「Halt and Catch Fire」鑑賞


AMCの新シリーズ。例によって公式サイトで第1話が視聴可能。タイトルはコンピューターを暴走(?)させる初期のコマンドらしい。

舞台は1983年。IBMがコンピューター市場を席巻しているなか、元IBM社員のジョー・マクミランがテキサスにある弱小コンピューター会社のカーディフ・エレクトリックにふらっと現れ、そこで働くことに。そしてそこの社員であるゴードン・クラークの才能に目を付けたマクミランは、大きな仕事を持ちかける:それはIBMの人気コンピューターをリバース・エンジニアリングするというものだった。その合法性に疑問を抱きながらも、かつて自身のプロジェクトが挫折した経験を持つクラークは熱意を持って作業に取り組む。さらにマクミランは自分たちの意図をIBMに通告し、彼らが法的措置をチラつかせたことでカーディフ・エレクトリックは否が応でもマクミランを支援しなければならない状況を作り出す。そして才能ある女学生のキャメロン・ハウをチームに加えたマクミランたちは、IBMという巨人を相手にコンピューター業界に革命をもたらそうとするのだった…というプロット。

あちらのメディアでは「80年代版マッドメン」と呼ばれていて、まあ妥当といえば妥当でしょう。そんなに史実に基づいた話にはなってないらしいが、山師のような主人公とヒゲとメガネの相棒、という図式はスティーブ・ジョブズとウォズニアックのコンビを連想せずにはいられない。またゴードン・クラークとその妻は、IBMに負けたOSの開発者がモデルになっているのだとか。なお劇中ではアップルはすでにアップルIIを発表していて、業界の大物という扱いになっている。

俺もコンピューターのこととかそんなに詳しいわけではないけど、最近のキーボードをカタカタさせてハッキングするようなものとは異なり、半田ごてと電光掲示板を使ってIBMのマシンのROMを解読していくさまなどは結構面白かった。あと法的にカーディフ・エレクトリックが主人公たちを支援せざるを得ない状況に持っていく過程がいまいちよく分からなかったけど、上司に疎まれながらもプロジェクトを推進していくという描写はスリルがあってよろしい。ザ・クラッシュやXTCといった当時のバンドによる曲も効果的に使用されている。

出演はリー・ペイスにスクート・マクネイリーにマッケンジー・デイビス…ってあまり日本では有名でないキャストかな。古くさいコンピューターなんかテーマにしてどうなんだろうと思っていたら意外と楽しめる内容であった。ただし第1話の視聴率は芳しくなかったらしいので、第2の「マッドメン」になることはできないかもしれない。

「CROSSBONES」鑑賞


「刑事ジョン・ルーサー」のクリエーターによりNBCの新作シリーズ。この時期に始まる番組って、シットコムの場合は殆どが見殺しにされるわけですが、ドラマのほうは1年前にパイロットが製作されてた「NIGHT SHIFT」とか「GANG RELATED」をネットワークがそれなりに力を入れて宣伝してるわけで、あれってどういう扱いになるんだろう。ミッド・シーズンならぬ夏のシリーズ?この番組もいま始まってミニ・シリーズ扱いになるのかどうかよく分からず。

舞台は1712年。圧倒的な海軍力をもって七つの海をまたにかけていたイギリス帝国だが、それでも海では遭難や難破が相次ぎ、また幾つかの船は海賊の餌食となっていた。そこでより安全な航海を達成させるためにクロノメーターが発明され、ジャマイカからイギリスへと運ばれることになる。しかしクロノメーターを運んだ船は海賊に襲撃され、船医のトム・ロウは捕獲されて謎の島へと連行される。その島を支配するのは死んだと思われていた悪名高き海賊ブラックベアードであり、彼はクロノメーターの秘密をロウから聞き出そうとする。しかしロウは実はイギリスから密令を受けたスパイであり、その任務はクロノメーターの秘密を守ること、そしてブラックベアードを殺害することだった…というストーリー。

