「BEING ELMO: A PUPPETEER’S JOURNEY 」鑑賞


前からちょっと観たかった、「セサミストリート」のエルモのパペッティアであるケヴィン・クラッシュを扱ったドキュメンタリー。

ボルチモアの郊外に生まれ育ったケヴィンは、幼少のときに観た子供向け番組、特に「セサミストリート」に心を奪われ、自分でもパペットをつくって近所の子供たちのためにショーを開催するようになる。高校生になってもパペットに対する情熱は消えず、おかげで同級生たちにイジメられたりもするのだが、やがて地元のテレビ番組に出演するようになる。さらにジム・ヘンソンのためにパペットを作っていたカーミット・ラブの工房に出入りしてパペット作りの極意を学ぶようになり、やがてヘンソンその人とも知り合いになって「セサミストリート」への参加を要請される…というようなストーリー。

クラッシュ(Clash)という名前に加えて大柄な外見のケヴィンはまるでセサミというよりWWFの人のような感じなのですが、そんな彼がファルセットでエルモの声を発する姿はなかなかインパクトがあるぞ。もちろん彼はエルモやそれ以外のパペットの声だけでなく振り付け(操作)なども自分で担当していて、外国版のセサミのパペッティアたちを入念に指導する姿などは完全なプロフェッショナルですね。

駆け出しのころにパペットから縫い目を消す方法がどうしても分からず、カーミット・ラブのところに行ったら当時まだ珍しかったフリースという生地を紹介されたことや、ヘンソンのマペットに用いられている特殊な縫い方を目にして「これがあの『ヘンソン縫い』か!」と感嘆したなんていう逸話が面白かったな。

「くすぐりエルモ」が絶大な人気を誇っていた時も「エルモを操れるのは自分だけだ!」という自負のもと世界を駆け巡り、おかげで家族を顧みる時間がなかったなんてことも語られるものの、基本的にはストレートなサクセスストーリーなので話に起伏があるわけでもないのが欠点といえば欠点かな。とはいえ子供の頃からの夢を追いかけて実現させた人の話というのは、いろいろ学ぶべきことがありますね。

「アメイジング・スパイダーマン」鑑賞


うーん。オタクが丹念に作り上げた曲を、イケメンのにーちゃんたちがやってきて「後はまかせとけ!」といった調子でそれをカバーしたような感じというか、きらびやかさはあるものの、どうも情熱が感じられないんだよな。

監督のマーク・ウェッブがどれだけスパイダーマンに詳しいのか知らないけど、サム・ライミはウィレム・デフォーにスパイダーマンの魅力を電話で2時間と語り続けたという筋金入りのファンであるわけで、原作へのリスペクトが前シリーズでは如実に感じられたわけです。それに対して今回のはライミ版から無理して離れようとしている印象があって、おかげでスパイダーマン作品として外せない点が外されてるというか。アンクル・ベンが「With great power …」のセリフも言わずにあっけなく死んでしまったのは拍子抜けしたなあ。

アクション・シーンも比較的凡庸。個人的に思うにリザードってバットマンでいうとツーフェイスくらいの敵役で、単独で映画を抱えられるほどのキャラクターではないと思うのですよ。顔のデザインも平面的でキバも生えてないし、学校の廊下でチマチマ戦われてもねえ。とはいえディラン・ベイカー版のリザードなら観てみたかった気もするが。

褒めるべき点としては、ピーターとグウェンの恋愛関係は巧く描かれていたところか。ここらへんはやはり「500日のサマー」の監督ですね。エマ・ストーンの相変わらずドス太い声は原作の繊細なグウェンのイメージに合わないものの、ピーターを見守る母性的な雰囲気はよく出ていたと思う。それに対してサリー・フィールド演じるメイおばさんが単なる薄幸な女性みたいになっていたのは残念。またキャプテン・ステイシーがXXするシーンは原作でも屈指の名場面であるわけで、あれを無駄にしてしまったのは勿体ないよな。

