「アイアン・スカイ」鑑賞


フィンランドで「スター・レック」を作った人たちが、また資金集めから始めて長年コツコツと作業して完成させたSFコメディ。前作はクリエイティブ・コモンズ下のアマチュア・ムービーといった感が強かったけど(ただし出来はとてもいい)、今回はフィンランドとドイツとオーストラリアの合作という扱いだし、オーストラリアやニューヨークなどでもロケをしていて大作になったなあという印象を受ける。でも良い意味でアマチュア感覚が残ってるけどね。

舞台は2018年。アポロ計画以来となるアメリカの宇宙船が月の裏側に着陸すると、そこにはなんと第二次世界大戦の際にナチスの残党が秘密基地を作り上げていた。彼らは宇宙飛行士を捕獲し、彼が持っていた携帯電話の技術がナチスの巨大宇宙船「神々の黄昏」号の完成に必要不可欠であることを発見する。そしてこの技術を入手するために、総統の命を受けてナチス高官のアドラーは小型宇宙船でニューヨークに潜入するのだが…というようなストーリー。

話のあらすじはアサイラム社のC級ムービーみたいに聞こえるかもしれないが、アメリカに対する皮肉がいっぱい詰まった意外にクレバーな風刺映画になっていたよ。アメリカの大統領は再選のことしか頭にないサラ・ペイリンだし、彼女の選挙担当にアドラーは気に入られてナチスの選挙宣伝がそのまま取り入れられ、ペイリンの演説にアメリカ国民は大喝采を浴びせたりすんの。ヨーロッパ映画ってこういうセンスがハリウッドと違うよね。IMDBの掲示板などでは例によって「これは反ナチ映画というよりも反米映画では?」と憤慨している人もいるみたいだけど、いやそういう映画なんですってば。

もちろんナチスの気違いっぷりもちゃんと描かれてるし、世界各国の利権争いなども風刺されてるので、そこらへんの最低限の知識は持っておいたほうが楽しめるかと。コメディの部分も秀逸で、「総統閣下シリーズ」のパロディもしっかりやってくれてるぞ。あとナチス総統をウド・キアー御大が演じてるほか、音楽をライバッハが担当してるので格好いいノイズ・ミュージックが突然流れたりと至れり尽くせり。

特殊効果の映像もハリウッドのメジャー級作品に比べれば安っぽさが目立つものの、ちゃんと屋外ロケをやってたりするあたりはザック・スナイダーのグリーンスクリーン映画よりも出来がいいと思うけどね。ただし最後のドンパチ(当然ナチスが地球に侵略してくる)に関しては、「スター・トレック対バビロン5」の総力戦というオタク感涙ものの大バトルを繰り広げた前作に比べると弱冠規模が小さかったかな。また前作同様に戦いの中に意外と真面目なペーソスが盛り込まれていて、最後はしんみりとさせるところもあったな。

ハリウッドの大作に慣れた目で見てしまうと、脚本も演出もどこか物足りない部分があったものの、作り手がみんな頑張って楽しんでいるのが感じられて、とても好感の持てる映画でありました。彼らの次回のプロジェクトがまたファンからの寄付を募ったら、いくらか出そうかな。

「RED TAILS」鑑賞


ジョー・キューバート御大のポスターはかっこいいね。最近引退説がいろいろ出てきてるジョージ・ルーカスが自腹を切って製作した戦争映画。

「タスキーギ・エアメン」の名で知られる、黒人のみで編成されたアメリカ陸軍航空隊第332戦闘機隊の活躍を描いたもので、そこのパイロットたちは優秀な腕を誇っていたものの、軍内部の偏見により前線での活躍の場を与えられず、中古機を与えられてイタリアで後方支援をしていた。しかし幹部たちの上層部へのアピールが認められ、ドイツ軍との初めての空中戦でも成果を出したことから、最新鋭の戦闘機P-51ムスタングを与えられる。そして彼らは機体の尾翼を赤く塗ったことで「レッド・テイルズ」の通称で知られるようになり、ベルリンへの爆撃機の援護にあたるのだった…というようなストーリー。

いちおうクレジット上ではテレンス・ハワードとキューバ・グッディング・Jr.が主役扱いだけど、彼らはお偉いさんの役で地上から戦闘を見守ってるだけで、その部下のパイロットたちの活躍と葛藤に焦点が当てられている。トリスタン・ワイルズやアンドレ・ローヨなど「ザ・ワイヤー」の役者が多く出演してるぞ。

