「April and the Extraordinary World」鑑賞

April Poster HD
ジャック・タルディのコミックを原作にした、フランス・ベルギー・カナダ合作のアニメーション映画。観たのは英語吹替版。

話は普仏戦争が忍び寄っていた1870年のフランスから始まる。戦争にあたり無敵の兵士を欲していたナポレオン3世は、科学者のグスターヴ・フランクリンに内密で傷ついた細胞を修復させる特効薬の開発を命じていたが、ラボでの爆発によりナポレオン3世もグスターヴも命を落としてしまう。国を継いだナポレオン4世は平和主義者だったので戦争は回避されたものの、それから60年のあいだ、世界各地で著名な科学者(化学者)が誘拐されるという事件が起きる。おかげで世界の科学的発展はストップして電力の発見も起きず、石炭と木炭によるスチームエンジンの噴煙により大気は汚染されていた。誘拐されずに残った科学者たちは政府に強制連行されて政府のための研究を強いられていたが、グスターヴの息子プロスパーは息子夫婦と孫娘のエイプリルとともに身を隠し、グスターヴの特効薬の完成を目指していた。しかしピゾーニ警視率いる警察部隊が彼らの研究所を強襲し、一家は離れ離れになったばかりか、エイプリルの両親は何者かに誘拐されてしまう。それから10年、ティーンとなったエイプリルは両親の開発した薬で人語が話せるようになった猫のダーウィンとともに、身を隠しながら特効薬の研究を続けていた。しかしそこにもピゾーニの追跡が迫り…というようなあらすじ。

英語版の声優はポール・ジアマッティやスーザン・サランドン、JKシモンズなど。フランス語版のエイプリルの声はマリオン・コティヤールがあてているらしい。

架空歴史の設定がいろいろ詰め込まれてますが、これで冒頭20分くらいの展開ね。ここからセンス・オブ・ワンダーの展開が続き、話も意外などんでん返しを迎え、スチームパンクからアクションから家族愛までいろいろ盛り込み、最後は本当にホロっとする終わり方に持っていくのがもう本当に素晴らしいのでございますよ。話の前半こそ世界設定の説明のためか話のエンジンがかかるのが遅い気がするし、話の黒幕も早い段階で予想がついてしまうものの、中盤からの冒険活劇は非常に爽快。

アメリカの批評では「ミヤザキ・ミーツ・ピクサー」なんて言われているみたいだけど、確かにメカの描写などは「未来少年コナン」などを彷彿とさせるところがあり。人物の動きはジブリ作品や「The Legend of Korra」に比べれば物足りないものがあるかもしれないが、猫のダーウィンの躍動感なんかはいいですよ。つうか化学者の女の子が主人公の冒険アニメなんてそうそうないでしょう。メガネっ娘要素こそないものの、自分で運命を切り開いていくエイプリルの活躍が素晴らしいのですよ。

これ日本で公開されてないのが非常に勿体ない。日本でも受ける要素はいろいろあると思うのだがなあ。いっそジブリが配給をすればいいんじゃないかと思う傑作。

「ハードコア・ヘンリー」鑑賞

Hardcore Henry
ティムール・ベクマンベトフ製作の、ほぼロシアで撮影されたSFアクション。以降はネタバレ注意な。

物語は一人の男が科学者のラボで目覚めるところから始まる。過去の記憶がない彼の前には女性科学者のエステルが立っており、彼の名前はヘンリーであること、彼女は彼の妻であること、そしてヘンリーは瀕死の重傷を負ってラボに連れ込まれたことなどを語る。失われた片腕や片足にサイバネティックスの義手・義足をつけられ、発声のためのモジュールをつけてもらおうとするヘンリー。しかし厨二病のジュリアン・アサンジみたいな大富豪のエイカンが現れてラボを襲撃し、ヘンリーはエステルとともに脱出するものの、すぐさまエイカンの部下に妻を奪われてしまう。ヘンリーも危機一髪のところを謎の男ジミーに助けられ、エステラを救い出すためにジミーが伝える任務をこなしていくのだが…というあらすじ。

