「THE GOSPEL OF US」鑑賞


「ザ・サンドマンの表紙の人」ことデイヴ・マッキーンが監督した映画。ただし彼が細かい演出などをしたわけでなく、ウェールズ出身のマイケル・シーンが同郷の詩人オーウェン・シアーズの小説をもとにした劇をウェールズの町ポート・タルボットで3日にわたって開催した光景を撮影したものらしい。

ベースとなるのはキリストの受難劇で、シーンが演じるのは「教師」と呼ばれるボロをまとった男性。海で洗礼を受けた彼はサンドウィッチを皆に分け与え、テロリストを説得したりして人々に慕われる存在になるものの、やがて警察に連行されて公開裁判にかけられ、頭に有刺鉄線の冠をかぶせられて磔にされることに…というのがものすごく大ざっぱな話の流れ。決して明確なストーリーがあるわけではなく、抽象的なシーンが連なっているような感じか。

ストーリーにおいて聖書の登場人物はすべて現代的になり、ローマ兵は高圧的な警察部隊になり、主人公を裁くのはスーツを着た地元の政治家であり、さらに神は高台から見下ろす工事現場のオッサン、という姿で登場していた。

そして劇といっても町全体が参加した大きなイベントのようなもので、シーン以外の役者はおそらく地元の劇団の人たちかな。それをとりまく人々は一般の市民で、シーンと役者たちのやりとりをビデオカメラとかで撮影してる姿がさらに撮影されているという、ちょっとシュールな映像もあったりします。おまけに地元バンドのマニック・ストリート・プリーチャーズのライブが突然始まったりと、何が何だか。

こうした設定ゆえにマッキーンの前作「ミラーマスク」に比べるとドキュメンタリーっぽい要素が強いものの、映像の加工や音楽などは彼が加えているため、セピアっぽい色調やソフトフォーカスが多用されたマッキーン的な映像は意外と多用されていた。彼の作品のファンなら観て損はしないでしょう。

映画館よりも美術館でかかってるアートフィルムという趣きが強い内容であったが、悪い作品ではなかったよ。

「ザ・レイド」鑑賞


あまり良く知られてないインドネシア映画「ザ・タイガーキッド~旅立ちの鉄拳~」の監督(ウェールズ人)&主演(東南アジアの格闘技シラットの達人)のコンビによる新たなアクション映画。

ストーリーは極めて単純で、ジャカルタの麻薬王とその部下たちが住むスラム街のビルに、彼らの撲滅を計画した機動隊の一隊が奇襲を試みるものの、鉄壁の守りを誇るゴロツキたちの前に彼らのことがバレてしまい、逆に狩られる身になってしまう。そして機動隊の隊員は1人また1人と殺されていき、どうにか生き残った主人公とその仲間たちはビルからの決死の脱出を図るのだが…というようなプロット。

最初の30分くらいは機動隊とゴロツキどもの銃撃戦がメインで、血と肉が飛び散るFPSゲームばりのアサルトライフルによるガンファイトが繰り広げられるぞ。そして機動隊員の数が減り、彼らの弾薬が尽きたところでゴロツキたちも都合よく銃を使わなくなるんだが、そこから先は主人公を中心としたシラットによる肉弾戦が続き、壁を破り床を突き抜けるバトルが堪能できる。当然ながらワイヤーアクションなどは皆無だし、カンフー映画に比べて技がコンパクト(肘打ち・ヒザ蹴りが多い)なものの、主人公の動きがハンパじゃないうえにカメラワークも巧みで拍手したくなるくらいに見事な格闘を見せてくれるぞ。主人公に負けじと機動隊の隊長も熱い戦いをするんだが、あの役者は柔道の選手だったのか。

なおラスボス的な人(すんごく強い)は「タイガーキッド」で準ラスボスみたいな役を演じてた人で(エレベーターの人)、またお前と戦うのかよ!といった感じでしたが、ああいうアクションが出来る人が少ないんだろうね。実生活ではシラットのインストラクターやってる大ベテランらしい。

麻薬王の登場シーンが「白いランニング着てラーメン食ってる」というのはどうもカッコ悪いし、ビルの中に主人公の○○がいるというのは都合良すぎる気もするけど、細かいことは考えずにひたすら続くアクションを楽しみましょう。あと「タイガーキッド」もそうだったけど、敵はたくさんいるのにみんな1人ずつ襲ってくる展開が多かったかな。1人対複数のバトルの演出が今後のさらなる課題かもしれない。

