「The Opposition With Jordan Klepper」鑑賞


コメディ・セントラルの新番組。「コルベアー・レポー」と「ナイトリー・ショー」に続く、「デイリーショー」からの3つ目のスピンオフ番組。

司会は先日まで「デイリーショー」に「特派員」の一人として出演していたジョーダン・クレッパー。ジョン・スチュワートが司会やってたときから番組にいたベテランだし、トレバー・ノアが病欠したときは代理で司会を務めていたナンバー2的な存在だったので、今回晴れて自分で番組を持つことになったわけだ。企画にはスチュワートもノアも絡んでいるよ。

「デイリーショー」でのクレッパーはロブ・コードリーやジェイソン・ジョーンズに続く「頭の回転の鈍い白人」というような役回りだった。番組で数少なくなった「白人男性の出演者」という立場を利用して、トランプ支持者の集会で参加者にインタビューを行い、支持者の怒りを買いかねないキツい冗談を彼らの前でサラっととばす腕前がなかなか見事な人であったのです。

かつて「コルベア・レポー」でスティーブン・コルベアはブッシュ政権支持の保守系コメンテーターというキャラを演じたが、この番組でのクレッパーはさらに時代にあわせ、いわゆる「オルト・ライト」の司会者という設定で、メインストリーム・メディアによるフェイクニュースのウソを暴く人、というキャラクターを演じている。

日本でもマイロ・ヤノプルスとかトミ・ラーレンといったオルト・ライトのコメンテーターはそこそこ知られてるが、クレッパーのキャラのモデルになってるのは「インフォウォーズ」というサイトやラジオ番組をやっているアレックス・ジョーンズというオッサン。ヒラリー・クリントンは宇宙人の子供を産んだ!というようなズブズブの陰謀論を繰り広げているアレな人だがなぜかトランプ支持者には人気があって、先日のピザゲート事件も彼がデマを拡散していたような。

そんなジョーンズばりにクレッパーは突拍子もない陰謀論を述べたりするのですが、事前の報道によってクレッパーが自分の真似をすることを知ったジョーンズが怒りを自分の番組でぶちまけており、その映像をさらにクレッパーが茶化すという展開が第1回目では繰り広げられていました。

番組にはクレッパーのほかにも、「デイリーショー」の特派員のごときサブの出演者が何人か出てくるほか、番組の後半にはゲストが登場してクレッパーとトークをする構成になっていた。

第1回目を観た印象としては、やはりまだこなれてない感じがするし、過激なキャラクターを演じるというネタがどこまで長続きできるかな、という気もする。しかし人種差別をメインに扱ったためにどうしても真面目にならざるを得なかった「ナイトリー・ショー」が比較的早めに終了してしまったことを考えると、こういうはっちゃけたキャラで勝負するのも悪くはないかと。

不幸にも「オルト・ライトのキャラ」というのは非常に今の時代を反映しているわけで、それをコメディに昇華させるのは難しいかもしれないけど、「コルベア・レポー」のような成功をすることに期待しましょう。

「THE BIG SICK」鑑賞


「フランクリン&バッシュ」や「シリコン・バレー」などで日本でもお馴染み(?)のコメディアン、クメイル・ナンジアーニの伝記的映画。奥さんのエミリーとの出会いを描いたもので、脚本も二人が執筆したものになっている。

シカゴに住むパキスタン系のクメイルはウーバーの運転手をしながらコメディクラブに出演しているコメディアンで、ある晩にエミリーと知り合って二人はすぐに恋に落ちる。しかし彼の両親は伝統的なムスリム教徒で、パキスタンの伝統にのっとってパキスタン系の女性とクメイルを結婚させようと躍起であり、さまざまな女性をクメイルに紹介していた。このためクメイルは白人のエミリーのことを両親に紹介できず、それがたたって二人の仲は険悪なものになってしまう。そんなときにエミリーが謎の疾患によって昏睡状態になってしまい、クメイルは彼女の看病にやってきたエミリーの両親に出会うことになる…というあらすじ。

監督は「ザ・ステイト」出身のコメディアンのマイケル・ショワルターだが、プロデューサーをジャド・アパトウが務めていて、全体的な雰囲気もアパトウ作品っぽいかな。ドラマとコメディの比率が8:2くらいなとことか、微妙に必要以上に尺が長いところとか。

