「ジャンゴ 繋がれざる者」鑑賞


タランティーノってその趣味に走りまくる姿勢が、例えばジョー・ダンテなどと違ってどうも肌に合わないところがあったのだが、これはとても楽しめる作品であったよ。もちろん冒頭のクレジットからして趣味に走ってるわけだが、西部劇(というか南部劇)の枠組みのなかにうまくストーリーが収まっているというか。少なくとも「イングロリアス」みたいに途中でミュージックビデオみたいになってどうしよう、という展開はなかったし。

とはいえかつての「主人」たちに復讐する話かと思いきやその目的はすぐに果たされ、やっとディカプリオが出てきて話の流れが変わる展開は、「キル・ビル」以降の蘊蓄がやたら語られるスタイルに通じていてあまり好きではないのだが、こちらはアクション満載の描写とスピーディーな話の流れもあって2時間超の長尺も殆ど気にはならなかった。

いちばん良かったのがやはりキャスティングで、主役のジェイミー・フォックスはまあ普通としても、対するレオナルド・ディカプリオがイヤミな悪役を怪演していて素晴らしい。彼っていつもは主役ばかり演じているので肩に力が入りすぎている気がするのだが、実はこういう脇役を演じた方がもっと幅の広い演技ができるのではないか。彼の演技が巧いと思ったのは、同じく西部劇の「クイック・アンド・サ・デッド」以来だな。アカデミー賞とったクリストフ・ヴァルツも「イングロリアス」に続いて安定した演技力を見せつけてくれるものの、やはり善人よりも悪人を演じた前作の方が強烈な印象を残していたことは否めない。そういう意味では抜け目ない執事を演じたサミュエル・L・ジャクソンが見事でしたね。あとはブルース・ダーンとかラス・タンブリンといったいかにも監督好みの人たちがキャスティングされてるのだけど、クレジット見るまで気づかなかったよ。

今まであまりメジャー作品では扱われなかった奴隷制度にスポットライトをあてたことについて監督がいろいろ語ってるらしいが、その一方で時代考証とかは結構いいかげんだし(ダイナマイトの発明は1860年代だ!)、主人公の銃弾は相手の体を貫通してるのに悪役のものは死体で防げてしまう描写など、まああくまでも純粋な娯楽大作として割り切って観るべき作品でしょうね。

「ホーリー・モーターズ」鑑賞

昨年海外では絶賛されていたフランス映画。監督のレオス・カラックスって名前は知ってたけど作品を観るのはこれが初です。なんかよく分かんないんだけどとてもすごい映画であったよ。

ある晩に目覚めた男(カラックス本人)が自室の壁にあった隠し通路を発見。そこを抜けると大衆がサイレント映画を観ている劇場だった…というオープニングは本編とまったく関係なくて、本編の主人公となるのはオスカー氏という男性。大邸宅に住み子供たちにも恵まれた彼は、巨大な白いリムジンに乗って仕事へと向かう。そんな彼の仕事とは、与えられたファイルをもとに、変装をしてさまざまな「業務」をこなすことだった。まず老婆に変装して橋の上で物乞いをしたオスカーは、それからゲーム用のモーションスーツを着込んで撮影用のスタジオでハードなアクションをこなし、同じくスーツを着込んだ女優とセックスの模擬をする。このようにしてオスカーは9つの業務を1日のなかでこなしていく…というストーリー。

ストーリーは本当にこれだけでして、オスカーに仕事を与えるエージェンシーがあることや、同じような仕事をしている人たちが他にもいることが示唆されるんだけど、オスカーの動機とか仕事の目的などは一切説明されず、彼が変装して暴れまくる怒濤の展開が繰り広げられていく。

リムジンに乗った1日の出来事というコンセプトはクローネンバーグの「コズモポリス」、他人の演技をする人たちというのはギリシャ映画の「アルプス」に通じるところがなくもないが、実際の映画はその2つに似ても似つかない実に奇妙なものになっていて、観る者を圧倒させていく。さらに映画の中盤ではご丁寧にもインターバルが儲けられていて、アコーディオンを抱えた集団が一曲奏でてくれるぞ。