いま流行りの海賊ものだけど海洋での冒険などはあまりなく、島での駆け引きがメインになっている。見所はやはりジョン・マルコヴィッチがブラックベアードを演じているところで、例の微妙に視点が合わない顔で脅しの言葉を次々と繰り出すさまとかは、なんかイッてしまっていて楽しいのですが、実質的な主人公は彼でなくリチャード・コイル演じるトム・ロウであるみたい。というかブラックベアードがなんか弱いのよ!なんかトム・ロウに手玉にとられてる感じ。というかトム・ロウが強いのかな。捕虜の身でありながら夜警をなぎたおしていろんなところウロついてるし、ブラックベアードに毒を盛ることに成功しておきながら、「彼の持ってる情報が必要だ!」とか言って彼を救ってるし。なんか全体的に登場人物がチマチマしてるんだよな。

ジョン・マルコヴィッチの演技が観られるのは嬉しいのですが、どうもパッとしないシリーズである。本国の評判もイマイチのようなので、全10話のミニ・シリーズ的な扱いで終ってしまうでしょう。

「Penny Dreadful」鑑賞


Showtimeの新作シリーズ。クリエーターは「スカイフォール」脚本家のジョン・ローガンで、プロデューサーとしてサム・メンデスが関わっている。例によって第1話が公式サイトで視聴できるのでIPアドレスをゴニョゴニョしてみよう。

舞台は1891年のロンドン。曲芸撃ちの興行のためアメリカからやってきていたイーサン・チャンドラーは、ヴァネッサという謎の女性に腕を見込まれ、とある仕事の用心棒を依頼される。その夜に指定された場所に向かうと、そこで彼を待っていたのはヴァネッサと、マルコム・マーレーという初老の男性であった。そして3人が地下の通路に向かったところ、この世のもとは思えない男たちに彼らは襲撃される。男たちを撃退し検死医に調べてもらったところ、それはエジプトのヒエログラフを身にまとったまったく謎の怪物であった。実は怪物たちはこの世界とは異なる次元からやってきた存在であり、マーレーの娘が彼らに誘拐されてしまったために彼とヴァネッサは怪物と戦っており、イーサンは彼らに加わるよう求められる。一方では怪物を調べた検死医が自室で怪しい実験を行なっており、落雷とともに椅子につながれた人造人間が動きだす…というような展開。

第1話はかなりもったいぶったペースで話が進んでおり、登場人物の名前もなかなか明かされたりしないのだが、ちょっとネタバレしてしまうとこの検死医の名前はビクター・フランケンシュタイン。そう、彼ですね。あとはマーレーの娘はミナ・マーレー(ミナ・ハーカー)のようだし、他にもドリアン・グレイなどといった19世紀末の小説のキャラクターがいろいろ登場するみたい。それって「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン」では…という気もするが、まあコンセプト自体はアラン・ムーアのオリジナルというわけでもないし目をつぶろう。むしろ映画版「リーグ」(あれはあれで俺は好きだ)以上に「リーグ」っぽくて楽しめるかも。ただし「フランケンシュタイン」とか「ドリアン・グレイ」ってペニー・ドレッドフル(当時の通俗小説の呼称)というよりも純小説なんじゃないのか。

舞台がイギリスで撮影がアイルランドということもありヨーロッパの役者がいろいろ出演していて、エヴァ・グリーンやティモシー・ダルトン、ロリー・キニアといった結構立派な面子が揃っているほか、今後はビリー・パイパーなども出演するみたい。アメリカ人としては久しぶりに顔をみたジョシュ・ハートネットがイーサン役を演じています。

Showtimeの番組としては比較的異例なアクション中心のドラマだが、個人的には結構楽しめる内容であった。とりあえず今後はドラキュラとかシャーロック・ホームズみたいな有名キャラは登場させずに、バネ足ジャックみたいなマイナーなやつを登場させ、変な方向に話が進んでいくことを勝手に期待します。

「REVIEW」鑑賞


コメディ・セントラルでこないだ第1シーズンが終わったシリーズ。

オーストラリアの作品をリメークしたもので、コメディアンのアンディ・デイリーがフォレスト・マクニールという司会者に扮し、人生におけるさまざまな物事をレビューし、5つ星評価を与えていくというもの。

