「The Man In the High Castle」鑑賞

highcastleTransparent」がゴールデン・グローブ賞を受賞したりして、米アマゾンのオリジナル・シリーズもネットフリックス並みの評価を得るようになってきたわけですが、3回目(だよな?)となるパイロット番組の一群がこないだ公開されまして、これはそのうちの1つ。

フィリップ・K・ディックのSF小説「高い城の男」を原作にしたもので、「Xファイル」のフランク・スポトニッツが脚本を書いていて、製作にはリドリー・スコットが名を連ねている。当初はBBCやSyfyチャンネルで放送されるという話もあったけど、結局アマゾンで公開されることになったわけか。思ったよりも製作が早かったな。

話の設定は原作に比較的忠実で、舞台となるのは第二次世界大戦に枢軸国が勝利し、ナチス・ドイツと大日本帝国によって分割統治された1962年のアメリカ。市民の生活はナチスや日本軍に厳しく監視され、ユダヤ人や障碍者などは弾圧の対象になっていた。一方でヒットラーは高齢のため死期が近づいており、ゲッベルスやヒムラーが後を継げばアメリカ全土の掌握を求めて戦争を仕掛けてくることを日本側は危惧していた。そんななかニューヨークからはレジスタンス運動に加わったジョーという青年が、そしてサンフランシスコからはジュリアナという女性が、それぞれ使命を帯びて緩衝地帯にあるコロラドの町へとやってくるのだが…という展開。

原作ではアメリカが敗戦国になった状況をもっと甘受してたような憶えがあるけど、こちらでは帝国主義へのレジスタンス活動が行われていることが強調されている。ディックの小説の大きなテーマである「何が本物で何がニセモノか」という要素も盛り込まれてはなく、原作の主要人物である美術商のロバート・チルダンも第1話では登場していなかった。そして原作との最大の違いは、連合国が勝利した「正史」を描いたフィクション「イナゴ身重たく横たわる」が小説ではなくニュースリール映像になっていることで、これは映像化にあたっての必然的な変更になるのかな。当然CGなどもない時代において、連合国が勝利している映像がどうやって撮影されたのか?という謎が意外にも面白いアレンジになっていた。

リドリー・スコットが関わっているので「ブレードランナー」ばりの世界観を期待してしまうが、日本が統治するサンフランシスコの描写などは比較的抑えめだった。劇中で話される日本語は発音が変なのもあったけど、日本語の看板などは比較的よく出来てたかな。空港の名前が「ヒロヒト空港」となってるのはご愛嬌。易経もちゃんと出てきて、田上信輔がお伺いを立てています。

その田上信輔を演じるのがケイリー=ヒロユキ・タガワで、あとはルーファス・シーウェルやDJ・クオールズなんかが出演してます。原作も決して話にメリハリがある小説ではないし、シリーズ化されたら話がどう進んでいくのか予想もつかないけど、今後の展開が面白くなりそうな内容ではあった。なおこれを除けば今回のアマゾンのパイロット番組はみんなダメ、という評価も出ているので、とりあえずこれはシリーズ化される可能性が高いんじゃないでしょうか。

「EMPIRE」鑑賞

Empire, Season 1
フォックスの新作TVシリーズ。

元ラッパーでプロデューサーのルーシャスはエンパイア・エンターテイメントという音楽企業を立ち上げて成功し、会社は株式公開も目前としていた。彼には3人の息子がおり、近々そのうちの一人に会社を継がせるつもりでいたが、彼の元妻で麻薬取引の罪で刑務所に入っていたクッキーが17年ぶりに出所してきて彼の前に現われる。会社の立ち上げ時の資金が、彼女が犯罪に手を染めて手配したものだということをちらつかせながら、彼女は会社の大きなシェアを要望する。そしてミュージシャンの次男のマネージメントを彼女が担当することになり、同じくラッパーとしてデビューする三男との競合が始まるのだった…というような展開。