作品の最大の特徴としては、全編を通じて主人公のPOV(視点ショット)でストーリーが進んで行くというもの。そういうつくりの映像作品といえば早くも1947年に「湖中の女」があったし、最近はやりのファウンドフッテージものもその一種だが、この作品は映画よりもファーストパーソン・シューティング(FPS)のビデオゲームに影響されたものになっている。主人公のヘンリーは銃や刀を使って迫り来る敵をバッタバッタとなぎ倒し、ジミーに与えられるミッションをこなして、ラスボスへと近づいていく。

ということは他人がゲームやってるのを見てるのと変わりなくね?という意見も当然出てくるわけで、批評家には評判が悪いのはそのためだろうが、カメラワークは凝ってるしSF的な要素も意外と多いし、思っていたよりかは十分に楽しめる作品でしたよ。まあ個人的に最近のゲームをやってないので、ゲームのクオリティがどんなものになってるか知らないというものあるが。

観る人は映画の間じゅうずっとヘンリーの行動を疑似体験するわけだが、声が出せずに話ができないヘンリーが何を考えているかは十分に理解できず、彼はいわゆる「信頼できない語り手」のような存在になっている。ヘンリーの感情や状況を表す小道具として音楽が効果的に使われていて、「荒野の七人」のテーマは笑ったな。冒頭こそ状況が分からずに逃げ惑うヘンリーだが、どうもパルクールの名手らしくロシアの街を縦横無尽に駆け巡ってくれるぞ。これパルクールやってる人の頭にGoProのカメラをつけて撮影したらしいが、カメラの重さでみんな首を痛めて、最終的には監督のイリヤ・ナイシュラー自身がヘンリーを演じる羽目になったとか。

また何も語らぬヘンリーを導く謎の男ジミーを「第9地区」のシャルート・コプリーが熱演していて、なんと一人7役くらいで異なるファッションのジミーを演じ分けている。なんでそんな多様なジミーがいるのかは、見てのお楽しみ。コプリーってキワモノ映画にばかり出演してる印象があるが、あの演技力はもっと評価されるべきだろ。あとはティム・ロスがチョイ役で出てますが、なんで出たんだろう。あの人も最近は役を選ばなくなってきているような。

あちこちに振られまくる視点は観ていて疲れてくるし、話のつじつまが合わないようなところも多々あるものの、おバカなロシアのアクションSF映画としては1つの頂点に達してる作品ではないだろうか。街中で銃撃戦が展開されてもまるで警察がやってこないあたりがね、おそロシア。ギミックっぽいアクション映画かと思って観たら、予想以上に楽しめる内容であった。

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」鑑賞

Trumbo-Poster
10年ぶりくらいにシネマシャンテで観たよ。シネコンの座席に慣れてしまうとあそこの横幅はきついものがあったが、年配のお客さんで満席になってる光景は良かったですね。

ダルトン・トランボや赤狩り時代のハリウッドについてはそれなりに知ってるつもりだったが、それでもヘレン・ミレン演じるヘッダ・ホッパーのこととか知らなくて、いろいろ新しい発見がありましたね。その一方でこの人たちの経歴はどういうものなんだろう?と思ってウィキペディア片手に観たくなる衝動もありましたが。

ジェイ・ローチの初の非コメディ映画という説明もあるようだけど、あの人は最近HBOで「Recount」や「Game Change」といった実話のTVムービーをよく撮っているので、それの延長線にある作品と思って構わないだろう。

TVムービーよりは(おそらく)予算がふんだんに使えたのか、豪華なキャストがいろいろ出てまして、彼(彼女)らの演技によって手堅い作りの作品になっているなあと。ヘレン・ミレンや主演のブライアン・クランストンが相変わらず安定した演技を見せているほか、ルイ・CKやエル・ファニング、ダイアン・レイン、マイケル・スタルバーグ、ステーブン・ルートなどといった役者が好演していていい感じですね。

