「BLACK SWAN」トレーラー


ダーレン・ アロノフスキーの新作。バレリーナが主人公ということもあり一見少女マンガのようだが、グロな皮膚の描写なんかもあったりして「レスラー」よりも「レクイエム・フォー・ドリーム」に近いものになるんじゃないかと勝手に期待。ナタリー・ポートマンってジャンル映画にいろいろ出ているわりにはPCなイメージが抜けきれずにあまり好きではなかったのだが、これでもっとダークサイドに墜ちた演技を見せてくれるんだろうか。

「THE GHOST WRITER」鑑賞


いろいろ巷で話題になっているロマン・ポランスキーが、スイス警察に逮捕されながらもしれっと作ってしまった政治サスペンス(刑務所で編集をしたらしい)。

物語はユアン・マクレガー演じる主人公の作家が、イギリスの前総理大臣であるアダム・ラングの回顧録のゴーストライターの仕事を持ちかけられるところから始まる。既に回顧録には別のゴーストライターがいて草稿を書き上げていたのだが、彼は謎の溺死を遂げてしまったというのだ。そして主人公は政治に疎いものの、原稿執筆の早さを見込まれて仕事を与えられ、そのままラングが滞在しているアメリカはマサチューセッツの孤島(マーサズ・ヴィニヤード)へと送られる。そこで彼はラングのほか、彼の秘書や神経質な妻に出会う。さっさと仕事を片付けて島から出ようとした主人公だが、ラングが首相のときにイギリス国籍のテロリスト要員をアメリカに引き渡して拷問にかけさせていたことが世間に明らかになり、ラングは戦争犯罪で裁判にかけられる可能性が出てきてしまう。とつぜん身の回りが慌ただしくなってきたなか、主人公は自分の前任者が残した謎めいた資料を発見し、彼の本当の死因を探ろうとする。そして調査を進めるうちに、主人公は衝撃の事実を知るのだった…というのが大まかなプロット。

とにかく雰囲気の盛り上げかたやストーリーの進め方が巧い。人里離れた僻地を舞台に、絶妙なカメラアングルを用い、臨場感ある音楽を絡めて謎を少しずつ解き明かしていく手腕はさすがベテランですね。「チャイナタウン」のようなギラギラした感じはないものの、じわじわと不気味な謎がストーリーに染み込んでいくさまは「ローズマリーの赤ちゃん」に通じるものがあるかな。孤島を舞台にしたサスペンスとしては「シャッター・アイランド」よりも遥かに面白かったぞ。無人の車がフェリー内で見つかる冒頭から、衝撃のラストまで観る人を飽きさせない。

イギリスの元政治記者が書いたフィクション小説が原作なのだが、前総理大臣のアダム・ラングは露骨にトニー・ブレアをモデルにしていて、彼の政権とアメリカの癒着を暗に批判した内容になっている。ラングを演じるピアース・ブロスナンも腹に一物ある政治家を巧みに演じているほか、彼の妻を演じるオリヴィア・ウィリアムスもいい感じ。ただしウィリアムスは「天才マックスの世界」の清純な女教師のイメージが個人的にはあるので、最近こういう影のある役を演じることが多くなったのには少し複雑な気分がするのですが。ラングの秘書を演じるキム・キャトラルだけが少し浮いていたかな。どうしてもSATCのイメージが強すぎるので。あとイーライ・ウォラック(94歳!)がチョイ役で元気な姿を見せてくれるぞ。

(ネタバレ注意)「イギリス政権はアメリカの傀儡だった!」というオチには、そんなもん皆すでに知っとるわい!と思ったりもしたが、非常に優れたサスペンスであることは間違いない。世間ではこれがポランスキーの最終作になるのではという声もあるようだが、これだけ面白い作品を作れる監督がこれで打ち止めとは勿体ない。いたいけな13歳の少女を人身御供にしてでも、ぜひまた映画を作って欲しいところです。

「ヒックとドラゴン」鑑賞


「トイ・ストーリー3」を観てないのであまり大きなことは言えないのだが、個人的にこの夏のお薦め映画は「インセプション」とこの作品かと。

ストーリー自体はとてもベタで、恐ろしい存在だと思われていたドラゴンと少年が交流していくうちにお互いに心を開いていき、やがて共存することの大切さを学ぶという、映画のポスターを見ただけでも予想がついてしまうような話が続くわけだが、この王道の展開がかえって素朴かつ力強いものをストーリーに与えているのではないかと。従来のドリームワークスのアニメはピクサー作品に比べて、ムダな下ネタや時事ネタのパロディなどを詰め込んで作品の質を下げている印象があったんだけど、今回はそれを排除したことでより多くの観客にアピールできる内容になっている。やっとピクサーに対抗できる作品が出てきたな、という感じ。

少年がドラゴンと空を駆け回るシーンも非常にダイナミックで見応えがあって、これなら3Dで観ても悪くはないかな、と思わせる出来だった(それでも俺は3D嫌いだけどね)。後半の展開には「君たち、ドラゴンの生態系を破壊してない?」と思ったが、少しビタースウィートなヒネリのあるラストも含め、大変楽しめる作品であった。

原作は何巻もある絵本だし、続編の製作も決まってるらしいけど、「シュレック」シリーズみたいにダラダラ続くフランチャイズにならないことを願うばかりです…。

「インセプション」鑑賞


やっと観てきた.評判通りの素晴らしい出来。キャラクターの立ち方が半端じゃなかった「ダークナイト」には劣るかもしれないが、2時間半の長尺を飽きさせずに最後まで観させるクリストファー・ノーランの手腕は凄いものがあると思う。 自分が何を伝えたいのかをきちんと把握している監督の映画はやはりいいですね。この作品については既にいろいろなことが語り尽くされていると思うので、今さら自分がどうこう言うのもおこがましいのですが、いくつか感想を箇条書きすると:

