「1600 Penn」鑑賞


NBCの新作コメディ。タイトルはホワイトハウスの住所「1600ペンシルバニア通り」からで、要するに大統領一家を主役にしたシットコム。

スキップはボンクラな大学生だったが父親はアメリカの大統領で、あまりにも大学での成績が悪いために「家」に呼び戻されてホワイトハウスに住むことに。そこには彼の妹2人や弟なども暮らしていたが、彼らの母親は他界しており、父親の再婚相手であるエミリーとはどうもウマが合わない状況だった。父親のデールはそんな彼らの面倒を見つつも大統領としての職務を果そうとするのだが、スキップがいろいろ手を出してきて…といような内容。

トラブルメーカーな長男のスキップに加えて、長女が妊娠してることが発覚したり、次女がゲイらしいことが示唆されたりと、いろいろゴタゴタを抱えた家族が主役だというのは典型的なシットコムですかね。というか舞台がホワイトハウスだというのを除けばあまり目新しさは感じられないような。第1話では大統領が海外の使節団に会ったりするんだが、例によって外国人をコケにしたジョークはあまり面白くないんだよな。

でもキャストは結構豪華で、スキップを演じるのがミュージカル「The Book of Mormon」で一躍有名になったジョッシュ・ギャド、エミリー役が「ダーマ&グレッグ」のジェナ・エルフマン、そして大統領役がビル・プルマン。最後にプルマンが大統領を演じたときは独立記念日に戦闘機に乗ってエイリアンと戦ってたりしましたが、今回もそういうことやってくれればいいのにね。

ホワイトハウスが舞台のコメディなら既に「Veep」があるからいいや、といった程度の番組。

「プレミアム・ラッシュ」鑑賞


ジョゼフ・ゴードン=レヴィット主演のアクション・サスペンス。

ワイリーはニューヨークの法律学校に通っていたが、スーツを来た弁護士になることに興味を抱けず、スリルを求めて自転車のメッセンジャー・サービスをやっていた。ギアなし・ブレーキなしの金属製フレームというベーシックな自転車に乗った彼は自分の脚力と反射神経を駆使してニューヨークの忙しい街なかを疾走し、所属する事務所のなかでもトップレベルの腕を誇っていたが、ある日ガールフレンドのルームメイトより封筒をチャイナタウンまで最優先(プレミアム・ラッシュ)で届けるように依頼される。しかし配達を始めたとたんにワイリーは謎の男に追跡され、身の安全を脅かされるようになる。さらにこの追跡劇に市警の自転車警官や中国人マフィア、ライバルの同僚などが加わり、はたしてワイリーは時間内に封筒を届けることができるのか…というようなストーリー。

冒頭からニューヨークの喧噪のなかを、最適ルートを瞬時に見極めながら自在に走りまくるワイリーの活躍が描かれ、アドレナリンが出っぱなし。タクシーにつかまったり歩道を走ったりとやってることは違法まがいなんだが、車と車のあいだをすり抜けながら走る姿がカッコいいのです。このデリバリーのシーンに過去のシーンがフラッシュバックで挿入され、封筒にまつわる謎が徐々に明らかになっていく。こうしたフラッシュバックや追跡以外のシーンも決してダラけた雰囲気にならず、いい感じの短さでテンションを緩めさせないのが巧いな。

冒頭のマンハッタンの北から南まで90分以内という注文は余裕じゃね?と思ったけど、いろいろ邪魔が入って道路を逆走したり、セントラルパークでレースをしたりと多様な展開が楽しめるぞ。難があるとすれば最後のモブシーンのところがちょっと地味だったかな。あと今さら「ババ・オライリー」を使わなくても。

1時間半のあいだ手に汗握って楽しめる良質のサスペンス映画。これ日本じゃ劇場公開しないの勿体ないよねえ。きちんと宣伝して上映すればゼニが稼げる作品になるはずなんだが。

「Bernie」鑑賞


リチャード・リンクレイターの新作で、実際にあった事件をほとんど脚色なしに映画化したもの。

舞台になるのはテキサス東部のカーセイジという小さな街。そこの葬儀屋に勤めることになったバーニー・ティードは死者や遺族への面倒見もよく、地域の慈善活動にも積極的に参加する男性でカーセイジの誰からも好まれていた。そんなときバーニーは夫を亡くしたマージョリーという老婆の面倒を見るうちに彼女と懇意になっていき、意固地でケチで親族とも仲が悪かったマージョリーも、バーニーに対しては心を開くようになっていく。しまいには「2人はデキているのではないか?」と噂されるほどの仲になり、マージョリーの遺産をバーニーが引き継ぐ約束までされるのだが、やがて彼女はバーニーをコキ使うようになり、彼に厳しく当たるようになる。これに耐えられなくなったバーニーは、彼女を射殺してしまうのだが…というような話。

