「007 スカイフォール」鑑賞


ネタバレにならないよう軽い感想をいくつか:

・純粋に楽しめる、とてもよくできた映画。前作のグデグデ感を捨てさり、スピーディでアクション感満載ながらも地に足のついた良質のサスペンス映画になっている。
・これは監督のサム・メンデスも認めてるけど、クリストファー・ノーランの「ダークナイト」の影響がかなり見て取れる。苦悩する主人公を手玉にとってあざ笑う悪役の姿はジョーカーそのまんま。
・つうかハビエル・バルデム演じる悪役の計画が緻密すぎる!まっとうに運行してるほうが珍しいロンドンの地下鉄のダイヤまで計算して計画を立ててるんですもの。ボンド映画の悪役はカタワ者、という政治的に正しくない伝統もちゃんと継承してたな。
・おねーちゃんがあまり出てこない、という批判は確かにその通りなのですが、「ダークナイト」同様に男同士の対決をみっちり描くためには女性を省くしかなかったんだろうな。
・作品の大きな特徴として「懐かしの面々」の復活がありまして、Qはおろか最後にはあんな人も出てきたりして、オールドファンには十分楽しめる内容じゃないでしょうか。またボンド映画に詳しくない人でも優れたアクション映画として楽しめると思う。
・あと作品の成功に大きな貢献をしてると思うのが、ロジャー・ディーキンスによるシネマトグラフィー。夕暮れから夜までの描写をあそこまで巧く撮れる人ってそんなにいないのでは。

というわけで十分に楽しめた作品。難があるとしたらアデルによる主題歌が前2作のものに比べて迫力に欠けることかな?また「カジノ・ロワイヤル」でボンド映画の原点回帰やって、早くも3作目で懐かしの面々を復活させるという、まるで平成版ゴジラのような道を辿っているわけですが、こうした回帰&復活はそう何度もできるわけではないので、今後もちゃんと物語を新鮮なものにしていけるのか、一抹の不安を抱かずにはいられないのです。いっそノーランに監督やってもらうとか…。

「Act of Faith / Jimmy’s End」鑑賞


自分の作品の映画化はひたすら罵倒して呪いをかけていたアラン・ムーア御大が、初めて脚本を手がけた短編映画。監督のミッチ・ジェンキンスは彼の友人…というかフィールズ・オブ・ザ・ネフィリムのPVとか作ってた人なのね。ふむふむ。

「Jimmy’s End」は30分くらいの作品で、そのプリクエルとして「Act of Faith」という同じ世界を舞台にした短編も作られていて、今後も続編みたいなのが作られていくのかな?ここらへんは情報が少なくてよく分かりません。

作品のストーリーもかなり分かりにくいものになっていて、「ウォッチメン」や「リーグ」のような冒険活劇を期待してはいけないよ。むしろ「Neonomicon」や「Fashion Beast」みたいな地味で難解なインデペンデント系のムーアの作品に通じるところがあります。いろいろ虐げられる女性とか、グロテスクな闇社会とか。背後で歌が流れるなか話が淡々と進んでいくという光景もムーアがよく使う描写だよね。

ストーリーは全然よく分からないんだが、新聞記者らしき女性フェイスが自宅のクローゼットでエロチックに首を吊るのが「Act of Faith」で、うさんくさい酒場に迷い込んだ中年男性が奇妙な出来事を経験するのが「Jimmy’s End」の内容。前者は一人芝居のような内容だけど、電話をつかって会話劇にしてるのが巧いな。フェイスは後者にも出演してるんだけど、この2作品にどういうつながりがあるのかはさっぱり分かりません。「Jimmy’s End」は幻想的なナイトクラブのシーンなどがとてもデビッド・リンチ的だが、「フリークショー」とかやってた頃のザ・レジデンツの映像にも似ているかな。ムーア御大も顔を金色に塗っていいところで登場しているぞ。

今のところムーア自身がこれらの作品について語ったインタビューは無いみたいで、果たしてこのプロジェクトがこれでおしまいなのか、今後も続くのかもよく分かりません。でも低予算のわりには映像は美しいし、そもそも無料で視聴できるので、ムーアのファンなら観といて損はないでしょう。

「Cosmopolis」鑑賞


デヴィッド・クローネンバーグが、「危険なメソッド」の直後にしれっと作ってしまった、ドン・デリーロの小説「コズモポリス」の映画版。

舞台となるのはニューヨークのマンハッタン。大統領が来ているということで街には厳戒な警備が敷かれ、富裕層に対するデモも暴徒化し、交通網は麻痺状態に陥っていた。そんななかでも28歳にして資産運用会社の社長で億万長者であるエリック・パッカーは馴染みの店で散髪をしてもらうことを突然決意し、巨大なリムジンに乗って街を横断することとなる。遅々として進まないリムジンの中で彼はさまざまな人々に出会うのだが、やがて何者かが彼の命を狙っているという情報が入り…というプロット。

