「高慢と偏見とゾンビ」鑑賞

Pride & Prejudice & Zombies「ジェーン・オースティンの小説にゾンビが加わった!」という斬新(だった)設定が大受けした2009年のマッシュアップ小説を映画化したもの。

小説のヒットを受けて当然のごとくすぐさま映画化権が買われ、当初はナタリー・ポートマンが主演だのデビッド・O・ラッセルが監督だのと威勢のいいニュースが出てきていたが、なんかいろいろあるうちに製作が遅れスタッフも離れていき、今年になってやっとこさ製作されたということらしい。なんか一発芸のようなネタを何年も引きずりまわした結果、気の抜けたものになってしまった印象は否めない。アサイラム社ならこんな作品3ヶ月で作ってるぞ。やはり原作が下手にヒットしてしまうと製作陣も力を入れすぎてしまうのかなあ。

なおジェーン・オースティンって、90年代に「オサレな女子のための文学書。登場人物みんなの年収が書かれていて面白いね、ハハハ」みたいに扱われて流行ってたという印象がありまして、まあ個人的には大大大大嫌いな作家であるわけですね。ろくに読んでないけど。よって原作も大学の授業で数章読んだくらいで内容はよく知らないのですが、ツンデレ女とダーシー君が結びついて終わるんでしょ?以上!

んでこっちは当然ながらゾンビが出てくるわけで、エキゾチックな異国からやってきたゾンビの病に国の老若男女が冒されるなか、貴族の婦女子たちは護身のお作法として日本や中国でマーシャルアーツを学び、ゾンビの猛威を蹴散らしつつも良家の男子に嫁ぐために花嫁稼業に励むのでした…という内容。

よって恋愛コメディとアクションが入り混じっているわけだが、なんかとても中途半端な内容になってしまっている。華麗な女子たちがスラリと剣や銃を抜いてゾンビをなぎ倒すはずが、夜や屋内のアクションが多くてどうも画面が見づらいのよな。アクションシーンは役者たちがスタントなしで演じたらしいが、こういうのを良しとする風潮って個人的には疑問を感じてまして、どうせ映画なんてフェイクの世界なんだから、より良い映像が撮れるのならスタント(ウー)マンを使えばいいのに。おかげで殺陣もなんか生ぬるい出来になっていたよ。

また恋愛コメディのほうですが、まず主人公たち5人姉妹の顔の見分けがつかない!加えて身内以外にはみんな「ミス・ベネット」と呼ばれるので名前もよく分からない!主人公はケネス・ブラナーの「シンデレラ」の人かい?話の進み方もなんかまどろっこしいところがあるのですが、こういうのって原作知ってればもっと楽しめるのかしらん。役者ではチャールズ・ダンスとかレナ・ヘドリーといった「ゲーム・オブ・スローンズ」の人たちや、11代目ドクター・フーことマット・スミスが出ております。

これもっと型破りな、悪趣味なコメディにしてたらもっと面白くなったと思うのだがなあ。2つのジャンルを混ぜてるのに、メリハリがなくて全体的に単調なトーンになってしまったのが勿体ない。やはりジェーン・オースティンはダメだね(という結論にしておく)。

「Sex & Drugs & Rock & Roll」鑑賞

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前から興味のあった、イギリスのミュージシャンであるイアン・デューリーの2010年の伝記映画。

少年時代にプールでポリオにかかって左半身が麻痺したデューリーは障害児向けの学校で寮生活を送るものの同級生や先生に虐待され、当然のごとくひねくれた大人に成長。結婚して子供ができても家族のことなどそっちのけでバンド活動に専念し、若い愛人ができて別居したはずが妻と子供を招いて4人で暮らす奇妙な生活を送り、そんな環境で育った息子のバクスター(彼自身もミュージシャンなんですね)も当然のごとくひねくれた少年に成長。そんな息子と父との交流を軸にデューリーの人生が描かれていく。