本当はサム・ライミは「4」も作る気があって十分な準備期間を要求したものの、スタジオ側が待ちきれずに今回のリブートに踏み切ったわけだが、出来た作品から判断するにソニーはもう数年待ってでもライミに「4」を作らせるべきだったんじゃないだろうか。今回の封切り時の興行成績が1〜3のどれよりも下回っているという結果も出ていることだし。フランチャイズのリブートってのはどうもタイミングが難しいね。

「ゴッド・ブレス・アメリカ」鑑賞


WORLD’S GREATEST DAD」のボブキャット・ゴールドスウェイトによる新作。

フランクはしがない中年のサラリーマンで、妻子とも別れてひとり寂しく暮らしていた。毎晩のように放送されるゴミのような番組やニュースに嫌悪感を抱きつつもテレビを眺める凡庸な生活を送っていたのだが、ある日ハラスメントの容疑をかけられて職場を解雇されたうえに頭に脳腫瘍が見つかるという災難に見舞われてしまう。これによって自殺を考えるフランクだが、いっそ死ぬ前にテレビで見かけた生意気なクソガキを殺してから死のうと考え、彼女の通う高校に向かう…というストーリー。

フランクの所業に惚れ込んだロキシーというサイコな女子高生が彼に加わり、2人がアメリカ各地をまわりながら殺戮を繰り返していく内容になっていて、2人の裁きをうけるのはリアリティー番組に出てくるアホなティーンや、ティーパーティーのデモ参加者、ニュース局の保守コメンテーターなどなど。とはいえフランクは極端なリベラルとかアナーキストというわけではなく、単に世の中のゴミっぷりに当惑してるごく普通の中年として描かれている。ここらへんは監督の世間に対する考えがストレートに出てるみたい。サイコな女子高生が相棒にいることもあり雰囲気的には「スーパー!」に似てるんだけど、あっちよりもより社会的で暗い内容になってるかな。

ちなみにアメリカの病理(というかトラッシュ的なところ)を扱った作品なので、彼の国の時事ネタとか文化にはある程度精通してないと十分に楽しめないかも。アメリカン・アイドル(特にウィリアム・ハンのやつ)とかビル・オライリーとかウエストボロ・バプティスト教会とかについてはざっと知っておいたほうがいいでしょう。あと基本的にサタイアなので、話にリアリティーが無いとか文句言うのはダメよ。

ストーリー自体は安直とはいえカタルシスを与えてくれる展開が楽しめるんだけど、最後までヒネリがあまり無かったかな。トレーラーが話を8割くらい語ってしまっているというか。またニューヨークやハリウッドなどでロケを行ったりしてそれなりに製作費はかかっているものの、どことなく全体的に散漫な感じになってしまったことは否めない。高校という小さな世界における中年男の悲哀を描いた前作のほうが、話としてはうまくまとまっていたのではないかと。

なお一番のめっけものはロキシー役を演じるタラ・リン・バーという女優で、もう18歳らしいが背が低いこともあり童顔の高校生の役がやたらハマっていた。ハッとするくらい美しい表情を見せる一方でニコニコしながら銃を乱射し、アリス・クーパーや「或る夜の出来事」をさらっと引用してたりすんの。これからの活躍が期待できそうな役者ですね。

個人的には「WORLD’S GREATEST DAD」と比べて必ずしも優れているわけではなかったけど、芸能人がメシ食ってるだけの番組を観て、彼らを毒殺したいと思ったことのある人にはお薦めの作品ではないでしょうか。

しかしウィリアム・ハンって、現在は犯罪アナリストとして働いてるのか…。

「SOUND OF NOISE」鑑賞


AintItCoolのデブ君などが絶賛していたスウェーデン・フランス合作の映画。

アマデウスは著名な音楽家を輩出してきた家系の出身で、弟も人気ある指揮者だったが、自身は音楽のセンスが全くなく、音感が無いどころか音符も読めない一家の異端児であり、音楽を嫌って刑事として働いていた。そんな彼のところに前代未聞の事件が飛び込んでくる。街に流れる音楽の凡庸さに飽き飽きした6人のミュージシャンが、この世の中をブチ壊せ!といった意向で音楽にまつわる4つの破壊計画を計画(作曲)し、それを実行に移してきたのだ。まず彼らは病院に潜入し、手術室で派手な音楽パフォーマンスを繰り広げる。その現場から犯人たちがミュージシャンであることを察したアマデウスは、図らずも音楽にまつわる調査に関わることになり…というようなストーリー。

