「シンプソンズ」はいつからツマらなくなったのか

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劇場版の公開を控え、イギリスの新聞「ガーディアン」(ここのポッドキャスト群はなかなかいいぞ)に、いかに「シンプソンズ」がツマらなくなったかを嘆く記事が掲載されていた。あの番組の質が下がったというのは誰もが言ってることだけど、この記事ではどの時点で番組が下降線を辿るようになったかを細かく挙げているところが興味深い。つまり「シンプソンズ」はシーズン9の「The Principal and the Pauper」からダメになったというのだ。

このエピソードを知らない人のために説明すると、これはバートたちの通う学校のスキナー校長が実は偽者であり、ベトナム戦争でのドサクサに紛れて本物のスキナーと入れ替わった男だったのだ・・・。という衝撃の事実が明らかになるエピソード。この事実の無茶苦茶さと、ストーリーの展開のマズさからファンのあいだでの評判は非常に悪く、劇中でも「なかったこと」という話になっている。確かにこの話はダメダメだった。

そしてこの記事をとりあげた「Digg」での議論を読んでみても、シーズン8を越えたあたりから「シンプソンズ」はツマらなくなったという意見が多いみたいだ。これには俺もまったく同感。シーズン11あたりまでのエピソードはほぼ全話観てるけど、シーズン6あたりまでなんてホントに神のような番組でしたからね。考え抜かれたジョークや絶妙なギャグがぎっしり詰め込まれて、こんな面白い番組を考えつくライターたちはどんな頭をしてるんだろうと本気で考えたりしましたよ。ええ。

それがシーズン9あたりになってくると、微妙にジョークの間隔がスカスカになってきたり、ネタ切れをごまかすような派手な展開(上記のスキナーとか)が目立つようになって、どんどんツマらなくなってったんだよな。ちなみに個人的には同じシーズン9の「Realty Bites」が下降線の始まりだったと思う。ミルハウスの親父が運転中にピアノ線で腕を切断されるシーンが出てくるんだけど、「シンプソンズ」におけるバイオレンスやアクションてのはあくまでも現実世界のそれに準じたものであり、「ルーニー・チューンズ」まがいのものじゃなかったはずなんだけどね。これ以降は跳ね橋に頭を挟まれるホーマーといった、非人間的なギャグが増えてったんだよな。

そりゃ20年ちかくも放送していればネタもマンネリになってくるだろうし、フィル・ハートマンなどといったキャストもいなくなってしまったわけだが、果たして今度の劇場版はかつての栄光を再現するようなものになるんだろうか?

というか、はやく「フューチャラマ」を復活させんかい!

「兵士トーマス」鑑賞

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こないだクライテリオン版DVDが発売になった1975年の映画「兵士トーマス」こと「OVERLORD」を観る。原題の「OVERLORD」とは悪魔にそっくりな宇宙人のこと…では当然なく、  第2次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦のコードネーム。イギリスの片田舎から徴兵された素朴な青年のトーマスが、軍隊で訓練を受けてノルマンディーへと送られていくさまを追った内容になっている。

軍隊における生活の描写が物語の大半を占めていて、冒頭の宿舎のシーンはちょっと「フルメタル・ジャケット」を連想させる。撮影監督のジョン・アルコットはキューブリック作品の常連でもあるそうな。戦争映画なんだけどドンパチやるようなシーンはほとんどなく、軍隊および戦争という非日常的な状況に身をおいた主人公の孤独さがよく表現されていて、むしろ雰囲気はアート映画に近い。「西部戦線異状なし」に通じるものがあるかな。そしてトーマスには常に死の予感がつきまとっており、村で少女と恋に落ちても、家族に手紙を書いていても、もう2度と彼女たちに会えないことを彼は感じ取っている。そして最後に彼は「もう僕には何も残っていない」と語って戦地に向っていくのだ。ここには「プライベート・ライアン」や「バンド・オブ・ブラザース」のような「生きて故郷に還ろう」という希望もないし、石原慎太郎映画のような「お国のために死んできます〜♪」といった幻想もない。ただ淡々と運命に翻弄されて生きていくトーマスの姿だけが、モノクロの映像にのせて映されていく。

そしてこの映画の大きな特徴として、尺の半分近くにおいて第2次大戦当時の記録映像が使用されているということがある。戦争博物館にあった膨大な量のフィルムを検証して編集したそうだが、地を這うくらいに低空で飛行する戦闘機、真夜中に炸裂する爆弾、ミサイルを発射する戦艦などの映像はいずれも非常に迫力があり、そして重々しい。いくらCGIの技術が進歩しても、戦争の映像というのは本物には敵いませんね。なかでも煙を噴いて前進するパンジャンドラムという車輪兵器の光景は圧倒的。これらの衝撃的な映像がトーマスのシーンにうまく重なりあい、戦争の暗さを醸し出すことに成功している。

アメリカでは製作当時は公開がされず、なんと昨年やっと初めて劇場公開されたという作品だが、優れた傑作であることは間違いない。

マイケル・ムーア、怒る パート2

「シッコ」の正当性を疑うようなクリップを流したCNNに対してマイケル・ムーアが激怒したことについて、CNNは実に素早く対処。クリップを製作した、CNNのキャスターでもある医師のサンジェイ・グプタとムーアの会談(衛星中継)を「ラリー・キング・ライブ」で行った。こういう機会を迅速に設けたという点では、CNNは賞賛に値する。

ムーアとグプタ、どちらの言い分が正しいかの判断はおまかせします。「アメリカよりもカナダの病院のほうが待ち時間が長いのは、アメリカの保険システムじゃ患者は病院にも行けないからだ」というムーアのコメントは鋭いと思う。


マイケル・ムーア、怒る

こないだは「ラリー・キング・ライブ」でのパリス・ヒルトンへのインタビューのためにマイケル・ムーアの出演をドタキャンしたCNNだが、今度はウルフ・ブリッツァーの番組での衛星回線インタビューの際に、よせばいいのに「シッコ」の疑わしき点について説明するフィルムなんて流したものだから、冒頭からムーアが大激怒。いかにそのフィルムが間違っているかについてぶちまけ、自身のホームページで詳しく反論すると言ったんだけど、早くもホームページではきちんと反論されていた。こういう点はやはりカッコいいなムーアって。

「Southland Tales」近況

カンヌ(去年のだよ)で酷評されてから公開が延び延びになっていたリチャード・ケリーの「Southland Tales」だが、夏の終わりにはトレーラーがやっと公開されるらしい…。って何でそんなに時間かけてるんだよ。あの衝撃のデビュー作「ドニー・ダーコ」なんて撮影に1ヶ月もかけてなかったじゃん。その一方では早くも次の作品である、リチャード・マシスン原作の「THE BOX」の製作がキャメロン・ディアス主演(なぜ?)で決まってるそうで、なんか仕事の組み方が変じゃないかと思う事しきり。

それにしても「ドニー・ダーコ」は凄まじい作品だった。ディレクターズ・カット版は観てないけど、あれって「キリング・ムーン」で始まらないらしいね。あの冒頭のシーンが一番好きなのに。