でも男優はみんな中年ばかりのせいか、みんな丸っこい体型になっていたような。おかげで普段は太っているダン・バケダールが相対的に痩せて見えたぞ。ジョン・グッドマンも「10クローバーフィールド・レーン」に続いてでっぷり太ってるので健康状態を心配してしまったけど、きょう公開された「Kong: Skull Island」の予告編を見たらちょっとスリムになってたので、大丈夫だよね…?ジョン・ウェインを演じるデビッド・ジェームス・エリオットも恰幅が良くなってて、クレジットを見るまで彼だと気付かなかった。つうかジョン・ウェインってあんなに太ってたっけ?

全体的な出来は前述したようなTVムービーの枠を超えるものではない無難なつくりになっているが、波乱に富んだ人物を題材にしていることと、優れた役者たちが揃っていることで十分に楽しめる作品になっている。実際のトランボは映画で描かれた以上の共産主義者でスターリンを尊敬してたらしいが、日本の共産党もこういう映画を使ってね、やんわりと協賛者を広めていってもいいんじゃないかと思ったりもするのです。

「グリーン・ルーム」鑑賞

Green Room
こないだ不慮の事故で亡くなったアントン・イェルチン出演のサスペンス。題名の「グリーン・ルーム」ってバンドとかの「楽屋」のことな。日本ではなぜか来年2月とはるか先に公開らしいですが、これあまり前知識なしに観た方がいいと思うので、以下はネタバレ注意な。

4人組パンク・バンドの「The Ain’t Rights」はレーベルとまっとうな契約もしてない無名バンドで、バンを運転して地方でライブを行って日銭を稼いでいた。そして彼らはポートランドの森の中にあるバーでのライブを紹介されるが、そこはスキンヘッドのネオナチたちが集うおっかない場所であった。バンドのメンバーたちは身の危険を感じつつもライブをこなし、金を受け取って帰ろうとしたところである事件を目撃してしまう。その事件を目撃した彼らをネオナチたちは帰すことができず、バンドのメンバーたちは仕方なしに楽屋に籠城することになるのだが、彼らを引きずり出すためのネオナチたちの攻勢が始まる…というあらすじ。

パンクスvsネオナチの戦い、というと政治思想のぶつかり合いのように聞こえるけどそんな要素は一切なくて、ゾンビのごとく攻めてくるスキンヘッドたちに抵抗する栄養失調気味のパンクたちという、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」「要塞警察」を踏襲したような内容になっている。高円寺のトイレで右翼構成員に絡まれてるバンドのおにーちゃんたち、という図式でしょうか。

ネオナチ(ちなみに監督は彼らを「極左集団」だと呼んでいる)のリーダーを演じるがパトリック・スチュワート。ピカード艦長やエグゼヴィア教授といった「いいリーダー」のイメージから一転して、狡猾で冷酷なリーダーを演じている。あのドスの効いた声で部下たちに淡々と攻撃を命じる姿がね、実はすごく似合っていたりするのよ。対するバンド側のギタリストを演じるのがアントン・イェルチン。おれイェルチンってどうもあの鼻にかかったような声と重みのない雰囲気が決して好きではなかったのだけど、ここでは逆にそうした特徴を活かし、追い詰められた軟弱者といった感じを存分に出していた。残念な人を亡くしてしまったものよ。あとはバンドのベーシストを、「ランナウェイズ」でもベーシストを演じてたアリア・ショウカットが演じてます。

そしてバンドとともにトラブルに巻き込まれる、スキンヘッドたちの知り合いの女の子をイモージェン・プーツが演じているのだが、彼女は物事のあらましを説明する役目を担っている一方で、バンドのメンバーたちよりも状況を把握しているということで結局いちばんおいしい役になっているような。メンバーたちが状況が全くわからないまま襲われる図式になったほうが話は面白くなったのではないかとも思うが、それでは観客にあまりにも不親切かな。

