「スポットライト 世紀のスクープ」鑑賞

Spotlight
「世紀のスクープ」なんて邦題をつけられると、そうか?と思ってしまうのだが、まあいいや。

ボストン(およびアメリカ全土、さらに世界全体)におけるカソリックの僧侶たちによる未成年者への性的虐待と、バチカンを含めた教会組織によるその隠蔽を暴き、ピューリッツァー賞に輝いたボストン・グローブ紙のコラム「スポットライト」のチームの奮闘を描いた内容な。

特に内紛などもなく、編集長から記者までがプロとして地道に調査をしてコツコツと仕事を行っていくさまは、現在ヒット中の「オデッセイ」に通じるものがあるかと。強調されているのはボストンの閉鎖性で、アイルランド系が多くカソリックの住民が多いこの街では教会が大きな権力を持ち、「スポットライト」の記者たちもカソリック学校出身者が多いため、教会が悪いことを行っているという考えが当初はなかったのだ。ボストンの外からやってきたユダヤ系の新編集長が「この疑惑を追ってみたらどうだ」と示唆するまで物事は動かなかったのだが、それでもカソリック系の読者を失うのではないかと危惧しながら記者たちは行動するのである。

この教会の権威とかスキャンダルって日本人にはどうも馴染みがないものだけど、天皇制とか同和問題とかに近いものなんですかね。あとアメリカの法律に関する専門用語(何をどうすれば文章が公開されるとか、どうすればそれが阻止されるのかとか)が多用されるので、そこも日本人にはとっつきにくいかもしれない。

監督のトム・マッカーシーって役者として「ザ・ワイヤー」のシーズン5ですごく嫌な新聞記者(捏造記事を書いて、バレないまま賞を獲ったりする)を演じてた人ですが、今回は監督として巨悪に立ち向かう新聞記者たちを描いている。自分たちの調査が教会や他紙に知られてしまうのではないかという不安を抱えながら、可能な限り深いところまで調査を行おうとする記者たちの姿はカッコいいものの、いかんせんコツコツとした調査が行われていくので話のメリハリはないかな。ハワード・ショアの音楽が単調なのもいただけない。またチームのなかでいちばん激昂しやすい記者を演じるマーク・ラファロはいいとして、レイチェル・マクアダムスの演技は地味すぎてアカデミー賞にノミネートされるほどのものではなかったような。

日本でヒットするにはいかんせん題材がマイナーなような気がするが、あとはアカデミー賞をどれだけ獲得できるかですかね。

XTCって「ディア・ゴッド」なんかよりも良い曲がたくさんあるんだけどね。なんであの曲だけアメリカでは有名なのか。

「ヘイトフル・エイト」鑑賞

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長かった…。70ミリの「ロードショー」版はもっと長いんだっけ?感想をざっと。少しネタバレあり。

・70ミリパナビジョンで撮影したのが売りではあるものの、壮大な自然の映像はほとんど無くて、雪山の密室ばかりが映し出されるという。種田陽平のセットは凝っていて見ごたえあったけどね。

・そしてウエスタンというよりも「レザボア・ドッグス」的な密室劇になっているわけだが、エクスマキナ的な存在がいるので手堅いフーダニットを期待してると少し肩透かしをくらうかもしれない。

・これよく知られているように役者の誰かが脚本を事前に流出させたことで製作がいったん頓挫した経歴があるので、タランティーノ本人が役者たちを並べて「ホンを流出させたのはどいつじゃあぁ!」と尋問するフーダニットも観たいのですが、まあ無理か。

・役者はビッチ役がよく似合うジェニファー・ジェイソン・リーが久々にビッチ役全開で大変素晴らしい。アカデミー賞にノミネートされたのも頷けるが、そういう意味ではサミュエル・ジャクソン爺も迫力ある演技をしているわけで、そこらへんやはりアカデミーは不公平だなと。

・アカデミー賞ではエンニオ・モリコーネの音楽が有力視されてますが、いかんせん曲が少なかったような?個人的には「ボーダーライン」のほうが音楽が効果的に使われてて良かったと思う。

・役者が少なくてCGも使ってないということで、エンドクレジットの短さが印象的であった。「cat trainer」ってクレジットがあったたけどネコいたっけ?