いわゆるナイトタイムソープなので、ドロドロとした人間関係がコテコテに詰まってます。売れない頃に裏社会と関わっていたルーシャスはいまだにその関係から抜けきれないでいるし、さらに難病をかかえていることが発覚して余命数年と宣告される次第。彼の息子たち(ビジネスマンとして優秀だがミュージシャンでない長男、ミュージシャンとして優れてるがゲイである次男、若くて横柄な三男)も会社の経営権をめぐって裏では駆け引きが始まっているうえに、すべてをクッキーが引っかき回すという設定。でもどの登場人物も深みがあるように描かれているかな。

第1話の監督はリー・ダニエルズ。ルーシャスを演じるのがテレンス・ハワードで、クッキー役がタラジ・P・ヘンソン、あとはガボレイ・シディベがゲスト出演してたりと、かなり強力な役者が揃ってます。しかも今後はコートニー・ラブやナオミ・キャンベル、メイシー・グレイなんかも出演するみたい。内容が内容だけに歌のパフォーマンスも多分に盛り込まれていて、ドラマと歌の部分のバランスが微妙ではあるのですが悪くはない。なお音楽監修はティンバランド。

現代における音楽業界の実情とか、ラップ・シーンにおけるゲイの立場とかが描かれていて、ブラック・カルチャーが好きな人には結構楽しめる内容じゃないでしょうか。日本ではあまり受けないかもしれないけど、今後の展開が気になるような内容ではあった。

「PRIDE」鑑賞

Pride
日本では「パレードへようこそ」という邦題で4月公開だそうな。

舞台は1984年のイギリス。サッチャー政権のもと各地の炭鉱は次々と閉鎖され、失業の危機に面した炭坑夫たちはデモやストライキで抵抗を試みていた。そのニュースを知ったゲイの活動家のマークは、「政府に迫害されている者同士が力を合わせるべきだ!」と決意して(当時は同性愛行為が違法とされていた)、レズビアンとゲイによる炭坑夫へのサポートグループを結成、寄付を募って炭坑夫に送ろうとする。しかし炭坑夫の組合は同性愛者たちと関わりになるのを嫌がったため、マークたちは炭鉱の街を直接支援することにする。そして南ウェールズのオンルウィンという小さな町を選んだ彼らは、住人たちに好奇の目で見られながらも炭坑夫たちを支援していくのだが…というストーリー。

失業の危機に対して奮闘するイギリスの労働者たちを扱った、「フル・モンティ」や「ブラス!」「リトル・ダンサー」といった一連の作品に連なるもので、あれらの映画が好きな人なら十分楽しめるんじゃないでしょうか。男女が偏見を乗り越えて団結するさまは、ベタながらもやはりスカっとするものなので。ただしオンルウィンの人たちの多くは意外とあっさりと同性愛者たちに寛容になってしまうので、結果的にはストーリーの起伏が乏しいものになっているかも。同性愛に反対知る親や住人たちとの葛藤にもう少し踏み込んでも良かったのでは。あとこういう映画にありがちなのだが、ゲイの人たちがやたら素晴らしく描かれているんだよな。地元のボンクラがゲイのように踊ったら女の子にモテモテになった、というのはちょっと安直すぎるだろう。

出演者はビル・ナイやイメルダ・スタントン、ドミニク・ウェスト、パディ・コンシダイン、アンドリュー・スコットといった錚々たるイギリス(とアイルランド)の役者たちが顔を揃えていて、手堅い演技を見せてくれている。パディ・コンシダインの出ている映画にハズレはない、というのが俺の持論であります(「シンデレラマン」は大目に見よう)。あとはFGTHやコミュナーズといった当時の音楽がふんだんに使われているよ(〆を飾るのはやはりビリー・ブラッグ)。

実際にあった話をベースにしていて、実在の人物もいろいろ出てくるのだが、まあ例によって事実と異なっている、という批判もあるみたい。あとは有色人種が出てないとか、ウェールズ人の役者が起用されてないという批判もあるらしいのだが、そこまで細かくつつかなくてもいいだろうに。普通に良い映画ですよ。

