「NAPOLEON DYNAMITE」(アニメ版)鑑賞


あの世にもヒドい邦題を持った2004年のカルト的人気を誇る映画をアニメ化したフォックスのTVシリーズ。こないだの「THE FIRM」もそうだけど、数年前の映画をTVシリーズ化するのに需要なんてあるのかね?しかもこの映画は収益をめぐってプロデューサーがフォックスを訴えてなかったっけ?まあハリウッドの常として「法廷の外で決着がついた。内容については口外しない。」ということになったんだろうけど。

「THE FIRM」に比べるとこちらは映画のオリジナルキャストがみんな揃って各キャラクターの声をあてていて、話の設定も映画版そのまんま。アイダホのど田舎における高校生の生活をのんべんだらりと描いてるんだが、映画版ではそのユルさで話が持っていたのに対し、TVシリーズだと毎回何かしらイベントが起きないといけないわけで、例えば第1話ではニキビの薬で凶暴化したナポレオンが格闘技のリングに立つことになるのですが、それって映画の設定とまったく異なるような。

ただし話の出来自体はそんなに悪くなくて、間抜けな家族が主役の典型的なフォックスのアニメ作品だと思えばそこそこ楽しめなくもないかな。日本刀を振り回す日本人の交換留学生とかが出てくるあたりも、なんか今どきの米国アニメだね〜といった感じ。そういう意味では映画版のアニメ化などにせず、似たような設定のまったく新しい番組を作ったほうがよかったかもしれない。

個人的にはセス・マクファーレンの息がかかってないフォックスのアニメシリーズは応援したいところですが、それらは打ち切り率がかなり高いので(こないだのAllen Gregoryもすぐ打ち切られた)、このシリーズもどこまで続くのかは微妙なところです。

「THE INTERRUPTERS」鑑賞


アカデミー賞を受賞どころかノミネートさえもされなかったものの、ドキュメンタリー映画の金字塔的作品として名高い「フープ・ドリームス」の監督であるスティーブ・ジェームズのドキュメンタリー。んでこれも例によって今年のアカデミー賞の候補に選ばれていなかったりするので、アメリカでは非難の声があがっているみたい。

これは暴力沙汰の事件が相次ぎ、イラクやアフガンでの兵士よりも多くの人が死んだというシカゴを舞台に、暴力をふるう人と人のあいだに立って彼らを仲裁しようとする「インタラプターズ(制止者)」と呼ばれる活動家たちの姿を描いた映画で、インタラプターズは「暴力は疫病と同じで、人から人へと感染するものだ」という考えに基づいて疫病学者が創設した「シースファイア(停戦)」という活動団体が導入したプログラムの実践者であり、警察と犯罪者(というかいわゆるゴロツキ)の中間的なポジションに立つことで後者の信頼を得て、彼らを更正させていこうとする。

インタラプターズの多くは元犯罪者であり、ミーティングの場では「みんな合計したら500年くらい懲役くらってるかなあ」なんて冗談も飛び出すわけだが、やはりみんな凄みというか貫禄がやたらあるんだよな。そういう人たちが更正して罪滅ぼしのために活動し、「悪いことして俺みたいになるなよ」などと言ってるのを聞くと言葉の重みがハンパじゃないわけで。

作品中では3人のインタラプターズに焦点があてられ、有名なギャングの娘で不良だったアミーナ、刑務所への出入りを繰り返していたコーブ、17才のときに殺人を犯して10数年間刑務所に入っていたエディーたちが、それぞれ不良少女に学校に行くよう説得したり、ケンカばかりしている兄弟を仲直りさせたり、強盗に入った少年を被害者に謝らせたりする姿が描かれていく。日本だったら「プロ市民」などと呼ばれそうな活動かもしれないが、私欲もなしに辛抱強く活動を続けていく彼らの姿は純粋に立派だと思いますよ。暴力に巻き込まれて負傷するインタラプターなんてのも実際いるわけだし。

彼らの活動がすべて成功しているわけではないものの、暴力を減らすことに貢献したとのことで海外からも視察団が訪れ、バミューダ諸島でも同様のプログラムが導入されたらしい。ただ日本では同様のプログラムが通用したりするのかな。銃が蔓延しているわけではない(福岡を除く)から暴力の種類も違うだろうし、文化の違いなども大きいかと。でも学校の生徒が元犯罪者から話を聞くのは意外とためになりそうな気がするんだけど、どうなんだろうね。