・あのギターは骨董品だそうです

毎度ながらタランティーノ作品に感じる「悪くはないんだけど、あのノリにはどうも同調できない」という感触を払拭するものではなかったですが、クリストファー・ノーランとはまた違ったところでフィルムの伝統を守っている人でもあり、シネフィルなら見て損はない作品かと。

「The Night Manager」鑑賞

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ジョン・ル・カレの同名小説が原作のBBCのミニシリーズ。

2011年、アラブの春の動乱に揺れるエジプトにおいて高級ホテルの夜間管理人を務めていたジョナサンは、地元の有力者の愛人であるソフィーからとある書類のコピーを頼まれる。それは有力者に販売されたとみられる膨大な数の武器のリストであり、自分の身に何かあればそれを開示するようソフィーは依頼するが、ことの重大さを悟ったジョナサンはイギリス政府の関係者にリストを見せてしまう。その結果ソフィーの身に危険が迫ることとなり、彼女をかくまったジョナサンはやがて彼女と恋に落ちる。しかし彼女を国外に逃がすことはさらに危険を招くと説得されて彼は何もできず、そのうちにソフィーは何者かによって殺害されてしまうのだった。そしてその4年後、ジョナサンはチューリッヒの山奥にあるホテルに務めていたが、そこにエジプトの有力者に武器を販売した死の商人、リチャード・ローパーが宿泊に訪れ…というあらすじ。

原作は93年に出版されたものらしいが、うまく現在の政治状況にあわせてアップデートされてるのではないでしょうか。第1話はまだ話の序盤といった感じで大きく話が動くような展開はないものの、ずいぶんと予算をかけたような作りで緊迫した雰囲気を醸し出すのに成功している。

主人公のジョナサンを演じるのはトム・ヒドルストン。大きな陰謀に巻き込まれ、やがてローパーへの復讐を決断する動機が少し弱いような気もするが、ヒドルストンの演技が巧いのでまあいいや。そしてリチャード・ローパーを演じるのがヒュー・ローリーで、「トゥモローランド」以上に裏のある悪役を演じていて見ごたえあり。あとは彼の部下としてトム・ホランダーとか、ジョナサンにローパーへのスパイ行為を打診するMI6の職員としてオリヴィア・コールマンなどが出演しています。おれイギリスの法律には「すべてのドラマにオリヴィア・コールマンかラッセル・トヴェイを出演させるべし」という条例があるのではないかと常々思っているのですが、この番組にはしっかり二人とも出ているので、やはりそういう法律が定められているのでしょう。

ル・カレ作品なので、勧善懲悪などではなく最後はもやっとした感じで終わりそうなのが心配ではあるけど、かなりクオリティの高い番組なので今後も見続けると思う。日本でもいろんな局が狙ってるんじゃないかな?

「サウスポー」鑑賞

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アントン・フークア監督のボクシング映画。日本では8月公開かな?

ビリー・ホープはライトヘビー級の無敗のチャンピオンで美しい妻と娘にも恵まれていたが、彼との対戦を求める選手とのいざこざにおいて、妻が流れ弾を受けて死んでしまう。これのショックで自暴自棄になったビリーは飲酒運転などで事故を起こし、ボクシングのライセンスばかりか娘の養育権まで剥奪されてしまう。すべてを失ってどん底に落ちた彼は、町の小さなボクシングジムのトレーナーと出会い、再起をかけてまたボクシングを始めるのだが…というようなあらすじ。