ミュージシャンの6人は基本的にみんなドラマーなので、身の回りのものをポコポコと叩いて音楽を生み出していくさまはブルーマン・グループかアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのよう。医療機器や銀行の備品、工事現場の重機などを使って音楽パフォーマンスを繰り広げるさまが非常に面白いぞ。

これに対してアマデウスは自分の音楽嫌いを逆に利用して犯人グループを追っていくわけだが、音楽コメディと刑事ドラマのバランスがいまいちだったかな。特に最後の展開などは腑に落ちない人もいるかも。あとミュージシャンたちのリーダーで紅一点の女性がオバハン顔なのもちょっと残念。

尺をもう少し削ればさらにノリが良くなったかもしれないけど、各々のパフォーマンスの光景はあなたの顔に笑みをもたらすでしょう。日本でも単館系で公開すればヒットしそうな作品ですね。

「アイアン・スカイ」鑑賞


フィンランドで「スター・レック」を作った人たちが、また資金集めから始めて長年コツコツと作業して完成させたSFコメディ。前作はクリエイティブ・コモンズ下のアマチュア・ムービーといった感が強かったけど(ただし出来はとてもいい)、今回はフィンランドとドイツとオーストラリアの合作という扱いだし、オーストラリアやニューヨークなどでもロケをしていて大作になったなあという印象を受ける。でも良い意味でアマチュア感覚が残ってるけどね。

舞台は2018年。アポロ計画以来となるアメリカの宇宙船が月の裏側に着陸すると、そこにはなんと第二次世界大戦の際にナチスの残党が秘密基地を作り上げていた。彼らは宇宙飛行士を捕獲し、彼が持っていた携帯電話の技術がナチスの巨大宇宙船「神々の黄昏」号の完成に必要不可欠であることを発見する。そしてこの技術を入手するために、総統の命を受けてナチス高官のアドラーは小型宇宙船でニューヨークに潜入するのだが…というようなストーリー。

話のあらすじはアサイラム社のC級ムービーみたいに聞こえるかもしれないが、アメリカに対する皮肉がいっぱい詰まった意外にクレバーな風刺映画になっていたよ。アメリカの大統領は再選のことしか頭にないサラ・ペイリンだし、彼女の選挙担当にアドラーは気に入られてナチスの選挙宣伝がそのまま取り入れられ、ペイリンの演説にアメリカ国民は大喝采を浴びせたりすんの。ヨーロッパ映画ってこういうセンスがハリウッドと違うよね。IMDBの掲示板などでは例によって「これは反ナチ映画というよりも反米映画では?」と憤慨している人もいるみたいだけど、いやそういう映画なんですってば。

もちろんナチスの気違いっぷりもちゃんと描かれてるし、世界各国の利権争いなども風刺されてるので、そこらへんの最低限の知識は持っておいたほうが楽しめるかと。コメディの部分も秀逸で、「総統閣下シリーズ」のパロディもしっかりやってくれてるぞ。あとナチス総統をウド・キアー御大が演じてるほか、音楽をライバッハが担当してるので格好いいノイズ・ミュージックが突然流れたりと至れり尽くせり。

特殊効果の映像もハリウッドのメジャー級作品に比べれば安っぽさが目立つものの、ちゃんと屋外ロケをやってたりするあたりはザック・スナイダーのグリーンスクリーン映画よりも出来がいいと思うけどね。ただし最後のドンパチ(当然ナチスが地球に侵略してくる)に関しては、「スター・トレック対バビロン5」の総力戦というオタク感涙ものの大バトルを繰り広げた前作に比べると弱冠規模が小さかったかな。また前作同様に戦いの中に意外と真面目なペーソスが盛り込まれていて、最後はしんみりとさせるところもあったな。

ハリウッドの大作に慣れた目で見てしまうと、脚本も演出もどこか物足りない部分があったものの、作り手がみんな頑張って楽しんでいるのが感じられて、とても好感の持てる映画でありました。彼らの次回のプロジェクトがまたファンからの寄付を募ったら、いくらか出そうかな。