「DRACULA」鑑賞

BBCのミニシリーズ。Netflixでもすぐ配信されるそうなので、日本でもやるかな?タイトルの通りブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」を「SHERLOCK」のスティーブン・モファット&マーク・ゲイティスが脚色したもので、90分3話というフォーマットも「SHERLOCK」っぽいな。

話の序盤は原作に比較的忠実で、トランシルバニアの古城に招かれたイギリス人弁護士のジョナサン・ハーカーはそこでドラキュラ伯爵に出会う。ドラキュラは夜にしか姿を表さないものの、ハーカーは城に実質的に幽閉され、そこで数々のおぞましいものを目にする。そして最初は老人の姿をしていたドラキュラは日増しに若くなっていき、代わりにハーカーは生気を失っていく。ドラキュラがただならぬ存在であることに気づいたハーカーは、どうにか城を脱出しようとするのだが…というあらすじ。

原作ではハーカーの脱出劇って全体の5分の1くらいの長さだが、ここではまるまる1話が彼の話に費やされ、ハンガリーで保護されたハーカーが、ふたりの修道女を前に、城で何が起きたのかをフラッシュバックで語っていく形式になっている。ここらへんから番組オリジナルの脚色が入ってきて、「SHERLOCK」のごとき謎解きの要素も加わってくる。あとついでに言うと登場するクリーチャーは「ドクター・フー」っぽいかな。

原作はドラキュラが徹底した悪として描かれ、その悪巧みが書簡や手記の形式でだんだん明らかになっていき、最後のイギリスからトランシルバニアまでの怒涛の追跡劇につながる流れが手に汗握る展開になっていて大変面白いのだが、これにおいてもドラキュラは不敵な存在として登場し、ハーカーを愚弄し、彼に立ち塞がる者たちを翻弄しながら、自分の望むものを手に入れようとする。尤も彼の目的が「イギリス人は知的なのでイギリスに行って血をたくさん吸いたい」だというのが、最近のブレグジット騒動とか見てると、ホントかよ?とも思うがまあいい。フランシス・フォード・コッポラの劇場版なんかは原作に忠実なようで、最後はドラキュラが「愛のためなら死ねる男」みたいになっててえらく興醒めだったが、今回のドラキュラは狡猾かつ大胆不敵で怖いっすよ。バイセクシャルだということが示唆されるのがちょっと論議を呼んでるみたい。

そんなドラキュラに比べてジョナサン・ハーカーはいろいろヒドい目に遭って、すごく可哀想なキャラクター。当然彼のフィアンセのミナ・マーレイが登場するほか、ハンガリーの修道女シスター・アガサが原作以上に大きな役回りになっている。

ドラキュラを演じるのは「ザ・スクエア 思いやりの聖域」のクレス・バング。体じゅう血まみれになってオオカミから変身したりと、体をはって熱演しています。あとはそんなに有名な俳優は出ていないかな?

かなり血なまぐさいシーンもあったりして、ここらへんはホラー好きのマーク・ゲイティスの本領発揮なのだろうが、決して安直なスプラッター描写などにはならず、ストーリーを引き締めるためのものになっているのが流石。第1話は、え、そこで終わるの?という結末だったので、あとの2話がどういう展開になるのかは全く予想がつかないのですが、期待以上に楽しめる娯楽作品だったので残りを観るのが待ちきれない。

謹賀新年

新年あけましておめでとうございます。

去年の挨拶を読み返してみると、2019年のあいだにやりたかったことが全然達成できてなかったなー。と思う次第であります。まあ行ったことのない国とかにも行けて、面白いところは面白かったのだけどね。やはり仕事に日常の時間の大半が食われている状態でして、好きな本を読んだり映画を観るために、50歳になったらアーリーリタイヤしようかと、最近ひしひしと考えている次第です。まあそのためにはさらに働いて貯金しておかないといけないのですが。あとはやはり健康に気をつけねば。

世の中的にはポピュリズムの台頭というか、頭の悪そうな人たちが幅を利かせるようになってきていろいろ面倒になってきた感じもしますが、なるべく大人のように振る舞って、困ってる人たちには手を差し伸べるようにしましょう。でもオリンピックは中止しような。

それでは今年もよろしくお願いいたします。

2019年の映画トップ10

3年前にやったように、上位5位と下位5位を順不同で観た順に並べていく。ちなみにみんな大好き「アイリッシュマン」は未見な。

<上位5位>
・「アベンジャーズ/エンドゲーム
前作よりもずっと楽しめる内容になっていたし、きちんとキメるところはキメて、長年にわたるマーベル作品の流れをきちんと締めくくる出来になっていた。これから何が続くにせよ、この作品までの盛り上がりを再現するのは難しいだろう。

