父が亡くなる

今週の月曜日に父親が自宅で倒れ、そのまま亡くなってしまった。それからドタバタと手続きを行ったのち、土曜日が葬儀だった。ちょっと所感を述べる。細かい情報は伏せるので、説明不足になっているかもしれないが許せ。

死因は脳内出血ということで、以前から高いと指摘されていた血圧が影響して、脳の血管が切れたのだろう。聞いた話では母に頭痛を訴えたあとにすぐ意識不明になったそうで、救急車で病院に搬送された時はもう心臓も停止していたらしい。ただし変に後遺症が残って半身不随とかになるよりも、苦しまずにすぐ亡くなったというのは、ある意味幸いだったのかもしれない。激情的な性格だった父親らしい、劇的だが短い終わり方だった。実のところ、父親はこうやって亡くなるんじゃないかな、と長らく漠然と心に抱いていたとおりの最期であったので、病院で帰らぬ人になったときも、ああそうなんだなと変に納得したのを覚えている。自分は両親が比較的高齢になってから生まれたので、物心ついてからずっと、いずれ来るであろう親の死を意識しながら生きてきたような気がする。

父は戦前の生まれで、幼少の頃は東京から田舎に集団疎開したような経験の持ち主であった。貧しい家で育ちながらも苦労して勉学に励み、少し身体的なハンディキャップを抱えつつも自分を含む家族を育ててくれたわけである。俺がこうしてブログで海外ドラマやアメコミの話をしているのも、父親の仕事の関係で海外に住んだ経験が基礎になっているわけで、それを考えると自分がいまある姿というのは、父に負うものが大きいんだな、と実感するのです。怒りっぽい人で、決して寛容的なタイプではなかったものの自分なりの正義感を持った人でもあり、晩年は国境なき医師団(https://www.msf.or.jp)に毎月寄付をしていたという。

職業は大学の教授をやっていて、研究本も3~4冊くらい出しているものの、まあ世の中で話題になるようなことはなかったですね。俺自身も気恥ずかしくて読んでいないし。カート・ヴォネガットの小説「ガラパゴスの箱舟」は売れない小説家(ヴォネガット作品ではお馴染みのキルゴア・トラウトですね)の息子が主人公だけど、あの息子にすごくシンパシーを抱いたのを覚えている。息子が父親の愛読者に出会うあの小説のラスト、すごく好きなんだよな。

とはいえ火葬場で骨になった父を見ながら考えましたが、人間死んだら残すのは骨だけですよ。「名を残す」とか言うけど、死んでしまったらそんなの本人には全く関係ないですから。人間は生きているうちが全てですので、生きているあいだに好きなことをやって、他の人を気遣って、悔いのないように死んでいきましょう。自分も死んだ父よりも、生きている家族(自分含む)のことを大事にしていきますので、みなさまもご自愛くださいませ。

「Dispatches from Elsewhere」鑑賞

AMCネットワークの新作ドラマ。

フィラデルフィアに住むピーターは毎日職場に向かい、退屈な仕事をして家に帰って寝るだけ、という生気のない生活を続けていたが、ある日道で見かけた謎めいた広告を目にして、そこに書いてあった番号に電話をしてみる。それによって彼はジェジュン研究所という組織の建物に招かれ、誰もいない部屋でテレビを見せられるものの、研究所の目的について警告するメッセージを目にしたために慌てて建物から抜け出してくる。そして今度はジェジュン研究所と対立するというエルスウェア協会のコマンダー14と名乗る人物にコンタクトされ、彼に導かれてピーターはシモーン、ジャニス、フレッドウィンという男女に出会う。彼らもまたジェジュン研究所やエルスウェア協会の目的を知らなかったが、物事の真相を追究しようとするのだった…というあらすじ。

自分でも何を書いてるのかよく分からなくなったが、とにかくよく分からんストーリーなのですよ。男女4人が何らかのゲームか陰謀に巻き込まれ、とにかく手がかりを追っていく、という話だと思ってもらえれば。