劇中でバーニーは徹底した善人として描かれ、他人のためにあらゆることを尽くす彼は、マージョリーを殺したあとも彼女の財産を慈善活動に与えてしまうような始末。それに対してマージョリーは地域のみんなに嫌われていた意地悪ばあさんとして扱われ、やがてバーニーの犯罪が明らかになっても、街の人々は彼の無罪を信じて疑わない状態。これでは陪審員がみんな彼に同上してしまうと危惧した検察官が、裁判が行われる場所を遠くに移してしまうという前代未聞の行為に至るまでがコメディタッチで描かれている。

世話好きで皆に愛されるバーニーを演じるのがジャック・ブラックで、芸達者な主人公を好演。賛美歌を教会で歌ったりするんだが、やはり歌が入ると彼は非常に魅力的になりますね。そんな彼をどうにかして有罪にしようとする派手好きな検察官をマシュー・マコノヒーが演じていて、こないだの「マジック・マイク」なども含めて今年の彼は非常に芸風が広がりましたね。そして意固地なマージョリーを演じるのがシャーリー・マクレーンで、70代後半になってもキビキビと演技しております。ただ彼女ってコケティッシュな演技が似合うタイプだと思うので、ずっと仏頂面をしているのがちょっと残念。彼女とマコノヒーのかけ合いも見たかったな。

犯罪者があまりにも愛されていて、皆が彼の無実を信じているという特異性にリンクレイターは興味を抱いたらしいが、果たしてバーニーは悪人なのか、それとも法の仕組みが悪いのか、そこらへんが風刺としても深くツッコまれておらず、どうもテーマがぼやけてしまった感じがするのは俺だけだろうか。街の住人へのインタビューを多用した作りにしたのも理解はできるのだが、なんかドキュメンタリーっぽくなってストーリーの勢いを殺してしまっている気がする。なんか事件の始終をそのまま描いた感じになってしまっていて、もうちょっと脚色してでも話に起伏を持たせたほうが良かったんじゃないかと思うけどね。

なお検察官の作戦は成功して、バーニーは殺人と横領の容疑で終身刑を下されて現在服役中。刑務所でも料理教室などを開催して善人ぶりを発揮してるらしい。日本でも老人を介護する人たちが増えるにつれ、これに似た事件が起きてくるかもしれませんよ。

「Beasts of the Southern WIld」鑑賞


サンダンスやカンヌなどで高い評価を受け、今年のベスト作品との声も挙っているファンタジー映画。

舞台となるのはルイジアナ南部の、堤防によって周囲と断絶された所にある『バスタブ』と呼ばれるコミュニティ。そこで6歳の少女ハッシュパピーは父親のウィンクとともに自然に囲まれて暮らしていた。ある日彼女は、太古の昔に巨大な獣たちが地上を跋扈していたことや、地球温暖化によりやがて海面が上昇し、バスタブもいずれ水没してしまうかもしれないことを学び、巨大な獣や自分が水に沈んだあとの世界のことに思いをめぐらせる。やがて大きな嵐がやってきたためにバスタブの住民の多くがその地を去り、土地の大半は水没し、残った動植物にも大きな被害をもたらしてしまう。さらにウィンクが病に侵されていることが判明する。自分の置かれた境遇を不安に感じるハッシュパピーだったが、そんな彼女のもとへ極地の氷から解き放たれた太古の獣たちが向かっていた…というようなストーリー。

いちおうファンタジー映画ではあるものの、幻想と現実が交差するようなシーンは1カ所くらいで、あとは自然に囲まれてたくましく生きる父と娘の物語が、現実味を持って描かれている。ジョン・セイルズの「フィオナの海」みたいな感じかな?主人公たちが住む『バスタブ』は無国籍的に描かれ、ヴードゥーとかガンボなどといったありがちな演出もなし。ちょっとディストピアSFみたいなところもあるし、主人公が世界の終わりについてあれこれ考えるさまはタルコフスキーの「サクリファイス」あたりにも通じるものを感じました。あと日本のジブリの作品と比較する人もいるようだけど、俺はよく分かりません。

舞台が制限されているわりには主人公たちは常にどこかに向かって移動しており、躍動感に満ちていて、アートハウス系の映画にありがちなまどろっこしさはまるでなし。まるでロードムービーのようでした。これ予算が1200万ドルくらいらしいけど、低予算映画であることを感じさせないほどセットや撮影が素晴らしかったよ。

