「THE GIRL」鑑賞


HBOとBBCが共同製作したTVムービー。

アルフレッド・ヒッチコックと「鳥」の主演女優であるティッピ・ヘドレンの関係を描いたもので、撮影にあたり主役を探していたヒッチコックはTVコマーシャルに出ていたヘドレンが目にとまり、脚本家に反対されながらもモデル出身の彼女を「鳥」の主役に起用する。そして彼女を演出するうちにやがて性的な関係を迫るようになり、ヘドレンはこれを拒絶。これに対してヒッチコックは彼女を屈服させるため、生きた鳥に襲われる過酷なシーンを5日間にわたり彼女に演じさせるのだった…というようなプロット。

ヒッチコックを演じるのがトビー・ジョーンズで、見事な小太りメークをして冷徹ながらも色欲を垣間見せる不気味なヒッチコックを好演しているぞ。それに反発するヘドレンを演じるのがシエナ・ミラーなんだけど、こちらはずっと仏頂面であまり面白くない。ヒッチコックに耐えつつも屈服しない芯の強い女性を演じてるはずなんだが、どうも演技が堅いんだよな。そのふたりの関係に気づきつつも何もできないヒッチコックの妻を演じるのがイメルダ・スタウントン。

いちおう関係者の話をあつめて事実に基づいた内容になってるらしいが、キム・ノヴァクなど他の関係者からはヒッチコックの描写とかについてクレームがあがったらしい。まあ多分に脚色されてても内容が面白ければいいのですが、全体的に凡庸なメロドラマになってしまっているのが残念。主役ふたりの心理戦みたいなものをもっと掘り下げるべきだったのに、どうも人物の描写が薄っぺらいような。HBOってもっと凝ったTVムービーが撮れると思っていたんだがなあ。

奇しくも今年はアンソニー・ホプキンスもヒッチコックを別の映画で演じていて、トビー・ジョーンズのほうが良いという声も聞かなくはないのですが、肝心の内容がイマイチなため彼の熱演が空回りしているような作品。

「Doctor Who: The Snowmen」鑑賞


今年のクリスマス・スペシャル。新しいタイトルシーケンスは効果音がバチバチうるさい気がするものの、ドクターの顔が映るようになってオールドファンには嬉しい限り。リブート後はこれが欠けてたんだよなあ。

舞台となるのはビクトリア王朝時代のイギリス。前の話でエイミーとローリーを失ったドクターは失意にくれてロンドン上空の雲の上にとどまっていたが、友人のエイリアンたちの依頼を受け、雪ダルマが人を襲うという事件の調査に乗り出す。そしてその過程でクララという少女に出会ったドクターは、彼女と一緒に(というかつきまとわれて)事件の黒幕であるシメオン博士のもとに向かうが、さらにその裏には謎の存在が潜んでいて…というような話。

話が1話で完結していた過去2年のクリスマス・スペシャルに比べ、前の話のトラウマを引きずったドクターが新しいコンパニオンに出会い、彼女の謎を追うことになるという続き物の要素が強い内容になっている。

動く雪ダルマを使って人を襲撃させるシメオン博士を演じるのがリチャード・E・グラントで、ここは8代目ドクターと「ウィズネイルと僕」のコンビ復活とならなかったのが残念ですな。さらに博士の背後にいる黒幕の声をイアン・マッケランがあててるのですが、「ホビット」観たあとなので悪役というよりも温厚な老人の声にしか聞こえなかったよ。

ストーリーも決して凝ったものではないのですが、とはいえ面白くないのかというとそんなことはなく、演出が巧みなためにファンならずとも楽しめる内容になっている。雲の上に乗ってるターディスなんて普通のエピソードではまず目にしない設定だけど、幻想的でクリスマスの雰囲気にはよく似合ってますな。

ファンの方ならみんなご存知のとおりシーズン7第1話に出てきた「スフレ・ガール」と新コンパニオンのクララは同一人物であり、はたして彼女は何者か?というのがシーズン7後半のプロットになるみたい。それはそれで結構なのですが、シーズン5〜6に出てきた謎(サイレンスとか、「宇宙最古の質問」とか)ってまだ解明されてないよね?以前の伏線が回収されてないのに、新たな謎が出てくる展開には少し不安を憶えてしまうのです。すべて見事に解決してくれればいいのですが。

「ALPS」鑑賞


Dogtooth」こと「籠の中の乙女」で全世界の度肝を抜いたヨルゴス・ランティモス監督の新作。主演は「乙女」の長女を演じた人で、「Attenberg」の女の子も出てます。

新体操のジムに通う少女2人が、中年男性ふたりと組んで「アルプス」というグループを結成。彼らは愛する人たちを失った遺族に近づき、亡くなった人の身代わりをしばらく演じることで、別れの悲しみを和らげさせるという商売を始めるのだが…というようなプロット。

話のあらすじだけ聞くと、人との別離を感情的に描くとか、他人を演じてアイデンティティ・クライシスに陥るとか、職務を忘れて遺族を愛してしまうとか、なんかそんなメロドラマチックな展開を期待してしまうのですが、そんな描写は全然なくて、ただ与えられた仕事を無機質に淡々とこなしていく主人公たちの姿が描かれていく。