これ「THE INSTITUTE」という2013年のドキュメンタリーを基にしているそうで、そのドキュメンタリーでまさしくジェジュン研究所が出てきて、サンフランシスコで実際に1万人もの人がゲーム?陰謀?に巻き込まれた現象があったそうな。ドキュメンタリーは未見なのでどういうオチなのかさっぱり分からないが、この番組の設定やセリフはかなりこのドキュメンタリーから流用しているらしい。

シリーズの原案者・ライター・監督・主演はジェイソン・シーゲル。コメディ作品の印象が強い彼だが、シリアスな役を好演している。彼とともに謎を追うのがサリー・フィールドとアンドレ・ベンジャミンで、あとはトランスの女性の役をイブ・リンドリーという役者が演じていて、演技が絶賛されているようです。ジェジュン研究所のトップだという人物をリチャード・E・グラントが演じているのだが、彼に敵対するエルスウェア協会のコマンダー14もグラントが演じてまして…謎が謎を呼ぶばかり。

ピーターをはじめとする登場人物はみんな何かしらの悩みを抱えているように描かれていて、そんな彼らが与えられた手がかりを使って謎を明かしていくときは生活に刺激を与えられ、生き生きとしているのがポイント。視聴者もまた、結末のことは考えずに謎解きの過程を観て楽しむべき作品なのかもしれない。

「ブレイキング・バッド」や「ウォーキング・デッド」で人気の絶頂を迎えたAMCが、まわりまわって初期の「RUBICON」のような作品をまた作ったような印象をうける。こないだの「DEVS」といい、こういう知的好奇心をくすぐるような作品は好きですよ。アティカス・ロスによる音楽も効果的だし(第1話でスタインスキーの曲を使ってなかった?)。何が起きているかよく分からないものの、観ていて面白いという珍しい作品。

「DEVS」鑑賞

アレックス・ガーランド脚本・監督のミニシリーズ。「FX on HULU」という謎の扱いになってるが要するに米HULUのオリジナルシリーズな。ディズニーはDisney+と差別化するためにHULUの方に大人向けのシリーズをまわすようになって、その結果今年のHULUはいろいろ充実しそうなのであります。以下はネタバレ注意。

舞台となるのはサンフランシスコ。リリー・チャンとセルゲイは同棲中の恋人で、ふたりともシリコンバレーの巨大テック企業「アマヤ」に勤めていた。そこでの研究が認められたセルゲイは、会社のCEOであるフォレストから直に、極秘プロジェクトである「DEVS」への参加を要請される。会社の敷地(えらくデカい)の森のなかにあるDEVSの建物はコンクリートに覆われ、中には金のメッシュの壁と真空のエリアがあり、その中に作業エリアが電磁力で浮いているという巨大なもの。その中心にあるコンピューターが打ち出したコードを見たセルゲイは気分が悪くなり、そのまま失踪する(というかフォレストの差金で殺され、自殺に見せかけられる)。そして恋人がいなくなった原因を追求するために、残されたリリーはDEVSの謎を解き明かそうとするのだったが…というあらすじ。

隔離された研究所と謎めいたCEO、という設定はガーランドの「エクス・マキナ」に似ているかな。ただしあちらはAIをテーマにしていたのに対し、こちらは「自由意志(の否定)」を主題にしているみたい。あらゆることは起きるべき原因があって起きた、というのがフォレストの口癖だし、セルゲイは神経ネットワークをシュミレートして原生動物の動きを予測する研究をしていたし。まだDEVSのコンピューターは過去の出来事を映し出す機能もあるようなのだが、そこは完全には明らかになってません。なおDEVSという名前は「開発チーム(Development)」から取ってることも示唆されているがどうなんだか。

他にもセルゲイがロシアのスパイであったらしいことも明らかにされ、エスピオナージ的な展開もあったりします。しかし前になにかの映画を観たときも思ったが、大企業のセキュリティ部長が暗殺とかを自分でやってるのは何故なのだろう。顔バレしないように闇仕事専用の部下を雇ってもいいと思うんだが。

主人公のリリーを演じるのはガーランド作品の常連のソノヤ・ミズノ。通常のイギリス訛りはなくして、少しアジア訛りを加えたアメリカ英語を話してる感じ?まだ序盤で物事に困惑している状態だが、これからどんどん主役っぽい行動をしていくのでしょう。そしてアマヤの謎めいたCEO役にニック・オファーマン。コメディ番組の印象が強いが、もともとはアメリカで歌舞伎とか学んでた人だし、いい役者だよねぇ。あとは彼の秘書?役をアリソン・ピルが演じています。