インドネシアはおろかアメリカでもヒットを記録し、続編やアメリカ版のリメークの製作も企画されているとのことで、バイオレンス描写がOKな人は観ておいて損しない作品でしょう。

「プロメテウス」鑑賞


先行上映で鑑賞。ネタバレにならない程度に感想を挙げていくと:

・監督の意向でプロモーションでは曖昧にされてるけど、「エイリアン」(当然第一作ね)の完全なプリクエルです。あれを先に観ておくことを強くお勧めします。
・科学考証とか登場人物の動機とかはツッコミどころが山ほどあるんだけど、細けーことは気にすんなよ!大金がつぎ込まれたであろう驚異のビジュアルと、先の読めない、殆ど行きあたりばったりなストーリー展開を黙って楽しみましょう。
・話の前半はセンス・オブ・ワンダー溢れるハードなSF映画といった感じで、遺跡を捜索する描写はゾクゾクさせてくれる。後半になると当然ながらヌルヌル、ヌメヌメした展開になるのですが、前半のノリでデニケン的な映画になったとしてもそれはそれで面白かったかも。
・ガイ・ピアースに老けメイクを施すよりも、老人の役者を雇ったほうが安上がりだったろうに。あとパトリック・ウィルソンが30秒くらい出演してた。
・スペース・ジョッキーのホログラム映像などは、3Dで観る価値あるかな。ホタルイカとかゲソを食いながら観るとさらに臨場感がアップするでしょう(特に女性)。
・スティーブン・スティルスってアコーディオンなんか演奏したっけ?
・ゴムはつけろよ!

全体的な雰囲気は「エイリアン」よりも、もしかしたら「プレデターズ」に近いかも。あれが許容できる人ならこの映画も好きになれるはず。あと「エイリアン」に便乗したパクリ映画「ギャラクシー・オブ・テラー」に意外とプロットが似ているような?

前述したようにツッコミどころというか疑問点が山ほどある作品だけど、個人的にはかなり楽しめる作品でしたよ。さっそく続編の話がでているようなので、今回の謎がそちらで解明されることに期待しましょう。

「ダークナイト ライジング」鑑賞


一部で言われてるほど悪い映画ではない。というか普通に優れた映画なのだが、必然的にあの傑作「ダークナイト」と比べられてしまうのが損なところか。あっちは悪役の動機やオリジンを説明する必要がなかったし、後味の悪い終わり方も「次があるから」で済ませることができたが、こちらは話をきちんと畳まないといけないわけで、そうなると万人を満足させることはまず無理だったのでは。とりあえずネタバレ気味の雑感をいくつか:

・ベインは話し方が異様にカッコ悪い。なぜパブで一杯やってるオヤジのような話し方をするのかと思ったら、アイリッシュ・トラベラーの拳闘家をモデルにしてたのか。なんか知的なストラテジストのようには聞こえないのよね。そもそも彼の組織は変なアクセントで話す人が多いような。

・3時間近い長尺でありながら、「増長した主人公が痛い目にあう」とか「時限装置付きの爆弾は(悪役が望むようには)爆発しない」といったクリーシェに多くの時間を割いてしまったのが残念。映画で「驚異の新エネルギー」みたいなものが出てくると必ず悪用されるよね。

・前作のラストでバットマンは警察に追われる身となったわけだから、今回のクライマックスで市民とでなく警官たちと蜂起する展開はそんなに変だとも思わなかった。昼間にバットマンを登場させるのは好ましくない演出だと思うが。

・「トーチウッド」のバーン・ゴーマンが意外と出演シーンが多かった。あとは「ザ・ワイヤー」のエイダン・ギレンやロバート・ウィズダムがチョイ役で出ていていい感じ。そしてマシュー・モディーンはあんなに背が高かったのか。

観てて楽しみつつも、「前作ほどではないな…」と頭の片隅で思ってしまうという、複雑な心境にさせる作品であった。このまま「スパイダーマン」みたいにフランチャイズを安易にリブートさせるのは勿体ないから、「彼」を主人公にした新たな3部作を作ればいいのに!

