機内で観た映画2016(後半)

またヨーロッパへ出張に行っていたので、飛行機のなかで観た映画の感想をざっと:

・「ズートピア」:周囲で絶賛されてるほどの出来だとは思わなかったけど(田舎に帰るあたりで話がダレる)、差別と偏見というテーマを巧みにストーリーに盛り込んだのはやはり見事ですね。それにしても「ここは歌を歌えばすべてが解決するような世界じゃないんだぞ。諦めろ(let it go)」は画期的なセリフだった。こういう自社作品のパロディーってあまりディズニーで見たことなかったんで。

・「ファインディング・ドリー」:「ズートピア」には劣るけどこっちも良かったですよ。前作ではコメディリリーフだったドリーの記憶障害をきちんと掘り下げ、さらに7本足のタコや近眼のジンベイザメ(ジンベイザメって歌うっけ?)といった障害持ちもわんさか出てきて、これも寛容性をテーマにした巧みなストーリーになっている。その一方で明確にキチガイの鳥やアザラシは笑いの対象になっていて、まあどこで線を引けばいいのかは難しいところである。最後のカーチェイスはちょっとやりすぎかと。

・「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」:手品のトリックなんてものはなくCG映像で、主人公たちがピンチに陥らずに終始上手をとっているという卑怯なスタイルは前作で理解しているので、前作よりは憤らずに楽しめました。でもやはり最後の展開とかはズルいんじゃないの。これだけのキャストを揃えてこの程度なのは勿体無い。

・「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」:前作もそんなに面白く無かったけど、こちらはもうコテコテのCGだらけでお腹いっぱい。役者はみんな前作から年を取ってるのに、彼らの若いころを描いてどうすんだよ。原作と違って「ワンダー」の要素が欠けてるのでは。

あとは「シン・ゴジラ」をちょっと見返しましたが、やはりあのセリフ回しが受け入れられなかったな。あとは「インターステラー」のブラックホール突入のシーンとかをね、繰り返し見ておりました。

「Doomed: The Untold Story of Roger Corman’s the Fantastic Four」鑑賞

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劇場公開どころかビデオ発売もされておらず、流出した低画質の海賊版しか出回っていないのに根強い人気を誇る、ロジャー・コーマン製作の「ファンタスティック・フォー」(1994)の裏側に迫るドキュメンタリー。この映画の詳しい感想については以前に述べたのでこちらを参照してください。

1992年の9月頃にドイツのニュー・コンスタンティン・フィルムのプロデューサーからコーマンに「ファンタスティック・フォー」の劇場版を100万ドルの低予算で製作する話が持ち掛けられ、コーマンがコストを折半する形で製作に合意したことから話は始まる。どうもトロマ(!)のロイド・カウフマンのところにも話が持ち掛けられていたことをカウフマン本人が明かしているのだが、さすがにFFという有名フランチャイズを低予算で映画化はできないということで手を引いていたらしい。

年末までに撮影をしなければならないということで急ピッチで製作が進められ、脚本が書かれてキャスティングが行われていく。このときオーディションを受けた俳優のなかにはマーク・ラファロもいたらしくて、これに起用されてたらのちにハルクを演じることは無かっただろうなあ。スタッフのなかにはスタン・リーとジャック・カービーのコミックを読んで育った人たちもいて、低予算ながら彼らのビジョンを映画化しようと頑張っていたのが涙ぐましい。なお映画のオリジナルキャラクターである「ジュエラー」って、コミックのモールマンの映像化権が微妙だということでモールマンから変更されたキャラだったらしい。やはりそうだったか。

そして取り壊し寸前の安スタジオで撮影が行われ、安っぽいセットに皆が不安を抱きつつも、キャストは熱意を持ってファンタスティック・フォーの面々を演じていく。これ劇中でも言及されていて、今となっては想像もつかないだろうけど、90年代のマーベル映画って大変出来が悪かったんですよ。サリンジャーの息子が主演した「キャプテン・アメリカ」とか、ドルフ・ラングレンの「パニッシャー」とか。よって世間からもろくに期待されないなか、スタッフは苦労して撮影を仕上げるものの、撮影完了のパーティーなどはなし。出来たフィルムをポスプロにまわすわけだが、そこからだんだん雲行きが怪しくなっていく。

映画館では予告編が流されていたらしいが(そうなの?)、本編の公開日の話はスタッフにまったく降りてこず、FFの映画化だからビデオスルーでなくそれなりの館数で劇場公開されるだろうと踏んでいた人たちも不安になり、コーマンなどからもきちんとした説明はされず、やがてどこかの時点でこの映画は公開されないという事実が明らかになり、そして今に至るという結末。