2人の少年の成長を追った「フープ・ドリームス」に比べると少し散漫な出来ではあるものの、いろいろ考えさせられる作品であった。

ゴールングローブ考


日本時間で明日の今頃にはゴールデングローブ賞の結果が発表され始めてるのかな。アカデミー賞よりも気楽な感じでテレビと映画のひとたちが一緒になって祝い合うという意味では決して嫌いな賞ではないのですが、受賞者を決定するハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)って調べれば調べるほどウサンくさい団体であるような気がするので、その気になる点についていくつか書いてみる:

・そもそもHFPAの創立の理由が、ハリウッドのスターたちと懇意になりたい記者たちが「ねえねえ、賞をあげるから仲良くしてよ」という考えから生まれたもので、その時点でハリウッドとズブズブの仲であったわけだ。そして授賞式がディック・クラーク・プロダクションにより派手なショーにされてNBCで放送されることにより、その知名度と影響力は大きく上がっていく。

・『外国人』映画記者協会といいつつも、HFPAのメンバーになる条件の1つに「南カリフォルニアに住んでること」というのがある。そりゃハリウッドに近いところに住んでれば便利だろうけど、国際性を強調してるような名前の意味が無いのでは。また公式サイトのメンバー表を見ると「Jean E. Cummings」という人が日本担当の1人になってるのですが…誰だこれ?

・彼女に限らずHFPAのメンバーは素性が不明な人が多いことでも有名で、90数名いるメンバーのうち活動内容がネット上で明らかになってるのは10名ほど。彼らがメンバーであり続けるためには、自分の記事が年に最低4回は何らかの出版物に掲載されることが条件になっているのだが、何をもって出版物と定義するかをHFPAは公表いていない。つまり田舎のコンビニに置いてあるようなフリーペーパーでもHFPAが「出版物」とみなせば、それに年に4回寄稿するだけでメンバーの資格は保持できるわけだ。

・HFPAのメンバーの多くが実は映画ジャーナリストではない、というのも以前からよく語られてきた話で、不動産業者やヘアドレッサー、車のセールスマンなども含まれるという話を聞いたことがあるが、いかんせん素性が不明なので何ともいえんな。メンバーシップが世襲制だという噂も耳にしたが、たぶんこれは事実ではないだろう。ただし加入条件が『現メンバーの2名以上の推薦があり、他のメンバーから反対票が投じられないこと」という実に身内に有利な条件であるため、実際に何が起きてるかは分かりませんが。

・アカデミー賞の会員数が数千人いるのに対し、HFPAは常にメンバーの数を100人以下に絞り、ハリウッドからの厚遇を受けてきた。有名な話では81年にピア・ザドラの金持ちの夫がメンバーを買収して彼女に新人賞を穫らせた(彼女は子役出身であり新人でも何でもなかった)という出来事があって、さすがにこれでバッシングを受けたHFPAはハリウッド受けられる接待の条件を制限したらしいが、それでもハリウッドからの厚遇は続き、昨年「ツーリスト」がコメディ部門にノミネートされて論議を呼んだソニーもメンバーをラスベガスに招待して相当のおもてなしを与えたらしい。

…とまあハリウッドのお手盛り、と言われても仕方が無いような団体であるわけですが、いちおうHFPAの弁護もしておくと、彼らが得ている収益の多くは映画関係のチャリティに寄付されているようだし、昨年の震災に対しても寄付があったらしい。それに判断基準がどうであれゴールデングローブを受賞する作品が結構まともである例も多く、特に数年前にイギリス版「THE OFFICE」が受賞したことであの番組の知名度が飛躍的に上がったことは非常に良かったと思う。

とはいえ上記のとおりウサンくさい団体が選んでいる賞であることは承知しておくべきでしょう。昨年あれだけ物議を醸したリッキー・ジャヴェイスを続いて司会に起用するあたり、HFPAも冗談が分かってきてるような気がするけどね。これを威厳のある賞のように持ち上げてるマスコミにはムカつきますが。また今年からメンバーに加わった日本人ライターがその厚遇ぶりを書いているが、これって裏を返せば他のジャーナリストには不公平な扱いをしているってことだよねえ。まあ誰だってスターとお友達になりたいわけで、彼らが特権にこだわる気持ちは分からんでもないですが。

ちなみにHFPAがこの時期に授賞式を開催するのは、アカデミー賞の投票のタイミングにあわせて作品にハクを与えるためなのですが、昨年あった噂で面白かったのが「アカデミー賞がゴールデングローブ賞をぶっ潰すために授賞式の開催日を早める」というもので、もしこれが実行されてたらHFPAの影響力も大きく変わってたのではないかと。