「金陵十三釵」鑑賞


英題「The Flowers Of War」。南京事件を扱ったチャン・イーモウ監督の作品で、主役はハリウッドスターのクリスチャン・ベール。題材が題材だけに日本では当分公開されないだろうからネタバレ気味に書いていく。

舞台は1937年の南京。上海を占領した日本軍は南京にも侵攻し、街の陥落は目前であった。その争乱のなかで逃げまどう少女のシュウはジョンというアメリカ人に出会い、彼女の暮らす修道院へと一緒に逃げ帰る。実はジョンは葬儀屋であり、最近他界した司祭の葬儀を行う依頼を受けて修道院を目指していたのだという。しかし戦乱が激しくなるなかでジョンや修道院の少女たちは建物のなかに篭城せざるをえなくなり、さらには売春宿から避難してきた娼婦たちも修道院にやってきて地下室に棲みつくことに。そしてついに日本軍の兵士たちも修道院にやってきて…というようなストーリー。ちなみに争乱の犠牲者は20万人という説明が冒頭でされてます。

中国映画史上において空前の製作費がつぎ込まれたという大作だが、要するにプロパガンダ映画なので日本人兵士の描写はけっこうエグいですよ。銃撃もろくに当たらず小隊が1狙撃兵に手玉にとられるほか、女性を見つけると目をギラつかせて追いかけ回す次第。こういう描写は予想していたものの、娼婦の1人が捕まって輪姦されるシーンとかはかなりしんどかったよ。日本語を話す役にはきちんと日本人俳優を起用している点は素直に評価しますが。

そんななかで彼らの隊長は英語を話し、少女たちの境遇を憐れんでくれるいい人として描かれてるのだが、オルガンを見るなり「ちょっといいかな?」と言って「故郷」を弾きだす演出のクサさ。主人公に外タレを起用してるので仕方ないんだが、「英語が出来る人=教養のある人」という図式になってるのはちょっと単純かと。アメリカを含む世界各国へのアピールを狙って外タレを主役にした意図は理解できるものの、おかげでジョンは「西洋人なので日本軍もうかつに手を出せない人」になってしまい、身の危険を感じて怯えている中国人たちとはちょっと異なる存在になったのが残念なところか。普通に中国人を主役にしたほうが緊迫感があって良かったのでは。

またジョンは最初は飲んだくれで葬儀代だけを気にするヘタレだったのが、良心の呵責を感じて少女たちの保護に身を尽くすようになるものの、そこらへんの心境の変化の描き方がどうも希薄であった。それ以外にも「無垢の象徴の少女たち」とか「黄金の心を持った娼婦」「身を挺して人民を守る兵士」などと登場人物がみな紋切り型であったのも興醒め。戦争という極限状態だからこそ、もっと複雑な人間性が露呈されるはずだと思うんだけどね。

そして話の後半では少女のうち13名が選ばれて日本軍のパーティーで歌を披露するように命じられるのだが(生きて帰って来れない場所、と強く示唆されている)、それを見かねた娼婦たちが「あたいらが身代わりになってあげるよ!」とコスプレをしたりするのですが、20代の女性が13歳の少女たちを演じるのはさすがに無理があるかと。相手が白人ならまだしも、日本人はアジア人の顔と年齢の見分けがつくだろうに。「髪をボブカットにしたら10歳若返った!」というようなセリフには思わず苦笑。しかも変装が済んだあとに実は娼婦たちが12人しかいないことが判明するのだが、そんなこと計画を練る前に気付けよ!それに対して出された解決策も「ええっ?」という感じのものだったし、彼女たちが日本軍に一矢報いるわけでもなくただ死地(?)へと赴く展開はどうも後味の悪いものだったな。歴史的史実がどうこうという以前に、脚本がザルなのが気になったよ。

とはいえチャン・イーモウ作品ということで映像美やシネマトグラフィーは大変素晴らしく、冒頭の市街戦のシーンなどは迫力もあり「お、これ結構面白いかも」と思ったんだが、中盤になって役者が出そろったあとはメロドラマ的な展開が続くのが興醒め。アメリカなどでも評判は芳しくなく大して話題にはならなかったものの、中国市場では歴代6位くらいの大ヒットになったということで、日本の映画業界も大枚はたいてブラッド・ピットあたりを呼んで震災復興のプロパガンダ映画とか作ったらいいカンフル剤になるんじゃないでしょうか。

とりあえずこの映画を観てて思ったのは、第二次世界大戦が舞台のアメリカ映画を観るドイツ人の気持ちがよく分かったということでして、こうなったらいっそ行きつくところまで行って、女刑務所長ものとか和製ジョイ・ディヴィジョンものとかのサブジャンルを旧日本軍でも確立させようよ!