全8話のうち2話を観たところだが、速いペースで話は進んでいくし、DEVS内部の映像は美しいし、いろいろ興味深くて面白い作品ですよ。あとはもう謎の展開にかかっているわけで、ガックリするようなオチが待っていないことだけを期待するしか。

「スキャンダル」鑑賞

この作品、日本のレビューだとニュース局でのセクハラだとかMeToo運動とかとの兼ね合いで語られてることが多くて、それはもちろん間違っていないものの、その舞台となったFOXニュースとは何ぞや?ということを説明しているものが非常に少ないので、その観点からちょっと書き記してみる。俺自身もFOXニュースなんてあまり観たことないし観たいとも思いませんが、「デイリーショー」などでネタの対象にされてることもあってそこそこ詳しいと思うので。

FOXニュースは劇中でも語られるようにルパート・マードック傘下のケーブル局で、モットーは「Fair & Balanced」(公平でバランスがとれた)といいつつも政治的スタンスはコテコテの保守右寄りで、煽動的なコメンテーターを起用することでブッシュ政権時に保守層のあいだで視聴者を増やし、CNNを追い抜いてトップのケーブルニュース局になったんだっけな。

その原動力となったのが本作品の悪者であるロジャー・エイルズで、物事の真相なんぞ気にせずに報道を煽るスタイルでFOXニュースをバリバリ売り込んでいった。劇中にもあるように上司であるマードック一家にも楯突くような人物で、マードック一家が政治的にどのくらい保守なのかは諸説あるようだが、FOXニュースが保守層の絶大な支持を得るようになったのはエイルズの手腕によるものが大きいと言われている。実はこの作品で扱われるエイルズのセクハラ事件、映画公開の直前にSHOWTIMEで「The Loudest Voice」というTVシリーズにもなっている。そちらではラッセル・クロウがでっぷり太ってエイルズを演じているが、未見なので比較はできません。

https://www.youtube.com/watch?v=lAnJJHrq0Ws

さて「スキャンダル」はカズ・ヒロによるメーキャップが話題になってアカデミー賞を受賞しているが、ジョン・リスゴウ演じるエイルズはゲイリー・オールドマンのウィンストン・チャーチルと同じで、とにかくデブメイクをすれば似てくるよね、という感じではある。一方のシャーリーズ・セロン演じるメーガン・ケリーはよく似ていて、ニコール・キッドマンのグレッチェン・カールソンはまあまあ似ている、といったところ。むしろ脇役のニュースアンカーたちの似てなさっぷりに驚きまして、ヒゲとグラサンという分かりやすいスタイルのヘラルド・リベラは別として、クリス・ウォレスなんてあなた誰よ、という姿だった。ビル・オライリーはそこそこ似ていて、ショーン・ハニティーはそうでもない、というところかな。

そしてこの映画では被害者として描かれるメーガン・ケリーとグレッチェン・カールソンも、FOXニュース時代ではコテコテの保守寄りのコメントを垂れ流してた人たちなのですよね。ケリーは企業が従業員に産休を与えることを批判していたのに、自分が産休に入ったあとはしれっと産休を称賛したり、カールソンは朝の番組でスティーブ・ドゥーシー(ともう一人)と毎日オバマ批判を繰り返していたし。なおケリーは一連の騒動のあとにFOXニュースを去って鳴り物入りでNBCに移籍したものの、自分の看板番組で「ブラックフェイスって悪いことじゃないですよね?」という無神経な発言をしたために番組はすぐさま打ち切られている。つまりケリーもカールソンも、FOXニュースでスピンを繰り広げてた人たちであるのですよ。

これを受けて「FOXニュースで働いてたんだからヒドい目に遭うのは当然だ」という気は毛頭無いのだけども、劇中ではケリーやカールソンの過去の振る舞いがずいぶんスルーされていて、観ていてモヤモヤしてしまったよ。これアメリカの観客もリベラル派は同様にモヤモヤしただろうし、保守派はそもそも劇場に足を運ばなかったんじゃないだろうか。