登場人物はそんなに多くない、というかオスカーを演じるドニ・ラヴァンが変装して何役もこなし、完全に話を喰ってしまっている。いちばん体を張っているのは3番目の「メルド氏」に変装するところで、カラックスが以前撮った短編にも出てきた役らしいが、地下道を通り抜けて墓場に登場し、献花などをムシャムシャ食べながら(ここで何故か「ゴジラのテーマ」が流れる)、撮影をしていたエヴァ・メンデス演じるスーパーモデルを誘拐し、自分はすっぽんぽんになって彼女の膝枕で眠りだす仕舞。なに言ってるか分からないかもしれないが、本当にそんな展開なんだってば。でもハチャメチャなようで、全体を通じて何ともいえないペーソスがあるのが不思議なところでもある。

あとは彼と同じような仕事をし、彼とは古いつきあいがあるらしい女性をカイリー・ミノーグが出てきて、ニール・ハノンによる曲を歌ってくれたりします。そしてリムジンのドライバーを演じるエディット・スコブって女優、「顔のない眼」の娘さんだった人なのか!

さらに特筆すべきはその映像の美しさ。フランスのアートシネマってチープな撮影しかしてないかと思いきや、夜のパリの車道とか、閉鎖されたデパートとかの光景がとても見事で、カメラワークも凝ってるのですよ。モーションキャプチャーのシーンなんか3Dで観たいと思ったくらい。

この映画が何を伝えようとしてるのかは、俺のような凡人の理解を遥かに超えていることだし、たぶん答えは出されないだろうから深く考えたりはしない。だから観たあとで何が心に残るのかというと戸惑ってしまうのだが、とにかく観てるあいだは圧倒される作品。あなたが今年観る映画のなかで最も独創性にあふれた作品の1つになることは確実でしょう。

「フライト」鑑賞


やるじゃんゼメキス。ここ10年は不気味の谷のあちら側に行っていた感のある人ですが、「キャスト・アウェイ」で培った飛行機落としのテクニックに磨きをかけて、意外にもR指定で実写にカムバックしてきたわけです。

勝手に想像していた「事故のときに何が起こったのか?」という展開の話ではなく、事故とその後の話が時系列に沿って描かれていくわけだが、苦境に陥った主人公が宗教・家族・AAなどといった救済の可能性に触れ、最後に2つの選択肢を持つことになるという流れは「ライフ・オブ・パイ」に少し通じるものがあるかな。

アル中の問題児である主人公の自己中な振る舞いを最初から最後まで見せつけられる展開であるため、本来ならば観客は主人公に感情移入できないはずなのだが、それでも観る人の目を引きつけさせるデンゼル・ワシントンの演技力が凄い。顔面の細かな動きから体の微妙な揺らし方まで、すごく話のリズムに合っていて飽きさせない。彼は共演者からの評判が悪いことであまり好きな役者ではなかったのだが、やはり演技力は超一流であることを実感。相手役のケリー・ライリーって女優はよく知らなかったのですが、こちらもいい演技してます。対してドン・チードルとかはあまり目立ってなかったかな。ジョン・グッドマンがおいしいところを奪ってしまってる感じ。

とはいえ視覚的には前半の飛行機事故のシーンがやはり最大の見せ場であって、そこから先は中だるみこそしないものの地味なシーンが続くので、もう20分くらい削っても損はなかったかもしれない。劇場では隣のオッサンが退屈そうにモソモソしてました。

これはぜひ飛行機の中で観るべき映画ですが、インフライト上映させた度胸のある航空会社はどこかいなかったのかな?

「LAWLESS」鑑賞


日本では「欲望のバージニア」というアレな題名で6月に公開されるそうで。ニック・ケイヴ師匠とジョン・ヒルコートが「プロポジション 血の誓約」に続いてタッグを組んだ作品で、実在した3兄弟に関する小説を映画化したもの。

舞台となるのは1931年のヴァージニアの片田舎。禁酒法の時代にハワードとフォレストとジャックの3兄弟は密造酒を作って荒稼ぎをし、地元の警察も彼らのことを見過ごしていた。しかしシカゴから派遣された敏腕刑事とその上司の検事が利益の分け前を要求したのに対して3兄弟はこれを拒絶。こうして刑事と3兄弟による、血で血を洗う抗争が幕を開けるのだった…というようなプロット。