結構グロいシーンもあるというのでビクビクしながら観てたが、思ったほどではなかったかな。ただしアクション映画ばりの銃撃シーンなどがあるわけではなく、ナタやカッターナイフで相手に斬りかかるという攻撃方法が現実的であり、話の展開をよりスリリングなものにしていた。

全体的に荒削りな印象も受けるものの、パトリック・スチュワートの演技によって話も引き締まってるし、出色のサスペンスではないでしょうか。

「Everybody Wants Some !!」鑑賞

Everybody Wants Some!!
邦題は「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」でリチャード・リンクレーターの新作。

リンクレーターといえばコメディからドラマからSFまで幅広いジャンルを手がけることでアン・リーやダニー・ボイルに匹敵するような監督ですが、個人的にはやはり2作目の「バッド・チューニング (Dazed and Confused)」が最高傑作だと思うのですね。70年代のテキサスの1日を舞台に、パーティーに参加しようとするティーンたちの姿を描いたあの作品は本当に大好きで、エアロスミス嫌いな俺でも「スイート・エモーション」で始まるあのオープニングは映画史上に残るものだと信じて憚らないのです。そして今作はその「バッド・チューニング」の「精神的な続編」という意図でつくられたわけで、そりゃ期待するでしょ。また主人公が大学にやってくる、という意味では「6才のボクが、大人になるまで。」の続きでもあるらしいぞ。

時代設定は1980年代で、野球のピッチャーとして奨学金をもらった新人のジェイクがテキサスの大学へやってくるところから始まる。彼は野球部の他のメンバーたちと同じ寮に住むことになり、そこでは皆がひたすら酒と女のパーティーに明け暮れていた。ジェイクも寮の皆とすぐに仲良くなり、女の子たちを口説きに行ったところ一人の女の子に惹かれて…というようなあらすじ。

「バッド〜」の出来事が1日だけだったのに対して、こちらは木曜から月曜までの数日間の話なので野球の練習シーンなどもあるものの、プロットとかはあまりなくてひたすら男たちの乱痴気騒ぎが続く内容になっている。「バッド〜」は高校生たちがパーティーの場所とビールを入手するのに苦労してたが、こっちは親元から離れて暮らす大学生なので最初から酒とプッシーがやり放題。マシュー・マコノヒーが演じたウッダーソンみたいな連中がたくさん出てきます。大学寮が舞台ということで「アニマル・ハウス」に似ているかな。

精神的な続編とはいえ「バッド〜」と異なるところもいくつかあって、あっちは高校の新入生から卒業生まで登場人物の年齢層が幅広くて、高校生活への期待や卒業後の不安みたいなものが盛り込まれていたが、こちらはそいういうのなし。野球選手として食ってけるのかという心配も誰も抱いてない。また小さい町で育ってそのまま抜け出せないのかな、という内心の吐露も「バッド〜」に比べて無かった。そもそもみんながスポーツ奨学生として入学できてる時点で一種の勝ち組なのかもしれない。そういう点では感情移入できるところが少なかったかな。まあ自分が年とっただけかもしれませんが。

音楽は「バッド〜」がキッスやフォグハットなどの70年代ロック満載だったのを踏襲して、こちらはブロンディやカーズやディーヴォといったニューウェーブ系のものがガンガン使われてます。キャストは主人公のジェイクを演じるブレイク・ジェンナー以外は比較的無名の人が多いかな?これが映画初出演の人もいるみたい。「バッド〜」も当時無名だったキャストがあとから数多く大スターになったわけで(マコノヒー!アフレック!ジョボビッチ!)、こちらも皆が後から有名になることに期待します。

最初から最後まで遊んでばかりの内容には賛否両論あるかもしれないし、最近のアメリカの大学寮はむしろ人種差別の温床になってるというような報告もあるようだけど、こういう青春もあったんだよという1つの時代の描写としては手堅い作りになっているかと。