「沈黙 サイレンス」鑑賞


感想をざっと。

・スコセッシの前作「ウルフ・オブ・ウォールストリート」はドタバタが続いて3時間があっという間の作品だったが、こちらは主人公たちが苦悩する姿が同じくらいの時間続くので、なかなか観ていてしんどい作品ではあったよ。大作ではあるのだが、シネコンで大勢で観る映画にしてはアートシネマすぎるというか。

・原作は読んでないので比較などはできません。なぜ日本ではそもそも根付かないのかということや、仏教との比較などについてもっと掘り下げて欲しかった気もするものの、そこらへんは原作だとどうなっているんだろう。ただ映画というのは必然的に映像の媒体であるわけで、目から映像が入ってきてしまうために神の痛々しい「沈黙」を表すのは小説に比べて不向きであるような気もする。

・その反面、映像の美しさは際立ったものがあった。撮影監督のロドリゴ・プリエトって「ウルフ〜」からスコセッシと組むようになった人なのか。台湾で撮影されたとはいえ日本の村のセットなどもよく出来ていたと思う。

・司祭にほとんど会ったことのない村民までもが英語に堪能なのはご愛嬌。というか劇中ではポルトガル語を話しているという設定なのか?

・役者は窪塚洋介よりも浅野忠信のほうが良かったと思う。悪役なので得しているというか。当初あの役は渡辺謙が演じる予定だったらしいけど、浅野忠信が演じて正解だったのでは。イッセー尾形は逆に役を作りすぎてしまったような印象を受けた。

・アンドリュー・ガーフィールドもね、彼の演技が巧いと思ったのはこれが初めてかもしれない。アダム・ドライバーは相当減量したらしいが、海兵隊仕込みの筋肉がまだ残ってるのでやけにガタイのいい司祭でありました。リーアム・ニーソンは長髪にするとどうしてもクワイ=ゴン・ジンに見えてしまう。スパイダーマンをダークサイドに誘うクワイ=ゴンさん。

・キリストの声をあてたのは誰だ?クレジットにないよね?直感的にモーガン・フリーマンかとも思ったけどたぶん違うだろう。

・音楽監修にロビー・ロバートソン。そもそも音楽なんてほとんど使われてない気がしたのだが、クレジット見たらずいぶん使われてましたね。サントラも出てるとか。

・スコセッシの作品としては「ウルフ〜」や「ヒューゴ」ほどではないと思ったけど、そもそもベクトルが違う作品なので比べるのは野暮でしょう。日本ではかつてこうしたことが起きていたんだよ、ということを知る意味でも、観ることに意義がある作品かと。

「The Fits」観賞


昨年にサンダンスなどで公開されて高い評価を得ていた作品。

11歳の少女トニは地元の体育館で兄と一緒にボクシングを習っていたが、たまたま目にしたチームダンスのレッスンに心を奪われ、ダンスのレッスンも受けて他の少女たちに追いつこうとする。しかしチームのなかで奇妙な痙攣を起こして卒倒する少女が表れ、さらに同様の症状を起こす少女が続出したことでトニは不安になっていく…というあらすじ。

ホラーっぽい演出もあるんだけどホラーではなくて、むしろ思春期を迎える少女の不安定な心境を映し出した内容になっている。72分という短い尺のなかでは怪奇現象に対する説明などは一切行われず、ムダな部分がないままトニの話が淡々と続いていく。セーレムの魔女狩りなどの集団パニックの話をベースにしているらしいが、怪奇現象に見舞われる人が続出した場合、むしろ症状が出ない人のほうが異端なのでは?ということも示唆されていて、題名の「FITS」は「痙攣」だけでなく「周囲にフィットすること」も意味していることがよく分かる。

監督のアナ・ローズ・ホーマーにとってこれがデビュー作になるらしい。著名な役者は出ていなくて、トニ役はロイヤリティー・ハイタワーというなんかカッコいい名前の女の子が演じている。この作品の好評価を受けて、監督も主演女優もこれから活躍していくんじゃないかと。ダンスのシーンもいいですよ。

いわゆるアートハウスシネマなので万人受けする作品ではないかもしれないが、映像も美しくそこそこ楽しめる作品だった。

2016年の映画トップ10

上位5位と下位5位を、順不同で観た順に並べていく:

<上位5位>
・「ブリッジ・オブ・スパイ」
あまり期待しないで観たら、唸るくらいに面白かった。主人公が1対2の捕虜交換に奔走する脚本が巧みなんだよな。

・「オデッセイ」
主人公が難題を1つ1つ解決していくさまが、何度でも観られる映画。サバイバルに必要なのは信仰とかではなく科学なんだよという態度も素晴らしい。

・「ハードコア(・ヘンリー)」
ギミック映画だと言ってしまえばそれまでなんだけど、意外としっかりSF映画してたし、シャールト・コプリーの演技は見事だった。

・「April and the Extraordinary World」
今年は日本に限らず、アニメーションの当たり年だった。

・「Kubo and the Two Strings
もう1つのアニメの傑作。なんでこれが日本で公開されないのか、とんと分からん。

<下位5位>
・「ANOMALISA」
なぜリサは日本語を習っているのか?彼女の最後の言葉の意味することは?といったことにまつわるファンセオリーも調べてみると興味深いですよ。
・「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」
まあ今年のアメコミ映画は、「デッドプール」や「アポカリプス」よりもこれだろうなあ。
・「ハイ・ライズ」
・「MIDNIGHT SPECIAL」
空から火の玉が降ってくるシーンはとても良かった。
・「ロブスター」
かなり遅れて観たけど、ランティモス節が炸裂してて「アルプス」よりずっと良かったです。