・夢の設定とかにはいろいろツッコミが入れられそうなのだが、何も言うまい。自由落下している人の夢の世界が無重力状態になるなら、寝返りをうった人の夢の中は天地が逆になるのかな?
・ディカプリオは前作「シャッター・アイランド」とキャラがかぶっている点で損をしている。眉間に皺を寄せて顔を洗うような作品ばかり出たりせず、インディーズのコメディとかに出てたまにはガス抜きすればいいのにと切に願う。
・渡辺謙はあと2倍くらい英語が上手くならないと、「無口な役」とか「半分気絶してる役」とかから抜け出せないような気がする。特に日本人にとって鬼門であるthの発音をマスターしないといかんな。
・トム・ハーディが「ネメシス」の時からえらく顔が変わっていて誰だか分からなかった。もっともあの人は「BRONSON」でもっと過激な肉体改造に挑んだ前例があるのだが。
・トム・ベレンジャーは最初ブライアン・コックスかと思った。久しぶりにこの人が出てる映画を観たな。
・あの皆が接続する機械は「ブレードランナー」のヴォイト=カンプ・テスト用のマシンへのオマージュだろうか。

ダークナイト」のときもそうだったけど、あまりにも作りが手堅すぎてこういう雑多な感想しか思い浮かばなかったりする。でもさ、映画のなかではあんな面倒くさいミッションを遂行してたけど、他人のアイデアを拝借して、本当に自分のアイデアだと心の底から思い込んでしまう人ってよくいないか?そういう意味ではおれ何度もインセプションした経験があるよ!

「KICK-ASS」鑑賞


これダメ。ゴミ映画。12歳くらいの女の子が「FUCK!」とか言いながら銃をぶっ放したりする内容だから大衆受けはしてるみたいだけど、そんなので感心するほど俺はウブでもないし。個人的にマーク・ミラーの原作コミックが嫌いなことは以前にも書いたが、あの原作が傑作に思えるほど映画の出来は非道かった。

問題点は山ほどあるんだけど、いちばん致命的なのは登場人物がみんな不快な連中で、観ていて共感できるキャラクターがいないことか。特に主人公。原作はアメコミというスーパーヒーローと同義語のメディアだったから、主人公が数ページのあいだに「スーパーヒーローになりたい!」と決心してもそれを容易に受け入れられる土壌があったのに対し、映画ではもっときちんと主人公の動機を説明しなければいけないはずだったのに、通販でコスチュームを注文してすぐにキックアスになってるんだもの。違和感ありあり。そのくせ女の子とねんごろな仲になったとたん「スーパーヒーローはやめる」なんて言い出すし、主人公が最後までヘタレでろくに成長しないんだよな。それ以外にもサイコな父娘やどうも怖くない悪役、ちょっと頭のイカれたガールフレンドなど、ペラペラな設定のキャラクターしか出てこないから、彼らがどういう目に遭おうともどうでもいいや、という気になってしまう。

ストーリーもこれを受けてメリハリのないものになっていて、原作のストーリーを追うのに精一杯という感じ。主人公の心情がいちいちモノローグで語られるのもウザいし。原作は少なくともミラーお得意のショック・バリューがふんだんにあったが、こちらは主人公が罠にかけられるさまが悪者の側から描かれていたりするから、キックアスが不意打ちにあっても観てて全く驚きがない、というのは問題だろう。

あと本国では問題になった暴力描写だけど、殆ど気にならなかった。理由は単にウソくさい暴力描写ばかりだから。パンチは重みがないし、主人公の持つバトンはプラスチックの筒みたいだし、血はみんなペンキみたいだった。ケロシンが撒かれた部屋で銃撃戦をして火がつかないというのもよく分からないし、あんな足を焼くくらいの炎で人は死ぬのか?原作のジョン・ロミタJr.のアートによる描写のほうが100倍は暴力的だったよ。ただやはり可愛い顔をして銃をぶっ放すヒット・ガールの姿が活き活きとしてて魅力的であることは否めない。彼女の存在がこの映画の唯一の取り柄だったかな。

そして非常に気になったのが音楽の使い方で、暴力的なシーンにコミカルな曲をあてたり、賛美歌をつかったりといろいろ狙ってるのは分かるんだけど、ぜんぶ裏目に出て場面を台無しにしてるのよ。キックアスがレッドミストの存在を知ったときにスパークスの「This Town Ain’t Big Enough for Both of Us」が流れるなんてのもベタすぎる。とりあえず各場面に合いそうな曲を流せばいいや、という程度の計画しかしてなさそうで不快。マシュー・ヴォーンの映画って初めて観たけど、こんなにセンスの無い監督なの?真面目な話にしたいのかコミカルなものにしたいのか、リアルな描写をしたいのかファンタジー的なものにしたいのか、ものすごく中途半端な作りをしてるんだよな。これでは「X-Men: First Class」も期待できそうにないな。

ちょうどこの感想を書いているときに「10 Reasons Kick-Ass Kicks Ass」という記事を見つけたのだけど、ここに挙げられている10の理由って俺がこの映画を嫌ってる理由でして…。こういう映画を楽しめる人たちがいるってのは十分理解できるんだが、個人的には全く好きになれない作品だった。以上。