彼女たちの「サービス」を受ける遺族たちについても顔が殆ど映されず、感情も表にしないのがかなり不気味で、主人公たちに感謝するどころか彼女たちにコスプレをさせ、あれこれ指示してコキ使っている始末。恋人代行としてエッチする者もいるほか、亡くなった夫の浮気現場を再現させ、それを「発見」して主人公をペチペチ叩くオバさんとか、もうやりたい放題。

前作では家の中という非常に限られた空間におけるニセモノの世界という設定が斬新であったが、今回は本物の世界にニセモノの人物を持ってきたことで、どうも話の焦点が希薄になってしまった感じ。この監督のスタイルではあるんだろうが、あまりにも説明不足で突き放した印象を受けてしまい、どうしても話に感情移入できないのが残念。もうちょっと観る人へのサービス精神を発揮してくれたらもっと楽しめる作品になっていただろうに。この監督の次回作は英語の作品になるらしいが、もう少し大衆性を持ってくれることに期待。

「ホビット 思いがけない冒険」


ケチなので2Dで観ました。48FPSってのも経験したかったんだけどね。

なるべく事前にいろいろ調べないようにして観に行ったのですが、いやリチャード・アーミテジやジェームズ・ネスビットが出演していたことがエンドクレジットの時点まで気づきませんでしたよ。みんな鼻のデカいメークをしてるんですもの。

世の中的には批評的にも興収的にも前作とくらべてイマイチといった話が出ているものの、個人的には結構楽しめましたよ。確かに前作と比べるとストーリーのスリル感が欠けているかもしれないが、それはひとえに原作が「指輪物語」に比べると弱いということで。

冒頭からイアン・ホルムとかイライジャ・ウッドなど懐かしい顔が出てきて寸劇じみたことをやって、それからドワーフたちのコントじみた酒宴が行われたりと、どことなく間延びしてる感は否めず、前半もフラッシュバックや小話などが続いてちょっとダレ気味かな…と思いつつも観てるうちにホワーンとした感じになってきて、ニュージーランドの美しい大自然の風景と相まって中つ国の盛大な観光映画を観てるような気分になっておりました。やはり監督にピーター・ジャクソンを起用したのは正解だよな。逆にアクション満載の後半のほうが、「ありがち」な光景のような気がして前半ほど楽しめませんでした。やはり「ホビット」には「指輪物語」と違ってアネクドート色の強さが求められてるのかしらん。

そういう意味ではマーティン・フリーマン演じるビルボ・バギンズは大変素晴らしいんだけど、原作だともっとトリックスター的というか呑気なタイプじゃなかったっけ?映画向けにちょっとだけ暴力的に描かれているような。その他の登場人物の演技も、上記のメークとあわせて見事なのですが、クリーチャーたちのほうはCGっぽさが気になったかな。ゴラムは例外的に素晴らしかったですが。タバコの煙くらいCGに頼らなくてもいいんじゃないの、と思うのよ。

2部作の予定だったのが3部になったことにはまだ不安があるものの、とりあえず第1作は大変楽しめる内容でした。今後の展開に期待。

「DECEPTION」鑑賞


1月から始まるNBCの新作ドラマ。でも内容はABCっぽいナイトタイムソープもの。

巨大な製薬会社の社長の娘であるヴィヴィアン・ボウワーズがオーバードーズによって死んだ姿で発見される。しかし他殺の可能性もあることと、以前より汚職の疑いでボウワーズ一家に目を付けていたFBIは、サンフランシスコ市警のジョアンナに、一家を探るように依頼する。ジョアンナの母親はかつてボウワーズ家の住み込みの召使いであり、ヴィヴィアンとジョアンナは幼なじみであったのだ。刑事であることを隠してボウワーズ家の面々と再会したジョアンナは家長のロバートに歓迎され、そのまま家に泊まるように誘われる。そしてヴィヴィアンの死をめぐる捜査にかかるジョアンナだったが、その裏には一家をめぐる大きな陰謀がうずまいていた…といようなプロット。

金持ちの大家族のドロドロとした人間関係に殺人事件のミステリーが絡んでくるあたりは、ABCの「リベンジ」に似てるんじゃないですかね。というか恐らくあの番組の成功を受けて作られたものかと。酒浸りで口うるさい母親とか、薬物に溺れがちのヤサ男とか、反抗的なティーンの娘など、登場人物はかなりありがちなタイプばかり。こういう人たちにジョアンナは翻弄されるわけですが、なんか彼女が部外者すぎるというか、家族に受け入れてもらえずただ突っ立ってるようなシーンが多くて、いまいち主人公らしさを感じられないんだよな。「リベンジ」ではもっと主人公の意図がもっと明確だったと思うんだけどね。

なおボウワーズ家の家長を演じるのが「エイリアス」のヴィクター・ガーバー。個人的にこの手のナイトタイムソープって好きではないのですが、「リベンジ」が予想外のヒットとなったように、これも話が進めば人気が出てくる可能性もあるかもしれない。でも黒人が主役なので、日本では残念ながら放送される機会は少ないかも。