それで内容はとにかくベタ。戦争映画のクリーシェが山ほど出てきて「戦争が終わったらあの娘と結婚するんだ」とかやってくれるほか、やたら説明調なセリフが次々と出てきてちょっとウンザリ。2時間超の尺にいろんな展開を詰め込みずぎて盛り上げに欠けてるというか、TVムービーのダイジェストを観ているような気になってくる。イタリア娘とのロマンスとか捕虜収容所からの脱走とかを削ってでも、もうちょっと1つ1つのシーンを丁寧に描いてもよかったと思うんだけどね。軍のなかで差別されてた黒人たちが空中戦で成果を出したら「お、やるじゃん」と白人に認められてそのまま仲良くなる、というのもさらっと描かれ過ぎてるし。

また見せ場になるドッグファイトのシーンもいまいち迫力がないというか、「デス・スター突入」なみのスリルを求めてはいけません。せいぜい「エピソード1」の空中戦くらいのレベル。監督のアンソニー・ヘミングウェイはこれが初劇場作品とはいえ「ザ・ワイヤー」とか「ギャラクティカ」を手がけてるので臨場感のある演出はもっとできそうなものなんだがなあ。また脚本には「ブーンドックス」の作者であるアーロン・マクグルーダーが関わっていて、彼は「エピソード1」が公開されたときに「ジャー・ジャー・ビンクスは黒人のカリチュアだ!」と文句言ったところ「じゃあお前がやってみい」といった感じでルーカスにこの脚本を託されたらしいが、コミックでは気の利いたセリフを書けても映画ではそうもいかなかったということか?

暗黒面に堕ちたと噂されて久しいものの、個人的にはやはりジョージ・ルーカスって好きだし、彼のこの題材の映画化および公開にかけた熱意はインタビューなどからもひしひしと伝わってくるので、それがこういう凡庸な出来になってしまったのは残念なところですな。いちおう劇場ではそこそこの数字を稼いで、ホームビデオでも健闘してるようなので、この映画の成功(失敗?)をバネにして彼にはもう1本くらい映画を作ってほしいところですが…。

「アベンジャーズ」鑑賞


今週いっぱいアメリカに行ってたので、無理矢理時間つくって観てきたのだよ。

いやーもう最高。娯楽映画の極致ですな。ジョス・ウィードンって今までテレビの人という印象が強かったのだけど、劇場映画もここまできちんと作れてしまう人だったのですね。ドンパチ中心の映画とはいえ各キャラクターのストーリーもきちんとツボをおさえ、テンポの良いセリフまわしに絶妙なユーモアを交え、2時間半の長尺がまったく中だるみしない出来になっている。他のヒーローたちに比べて社長(アイアンマン)が活躍しすぎじゃないのとか、やっぱり物を言わない敵って魅力ないよねといったツッコミどころも探せば出てくるものの、そんなものが殆ど気にならないような傑作になっているぞ。ネタバレにならない程度に気に入ったところいくつか挙げると:

・「カミナリが怖いのか」「この後の展開が嫌でね」
・「そこの人、『ギャラガ』で遊んでるね?バレてるよ」
・”Puny God!”
・突然登場するハリー・ディーン・スタントン!
・アイアンマン・マークVIIの装着シーンは何度でも観れる。

興行的大ヒットによりさっそく続編の製作が決まったようですが、果たして第一作目を超えるものが作れるのかね?クレジットのあとに出てくる事件の黒幕って俺の好きなキャラクターではないので、あっちの方面には行って欲しくないのだが。

例によってあまり意味の無い3Dで観る必要はないと思うけど、これはぜひ劇場で観ることをお勧めします。

「CHRONICLE」鑑賞


ジョン・ランディスの息子が脚本を書いた低予算SF映画。以後ネタバレ注意。

アンドリューは暴力をふるう父と病弱な母をもったひ弱な少年で、学校でも周囲にバカにされていじめられ、ビデオカメラでそんな日常を撮影することだけに生きがいを感じていた。ある日彼は従兄弟のマットに連れられて行ったパーティー会場の外で、地面の奥深くにまで空いた謎の穴を発見し、マットおよび同級生のスティーブと穴の奥まで行った彼は青く光る奇妙な物体を見つけるが、そのあとの記憶を失ってしまう。気付くとアンドリューたち3人は穴の外におり、自分たちがテレキネシス(念動能力)を身につけたことを知る。最初はこの能力をイタズラ程度で使っていた3人だったが、やがてその力の使い方をマスターするうちに彼らの行動はエスカレートしていき…というようなストーリー。