なんかリムジンの進行とストーリーの進み具合が見事にシンクロしてまして、要するに車も話もひたすらチンタラ進むなか、主人公が出会った人たちと無機質な会話を延々と繰り広げるという展開が続く。それでも話は車にあわせていちおう進んでいるわけで、リムジンを降りてからの残り30分の展開は話がどこにも行かなくなっててかなりしんどかったよ。

主人公が出会うのは彼と結婚したばかりの令嬢や、彼の愛人、ジョギング中のママ、医者、好きなラッパーの取り巻きなどなど。そしてみんな喋る喋る。良く言えば奥の深い、悪く言えば意味不明な会話が延々と繰り広げられるのだが、これ日本語で字幕にするのは大変だろうなあ。

主人公のパッカーは巨万の富を手にしながらも何事にも興味を抱けない人物で、むしろ破滅願望を抱いているタイプ。中国元に対して無謀な賭けをして財産を失うリスクを抱えながらも、車中では経済の崩壊に関する話を繰り広げ、社外では暴徒による混乱がエスカレートし、パッカー自身の身にも危険が忍び寄るなか、文字通り破滅に向かってゆっくり進んでいくリムジン、というメタファーはよく分かるんだけど、それ以上の意味もあるんでしょうか。

主人公のパッカーを演じるのは、「トワイライト」シリーズで今をときめくロバート・パティンソン。裸で前立腺検査を受けながら経済について語るという腐女子感涙の光景も見せつけてくれるぞ。ラース・フォン・トリアーの作品もそうだけど、若手俳優は自分の演技力をアピールしたくてこういうリスキーな役を選ぶのかな。他にもポール・ジアマッティやサマンサ・モートン、ジュリエット・ビノシュなど比較的豪華なキャストが出演しているけど、殆どの人の登場シーンは短いのであまり印象に残らないかも。

車が重要な要素を占める映画のゆえ、クローネンバーグの過去作では「クラッシュ」に通じるものがあるかな。テクノロジーもしくは経済の疲労と現代社会の衰退がリンクしているというか。あと劇中に出てくるニュース映像は「ビデオドローム」ぽかったです。この映画の脚本をクローネンバーグは6日で書き上げたらしいが、これだけセリフが多いものをそれだけの短期間で仕上げるのは見事なのか、あるいは脚本を十分に練ってないからセリフだらけの内容になってしまったのか。原作にはどこまで忠実なんだろう。「危険なメソッド」に続き、セリフに多くを頼った内容になってるのはあまり好ましくない傾向かも。え、そこで終わるの?というラストも含め、評価が二分される作品ではないでしょうか。

「THE BAY」鑑賞


いまアメリカで公開中のファウンドフッテージもののホラー。何について書いてもネタバレになってしまう気がするので、ここから先を読むのはお気をつけください。

舞台となるのはメリーランド州のクラリッジという人口6000ほどの小さな港町で、2009年の出来事。町は7月4日の独立記念日を迎えて賑わい、多くの人たちが浜辺へと繰り出していた。しかし水に入っていた人たちの多くに、皮膚の炎症が起きるという事態が発生する。最初は水中のバクテリアに対するアレルギーかと思われていたが、患者の数は増加し、さらには嘔吐などを繰り返す人々も続出。やがて苦悶のうちに絶命する人もあらわれ、町は一夜にしてこの世の地獄と化す…というようなプロット。

(ここから先は本当にネタバレなので白文字にします)町の住民たちを襲ったのは、実はバクテリアではなく突然変異した寄生虫のワラジムシ(ウオノエ)。もともと魚に寄生する生物だったのが、町の養鶏場から垂れ流されたステロイドだらけの鶏糞や、放射能汚染などの影響で凶暴化して人を襲うようになったのだ。おまけに幼虫の段階で人の体内に入り込み、急成長して肉を食い破って出てくるというおぞましさ。ウオノエ(画像をググってみよう)って魚の舌を食べ、代わりに口のなかにちょこんと座って寄生している姿を図鑑で見た時はトラウマになったものだが、図体がデカいわけじゃないから銃などで戦うわけにもいないし、ゴキブリみたいにモゾモゾ這い回ってる姿はかなり不気味であった。(白文字ここまで)