ロジャー・コーマン本人へのインタビューが行なわれているものの、これはなぜ公開されなかったのか、そもそも企画時点で公開するつもりはあったのか、という質問に答えてないので曖昧な点は残る。当初噂されていた「コンスタンティン・フィルムがFFの権利を延長するために映画は作られた」という説も、公開中止が決まってから作られた言い訳ではないかと監督あたりが示唆しており、当時マーベル映画のビジネスを手中にしようとしていたアヴィ・アラッドの関与があったことも仄めかされているのだが、コンスタンティン・フィルムの当時のプロデューサーは他界しており、アヴィ・アラッドやスタン・リーといったマーベル側の人間はこのドキュメンタリーへの協力を一切断っているため、真実が明かされていないのが残念。こないだの2015年版の「ファンタスティック・フォー」の製作クレジットにもコンスタンティン・フィルムが載っているいることから察するに、スーパーマン映画のジョン・ピーターズのような、権利ゴロっぽい立場になってるような気もするが、まあなんとも言えません。

劇中のインタビューは当時のキャストや監督、美術スタッフなどを中心に行われており、製作会社の上層部が何を考えているのか分からないまま、頑張っていい映画を作ろうとしていた熱意が今になってもひしひしと伝わってくる。当時の映画雑誌とかおれ読んでましたけどね、この映画への期待って結構強かったんですよ。コミコンでも話題になってたし、キャストも(自腹で?)コンベンションをまわってファンに律儀に対応していたらしい。

なおドキュメンタリー自体としては、インタビュー映像が粗かったり、録音の質が悪かったりとクオリティが低いのが残念。低予算映画のドキュメンタリーだからって作りも低予算にする必要はなかったんじゃないの。とはいえ公開されなかった映画がここまでカルト的人気を保ち、ドキュメンタリーまで作られてしまうのは特筆すべきことかと。売れない俳優(失礼)たちが自分たちの仕事に誇りを持って、子供たちに「お父さんはドクター・ドゥームを演じたんだぞ」と教えているところなんかは感動しました。この1994年版の「ファンタスティック・フォー」、著作権的にかなり面倒なことになってるのだろうけど、スタッフが熱望しているように高画質できちんと世の中に出す価値はある作品じゃないだろうか。

「HIDDEN」鑑賞

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「ヒドゥン」ではないよ。今をときめく「ストレンジャー・シングス」(俺は未見)のザ・ダファー・ブラザーズによるサスペンス。

舞台は何らかの出来事によって壊滅的な被害を受けた町。被害を受ける前に地下シェルターに逃げ込んだ少女ゾーイとその両親は、地上にいる「何者か」から隠れ、身を潜めて300日が経とうとしていた。しかしシェルターで事故があったことから、彼女たちの存在が「何者か」に明らかになってしまい…というあらすじ。

貧者の「10 クローバーフィールド・レーン」、と言ったら失礼でしょうか。でもプロットはよく似てるな。あちらはシェルターの中の人間たちが疑心暗鬼になるサスペンスが話の中心だったけど、こちらは家族が団結してるので一家の黙々としたサバイバルが話の要になっている。そのせいか話の展開が遅くて、ネズミ退治にも時間をかけている次第。画面もやたら暗くて、「レーン」に比べると地味な印象は否めない。

ゾーイたちがシェルターに入るまでの出来事はフラッシュバックで徐々に語られていって、終盤に意外な事実が明かされるのだが、そういう意味では主人公たちは「信用できない語り手」になるのかな。それなりに面白い展開だったと思うけど、見る人によって評価が分かれるかもしれない。

一家の父親と母親とゾーイを演じるのは、それぞれアレクサンダー・スカルスガルドとアンドレア・ライズボローとエミリー・アリン・リンド。基本的にこの3人しか登場しません。

ストーリーの発想とかは悪くないと思うものの、90分弱の時間ながらも冗長に感じられるので、もうちょっとヒネリを加えても良かったんじゃないだろうか。「トワイライト・ゾーン」のような1時間ドラマのプロットだったらちょうど良かったのかも。とはいえ悪い映画ではないので、レンタルとかで観るにはいいんじゃないでしょうか。

「SWISS ARMY MAN」鑑賞

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そのあまりにも素っ頓狂な内容から、今年のサンダンス映画祭で賛否が真っ二つに分かれた作品。何も知らないほうが楽しめると思うので、以降はネタバレ注意。

乗っていた船が難破したことで無人島にひとり残されたハンクは絶望して首吊り自殺を試みるが、海岸に打ち上げられた男性の遺体を発見する。腹にガスがたまっているせいか無限に放屁を続けるその死体をいじくっていたハンクは、やがてその猛烈な放屁を使ってウォータースキーのごとく水上を走り、別の海岸へと漂着することに成功する。そして彼はその不思議な死体をマニーと名付け、背中に抱えたまま人里を求めて森林をさまようことにするが、死体だったはずのマニーに生気が戻ってきて…というあらすじ。