こんなことを考えつつ、明日の受賞結果に思いをはせる次第です。

「THE FIRM」鑑賞


シドニー・ポラックの映画「ザ・ファーム 法律事務所」のTVシリーズ版。なぜ1993年の映画を今になってしTVシリーズにするのか?というのは誰もが疑問に思うところでしょうが、理由はよく分かりません。原作のジョン・グリシャムのファンがついてくることを期待してんのかな。主人公は当然ながらトム・クルーズではなくジョシュ・ルーカスが代わりに演じている。

映画版の10年後という設定らしいんだけど90分ある第1話は時系列がこんがらがってて、冒頭は主人公がワシントンで黒服の男たちから逃げているシーンで始まり、目の前でクライアントが自殺したかと思いきや話はその6週間後に移り、個人で法律事務所を開設してた主人公が少年の殺傷事件の弁護を任されるのと同時に怪しげな大手の事務所にスカウトされる光景が描かれ、そこからさらに10年前に話が戻って映画版のラストの結果により主人公がマフィアに命を狙われることになった顛末が紹介されている。

まあ10年前の話は今後あまり出てこないだろうけど、現在の場面と6週間前の話を両方クリフハンガーまがいの展開で終わらせてるあたり、両方の話をつじつま合わせて語っていくのは相当苦労するんじゃないかな。そして主人公はマフィアから逃れるために証人保護プログラムに入ってたらしいんだが、それをやめて実名で個人事務所なんか開設するもんだからマフィアに見つかってやんの。妻子あるまっとうな人間のやることとは思えないですね。そのマフィアもボスが数年前に亡くなったのでヘタレな大学生の2代目が後を継いでいる、というのはあまりにもテレビ的な設定のような気がしますが。

よって主人公は日々の弁護士活動に加え、マフィアの復讐や大手事務所の陰謀といった脅威に立ち向かわないといけないはずなのに、危険を自覚してないものだからワガママいって家族や部下に迷惑かけてるだけだったりする。殺傷事件の弁護も人の話を聞いてるだけでろくな弁論などもしないし、クールに振る舞ってるようで実は大したことやってないのはどうかと。

ちなみに大手事務所のボスを演じるのは「ギャラクティカ」のトリシア・ヘルファー。さすがに年齢が顔に出てきてますね。同じく「ギャラクティカ」でレオベンを演じた役者も出てるぞ(要するにカナダで撮影してんのよ)。

アメリカではいろんな批評家にまんべんなくダメ出しをくらってるようなので、おそらく長続きしない番組でしょう。

「THE GUARD」鑑賞


アイルランド映画としては彼の国の興行記録を塗り替えたという映画。まあ小さい国なんですけどね。主演はブレンダン・グリーソンにドン・チードルで、監督のジョン・マイケル・マクドナーってマーティン・マクドナーの弟なのか。兄弟そろってグリーソンをフル活用してますね。あと最近悪役ばかり演じてるマーク・ストロングがここでも悪役を演じてた。

アイルランド西海岸のゴールウェイ地方の警察官であるゲリーは酒飲みで女好きで上司に平気で反抗するような人物だったが、汚職には手を出さないタフな警官だった。そんな彼の警察署に、海外から大量のコカインがゴールウェイに密輸されるという情報を入手したFBIの捜査官である黒人のウェンデルがやってくる。悪気も無く人種差別的な発言をするゲリー(および周りの住民)にウンザリするウェンデルだったが、2人の調査により麻薬の売人たちがゴールウェイに既にやってきていることが判明する。しかし他の警官たちは彼らに買収されていて…というような話。

住民の大半が白人のアイルランドにやってきた黒人捜査官、という設定は「ディボーシング・ジャック」などにもあったし必ずしも目新しいものではないが、子供っぽいグリーソンと真面目なチードルのかけ合いは面白いぞ。ゲールタハト(アイルランド語が話されてる地域)のこととか知らないと十分に楽しめないかもしれないけどね。アイルランドの田舎っぷりがよく分かる作品かと。でもゴールウェイはいいとこですよ。

脚本家が監督をやっただけにセリフが多いのが長所でも短所でもあって、売人たちが哲学書を読み合ってるところとか、気の利いたセリフを言わせたがってんなあ、といった感じ。いろいろ笑えるセリフも飛び出してくるんだけど、おかげでサスペンスの要素が薄まってしまってどうも変なバランス感があったような気がする。あとゲリーの母親の話とか、どうも説明不足というか消化不良のプロットがいくつかあったような?

突っ込みどころが少なくないのだけど、やはりブレンダン・グリーソンの演技が素晴らしいのでそれだけでも楽しめる作品。彼はこの役でこんどのゴールデン・グローブ賞にもノミネートされたので、受賞できるか見守りたいところです。