予告編でバラされている内容が1時間半くらいかけて展開していく時点でもう減点対象なのだが、なんか3流漫画誌にありそうな非常にベタなストーリーの作品。すべてを失った男が、娘のために再起を誓う…って話は今までどれだけ目にしてきたことか。主人公と妻が孤児院の出身だとか、家庭内暴力に悩む少年がジムに通っているとか、コテコテな設定が中途半端に投げ込まれています。脚本は「サンズ・オブ・アナーキー」とかやはり短命に終わった「THE BASTARD EXECUTIONER」のカート・サッターだが、彼の脚本って肩に力が入りすぎていて話の流れに緩急が無いのでは。

これもともとはエミネム(左利き)が主演する予定だったのが、音楽活動に専念したいということで主役がジェイク・ギレンホールに交代したらしい。しかしギレンホールは右利きだ!「サウスポー」という題名を残す必要はあったのか?とはいえその前は「ナイトクローラー」でガリガリに痩せていたギレンホールが、短期間で筋肉モリモリの役作りをしたのは凄いけどね。主人公のサイコっぽい戦い方は「ナイトクローラー」に通じるものがあって、激昂して鏡をブチ壊すシーンもまたやってます。

ただ主人公が「殴られれば殴られるほど強くなる」というこれまたベタな設定なため、試合中は喋ってばかりでろくにガードをせずにボコボコに殴られてるのだが、実際にそんな試合やったら負けてますから!ガードができないチャンピオンって何なんだよ。良い子はマネしちゃだめだよ。

脇役にはレイチェル・マクアダムスとかフォレスト・ウィテカーとか揃えてるのにろくに活用してなくて勿体無い、一方でカーティス・ジョンソン(50セント)は演技がヘタなので起用しないほうがいいいと思うぞ。アントン・フークアって微妙な内容の娯楽映画ばかり作ってる印象があるのだけど、これもそんな作品であった。最近のボクシング映画ならこれじゃなくて「クリード」観ましょう。

「Donald Trump’s The Art Of The Deal: The Movie」鑑賞

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iSteveみたいな、コメディ動画サイト「Funny Or Die」による50分ほどのパロディ・ムービー。ここから無料で視聴可能。

ドナルド・トランプが80年代に出した自伝「The Art Of The Deal」の幻の映画版、という設定になっており、監督も編集も主演もみーんなトランプだそうな。トランプによるニュージャージーのカジノの買収を背景に、自分のビルにやってきた少年にトランプが自らの成功体験を語るという内容で、成功するためのアドバイスが切り札(トランプカード)の形で随所に挿入されてます。

んで80年代のニューヨークの文化とか不動産についてのジョークが延々と続くのだけど、そんなものマイナーすぎて分かんねえよ!エド・コッチ市長がどうした、とか言われても知らんがな。「アルフ」とかファット・ボーイズ(当然本人たちではない)が出てきて、ああそういうのいたねえ、と分かるくらい。

トランプ自身は自己中心的な高慢ちきとして描かれているが、決して批判的な内容になっていない。2016年の大統領選挙についても最後にちょっと言及されるくらい(クリストファー・ロイドが「私は過去を変えるためにやってきた!」と登場するのは笑ったが)で、風刺としてのパンチは弱い。これ例によって4日間という短期間で製作されたそうだが、脚本がよく練られてないような。「iSteve」もそうだったけど、短編だったら面白いものを無理に長尺にしなくても良かったんじゃないかとは思う。

そして出演陣ですが、誰がトランプを演じたか、上の写真で分かりますか?実はジョニー・デップだそうな。なんで彼がこんな役をやってるのかわからないけど、まあ「Funny or Die」って昔から結構な有名人にバカな役やらせてたからなあ。これも80年代テイスト満載の主題歌をケニー・ロギンスが歌ってるし。そしてジョニー・デップはすごく熱演してていいですよ。最近は出演作が当たってないとか言われてるけど、やはり演技が上手いよね。他にもアルフレッド・モリーナとかロン・ハワード、ヘンリー・ウィンクラー、パットン・オズワルドなどが出演してます。

面白い作品かというとそうではないものの、時事ネタをジョニー・デップが体を張って演じているというのをタダで観られるということに文句をつけてはいけませんね。