・「アド・アストラ
今年は「ハイ・ライフ」もそうだったけど、孤独な宇宙探索ものって個人的に好きなのです。この監督の前作に続き、探検に執着する父子の姿が良かった。ブラピは「ワンス・アポン〜」とあわせて今年は良い演技を見せていたな

・「BOOKSMART
飛行機で観たので、内容はたぶんカットされていると思う。それを置いておいても、同級生たちのあいだで空回りするガリ勉女子ふたりの青春物語が、観ていて大変切ないのです。

・「THE ART OF SELF-DEFENSE
これも飛行機で。巷で話題になったToxic Masculinityが男性に及ぼす効果を、暗く、そして面白おかしく描いた傑作。主役のジェシー・アイゼンバーグがとにかくハマっている。これもっと話題になっても良いのになあ。いずれカルト人気を誇る作品になってほしい。

・「パラサイト 半地下の家族
そしてこれも飛行機で。どこに話が着地するのか分からないまま、ハラハラ感を抱きながら観続け、やがて社会格差を鋭く突いたオチに驚く。韓国映画は「バーニング 劇場版」も良かったが、あれもまた社会格差をテーマにしていた。

<下位5位>
・「アクアマン
DCコミックスが「ジャスティス・リーグ」の呪縛から離れて、好きにやろうぜ!というスタンスをとったらちゃんと面白いものができてしまった。「シャザム!」も「ジョーカー」もそうだけど、無理にユニバース作りとか気にしなくてもええんよ。

・「WHAT WE LEAVE BEHIND
映画なのか?と言われると微妙だけど、まあ劇場公開したしぃ。自分が出資した「DS9」のドキュメンタリーが完成したのを見ると嬉しいじゃないですか。元ライターたちが1日だけ集まって続編のプロットを投げ合う光景も大変勉強になった。

・「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」
ストーリーが雑なのは重々承知しているのですが、とにかく監督の怪獣愛がひしひしと伝わってくる作品でした。怪獣がいればすべてオッケー!株価も上がるしあなたもモテモテ!みんなハッピー!といったラストは、多くの映画人が見習わなければならないと思う。たぶん。

・「アンダー・ザ・シルバーレイク」
日本だと昨年公開ですが、アメリカ公開にあわせて観たということで…個人的にはすごくトマス・ピンチョンの小説に似ていると思った。主人公が意味不明な陰謀に巻き込まれていく様が大変面白かったです。

・「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密
純粋なフーダニットかというとそうではないかもしれないけど、豪華キャストがお互いを罵倒しながら話が二転三転していくのが面白かった。ライアン・ジョンソンはやはりSFよりもミステリーが似合っている。

「シルバーレイク」を昨年の作品として省くなら、「THE NIGHTINGALE」あたりが入るかな。世間の評判が高い「ワンス・アポン〜」や「ジョーカー」はさほどでもなかったような。昨年の「ROMA」にしろ今年の「アイリッシュマン」にしろ、配信系のオリジナル映画もちゃんとチェックしないといかんですね。

「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」鑑賞

ディズニーがFOXを買収した後の作品なので、あの往年のFOXファンファーレ&ルーカスフィルムのロゴのオープニングが観られるかと期待してたんだが…ネズミはそんなに寛容ではなかった。以後はネタバレ注意。

結局やはりエイブラムスだよねえ。何をすれば観客が喜ぶかを計算して映画を作っているだけで、自分の芸術性などは二の次。だから結局のところ無難な作品した作れなくて、過去のレガシーにおんぶにだっこしてるだけ。彼の作家性を伺わせるトレードマークといえば、目障りなレンズフレアくらいじゃ無いだろうか。しかも今回顕著なのは、自分が撮らなかった前作を嫌ってるんじゃね?と思わせる展開があったこと。

いや確かに「最後のジェダイ」はプロット的にはいろいろ問題あったけどさ、少なくとも「エピソード4」の焼き直しだった「フォースの覚醒」よりかは新しい要素を取り入れようとしていたじゃん?フォースはジェダイのみが持つ特権ではなく、もっと誰もが秘めているものという扱いだったじゃん?それが今回はあからさまな血統主義にとらわれていて、ジェダイもシスもみんな先祖が偉大だったのでフォースを使えるんですという展開。「ファントム・メナス」でミディクロリアンのコンセプトが紹介されたときは満遍なく叩かれたけど、少なくともあっちは自然の生物と一体になることでフォースが使えるようになる、という考えがあったわけで、祖父がフォース使えたので自分も使える、というのよりもずっと理に適ってると思うけどね。いちおう擁護しておくと一般人のフィンがフォースを感じられるようになっているのは明白だったが、そこを深掘りすることは全くなかったな。

あとプロットについて言うと、今回に始まった話ではないが、ストームトルーパーって命令に従順に従わせるためにクローン培養してるんじゃなかったっけか?なんで命令に背くような一般人を拉致してストームトルーパーやらせてるんだ?