ステージ上での語りと回想として話が始まり、過去の回想と現在がクロスカッティングされてストーリーが進んで行くために時系列がこんがらがっていて、褪せた色調やコラージュが使用された画面づくりは往年のイギリスのアートシネマといった感じ。ニコラス・ローグの作品に似ているのかな?監督のマット・ホワイトクロスって知らない人だったけど、ストーン・ローゼスにデモテープを渡そうとする若者たちの映画「SPIKE ISLAND」なんてのも撮ってるのですね。そっちも面白そう。

主演はアンディ・サーキス。最近は顔を出さないモーションキャプチャーの人、という印象が強いですが、デューリーそっくりな格好に扮して大変な熱演をしています。歌も自分で歌ってるよね?そんな彼の薄幸な妻を演じるのが、薄幸な妻ばかり演じてる感じがするオリビア・ウィリアムスで、愛人役がナオミ・ハリス。バックバンドのブロックヘッズのメンバーとしてはトム・ヒューズ演じるチャズ・ジャンケルに焦点が当てられている。他にもルーク・エヴァンズやアーサー・ダーヴィルやマッケンジー・クルック、ノエル・クラーク、トビー・ジョーンズなど今にしてみれば滅茶苦茶豪華な役者陣が揃ってるのですが、あまり目立ってないので後になって「え、そんな人たちが出演してたの?」と驚いた次第。

奇しくも日テレで24時間テレビをやってる日に見たわけですが、国連が1981年を「障害者の年」と発表したことに嫌気がさし、障害者としてチャリティ向けの曲を書いてくれと依頼され、悪態をつきまくる「Spasticus Autisticus」を発表したらBBCに放送禁止にされたくだりは面白かったですね。特に心に残るような伝記映画ではないが、イアン・デューリーを好きな人なら観る価値はあるかと。

「The Tick / ティック~運命のスーパーヒーロー~ (仮題) 」鑑賞

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「(仮題) 」だそうです。

アマゾンがよくやるパイロット版をいくつか公開して、そのうち人気があったやつをシリーズ化するという施策のうちの1つだが、日本でもプライムビデオが始まった関係で日本語字幕付きでタダで観られるよ。新番組なのにまったく宣伝してないところがアマゾンジャパンっぽいですが。トップメニューからどうやっても見つからず、「ティック」で検索してやっと見つけたぞ。

原作はベン・エドランドが80年代に生み出したインディペンデント・コミック「The Tick」で、インディペンデント作品としてはかなり有名な部類に入るんじゃないかな。スーパーヒーローもののパスティーシュ的なコメディ作品で、怪力だけど愚鈍なヒーローのティックと、そのサイドキックで小心者のアーサーたちが、悪の黒幕ザ・テラーや数多くの忍者たちとドタバタを繰り広げるような内容だったような。実はコミックはきちんと読んだことないのよ。ティックの雄叫びが「スプーン!」なのは知ってます。

アメリカで誰もが知ってるようなキャラクターではないものの、根強い人気はあるようで1994年にはアニメ化されているし、2001年にはパトリック・ウォーバートン主演で実写のシットコムにもなっている。そして15年ぶりにまた映像化されたというわけ。

このパイロット版の脚本はエドランド自身によるもので、意外にも話の主人公はティックよりもアーサーになっている。子供の頃にヒーローたちとザ・テラーの戦いの巻き添えとなって目の前で父親が死ぬのを見た彼は、それがトラウマとなって精神的に不安定な少年になっていたが、死んだとされるザ・テラーが生きていることを信じて独自に調査を行い、その過程で青いコスチュームに身を包んだ大男ザ・ティックに出会う。さらに彼はティックから蛾をモチーフにしたコスチュームを渡されて…といったあらすじ。