当日に町で撮影をしていた新人レポーターが狂言まわしとなって、ビデオカメラや監視カメラ、スカイプなどのさまざまな映像が組み合わせられて惨劇の様子が語られていく構成。映像の時系列は一貫したものではなく、事件の6週間前に海洋汚染を調査していた科学者の記録映像や、クルーザーで町に向かっている若きカップルの姿などが重ね合わせられ、クライマックスへと話が進んで行く。従来のファウンドフッテージものって室内など場所が制限されてる場合が多かったような気がするけど、これは町のさまざまな状況を多角的に見せる構成になっている。グロ描写はあからさまでなく弱冠抑えめで、雰囲気で怖さを醸し出している感じ。また事態を隠蔽しようとする政府をチクリと皮肉っているし、明らかに「ザ・コーヴ」に影響されたようなカットもあるぞ。あと放射能漏れがどうたらというシーンもあるんだが、日本公開にはそれがネックになたりしないかな。

ちなみにこれ監督はバリー・レヴィンソン。そう、「レインマン」のあの人です。ここ最近は社会風刺ドラマをずっと撮ってた印象が強いが、なぜ今になって突然ファウンドフッテージのホラーなんかを作ったんだろう?しかも劇場公開と同時にVODレンタルされるというインデペンデント作品だし。70歳にもなって単に人気に便乗したとも思えないが、演出と編集が手堅いために話が散漫にならずいい効果を生んでいる。実はこういうジャンルに向いてるんじゃないのか?なお出演者は一般人っぽさを出すためか無名の役者ばかりだったけど、「キャビン(・イン・ザ・・ウッズ)」のクリステン・コノリーが出てました。彼女は新世代のスクリーム・クイーンですね。

ストーリー自体は決して目新しいものではないけれど、巧みな脚本と演出のおかげで従来のファウンドフッテージものと一線を画した佳作。これ観るとしばらく魚が食えなくなるかも。

「MOONRISE KINGDOM」鑑賞


ウェス・アンダーソンの新作だよ。

舞台となるのは1965年、ニューイングランド地方にある小さな島ニューペンザンス。そこにボーイスカウトの一員としてサマーキャンプにやってきた12歳の少年サムは、島に住む少女スージーと出会って2人は恋に落ちる。そして1年のあいだ2人は文通を続け、つぎの夏に駆け落ちをすることを決意する。こうしてサムはキャンプを、スージーは家を抜け出して両者は落ち合い、山のなかでキャンプ暮らしをしようとするものの、彼らがいなくなったことに気づいたスカウト長や島の警察官、スージーの両親たちが後を追いかけてくることに。さらには巨大な嵐が島を直撃し…というストーリー。

前作「ファンタスティック Mr.FOX」は人形アニメだったので1つの転機になるかな?と思いきや、今回も実にアンダーソン的な作品でございました。メガネ君の初恋というテーマは「天才マックスの世界」を連想させるし、どこか心に陰のある大人たちがいろいろ出てくる点は「ロイヤル・テネンバウムス」に通じるものがあるかな。あの特徴ある色遣いも使われていて実にアンダーソン的。とはいえ今回はなんと16ミリで撮影されていたり、サントラにブリティッシュ・ロックが使用されていないなど目新しい要素もそれなりにあるのだが。

ストーリーは比較的ストレートで、夏休みの課題図書として読まされたような、ジュブナイル向けの冒険小説のスタイルをかなり真面目に踏襲している。少年の主人公が少女に出会い、冒険を繰り広げる夏の物語、といった感じか。とはいえノスタルジアに耽っているわけでもなく、デッドパンなユーモアが随所に散りばめられていたり、登場人物のペーソスが編み込まれていたりといろいろヒネリがあるんだけどね。

サムとスージーを演じる子役たちの脇を固めるのが、アンダーソン作品の常連であるビル・マーレーやジェイソン・シュワルツマン。さらに今回はブルース・ウィリスやエドワード・ノートン、フランシス・マクドーマンドにティルダ・スウィントンといった役者たちが出演してかなり豪華なアンサンブル・キャストを構成しているぞ。みんな手堅い演技でクセのあるセリフを読み上げていて、アドリブとかが入り込む余地はなかったんだろうなあ。

文字通り箱庭のような場所を舞台に、観客不在でストーリーが粛々と進んで行くさまは万事がピッチリと決まりすぎていて、こういうのが合わない人も少なくはないだろう。とはいえアンダーション作品の集大成とも言えるくらいに彼のスタイルが凝縮された作品でもあるわけで、今後は彼の代表作の1つに挙げられることになるんじゃないだろうか。

ちなみにタイトルの「MOONRISE KINGDOM」は最後のシーンで一瞬だけ表示されるので、お見逃しのなきよう。