アンドリューのビデオカメラの映像記録、といういわゆる「ファウンド・フッテージ」のスタイルがとられており、個人的にこのスタイルってあまり好きではないんだけど、別のカメラの映像を混ぜ合わせたり、カメラを念力で宙に浮かせることで第3者の視点のようにさせる手法は巧みだったな。

マットがあまり意味もなく哲学を語ったり、登場人物の1人が話の途中でいなくなってしまうあたりは脚本が弱冠拙いような気もしたけど、尺が短いこともあり、あまり中だるみせずに最後のクライマックスまで話をぐいぐい引っ張っている。能力を使ってせっかく学校の人気者になれたのに、初エッチに失敗して暴走するアンドリューの不憫さが涙をさそうぞ。

南アフリカで撮影したり、デビッド・ボウイの曲を使ったりとそれなりに金はかけてるみたいだけど、それでも予算は1200万ドルくらいなので低予算の部類に入るよな。しかし特殊効果の映像は大作映画に匹敵するくらいの出来で、特にラストの超能力バトルは迫力があって大変素晴らしい。怪獣パニック映画が好きな人はとても楽しめるんじゃないでしょうか。なお出演者は比較的無名の若手俳優が大半だけど、スティーブ役を「ザ・ワイヤー」のマイケル・B・ジョーダンが演じている。彼はあの若さで優れた作品に次々と出演してるので、これからもっと活躍していくでしょう。

あまり期待せずに観たら意外なくらいに面白かった作品。「アタック・ザ・ブロック」が好きな人に薦めたいな。世界中で大ヒットしたために早くも続編の製作が決まってるらしいけど、これ話が続けられるのかね?「ファウンド・フッテージ」ものの続編ってみんな蛇足になって失敗してる印象があるので少し不安ではある。

下着姿の女の子のシーンはカットされてた。チェッ。

「BRONSON」鑑賞


こないだの「ドライヴ」のニコラス・ウィンディング・レフンがその1つ前に監督した作品。

実在の人物で「イギリスで最も凶暴な囚人」といて知られるマイケル・ピーターソンの半生を描いたもの。子供の頃から悪ガキだったマイケルは教師や警官にも平気でたてつき、結婚してからも悪さを繰り返してついには郵便局強盗で7年の懲役をくらうことに。刑務所のなかでも看守たちにケンカを売り続け、精神病棟に入れられたりしたものの、やがて出所することに。シャバでは裏社会のボクシングの拳闘家として小銭を稼ぎ「チャールズ・ブロンソン」というリングネームを名乗ることになるが、すぐに宝石強盗で逮捕され、それからずっと刑務所で暴れることに…というような内容。

実際のブロンソンは刑務所で何回も看守たちを人質にとって騒ぎを起こし、刑務所を100回以上移転してるような筋金入りのワルなわけだが、その一方で殺人は1度も犯したことがない人物であり、劇中ではユーモアに満ちた人物として好意的に描かれている。

ブロンソンを演じるのはトム・ハーディで、彼のモノローグで話が進んでいくこともあり、彼の一人芝居のような映画になっている。既に「WARRIOR」を観てるので彼の筋肉モリモリの姿にはさほど驚かなかったが、フルチンになって体にバターを塗りたくり、看守に戦いを挑むという狂気に満ちた演技を見せてくれる。「ダークナイト」のベインがジョーカーを演じてるような感じ。彼って「スター・トレック/ネメシス」のときは細身の若造といったイメージだったが、大化けしたよなあ。

主人公がアウトローでシンセポップが用いられてるあたりは「ドライヴ」に通じるものがあるものの、あの映画のノリを期待してると裏切られるかも。むしろ荘厳なクラシックが多用され、暴力行為がスタイリッシュに描かれてるところは「時計じかけのオレンジ」に似てるかな。ただし最初から最後まで主人公が内面的にいっさい成長しないというのはどうなのよ?いちおう刑務所でアートに目覚めるという描写はあるものの、そのまま指南役を人質にしてしまうような有様だし。ちなみに彼の描く絵はアウトサイダー・アートそのまんまで、彼の公式サイト(!)で購入できるぞ。

犯罪者を美化してることとかは構わないんだが、どうも話にメリハリが無いような。拳闘を扱ってるという意味では「ドライヴ」よりもレフンの次作「Only God Forgives」がこれに似た作品になるのかもしれない。