出演はシャイア・ラブーフにトム・ハーディ、ガイ・ピアース、ジェシカ・チャステイン、ミア・ワシコウスカ、ゲイリー・オールドマンなどといった豪華な面々が勢揃い。しかし登場人物それぞれに時間を割いているために、話が散漫なものになってしまったのが残念。女性2人とのロマンスの話はどちらか1つに絞ってもよかったのでは。オールドマン演じるギャングスターなんて途中でどこかに行ってしまうんですもの。抗争とロマンスとその他の話がが詰め込まれ、大きな盛り上がりに欠けるためにTVシリーズのダイジェスト版を観てるような気になってくるのは否めない。もっと贅肉を落として抗争に焦点をあてるべきだったのでは。

あとやはり主人公を演じるラブーフが徹底的にカリスマ不足で、話を通じて人間的に成長せず、最初から最後まで若気の至りで暴走して周囲に迷惑をかけまくってるのはどうも不快。なんでこんな役者がスター扱いされてるんだか。そんな彼をボコボコにする刑事をガイ・ピアースが演じていて、しゃれたスーツを着こなして香水をつけてるようなマンガチックなキャラクターなのだが、いちばん目立ってておいしい役ではないかと。3兄弟の長男を演じるジェイソン・クラークもぶっとんだキャラを演じていて面白いんだけど、カーディガン着てブツブツ言うトム・ハーディの影に隠れてしまっているのが勿体ないところ。

主人公のナレーションとか、ケイヴたちによる挿入歌(「ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート」は2バージョンも使われている)なども用いられ、「プロポジション」に比べるとずいぶんメインストリーム寄りの映画という感じがするのですが、個人的にはもっと幻想的だった前作のほうが好きだな。

「アルゴ」鑑賞


今さらながら観ました。遅れてすみません。

昨日のアカデミー賞では監督賞や主演男優賞にもノミネートされていないのに作品賞を穫ったことについていろいろな説が飛び交っているようだけど、個人的な感想としてはこれが「ハリウッドが活躍する映画」だからだということでして、いつもは脚本のオプション権を値切ったりB級映画のメークをしてるような裏方さんたちが、CIAに頼まれて秘密任務を遂行し、人命を救助するなんて話を見せられたら、アカデミー会員の大半を占める裏方さんたちはそら喜ぶわな。

現実ではハリウッドはおろかCIAも中心的な役割を果たさず、カナダが尽力したことで人質が救出されたらしいが、まあそこはハリウッド映画ですから。古き良きハリウッドを甘ったるく描いた「アーティスト」が昨年作品賞を穫ったのと同じような事例かな。おまけにどちらの映画もジョン・グッドマンが陽気なハリウッドガイを演じているわけですが、ならば彼が映画監督を演じたジョー・ダンテの傑作「マチネー/土曜の午後はキッスで始まる」だって作品賞を穫っても良いと思うのだが、そううまくはいかないようで。

このようにハリウッドが重要な要素となる映画であるものの、イランの場面との話の緩急のつけ方が気になるところでして、冒頭の大使館襲撃とかラストの空港のシーンなどは結果を知っていても手に汗握ってしまう展開が続く一方で、ハリウッドの陽を浴びてダラっとしてるシーンが挿入されると話の流れが断ち切られてしまうような。終盤の電話のシーンも、「撮影現場を横切れない!」ではなくて他に話の盛り上げ方があっただろうに。

出演者は濃いオッサンたちがいろいろ出ていて個人的には大満足。カイル・チャンドラーやビクター・ガーバーなどテレビ畑の人たちが出ているのもいいな。ブライアン・クランストンは「ブレイキング・バッド」が終了したらいま以上に劇場映画で引っ張りだこになるのではないか。あとジェームス・ネズビットが何でアメリカの職員を演じてるんだろうと思ったら、あれはタイタス・ウェリヴァーだったのか。なおベン・アフレックのキャラクターの造形はとても浅いと思ったよ。もっと子供とのつながりを深く描くとか、任務への情熱を見せるかしたほうが「人質を救出して必ず帰る」という感じが出て良かったと思うのだが。

あとは外人(イラン人)の描写についてもなんか腑に落ちないところもあるが、それについては国際情勢などに詳しい人たちがいろいろ解説してるでしょうからここでは省く。あとやはり映画のストーリーボードはジャック・カービーのデザインしたものをそのまま使うべきであった。決して悪い映画ではないが、作品賞に値するかと聞かれるとちょっと考えてしまうな。