「 LOOPER/ルーパー」鑑賞


かの知られざる傑作「BRICK‐ブリック‐」のライアン・ジョンソンとジョセフ・ゴードン=レヴィットが再び組んだSFアクション。

既に日本の公式サイトがあるのでストーリーはそちらを参照してください。30年後の未来の犯罪組織から送られてくる邪魔者を始末する仕事を受けていた主人公が、未来の自分を始末する羽目になり…といったプロットです。ちょっと理解するのに時間がかかったんだが、舞台は現在とその30年後、ではなく2044年と2074年になるのですね。2044年の光景が現在とあまり変わらないんで少し困惑してしまったよ。

主役のゴードン=レヴィットの30年後の姿を演じるのがブルース・ウィリスで、他にもポール・ダノやエミリー・ブラント、ジェフ・ダニエルスなど豪華なキャストが脇を固めている。ウィリスに似せるためにゴードン=レヴィットは特殊メークをしてるのだが、おかげでいつもと違った顔つきになってしまい少し不気味であった。それでもあの顔がああなるのは結構無理があるような。

ブルース・ウィリスのタイムトラベルものという意味では「12モンキーズ」に似てるかな。「ガタカ」みたいな知的なSFものが好きな人にも受けるかと。タイムトラベルのシーンには、あの時間軸重なりまくりのカルト映画「プライマー」のシェーン・カルースが関わってるらしいんだけど、殆どそんなシーンは無かったような…?撮影はルイジアナと上海で行われていて、中国の配給会社が金を出してくれたので上海で撮影できたらしい。今後も中国資本をバックにした中国での撮影が増えてくるのかなあ。

タイムトラベルもの映画の常として、いろいろツッコミ入れたいところはあるのですが、あまり深く考えずに観れば楽しめる作品かと。ただアクションに重きを置きすぎて、アイデアが少し軽めになっている感は否めない。「ブリック」はハードボイルドのガムシューものを高校でやってしまったアイデアが斬新だったが、こちらはあくまでもよく出来たSF作品、といった感じ。

「ALPS」鑑賞


「Dogtooth」こと「籠の中の乙女」で全世界の度肝を抜いたヨルゴス・ランティモス監督の新作。主演は「乙女」の長女を演じた人で、「Attenberg」の女の子も出てます。

新体操のジムに通う少女2人が、中年男性ふたりと組んで「アルプス」というグループを結成。彼らは愛する人たちを失った遺族に近づき、亡くなった人の身代わりをしばらく演じることで、別れの悲しみを和らげさせるという商売を始めるのだが…というようなプロット。

話のあらすじだけ聞くと、人との別離を感情的に描くとか、他人を演じてアイデンティティ・クライシスに陥るとか、職務を忘れて遺族を愛してしまうとか、なんかそんなメロドラマチックな展開を期待してしまうのですが、そんな描写は全然なくて、ただ与えられた仕事を無機質に淡々とこなしていく主人公たちの姿が描かれていく。

彼女たちの「サービス」を受ける遺族たちについても顔が殆ど映されず、感情も表にしないのがかなり不気味で、主人公たちに感謝するどころか彼女たちにコスプレをさせ、あれこれ指示してコキ使っている始末。恋人代行としてエッチする者もいるほか、亡くなった夫の浮気現場を再現させ、それを「発見」して主人公をペチペチ叩くオバさんとか、もうやりたい放題。

前作では家の中という非常に限られた空間におけるニセモノの世界という設定が斬新であったが、今回は本物の世界にニセモノの人物を持ってきたことで、どうも話の焦点が希薄になってしまった感じ。この監督のスタイルではあるんだろうが、あまりにも説明不足で突き放した印象を受けてしまい、どうしても話に感情移入できないのが残念。もうちょっと観る人へのサービス精神を発揮してくれたらもっと楽しめる作品になっていただろうに。この監督の次回作は英語の作品になるらしいが、もう少し大衆性を持ってくれることに期待。

「ホビット 思いがけない冒険」


ケチなので2Dで観ました。48FPSってのも経験したかったんだけどね。

なるべく事前にいろいろ調べないようにして観に行ったのですが、いやリチャード・アーミテジやジェームズ・ネスビットが出演していたことがエンドクレジットの時点まで気づきませんでしたよ。みんな鼻のデカいメークをしてるんですもの。

世の中的には批評的にも興収的にも前作とくらべてイマイチといった話が出ているものの、個人的には結構楽しめましたよ。確かに前作と比べるとストーリーのスリル感が欠けているかもしれないが、それはひとえに原作が「指輪物語」に比べると弱いということで。

冒頭からイアン・ホルムとかイライジャ・ウッドなど懐かしい顔が出てきて寸劇じみたことをやって、それからドワーフたちのコントじみた酒宴が行われたりと、どことなく間延びしてる感は否めず、前半もフラッシュバックや小話などが続いてちょっとダレ気味かな…と思いつつも観てるうちにホワーンとした感じになってきて、ニュージーランドの美しい大自然の風景と相まって中つ国の盛大な観光映画を観てるような気分になっておりました。やはり監督にピーター・ジャクソンを起用したのは正解だよな。逆にアクション満載の後半のほうが、「ありがち」な光景のような気がして前半ほど楽しめませんでした。やはり「ホビット」には「指輪物語」と違ってアネクドート色の強さが求められてるのかしらん。

そういう意味ではマーティン・フリーマン演じるビルボ・バギンズは大変素晴らしいんだけど、原作だともっとトリックスター的というか呑気なタイプじゃなかったっけ?映画向けにちょっとだけ暴力的に描かれているような。その他の登場人物の演技も、上記のメークとあわせて見事なのですが、クリーチャーたちのほうはCGっぽさが気になったかな。ゴラムは例外的に素晴らしかったですが。タバコの煙くらいCGに頼らなくてもいいんじゃないの、と思うのよ。