レビューの対象は視聴者(もちろんフェイクね)から寄せられるわけだが、それがどれも過激なものばかり。「万引き」「中毒」「退職」といったものから、「レイシストになること」「乱交」「復讐」といったことまで。真面目なフォレストはそれらを律儀に体験していくわけで、「中毒」では本当にコカイン中毒になり、「宇宙」では宇宙に行き、「離婚」では本当に妻と離婚してしまう!オムニバス形式のようでシーズンを通して話がつながっていて、離婚した妻とのやりとりが多くのレビューに影響したりしている。

レビューをすることでフォレスト自身が不幸になるだけでなく、周囲の人間も多大な被害を被って、しまいには死人が出たりと真っ黒なジョークが展開されるわけだが、どんな犠牲を払おうともレビューを完徹しようとするフォレストの姿がとにかく笑えるのですよ。メタなジョークもいろいろあって、「アイルランド人になること」ではフォレストのナレーションまでアイルランド訛りになっていくのが爆笑ものであった。

アンディ・デイリーって今までいろんな番組でちょこちょこ見かけたけど、愚鈍なまでに素朴なフォレストを絶妙に演じている。あとは番組の冷徹なプロデューサーをジェームズ・アーバニアクが演じていたり、フレッド・ウィラードが出演していた。ジェームズ・アーバニアクって最初に観たのが「ヘンリー・フール」なので寡黙な役者というイメージが強いのだが、最近はコメディ業界で結構活躍してるんだよな。

公式サイトで全9話が視聴可能になっているので、連休中にサクっと観るのにおすすめ。星5つ!

「BLACK BOX」鑑賞


ABCの新作医療ドラマ。プロデューサーに「ドクターハウス」のブライアン・シンガーが名を連ねている。

キャサリン・ブラックは優秀で著名な神経科医であったが、彼女には大きな秘密があった。実は彼女自身も母親譲りの双極性障害を持っており、薬を服用しないと極端な躁鬱状態になってしまうのだ。彼女は病院の同僚にはこのことを隠して患者の治療にあたっていたが、婚約者には自分の障害のことを明かしてしまい…というような話。

古きは「ベン・ケーシー」あたりの頃はテレビのお医者さんって高潔な存在だったのでしょうが、21世紀の今となってはみんな何かしらの問題を抱えてるのが普通なようで、ドクターハウスなんかは肉体的にも精神的にも欠陥があったし、去年の「DO NO HARM」なんか医者が二重人格のサイコパスですからね。そんでこのキャサリン・ブラックもすごく問題を抱えてる人で、婚約者に自分の障害を伝えて「ちゃんと薬は服用するから」と言ったくせに「彼には自分の最悪の状態を知ってほしい」ということで薬と婚約指輪を投げ捨て、躁状態になって病院の同僚と寝てしまうという…いやあ…。というか病院にも自分の症状がバレてないか?

おれ精神病のことなんて何も知らないから、もしかしたらここで描写されてる有様ってすごく正確なことなのかもしれないけど、ドラマとしては「主人公がとても厄介な人」にしか見えんのよね。あと劇中で何度も「精神病は治らない、薬で抑えるしかない」って主人公を含めた多くの人が言っていて、ならばドラマ的に主人公が活躍する場が無いのでは?第1話では患者が精神病でなく脳に腫瘍があることが判明して完治するわけだが、腫瘍をレントゲンで発見したのは主人公の助手で、それを手術で取り除いたのが病院の同僚。主人公は何もやってないじゃん!

なんかジタバタしてるだけの主人公を演じるのは「フライト」のケリー・ライリー。またイギリス人ですな。よく見るとローズ・バーンに似てるね彼女。あとは彼女の精神科医をヴァネッサ・レッドグレイヴが演じている。レッドグレイヴが毎週テレビで見られるというのは贅沢なことなのですが、いかんせん作品がなあ…あとは「ザ・ワイヤー」のボーディーなんかも出てました。

imdbでも酷評の書き込みが目立つし、たぶん長続きしないでしょう。医療ドラマたるもの主人公が患者を治療すべし。