターの設定もみんな「分かっている」作りになっていて、マイルズは自分の新しいパワーに困惑はするものの正義のために行動しようとするし、他のスパイダーマンたちも自分たちがヒーローであることを承知してキングピンの野望を阻止しようとする。一番何も知らなさそうなキャラクターが、実は準備万端だったところは本当に良かったなあ。

マイルズを含めて6〜7人のスパイダーマンが登場することもあって、コミックを知らない人はとっつきにくいと思うかもしれないが、各キャラのオリジン話も紹介されるので、そんなに敷居は高くないと思う。俺もペニー・パーカーとかそんなに知らなかったけど普通に楽しめましたよ(確かにキャラがちょっと多かった気もするが)。コミックを知っている人なら楽しめる細かいネタがたくさん詰まっている一方で、独自のユニバースの話だから意外なヴィランが意外なところで登場したりして、コミックのファンでも先が読めずに飽きることはないと思う。

なおマイルズ君の世界にはピーター・パーカーことスパイダーマンが既にいて、彼の話はコミックとなって出版されているらしいのだが、それって皆が彼の正体はピーターだと知っていることになるんだろうか?他にもいろいろスーパーヒーローやコミックに関するメタなツッコミが出てくるが、それがあまり気にならないのがアニメの強みかな。脚本とプロデューサーは「レゴ・ムービー」でもメタなコメントをして好評を得たフィル・ロード&クリストファー・ミラーだが、「デッドプール2」もメタなジョークが満載だったし、飛行機で観た「Teen Titans Go! To the Movies」もメタな話だったし、やはりスーパーヒーロー映画ってメタな内容が合うんだろうか。誰かザック・スナイダーに伝えておいてください。

監督はアニメ畑とコメディ畑の人が3人もいて、そのせいではないだろうけどアニメーションの演出がシーンごとに微妙に異なっていて、時には普通のCGIっぽく、時には2次元の止め絵を入れた感じになっていたり。さらにはキャラごとにも絵柄が違ってペニー・パーカーはフラッシュアニメっぽく、スパイダー・ハムはカートウゥーンっぽくなっているが、それがまた非常に効果的になっていて、それがアニメーションの強みですかね。かつてビル・シェンキビッチが描いていたキャラクターだけ絵柄がシェンキビッチ風になっているなんて、もはや反則行為ですよ!

ストーリーもまた、笑えるジョークがたくさんある一方で、悲劇を乗り越えてヒーローとして自立していくマイルズの話に加え、彼を支えていく他のスパイダーマンたちの物語が交錯し、さらにはタイムリーなスタン・リーのカメオもあって実に心を打つものになっていた。別次元のピーターがメリー・ジェーンと話をするところなんて、隣にソーダをがぶ飲みしてるデブ君がいなかったら俺もっと泣いてましたよ。

というわけで歴代のスパイダーマン映画のなかでもライミ版の「1」(おれは2よりも好き)に匹敵する出来であったばかりか、スーパーヒーロー映画としても史上最高レベルの作品であったと思う。来年のアベンジャーズ4がどういう出来になるかわからないけど、今後のスーパーヒーロー映画の方向性というのはこの「スパイダーバース」が示しているんじゃないだろうか。今年亡くなったクリエイターふたりへの追悼が捧げられ、エンドクレジットではクリスマスソングが流れる映画がなぜ日本では来年3月に公開されるのかとんと理解はできませんが。

地下水道でガレキの下敷きになっている人であれ、恋人がニューヨークの橋からぶら下がっている人であれ、スパイダーマンが好きな人はこの映画を観に行くことを心からお薦めします。正気を疑うようなエンドクレジット後の映像まで席を離れないように。

「ヘレディタリー/継承」鑑賞


今年いちばん怖いと言われたホラー映画、臆病なので家で部屋を明るくして観ました。これネタバレしないと語れないと思うので、以下は注意。

・ホラー映画だしえげつない描写もあるものの、根底にはやはり崩壊していく家庭のドラマがあるわけで、その中心にいていろいろ大変な目に遭うトニ・コレットの迫真の演技あってこその作品だなと。

・「シックス・センス」では超常現象に困惑する幸の薄い母親を演じてた彼女、まわりまわって約20年後に同じような役を演じたわけだが、見せ場はこちらのほうがずっと多かったですね。悲痛にくれる顔から驚愕する顔まで一瞬のうちに表情を変えられるのは、多重人格を演じた「United States Of Tara」で培った技技なんだろうな。

・それに対してガブリエル・バーン演じるパパさんは見事に何にもしないわけで、家族がケンカしてもただ穏便になだめようとする姿が変に現実的で親近感を抱いてしまったよ。当初の設定ではセラピストで、コレット演じる妻は元患者という内容だったらしいが、家族の誰も彼に頼ろうとしないのが皮肉でもある。

・「継承」というタイトルの通り、家族に脈々と受け継がれるものがこの作品のテーマであり、それは冒頭で妻が語る精神の病なのでは、と思わせておいて実は…という展開も上手いな。これが初監督となるアリ・アスターは撮影にあたり非常に綿密な準備をしたらしいが、今後の作品も同様のテイストになるのだろうか。

・しかし傑作かというと納得いかない点もあるわけで、ここから先は完全なネタバレなので白地にします:一家に継承されたものは狂気ではなく悪魔の霊であり、それを肉体に宿らせるためにずっと前から悪魔の崇拝者たちがいろいろ暗躍していたというオチ、あまりにも崇拝者たちが用意周到すぎてしっくりこないのよな。別に絶命してない人にも悪魔(?)が憑依できるのなら、崇拝者とかが手を回さなくても最初から好き勝手できたんじゃね?と思ってしまうのです、「ローズマリーの赤ちゃん」とかもそうだけど、主人公が何もしないまま、裏で手はずが整えられていたという展開がモヤモヤするところがあったよ。

・ホラーに整然としたプロットを期待するのは、スーパーヒーロー映画に物理の法則に従うことを期待することくらい野暮なことは分かるのですが、ちょっとオチは安直だったのではないかなとも感じたのです。最近のホラー映画としては「イット・フォローズ」のほうが好きだな。