出演者はね、リチャード・E・グラントが出てたのが嬉しかったな。ここ数年はアメリカの話題作になぜかよく出ているのだけど、往年のファンとしては嬉しいこってす。あとおれはドミニク・モナハンをずっとジミ・シンプソンだと思って観ていました。

もちろん前述したように観客を喜ばせるツボはちゃんと押さえているので、及第点はとれている出来にはなっていると思うのですよ。美しいショットもいくつかあったし、えらく懐かしいキャラも出てきたし。その反面、話をとにかく予定調和にまとめようとしているのが残念であった。

そんでこれによって「スター・ウォーズ」が完結するかというと、当然そんなことはなくて、金を産む限りはネズミがひたすら絞り取るでしょ。それでもエピソード1〜9の枠からは外れたものになるだろうから、その際はエイブラムスなどではなく、もっと新しいことをやるのに意欲的な監督を起用してほしいところです。

「THE NIGHTINGALE」鑑賞

カルト人気を誇る「ババドック~暗闇の魔物~」のジェニファー・ケント監督による2作目で、今回はホラーというよりもオーストラリアン・ウェスタンになっている。

舞台は1825年のタスマニア。その地に犯罪人として送られ、夫と幼児とともに暮らすアイルランド人のクレアは、自分の刑期が終わって3ヶ月が経ったのに未だ釈放の承認が下りず、英国軍の士官ホーキンズに労働を強いられ、さらには彼の慰みものにされるという辛い日々を送っていた。彼女の扱いに激昂した夫のエイダンはホーキンズに殴ってかかり、その報復としてホーキンズはクレアの家に押し入り、エイダンと幼児を殺し、クレアを部下に陵辱させる。そしてホーキンズはタスマニア北部に去るが、夫と子を殺されて復讐の鬼と化したクレアはビリーというアボリジニの青年を案内人として雇い、ホーキンズを追うのだった…というあらすじ。

監督自身がオーストラリア出身で、自国の暗い歴史に興味があったらしく、暴力に満ちた追跡劇が繰り広げられていく。飲んだくれの兵士たちが幅をきかせる土地において女性の権利など無いに等しく、クレアだけでなくアボリジニの女性がホーキンズに誘拐されて慰みものにされるシーンもあり。劇中の暴力描写は本国でも議論を呼んだらしいが、女性監督の方が女性への暴力描写を容赦なく描けるのかもしれない。

女性だけでなく原住民のアボリジニもまた虐げられた存在であり、島にやってきた白人たちによって土地を奪われ、奴隷扱いをされていく。クレアに雇われたビリーも当初は金だけが目当てだったが、イギリス人が嫌いなアイルランド人とアボリジニということで結束し、二人の仲が深まっていくことが作品の大きなテーマになっている。犬のような扱いを受けたビリーが「ここは俺らの国だったのに…」と泣くシーンが印象的だった。

劇中で話されるゲール語(アイルランド語)やアボリジニの言語をはじめ、撮影にあたっては入念な時代考証が行われたらしい。復讐に燃える親の追跡劇、という点では「レヴェナント」に似たところがあるが、あちらは大自然の光景を前面に出していたのに対し、こちらは4:3の画面比率を使って人物の背景などをあまり映さず、緊迫した雰囲気を出しているのが特徴的であった。

主人公のクレアを体を張って演じているアイスリング・フランシオシって、流暢なゲール語を話すなと思ったらアイルランド系イタリア人なのですね。あとは有名どころだとホーキンズ役に「ハンガー・ゲーム」のサム・クラフリン。イケメンなのでいい奴のように見えるけど、かなりのクズを演じてます。彼の部下役が「ワンハリ」でチャーリー・マンソンを演じたデイモン・ヘリマンで、こっちは見事なくらいにクズの役でした。ビリー役のベイカリ・ガナムバーは新人らしいが大変素晴らしい演技でしたよ。

暴力描写などのために万人受けするような作品ではないだろうが、オーストラリア(あるいはどこの国でも)における暴力の歴史を真正面から扱ったものとしては興味深い作品でした。