「100 BULLETS: WILT」読了

傑作クライム・コミック「100 BULLETS」の最終巻。全12話を収録という大ボリュームのなか、最後のクライマックスに向けた怒濤のストーリー展開が語られていく。

ここ数年の「100 BULLETS」の問題として、世界を牛耳る集団「トラスト」のメンバーたちとエージェント・グレイヴス率いるミニットメンたちの対立・駆け引きが深まるにつれ、金持ちの白人連中が酒を飲みながら今後の出方を語り合うという場面が多くなり、連載開始時の大きなテーマだった「ごく普通の人が100発の銃弾と復讐の機会を与えられる」というアングルから離れていったことが挙げられる。不幸にあえぐ市井の人々の描写がこの作品では傑出してたんだけどね。当然ながらこの最終巻ではトラストとの全面対決に焦点があてられるため、金持ちの豪邸を舞台にした密室劇の場面が多分に描かれるんだが、アクションの場面がうまく挿入されていることや、話がグングン進んでいくことから今までほどは気にならなかったかな。また物語の結末はすべての謎が解き明かされるようなものではなかったものの、長らくついてきたファンを満足させてくれる終わりかたであった。

そしてエデュアルド・リッソによるアートは相変わらず最高。貧しいスラムから高級住宅、ゴロツキから美人の富豪までが巧みに描き分けられ、アクション満点のシーンからドラマチックな場面までが、影を効果的に用いたスタイルによってページに描かれていく。今後彼がどんな作品を手がけことになるのか知らないけど、何であれ彼の作品なら手にする価値はあるだろう。というか今後も「100 Bullets」の外伝的作品が作られるかもしれないという噂は本当なのかな。

ここ10年くらい読んできたシリーズが終わってしまうのは残念な限りだが、最後まで読み応え十分の作品を作りだしたブライアン・アザレロとエデュアルド・リッソに感謝。

ただ一つだけ言わせてもらうと…レミ・ロームがヘタレすぎ!最後に覚醒したミニットメンという身分から、どんな凄い奴なんだろうと思っていたら単に口の達者な若造で、俺の好きな登場人物を間違って殺すし、自身のやられ方もカッコ悪いし、最後まで情けない奴であった。奴の兄貴も頼りがいがあるようでヘタレだったし。あの2人がもっと興味深いキャラだったらシリーズの後半はもっと面白くなってたと思うんだがなあ。

ヒューゴー賞

なに、「The Graveyard Book」が最優秀小説賞とったの?ヒューゴー賞っていうともっとハードSFの象徴的のようなイメージを勝手に抱いてましたが、あんなファンタジー色の強い作品も選ばれるのか。しかも昨年はマイケル・シェイボンが受賞したんすね。

こないだ「コララインとボタンの魔女」を図書館から借りてきたけど、挿絵がデイヴ・マッキーンでないとちょっと物足りないですね。「The Graveyard Book」も日本での発刊が決まってるらしいが、ぜひマッキーンの挿絵をそのまま使ってほしいところです。「ネバーウェア」の日本語版表紙もなんか変だったし。

「世界一簡単なハリウッド映画の作り方」読了

近所の図書館でたまたま手にして、「あ、これ読まんとあかんな」と直感した本。タランティーノなども受講したらしい「2日間で学ぶ映画学校」という講義をを行っているダブ・シモンズという人が、アメリカでの映画の作り方、特に低予算映画の製作方法について51章にわたり各ステップを細かく説明していく内容になっており、役立つアドバイスがあちこちに散りばめられている。いくつか例をあげると:

・映画のプロデューサーになるのに、才能はさほど必要ではない。必要なのはまず脚本、それから資金、そして交渉力などと続く。
・新人の脚本は最高傑作のものでないと、ハリウッドでは見向きもされない。
・資金の調達には「歯医者」に話をもちかけろ(金持ちだから)。
・スタッフには食事を存分にふるまえ。
・俳優は俳優組合の規程料金よりも安く雇うことができる。
・ロケ地の住人とのトラブルには100ドル札を握らせろ。それ以下では効果なし。

などなど。これらに加え、機材のレンタルの方法やスタッフの雇いかた、法的手続き、映画祭のエントリー、さらにはメジャースタジオとの契約交渉のやり方など、映画製作に関するあらゆる事柄が作者の体験をもとに分かりやすく説明されていく。あくまで映画製作というのはビジネスであり、どのような手段をとればコストを削減できるかが実によくわかる本。

その一方で、これを読むと日本で映画を作ることがいかに難しいかが痛感できる。だってドリーをどこで借りれるかとか、撮影監督をどこで雇えるかなんて、一般の人にはさっぱり分からないでしょ?あと俺は日本の映画でよく見受けられる「○○製作委員会」というのが大キライでして、いくつかの企業が金を出し合ってるだけだから映画の製作全体を管理できる人が不在になりがちで、だから監督や脚本家のナルシシズムが暴走したような作品ばかりが作られてるんじゃないかと。やはり映画には全てをまとめられるプロデューサーが必要だと、この本を読んで実感した次第です。