いちおうコメディなんだけど笑える箇所はあまりなくて、スーパーヒーローのいる世界を比較的リアルに描いた内容になっていた。「キック・アス」や「POWERS」なんかに近い雰囲気かな?そもそもティックは実在せず、アーサーの想像が生み出した存在なのではないか、ということも示唆されていたりする。ベン・エドランドってここ10年くらいはコミック作家よりもテレビドラマの脚本家をやってたらしいが、その経験がこういうリアルな描写につながったのかな。

プロデューサーにパトリック・ウォーバートンが名を連ねているが今回のティックを演じるのは彼ではなくピーター・セラフィノウィッツ。ダース・モールの声に始まり「スペースド」から「LOOK AROUND YOU」から「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」、さらに最近ではドナルド・トランプの声までいろんなことをやってる多才な人ですな。裏のサイモン・ペッグというか。ここでもいい感じで演技してるけど、マスクで顔の大半が隠れてるのが残念といえば残念か。あとは敵のザ・テラー役をジャッキー・アール・ヘイリーが演じていたが、コミック原作の作品にばかり出てるなこの人は。

コメディを期待すると肩透かしをくらうかもしれないが、ヒーロー(サイドキックか)のオリジンを真面目に描いたものとしては比較的よくできていた。いかんせん知名度のある作品だからアメリカでシリーズ化が決定されるんじゃないでしょうか。そしたら日本でも題名が正式決定されるのでしょうか。

「バットマン:キリングジョーク」鑑賞

Batman_ The Killing Joke
・実のところ、あまり観る気がしなかった作品である。原作はバットマンのコミックのなかでも1、2を争うくらいに有名な、そして優れた作品であるが、個人的にあれはもう当初のコミックのままで完璧だと考えていて、ブライアン・ボランドがのちに色を塗りなおしたバージョンも邪道だと思うくらいなので、アニメ化などもってのほかなのですね。しかしブルース・ティムがプロデューサーで、ケヴィン・コンロイとマーク・ハミルがそれぞれバットマンとジョーカーの声をあてるという、「Batman: The Animated Series」の黄金のメンツが戻ってくるとなれば鑑賞せずにはいられなかったんだよ!

・原作を書いたのはアラン・ムーアだが例によってクレジットに名前は一切登場せず、脚本を「100 Bullets」のブライアン・アザレロが担当している。40数ページの原作を長編アニメにするのは難しかったのか、前半3分の1くらいはオリジナルストーリーになっており、若くて頭の切れるマフィアの男を捕まえようとするバットガールの話に時間が割かれている。マフィアの一家と若き女性の物語という点では「100 Bullets」に似ているところがあるかな。アザレロが書いたバットマンの「Broken City」や「Joker」とかではなく。これでバットガールのキャラを立たせ、彼女とバットマンの関係を描いたつもりなのだろうが…

・…そもそもそんなことする必要あったのか?原作はアレゴリーに満ちているが、テーマは明確で、混沌とした世界で正気を保とうとするバットマンと、狂気を司るジョーカーの対立と、彼らがいかに表裏一体の存在であるかという話なのですよね。その中でバーバラ(バットガール)とゴードン警視総監はあくまでもジョーカーに使われる道具でしかないわけ。それなのにバットガールのキャラを立たせてしまったことで、バットマンとジョーカーの対立の図式がブレまくってしまっている。極端なことを言うとバットガールがいなくても話は成立すると思うのだが。

・原作では極端なくらいのイメージのセグエによってジョーカーの過去と現在が描かれ、バットマンとよく似たオリジンを持っていることが終盤の「One bad day」のセリフへと結びつくわけだが、冒頭にバットガールの話を持ってきたことで話の焦点がズレてしまってるのよな。彼女の運命を知りながら、彼女の活躍を30分も観るのはちょっとしんどいものがあったよ。いっそ冒頭30分(とミッドクレジットのシーン)を削除したら原作にかなり近い出来になっていただろう。