だからこの映画を観ているあいだ、「これは誰のために作ったんだろう」という考えが頭から拭えなかった。きょう読んだ記事にもあったけど、数年前にニュースになった出来事を映画化するなら、誰もが知らなかった事実とか観点を取り込まないといけないと思うのですよね。ただ物事を整理して映像化するのでは意味がないでしょう。

「HIGH FIDELITY」鑑賞

米HULUのオリジナルシリーズで、映画化もミュージカル化もされたニック・ホーンビィの人気小説をシリーズ化したもの。

おれ原作小説はすんごく好きでして、レコード屋の店長のロブが音楽について蘊蓄を語りながらも、女性関係については自信がなくてオロオロする姿が他人事とは思えなくて、初めて読んだときに衝撃を受けてすぐに読み返し、当時好きだった女の子にも買って渡したら読んでもらえなかった、思い入れの深い作品なのであります。

そういう意味では原作の原理主義者でもありまして、ロンドンで店を営むロブが、郊外でセックス・ピストルズのA&M盤(えらく希少)を見つけてドキドキする描写とかが好きなので、世間では評判のいいジョン・キューザック主演の映画版も舞台をシカゴに移してしまったという点は好きではないのですよね。

そして今回のHULU版では店がニューヨークに移り、さらに主人公ロブは女性(本名ロビン)に変わってしまっている。ホーンビィの描くオタク男の心情が好きだった者としては、ずいぶん遠いところまで来たなあという感じ。話の展開自体は原作に比較的忠実で、店員ふたりと共にレコード屋を営むロブが、別れたばかりの恋人のことでウジウジしながら、過去の自分の恋人たちのことを回想していくもの。ロブがバイセクシュアルで、昔の恋人には女性がいるのが現代的なアレンジですかね。

「ハイ・フィデリティ」の特徴といえばロブがすぐ挙げる「トップ5リスト」と「ミックス(オムニバス)・テープ」ですが、前者は第4の壁を破ってロブが視聴者に直接「〇〇のトップ5は〜」と語りかける演出になっていて、これは映画版もそうだったな。そのリストの要となるのが「今まで付き合ってきた人トップ5」で、まだ数話しか観てないけどここから過去の恋人を再訪する展開が始まるのかな?

一方のミックス・テープのほうは「プレイリスト」と称して、店にはアナログレコードしか置いてないロブがパソコンでのほほんと「恋人に贈る最強の選曲リスト」をまとめていく。しかしなあ、ミックス・テープってのはそんなんじゃないんだよ!カセットテープに入れられる分数(当時は46分が主流だった)を綿密に計算し、ちゃんとA面とB面で盛り上がりがあるように曲を選び、カセットレーベルも手書きでカッコつけて、好きだった女の子に渡して、あまり聴いてもらえないまでがミックス・テープなんだよ!とオッサンの自分は主張したいのです。

なお劇中で使われてる曲は、ミュージック・プロデューサーをザ・ルーツのクエストラブが勤めていることもあるせいか、クラシック・ロックから最近の曲に至るまで多岐に渡っていてなかなか興味深いし、勉強になります。Spotifyのリストはこちら。少しニューウェーブ系の音楽に偏重しているかな?第3話ではロブの妄想としてデボラ・ハリー様ご自身が登場されておりました。

主役のロブを演じるのはゾーイ・クラヴィッツ。どう見ても男には不足しそうのない、モデル並みの外見を持ってるロブというのは原作のイメージとかけ離れてるけど、まあそういうものなのでしょう。映画版では彼女の母親のリサ・ボネットが出演してたので、奇妙な縁があるな。それ以外はそんなに著名な役者は出ていないみたい。

というわけで原作小説とはかなり違う形になってしまった(ニック・ホーンビィの別の小説よりはマシだが)ものの、やはり凝った音楽の趣味を持つレコード店員たちのやりとりは軽妙だし、ロブの恋愛がどういう展開を経るのか見たい気もするので、当面は視聴し続けることにします。しかし米HULUのオリジナル番組って、今後は日本で視聴できる機会は出てくるんだろうか?

https://www.youtube.com/watch?v=r5bkbfdVzbI