インディペンデント系で高評価を得ている「グリーン・ルーム」や「Swiss Army Man」はそこまでいい作品だとは思わず。邦画はアニメも含めて興行成績が好調だったようですが、やはり「シン・ゴジラ」は全く肌にあいませんでした。あとはアカデミー賞にひっかかりそうな作品も最近はNetflixスルーというものが出てきて、劇場でかからない代わりに細分化された配信プラットフォームで独占配信されるというのがちょっと厄介なところです。

来年はアメコミ映画が5本?くらい公開されるようで、どんな出来になるでしょうね。個人的にはやはり「トレインスポッティング2」に期待したいところです。

「新感染 ファイナル・エクスプレス」鑑賞


英題が「TRAIN TO BUSAN」で、日本では「釜山行き」という仮の邦題(?)で話題になっていた韓国のゾンビ映画。こないだこういうアレな邦題になったようで。

プロット自体はいたってシンプルで、韓国でゾンビ(強烈な感染能力を持っており、ちょっと噛まれただけでその人もゾンビになる)が大量発生し、ソウルを出発した高速鉄道にもゾンビが紛れ込む。列車の乗客たちはゾンビを撃退しつつ、安全な土地を目指そうとするが…というもの。

いちおうゾンビが発生した原因にもちょとだけ言及されてるものの、ゾンビと言ったらゾンビだろ!というわけで理屈めいたことなしに序盤からゾンビな展開に突入していく。2時間というホラーにしては比較的長めの尺だが、テンポもいいし展開も早いので中だるみもせずシェイプアップされた作品になっている。

一番の特徴はやはり列車という限られた空間を舞台にしていることで、隣の車両からやってくるゾンビ集団をどう防ぐかとか、離れた車両にいる友人たちをどうやって救出するか、といった点が話の重要なポイントになっている。あとは極限の状況における生存者のあいだでの確執も当然ながら描かれていて、ここらへんは最近のセウォル号事件などを彷彿とさせました。

なお列車の主な乗客としては、離婚した妻のところに娘を連れていく主人公、肉体派のにーちゃんとその身重の妻、鉄道会社のオッサン、中年の姉妹、高校生カップル、浮浪者など。ファンドマネージャーとして仕事に没頭するあまり家族を大事にできなかった主人公が、災害のなかで娘との絆を再発見していく過程が話の軸になっているかな。でもおいしいところは肉体派のにーちゃんが持って行ってしまってますが。

例によってゾンビの生態(?)にはツッコミたいところが多々あるのだけど、まあゾンビ映画に正確な科学描写などを求めても仕方ないので何も言いません。車両のドアを開けられない、というのは流石に都合よすぎるだろと思ったけどね。あと止まってる車両の反対側に行きたいなら、車体の下をくぐれば一発だぞ。

監督はアニメ出身の人でこれが初の実写作品だとか。実際に「ソウル駅」というこの映画の前日譚となるアニメ長編も作っているらしい。

ゾンビ映画としては話がベタだし、話の展開も目新しいものではないものの、大量に押し寄せるゾンビ集団の描写などは迫力があるし、邦題が残念なもののゾンビ映画が好きな人なら観て十分満足できると思う。

「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」鑑賞


まだ公開されたばかりなので感想をざっと。でもいちおうネタバレ注意。

・カメラワークも違うしワイプもないし、明らかに従来の「スター・ウォーズ」とは一線を画したスタイルをとっているが、それはそれで割り切っちゃってありだと思う。タイトルクロールは残しておいて欲しかったと思うけど。ウィルヘルム・スクリームも無かったよね?

・ストームトルーパーのボディーアーマーはハリボテか。銃にやられるのはまだしも、打撃にも弱いのでは着けてる意味がないだろうに。

・デス・スターってハイパースペース・ジャンプできるのか。なら「エピソード4」でヤヴィン4を射程に入れるのにあれだけ時間がかかったのは何だったのだろう。

・つうか帝国軍よお、惑星全体を囲めるバリアを開発できるなら、「エピソード6」のシールド発生装置もさらにそれで保護すればよかったんじゃね?

・キャストはフェリシティ・ジョーンズが「インフェルノ」以上に無表情なのが気になったが、まあ可も不可もなし。イギリス英語を話す登場人物が多いなかでディエゴ・ルナがメキシコ訛りの英語を話していて、どこの世界の話かと。あと中国市場へのアピールというのを置いておいても、ドニー・イェンやチアン・ウェンのキャラクターが立っているのを見ると、やはりアジア圏の役者がハリウッド進出するのには英語が流暢でないといかんなと実感しました。

・一方では死んだはずの役者がスクリーン上では過去作以上に登場してるわけで。かつて「特別編」ではハリソン・フォードの後ろ姿しか映せなかったことを考えると、死人も蘇らせるCGの進歩って今後の映画製作に大きな影響を与えてくるのかも。いっそドゥークー伯爵も登場させて名コンビ復活させようぜ。

・過去作に媚びてた「フォースの覚醒」よりは面白かったけどね。とはいえ感想の5割くらいはノスタルジアによって美化されていることは否めない。どんなに迫力のある作品を作ったとしても「過去にはこんな出来事があったんだろうか」というファンそれぞれの想像力を完全に満足させることはできないわけで、ストーリー上で語る必要のなかった話がまた語られてしまったと、「スター・ウォーズ」に限らずプリクエルを観るたびに思わずにはいられないのです。