2部作の予定だったのが3部になったことにはまだ不安があるものの、とりあえず第1作は大変楽しめる内容でした。今後の展開に期待。

「プレミアム・ラッシュ」鑑賞


ジョゼフ・ゴードン=レヴィット主演のアクション・サスペンス。

ワイリーはニューヨークの法律学校に通っていたが、スーツを来た弁護士になることに興味を抱けず、スリルを求めて自転車のメッセンジャー・サービスをやっていた。ギアなし・ブレーキなしの金属製フレームというベーシックな自転車に乗った彼は自分の脚力と反射神経を駆使してニューヨークの忙しい街なかを疾走し、所属する事務所のなかでもトップレベルの腕を誇っていたが、ある日ガールフレンドのルームメイトより封筒をチャイナタウンまで最優先(プレミアム・ラッシュ)で届けるように依頼される。しかし配達を始めたとたんにワイリーは謎の男に追跡され、身の安全を脅かされるようになる。さらにこの追跡劇に市警の自転車警官や中国人マフィア、ライバルの同僚などが加わり、はたしてワイリーは時間内に封筒を届けることができるのか…というようなストーリー。

冒頭からニューヨークの喧噪のなかを、最適ルートを瞬時に見極めながら自在に走りまくるワイリーの活躍が描かれ、アドレナリンが出っぱなし。タクシーにつかまったり歩道を走ったりとやってることは違法まがいなんだが、車と車のあいだをすり抜けながら走る姿がカッコいいのです。このデリバリーのシーンに過去のシーンがフラッシュバックで挿入され、封筒にまつわる謎が徐々に明らかになっていく。こうしたフラッシュバックや追跡以外のシーンも決してダラけた雰囲気にならず、いい感じの短さでテンションを緩めさせないのが巧いな。

冒頭のマンハッタンの北から南まで90分以内という注文は余裕じゃね?と思ったけど、いろいろ邪魔が入って道路を逆走したり、セントラルパークでレースをしたりと多様な展開が楽しめるぞ。難があるとすれば最後のモブシーンのところがちょっと地味だったかな。あと今さら「ババ・オライリー」を使わなくても。

1時間半のあいだ手に汗握って楽しめる良質のサスペンス映画。これ日本じゃ劇場公開しないの勿体ないよねえ。きちんと宣伝して上映すればゼニが稼げる作品になるはずなんだが。

「Bernie」鑑賞


リチャード・リンクレイターの新作で、実際にあった事件をほとんど脚色なしに映画化したもの。

舞台になるのはテキサス東部のカーセイジという小さな街。そこの葬儀屋に勤めることになったバーニー・ティードは死者や遺族への面倒見もよく、地域の慈善活動にも積極的に参加する男性でカーセイジの誰からも好まれていた。そんなときバーニーは夫を亡くしたマージョリーという老婆の面倒を見るうちに彼女と懇意になっていき、意固地でケチで親族とも仲が悪かったマージョリーも、バーニーに対しては心を開くようになっていく。しまいには「2人はデキているのではないか?」と噂されるほどの仲になり、マージョリーの遺産をバーニーが引き継ぐ約束までされるのだが、やがて彼女はバーニーをコキ使うようになり、彼に厳しく当たるようになる。これに耐えられなくなったバーニーは、彼女を射殺してしまうのだが…というような話。

劇中でバーニーは徹底した善人として描かれ、他人のためにあらゆることを尽くす彼は、マージョリーを殺したあとも彼女の財産を慈善活動に与えてしまうような始末。それに対してマージョリーは地域のみんなに嫌われていた意地悪ばあさんとして扱われ、やがてバーニーの犯罪が明らかになっても、街の人々は彼の無罪を信じて疑わない状態。これでは陪審員がみんな彼に同上してしまうと危惧した検察官が、裁判が行われる場所を遠くに移してしまうという前代未聞の行為に至るまでがコメディタッチで描かれている。

世話好きで皆に愛されるバーニーを演じるのがジャック・ブラックで、芸達者な主人公を好演。賛美歌を教会で歌ったりするんだが、やはり歌が入ると彼は非常に魅力的になりますね。そんな彼をどうにかして有罪にしようとする派手好きな検察官をマシュー・マコノヒーが演じていて、こないだの「マジック・マイク」なども含めて今年の彼は非常に芸風が広がりましたね。そして意固地なマージョリーを演じるのがシャーリー・マクレーンで、70代後半になってもキビキビと演技しております。ただ彼女ってコケティッシュな演技が似合うタイプだと思うので、ずっと仏頂面をしているのがちょっと残念。彼女とマコノヒーのかけ合いも見たかったな。

犯罪者があまりにも愛されていて、皆が彼の無実を信じているという特異性にリンクレイターは興味を抱いたらしいが、果たしてバーニーは悪人なのか、それとも法の仕組みが悪いのか、そこらへんが風刺としても深くツッコまれておらず、どうもテーマがぼやけてしまった感じがするのは俺だけだろうか。街の住人へのインタビューを多用した作りにしたのも理解はできるのだが、なんかドキュメンタリーっぽくなってストーリーの勢いを殺してしまっている気がする。なんか事件の始終をそのまま描いた感じになってしまっていて、もうちょっと脚色してでも話に起伏を持たせたほうが良かったんじゃないかと思うけどね。

なお検察官の作戦は成功して、バーニーは殺人と横領の容疑で終身刑を下されて現在服役中。刑務所でも料理教室などを開催して善人ぶりを発揮してるらしい。日本でも老人を介護する人たちが増えるにつれ、これに似た事件が起きてくるかもしれませんよ。