ただしこの本を読めば誰でもハリウッド映画が作れるのかというとそうではなくて、前述したようにここに書いてあるノウハウは日本では全然通用しないし、アメリカに渡って映画を作ろうとしても、この本を日本語で読んでる時点で語学力が失格かと。あと記されているハリウッド・スタジオなどの連絡先の情報が結構古いことにも注意。ただし最後の章あたりで書かれているように、近年のデジタル技術の進歩とインターネットの普及のおかげで、日本にいてもネットを通じて海外に自分の作品をアピールすることは容易になってきたのかもしれない。

映画製作のハウツー本として以上に、アメリカではどのように映画が製作され、それがどのようなビジネスになっているかがよく分かる、非常に興味深い本であった。

知られざる名曲たち

バンドのファンやメンバー自身たちから「邪道」扱いされて、ひどい時には公式のディスコグラフィから外されたりするようなアルバムが世の中には存在したりするのですが、そういうアルバムでも実は優れた曲が隠されてたりするもので、最近はYoutubeなどによってそうした名曲に陽の目があたる可能性が高くなってきたのであります。というわけで俺が隠れた名曲だと思うものをいくつか紹介しよう:

まずは序の口。ザ・ポーグスのシェーン・マクゴーワンが酒でヘロヘロになって脱退してた頃の「Tuesday Morning」という曲。これはそこそこヒットしてたような。俺この曲もスパイダー・ステイシーのボーカルも好きだけど、やはりポーグスはシェーンがいないと気の抜けたビールみたいにしっくりこないすね。あれだけの歌詞を書ける人はそういないすよ。最近は「ザ・ワイヤー」つながりで「The Body of an American」をよく聴いてます。

次は90年代初頭にイアン・マカロックが脱退したあとのエコー&ザ・バニーメンが作った「Reverberation」というアルバムからの「Enlighten Me」という曲。マカロックが戻ってきた今となっては「何であんなアルバム作ったの?」と思わざるを得ないが、これはこれで結構いい曲。当時はこういうサイケ・ロックが流行ってたんだよな。

同様にボーカルが一時交代したバンドとしてはアイアン・メイデンとかモトリー・クルーとかもあるけど興味ないので却下。逆にボーカルが残った例がこの曲:

ザ・クラッシュからトッパー・ヒードンとミック・ジョーンズをクビにしたジョー・ストラマーとポール・シムノンが作った「Cut The Crap」はファンから無視されてるアルバムで、ストラマー自身もこのアルバムについては多くを語らなかったけど、この「This Is England」は意外と名曲だと思う。というか今となってはストラマーのボーカルがのってる曲はすべて名曲に聴こえる。

あとはマッドネスのメンバー数人が再結成して”The Madness”名義で作ったアルバムも探したんだが見つからなかったよ。ヒュー・コーンウェル脱退後のストラングラーズとかも実はいい曲があったりして。リック・オケイセック抜きのカーズの再結成アルバムはヒドかったらしいですが。

「DEFYING GRAVITY」鑑賞

「宇宙のグレイズ・アナトミー」という情けないふれこみの、ABCの新作ドラマ。

舞台となるのは2052年の未来。宇宙船に乗って太陽系の星々を廻るという6年のミッションに出発した8人の男女たち。彼らは選び抜かれた宇宙飛行士でありながら様々な過去や悩みを抱えていて、いちおう性欲を減退させる処方を受けているものの、恋愛感情なんかは皆のあいだでいろいろ渦巻いているのでした。そして順調に進むかと思われたミッションに障害が生じ、さらには謎めいた貨物の存在が明らかになって…という内容のストーリー。

なんかラブロマンスとSFの両方を狙って、どちらも中途半端なところで失敗してる感じ。主人公を「リストラ・マン」のロン・リビングストンが演じているものの各登場人物に感情移入できないし、SFとしてもさほど目新しい展開はなし。例によって無重力状態でのセックス・シーン(さよならジュピター!)なんかが出てきますが、そんなの見せられてもねえ。これよりも「VIRTUALITY」のほうがずっと面白かったぞ。人間が登場している限り人間ドラマなんてのはいくらでも発展できるんだから、まずはSFの設定の部分をきちんと確立させてほしかった。フラッシュバックで主人公たちが出会った5年前のシーンがよく出てくるんだが、バーとかベッドルームとかの姿が2009年のものと全然変わらないのも興ざめではある。この調子だとあまり長続きしないんじゃないですか。

やはり宇宙で長旅をするときは他人との関係とかに気をつかったりせず、冷凍睡眠をしてるのが一番じゃないですか。たまにコンピューターが暴走すると永眠するはめになったり、数千年後の世界に行ったりするけどさ。