「THE INTERVIEW」鑑賞

The Interview
んで今年の最初に観た映画がこれ。

巷でいろいろ話題になってるので大方のあらすじをご存知の人もいると思うが、セレブ相手のゴシップ・インタビューを得意としている番組のホストとプロデューサーが、実は北朝鮮の金正恩がその番組の大ファンであることを知り、彼に生放送でインタビューする機会を与えられる。これで俺らも真っ当なジャーナリスト扱いされると浮かれる2人の前にCIAが現れて、アメリカを核攻撃すると脅している金正恩をこの機会に極秘で暗殺するように依頼する。2人はこれを仕方なく承諾するものの、ホストの方は金正恩と接しているうちに情が移ってしまい…というような展開。

チャラけたホストを演じるのがジェームズ・フランコで、心配性のプロデューサー(ユダヤ人)がセス・ローゲン。ファニーマンとストレートマンという組み合わせはコメディの王道ですが、これに下ネタとかアメリカン・カルチャーのジョークとかがテンコ盛りになってます。英語でないと分かりにくいジョークもあるので、もし日本で公開されたとしてもそんなにウケなかったんじゃないかな(日本のソニーピクチャーズはDVD発売も含め完全に封印する予定だった)。

最初の3分の1くらいはリジー・カプラン演じるCIAのエージェントとのやりとりが多くて、彼ら3人は「フリークス学園」からの仲なので相性はピッタリですね。そこからフランコとローゲンが北朝鮮に行き、出会うのがランダル・パーク演じる金正恩(あんま似てない)。ケイティ・ペリーをはじめとする西洋文化が好きで、建国者の家系の後継ぎとしてのプレッシャーを常に感じている彼は意外といい人として描かれている。もちろん暴君としての側面もあるんだけどね。あとは彼の側近がヒロイン的な役回りになってます。

北朝鮮というかアジア人をコケにしたような描写も無くはないのだけど、外国の要人の暗殺を繰り返すアメリカを風刺したようなセリフもあって、思っていたよりも真っ当な作りのコメディであった(当初は金正恩の顔が溶け落ちるシーンなどもあったらしいが、上層部の判断で控え目になったらしい)。身内ネタに徹していた「THIS IS THE END」よりも個人的には良かったかも。

ソニーピクチャーズへのハッキングがこの映画とどのくらい関係があるのかはまるでわからないけど、まあ国の首脳をここまでコケにしたら快く思わない人もでてくるだろうな。こないだの「ドクター・フー」特番にあった「地球人は『エイリアン』なんて名前のホラー映画を作ったのか?なんて失礼な。異星人に侵略され続けてるのも無理はない」というセリフを連想してしまったよ。コメディたるものタブーにも挑戦していかないといけないわけですが、表現の自由とか権力の風刺などといった大それた論議にかけるほどの作品でも無いような気がする。すったもんだした挙げ句にVODでもリリースされてそれなりの収益を上げたわけだが、特異なケースであって今後のVOD市場に与える影響も大きいとは思えないし(全てはソニーの壮大なステマである、とか勘ぐってる人たちはスルーしましょう)。

とはいえ今回の騒動が世界的な話題になったおかげで、これを観なければならないと感じた各国の首脳やお偉方も多いだろうから、そんな人たちが「臭いチンコ」や「ウンコ漏らした」というジョークを目にすることになっただけでも、この映画の使命は達せられたと考えて良いだろう。何の使命なのかよく分からないけど。

謹賀新年

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明けましておめでとうございます。

昨年は仕事の方はいつになくはかどったと思うのだけど、相変わらず周囲には理解されてなくて、何だかなあという感じでした。しかも今年は海外から強力な競合がやってくるみたいで、そろそろ身の振り方を改めないといかんかなと考えております。

プライベートのほうは相変わらず独り身で気楽ではあるのですが、自慢することでもないですかね。身体を崩して仕事を辞めることになった人の話とかもこの年になるといろいろ耳にするので、皆様も健康にはお気をつけください。肉はなるべく食べず、砂糖の摂取も控えて、徒歩に励みましょう。昼寝も重要だよ。あとは慢心して自滅した人もよく見かけるので、いつ何事もすべてダメになるかもしれないと思いながら1年を過ごしたいですね。

今年の目標としては、1日1曲は新しい音楽を聴いてみたいと考えております。あとはやはり手品を学びたいなあ。

それでは今年もよろしくお願いいたします。