監督のベン・ゼイトリンはアニメーション畑の人らしいが、初監督作品にしてこんな美しい映像を撮ってしまうとは。彼による音楽も良かったし。さらにハッシュパピーを演じるクベンザネ(Quvenzhané)・ワリスは撮影時はほんの5歳ほどだったのに感情豊かな演技を見せつけてくれるし、ウィンクを演じるドワイト・ヘンリーなんてキャスティング事務所の対面に店を構えていたパン屋さんですからね!それがプロ並みの演技を行い、ロサンゼルスの批評家賞とか穫ってしまってやんの。つまり関係者みんな映画を撮るのも出るのも初めてという作品なのに、こんな素晴らしい出来になってしまったという奇跡のような映画なのですよ。

アカデミー賞に何かしらうまくノミネートされれば日本での知名度もずっと上がるだろうが、そうでなくても多くの人に観てもらいたい逸品。

ヴァーティゴの思い出


今週アメコミ業界を駆け巡ったニュースが、DCコミックスの大人向けレーベル「ヴァーティゴ」の主任編集長だったカレン・バーガーが退任するというもの。

退任の理由は明らかにされてないし、ここで無駄に憶測することは避けるが、昨年のDCユニバースのリブートによりスワンプ・シングやジョン・コンスタンティンといったヴァーティゴの範疇で扱われてたキャラクターが通常のDCユニバースのキャラクターに戻ったことなどから、ヴァーティゴの縮小は今年になってかなり明白になっており、それを受けての退任ということであれば必ずしも驚くことではないかもしれない。ヴァーティゴ自体はこのまま存続するらしいが、ヴァーティゴ=カレン・バーガーであったことはアメコミのファンなら誰もが知っていたことで、1993年の立ち上げから続いた一つの時代がここで終わったことは間違いない。

何度かここでも書いているように大人向けのレーベルだからといってエロいというわけではなく、アメコミのメインストリームであるスーパーヒーローもののジャンルから外れた、より幅広い表現のできるコミックの受け皿としてヴァーティゴは存在したわけで、その根底にはアラン・ムーアの「スワンプ・シング」やグラント・モリソンの「ドゥーム・パトロール」や「アニマルマン」といった前衛的なスーパーヒーローコミックがあり、それを受けてヴァーティゴは誕生したんだよな。立ち上げ時における、ニール・ゲイマンの「サンドマン」やガース・エニスの「ヘルブレイザー」、ピーター・ミリガンの「シェイド・ザ・チェンジング・マン」などといったライターたちの作品のラインナップは非常に強力なものであったと記憶しています。そしてカレン・バーガーはそれだけの作家を引っ張って来れる才能があったんだよな。DCコミックスの関係者でアラン・ムーアが悪口言ってないの彼女くらいじゃないだろうか。

当初の作品はホラーめいたものが多く、作家はイギリス人でないといけないなどと冗談めいて言われていたものの、やがてSF色の強い「トランスメトロポリタン」や犯罪ものの「100バレッツ」、ファンタジーの「フェイブルス」などといった様々なジャンルの作品を抱えるようになったほか、デイヴィッド・ヴォイナロヴィッチやリディア・ランチ、アンソニー・ボーデインといったアメコミとは無縁な作家たちの作品も取り込むようになり、それはそれは刺激的な作品を連発したレーベルだったのですよ。アクション主体の派手なスーパーヒーロー作品が乱発されていた90年代において、ヴァーティゴの作品であることはクオリティの高さが保証されていた証であったし、それは2000年代も同様であったと思う。俺自身もちょうど大学生になり、通常のコミックに食傷気味であったときにヴァーティゴに出会い、その奥の深い内容に夢中になったっけ。今でも本棚に並ぶペーパーバックの多くはヴァーティゴのものです。作品を積極的にペーパーバック化し、過去のストーリーも容易に読めるようにしたのもヴァーティゴが最初じゃなかったっけ。

ヴァーティゴのキャラクターが普通のDCユニバースに出るようになったというのは、それだけ一般のアメコミの表現規制が緩くなったというか、読者層が成熟したということで歓迎したい気もするものの、ヴァーティゴの諸作品に大きく感化された者としては、こうして一つの時代が終わってしまったことに何とも寂しい気がするのです。

個人的にお勧めするヴァーティゴ作品とそのストーリーアーク:
1、Hellblazer: Rake at the Gates of Hell
2、The Sandman: The Golden Boy
3、Death: The High Cost of Living
4、The Invisibles: Entropy in the U.K.
5、Shade The Changing Man: A Season in Hell
6、100 Bullets: Wylie Runs the Voodoo Down
などなどその他多数!