・一方でブルース・ティムのキャラクターデザインは相変わらず美しいし、日本と韓国のスタッフが担当したらしいアニメーションもよく動いている。その反面、ブライアン・ボランドの緩急つけたアートの見事さを再認識する結果にはなったが。声優はケヴィン・コンロイのバットマンもさることながら、マーク・ハミルのジョーカーがやはり素晴らしいですね。後半は完全に彼の演技で話が支えられている。残念なのはレイ・ワイズによるゴードン総監で、心理的な虐待を受けながらも砕けない男の強さをもっと出して欲しかった。この作品、ボイスディレクターがDC作品の常連であるアンドレア・ロマーノではないんだよね。

・原作を知ってる者としては、やはり前半のバットガールの話が余計だし、知らない人にとっては、途中でバットガールが退場するのが不可解に感じられるのではないでしょうか。結局のところ、やはりアラン・ムーア作品の映像化には手を出さないほうがいいという鉄則をまた証明することになってしまった。ブライアン・アザレロも好きなライターなんだけどね、他人の作品の脚色には関わらないほうがいいかと。

「April and the Extraordinary World」鑑賞

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ジャック・タルディのコミックを原作にした、フランス・ベルギー・カナダ合作のアニメーション映画。観たのは英語吹替版。

話は普仏戦争が忍び寄っていた1870年のフランスから始まる。戦争にあたり無敵の兵士を欲していたナポレオン3世は、科学者のグスターヴ・フランクリンに内密で傷ついた細胞を修復させる特効薬の開発を命じていたが、ラボでの爆発によりナポレオン3世もグスターヴも命を落としてしまう。国を継いだナポレオン4世は平和主義者だったので戦争は回避されたものの、それから60年のあいだ、世界各地で著名な科学者(化学者)が誘拐されるという事件が起きる。おかげで世界の科学的発展はストップして電力の発見も起きず、石炭と木炭によるスチームエンジンの噴煙により大気は汚染されていた。誘拐されずに残った科学者たちは政府に強制連行されて政府のための研究を強いられていたが、グスターヴの息子プロスパーは息子夫婦と孫娘のエイプリルとともに身を隠し、グスターヴの特効薬の完成を目指していた。しかしピゾーニ警視率いる警察部隊が彼らの研究所を強襲し、一家は離れ離れになったばかりか、エイプリルの両親は何者かに誘拐されてしまう。それから10年、ティーンとなったエイプリルは両親の開発した薬で人語が話せるようになった猫のダーウィンとともに、身を隠しながら特効薬の研究を続けていた。しかしそこにもピゾーニの追跡が迫り…というようなあらすじ。

英語版の声優はポール・ジアマッティやスーザン・サランドン、JKシモンズなど。フランス語版のエイプリルの声はマリオン・コティヤールがあてているらしい。

架空歴史の設定がいろいろ詰め込まれてますが、これで冒頭20分くらいの展開ね。ここからセンス・オブ・ワンダーの展開が続き、話も意外などんでん返しを迎え、スチームパンクからアクションから家族愛までいろいろ盛り込み、最後は本当にホロっとする終わり方に持っていくのがもう本当に素晴らしいのでございますよ。話の前半こそ世界設定の説明のためか話のエンジンがかかるのが遅い気がするし、話の黒幕も早い段階で予想がついてしまうものの、中盤からの冒険活劇は非常に爽快。

アメリカの批評では「ミヤザキ・ミーツ・ピクサー」なんて言われているみたいだけど、確かにメカの描写などは「未来少年コナン」などを彷彿とさせるところがあり。人物の動きはジブリ作品や「The Legend of Korra」に比べれば物足りないものがあるかもしれないが、猫のダーウィンの躍動感なんかはいいですよ。つうか化学者の女の子が主人公の冒険アニメなんてそうそうないでしょう。メガネっ娘要素こそないものの、自分で運命を切り開いていくエイプリルの活躍が素晴らしいのですよ。

これ日本で公開されてないのが非常に勿体ない。日本でも受ける要素はいろいろあると思うのだがなあ。いっそジブリが配給をすればいいんじゃないかと思う傑作。