クメイルとエミリーは出会ったその晩にヤッてしまうくらいの相性なのですが、クメイルはエミリーを自室に連れ込むなり「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」を見せたり、3回目のデートでは「怪人ドクター・ファイブス」を見せつけるという筋金入りのオタク。そんな趣味についてこれる女性がいるかよ!とは思うがまあ実際にあったことなんだろうなあ。その一方でそれなりに事実に脚色がされていて、クメイルの両親は実際もっと話がわかる人たちだったみたい。

話の前半でエミリーが昏睡状態になって、そのあとの話はエミリーの両親とクメイルが互いに打ち解けていく過程が中心になっていく。コメディアンとしてのキャリアを築こうとするクメイルの奮闘も並行して描かれるが、感情的になってステージ上で全然笑えないセットを披露してしまうくだりはね、他の映画でもたくさん見てきた展開なのでクリーシェすぎたです。

クメイルを演じるのはクメイル自身だが、エミリーはゾーイ・カザンが演じている。エミリーの両親をレイ・ロマーノとホリー・ハンターというベテラン勢が演じていて、最初はクメイルのことを敵視しているハンターの演技がすごく良かったな。クメイル・ナンジアーニのコメディって、どことなく無感情というか突き放した感じがあって個人的にはそんなに好きではなかったけど、この作品では激昂して暴れるシーンとかもあって結構面白かったです。

なんとなく先が読める予定調和の話ではあるし、スタンダップコメディの世界とかパキスタン系アメリカ人の結婚事情なんてのは日本人にはとっつきにくい題材かもしれないが、ほんわりとしたロマンティック・コメディであって結構楽しめる作品でしたよ。「ベイビードライバー」と並んでこの夏に高評価を受けた作品であるというのも納得。

「Philip K. Dick’s Electric Dreams」鑑賞


英チャンネル4とアマゾンによる、フィリップ・K・ディックの短編小説を映像化したアンソロジーシリーズ。プロデューサーやライターにはロナルド・D・ムーアとかブライアン・クランストンなどが名を連ねていて、イギリスとアメリカの両方で撮影されたのかな?

原作となった短編は「地図にない町」「父さんもどき」「自動工場」などなど。おれディックの小説はほとんど読んでるし、短編もそれなりの数読んでるはずなのですが、いかんせん学生時代の話なので20年以上前で、どの話がどんな内容だったかろくに覚えてなくて…「パーキーパットの日々」みたいなメジャーな作品ならまだしも…あれ「パーキーパットの日々」ってどんな結末だっけ…。まあ後述するように映像化されるにあたって多少の脚色はされてるようで。

第一話「The Hood Maker」は「フードメイカー」を原作にしたもので、舞台は荒廃したイギリスの近未来。人の心を読み取るテレパス能力を持った、「ティープ」と呼ばれるミュータントたちが人類のなかで出現していたものの、彼らは普通の人間に虐げられ、ゲットー暮らしを強制されていた。そんななか、ティープの読心能力を遮る被り物(フード)が何者かによって巷に出回るようになる。ティープの能力を犯罪者の尋問に使用しようとしていた当局は、若き刑事とティープのコンビを調査にあたらせるのだが…というあらすじ。

これ原作読んだかまったく記憶にないので、ラジオ・タイムズの記事を参考にしましたが、ずいぶん原作に改変が加えられているみたい。原作ではもっと当局の役職者がフードの作成者の調査にあたるのに対して、映像では刑事とティープのふたりが主人公になっている。立場の違う刑事とティープの仲が深まるあたりは「ブレードランナー」に通じるものがありました。

原作は18ページほどの物語ということで、いろいろ脚色されるのは仕方ないにしろ、少し話が間延びするところもあったかな。チャンネル4のSFアンソロジーといえばテクノロジーの悪夢を描いた「ブラック・ミラー」が有名だが、こちらは50年以上前の小説を原作にしているために、テクノロジーよりも人間の置かれた環境に焦点をあてた内容になるのかもしれない。

第一話の脚本は「ライフ・オン・マーズ」のマシュー・グラハムで、主演はリチャード・マッデンおよびこないだの「STRIKE」に出てたホリデー・グレインジャー。全体主義社会にはイギリスがよく似合いますね。アメリカだと国土が広すぎる気がして。

これからはブライアン・クランストンやテレンス・ハワード、ジャネール・モネイ(!)といったアメリカ組のエピソードも放送されるので、原作がどう映像化されるかに期待。短編集ざっと読み直すかな…。