題名は「スイス軍の男」ではなく「万能ナイフのような人」を意味しており、死体のマニーは放屁で水上を走れるだけでなく口から生水を出したり、手がハンマーのようになったり、火花を発したり、チンコがコンパスになったりと、至れり尽くせりの万能ボディ。

しかしさすがに死体を相手にハンクが喋るだけの内容では厳しいわけで、意外と早い段階でマニーに生気が戻ってきて、生きるとは何か、恋とは何かといったことについてハンクと語り合ったりします。ここらへんは「ウォーム・ボディーズ」みたいなアートシネマ風のゾンビ映画に近いものがあるかも。ハンクとマニーのBL要素もあるよ。

でも内容はアートシネマというよりも、放屁とチンコの出てくるシュールなコメディといった感じ。監督二人は「NTSF:SD:SUV」とか「Funny Or Die」のエピソードとか撮ってた人たちらしいので、あの手の番組が好きな人は楽しめるんじゃないでしょうか。劇中の展開を歌った歌をかぶせてくるあたり、かなり「狙ってる」印象も受けたけど、それが気になるかどうかで観る人の印象が変わってくると思う。

ハンク役はポール・ダノで、毎度ながらの「周りの状況がよく分かってないウブな青年」を演じてます。対するマニーを演じるのがダニエル・ラドクリフで、半ケツになったり燃え盛ったりと文字通り体を張った演技を行ってます。最近の彼は「ハリー・ポッター」みたいな役にタイプキャストされることへの反発か、キワモノな役を演じることが多いような。しかしイライジャ・ウッドもそうだったが、ファンタジー映画のキャラクターって、そもそもタイプキャストされるものなのかな。そこまでファンタジー映画って多く作られてないと思うのだが。

あとは最後に有名な女優がほんのちょっと出てます。彼女に関するラストの展開がいまいちよく分からなかったので、あれの解釈についてネットなどで調べてみます。それとなぜかシェーン・カルースがチョイ役で出ていた。

何とも評価しづらい作品ではあるが、バカバカしそうな内容を予算かけてしっかり撮ってしまうあたりは褒めるべきではないかと。「ハリー・ポッター」を期待してはいけないよ。

「THE NEON DEMON」鑑賞

The Neon Demon
ニコラス・ウィンディング・レフンの新作。タイトルにしっかりと「NWR」のロゴを入れてくるあたり、なんか自分をブランド化しようとしてるのかなあ。

両親を亡くし若干16歳でジョージアからロサンゼルスにやってきたジェシーは、モデル業で生計を立てようとして初のフォトセッションでメーク係のルビーと友人になる。彼女の美貌は皆の注目するところとなり、年を19歳と偽ってモデル・エージェンシーに登録した彼女は、著名な写真家に抜擢され、さらに他のモデルたちを差し置いて有名なファッションデザイナーのお気に入りとなる。しかしそんな彼女の急な成功を、周囲のベテラン・モデルたちは妬むようになり…というあらすじ。

映像はきらびやかで綺麗なおねーさんたちもたくさん出てくるけど、エログロ描写のあるスリラーですからね。デートとかで観に行かないほうがいいんじゃないかと。映像は「オンリー・ゴッド」同様に派手なネオン調のライトがふんだんに使われていて美しいのだけど、ストーリーは華麗なモデル業界の裏における女性たちの確執という、かなり使い古されたものであることは否めない。主人公が写真家に「服を脱げ」と言われる展開など、どこの少女漫画だよ…。レフンはエクスプロイテーション映画好きを公言してるので、意図的にトラッシュな内容にしたのかもしれないのだが、なんか映像美に比べて中身がスカスカな感じがしてしまった。

いちおう「美しさはそれ自体が強さである」というテーマがあるのだけど、「生まれながらにして持った自然の美しさこそ最強。整形手術などによって得た人工の美しさはダメ」という主張を登場人物がつらつらと語っていて、自然食じゃないんだからもうちょっとヒネリがあっても良かったんじゃないかと思う。

ジェシーを演じるのはエル・ファニング。こないだ「トランボ」で清純な娘役を演じているのを観たばかりなので、あれとは大きく異なる役を演じているのは面白かったですね。ただ皆が羨む美貌の持ち主かというと…?個人的にはルビー役のジェナ・マローンの方がタイプに感じました。あとはレフンのお気に入りのクリスティーナ・ヘンドリックスがちょっと出てるほか、主人公が泊まっているモーテルの横柄な管理人をキアヌ・リーブスが演じているのだが、やはり怒鳴る役って彼に似合ってないのよ。もう変に冒険せずにクールな役に徹したほうがいいのでは。音楽は例によってクリフ・マルティネスが担当していて、LAが舞台なせいか「ドライブ」以上にヴァンゲリスの「ブレードランナー」っぽい雰囲気になっていました。

監督の趣味が高じて作られてしまった作品なんでしょうな。こういうのが好きな人もいることはいるでしょうが、個人的にはピンと来なかった。