「THE DEUCE」鑑賞


「ザ・ワイヤー」のデビッド・サイモン&ジョージ・ペレケーノスによるHBOの新作ドラマ。音楽もブレイク・レイだぞ。第1話が無料公開されてたので例によってIPアドレスをゴニョゴニョと。

オープニング・クレジットからして「ザ・ワイヤー」っぽいね。

舞台となるのは70年代初頭のニューヨークで、売春や麻薬取引などが蔓延するなかでのポルノ業界の合法化と勃興を描いたものになるとか?「ザ・ワイヤー」同様に多数の登場人物が出てくる群像劇になっていて、バーで働いているがギャンブル好きの双子の兄弟のおかげでマフィアに借金返済を迫られ、家庭では遊び人の妻に愛想をつかして家を出る男ヴィンセントを主人公に、ピンプ(ポン引き)につかずに単身で頑張っているものの年齢による衰えを感じている売春婦のキャンディ、田舎からやってきてピンプに雇われて売春婦になる少女、麻薬を買って逮捕される大学生の少女、といった人物たちの人生が絡み合っていく話になるみたい。第1話は90分あるものの話の進展がゆっくりなので、彼らの大半はまだ出会いもしなかったりする。売春していた女性たちがピンプを離れてポルノ業界で働くようになり、ヴィンセントがそれに関わる話になっていくのかな?

HBOのドラマなのでふんだんに金が使われ、「ボードウォーク・エンパイア」もそうだったように、セットは70年代当時の雰囲気を忠実に再現しているみたい。衣装なども当然70年代ファッションが炸裂しているわけですが、黒人のピンプたちの服装がもういかにもピンプといった格好で、あれってステレオタイプではなく実際にああいう外見だったんだろうなあ。公民権運動がどうピンプの登場につながっていったのかとか、そういう歴史も調べたら面白そう。なおテーマがテーマなのでオッパイとかチンコとかいろいろ見えてまして、日本で放送する際はいろいろボカシが入るでしょうな。

ヴィンセントとその兄弟を一人二役で演じるのがジェームズ・フランコ。最近はコメディの出演が多い気がする彼だが、やはりシリアスな役を演じると上手いのよ。キャンディを演じるのがマギー・ギレンホールで、体を張った演技を見せています。あとは有名どころだとゾーイ・カザンやラルフ・マッチオ。「ザ・ワイヤー」からはベンガ・アキーナベイやローレンス・ジラード、メソッドマンなんかが出ていた。

まあ話がこれからどういう展開になっていくのかはよく分からないのだけど、第1話の評判はずいぶん良いようだし、デビッド・サイモンの作品なので注目に値するんじゃないでしょうか。日本でも放送予定。

「ダンケルク」鑑賞


・クリストファー・ノーラン監督作品で、それなりの予算がかかってるので大作映画であることは間違いないわけだが、登場人物の大半に名前がなかったり、無名に等しい役者を起用しているあたりはバットマン三部作や「インターステラー」に比べてもかなり実験色の強い作りだな、という印象は受けた。当初はインプロビゼーションを多用した撮影になるという話もあったようで、そう考えると隙の多い脚本もまあそういうものかなと思われてくる。

・でも陸・海・空で時系列がずれてるのは個人的には分かりづらいな、とは思いましたが。冒頭にちゃんと説明がされてるとはいえ、昼だった場面が急に夜になったりするのだもの。

・秒針が刻まれるサウンドトラックも効果的に用いられ、一刻をあらそう撤退作戦の緊迫感はとてもよく醸し出されていたと思う。とはいえやはり登場人物の設定が深堀りされないなかで先頭のシーンがずっと続くため、ノーラン作品としては短尺ながらも若干中だるみするところがあったかな。

・クレジットには大戦時に実際に救出作戦に用いられ、今回の撮影においても使用されたボートの名前が表記されてました。

・マイケル・ケインが冒頭に声だけの出演をしてるのに気付いたので、誰かほめてください。

・イギリス軍が変に美化されず、砂浜に取り残された若き兵士たちがズルをしてでも先に帰還船に乗り込もうとするところとか、フランス兵が全体的に差別されているところをちゃんと描いているのは良かった。軍事的には大失敗であった出来事だが、丸腰で撤退してきた兵士を当時の日本軍ならどう扱っただろうとか、今の日本ではどうだろう、といったことについて、どうしても考えざるを得ないのです。