「MOSAIC」鑑賞


スティーブン・ソダーバーグ監督によるHBOのミニシリーズ。脚本はエド・ソロモン。以降はいちおうネタバレ注意。

ユタ州の冬のリゾート地を舞台に、殺害された児童書の作家の事件の真相について、現在と4年前の状況を描いていくクライム・ミステリーということだが、「ツイン・ピークス」みたいな超常的なサスペンスではなく、内容はストレートな犯罪もの。しかし後述する理由によってあまり明快なナラティブは存在せず、登場人物の動機と行動が映し出されるシーンが断片的につながったようなスタイルをとっている。主な登場人物をざっと挙げると:

・オリビア・レイク:著名な絵本作家。やけにアメコミにも詳しい。山奥の一等地に住み、60手前でありながらも色気がある。のちに死体となって発見される。
・ジョエル:若きアーティスト志望の男性。メビウスのコミックについて熱く語れる。オリビアに気に入られ、彼女の屋敷に移り住む。
・エリック:オリビアの持つ土地を狙う隣人たちによって雇われた詐欺師。巧みにオリビアに接近する。
・ペトラ:エリックの妹。エリックにかけられたオリビア殺しの疑惑を晴らそうとする。

などなど。こうした登場人物の物語が語られ、それぞれに独自の目的や生き方があることが説明される一方で、肝心の殺人事件の真相にはあまり深く入り込まないみたい。それで何でこの作品がそういうスタイルをとっているかというと、これはモバイルアプリおよびウェブサイトで先行公開されたものだったため。そこで観客は登場人物の映像を好きな順番で個別に視聴でき、それぞれの登場人物の観点からストーリーを楽しむことができるのだそうな。

アプリやサイトは例によってアメリカ国外からのアクセスが制限されていてきちんと鑑賞できないのだが、HBOでの放送はあくまでもストーリーを編集してリニアに並べたものであって、アプリで鑑賞するほうが映像の総尺も長く、より事件の真相に迫った内容になっているのだとか?アプリやウェブサイトと連動するドラマってこれが始めてではないだろうけど、ソダーバーグみたいな大物が関わったものは珍しいだろう。

出演はオリビア役にシャロン・ストーン。放漫なタイプの彼女をうまく演じてます。あとはギャレット・ヘドランドにフレッド・ウェラー…って誰だっけ。知った顔ではオリビアの友人役をポール・ルーベンスが演じていた。あとから保安官役でボー・ブリッジスなんかも出てくるみたい。

アプリでいろんな映像をじっくり観て、観客が能動的に話の真相に迫っていくという趣旨のせいか、逆に第1話だけ観た限りでは話があまりにも散漫としていて、何とも判断がつけにくいところ。オリビアが実際に事件に巻き込まれるのは第2話の最後だそうだし、なんか話が進まんなあ、という印象であった。しかし全話を視聴したアメリカの批評家たちには絶賛されていて、ロバート・アルトマンの群像劇ものと比較する声もあるみたい。というわけで、面白いのでしょう。

日本で放送されるときは、アプリやウェブサイトもきちんと翻訳されたりするのだろうか?

「THE ALIENIST」鑑賞


ケイレブ・カーの同名小説を原作にしたTNTの新作ドラマ。ミニシリーズ扱いになるのかな?アメリカ国外の配信権は例によってネットフリックスが扱うようで。

舞台となるのは1896年のニューヨーク。この当時、精神的に障害を持つ人々は本来の自分からかけ離れた(alienated)状態にあると考えられていたことから、彼らを診る精神科医は「エイリアニスト(Alienist)」と呼ばれていた。そんなエイリアニストであるラズロ・クライズラーのところに、建造中のブルックリン橋の上で少年の遺体が発見されたとの知らせが飛び込んでくる。自身は警察に疎まれているため、代わりに友人でニューヨーク・タイムズの画家(当時はカメラが無かったのだ)であるジョン・ムーアを現場に向かわせる。そこでムーアが見たのは、女装した少年の目をくりぬかれた死体だった。これは異常殺人者による事件だと直感したクライズラーは、ニューヨーク市警初の女性秘書であるハワード女史の手も借りて、過去にあった同様の事件とのつながりを調べるが、そんな彼らの前に謎の人物が現れ…というような話。

舞台こそ19世紀末のニューヨークになっているが、話の内容は10年くらい前から流行っている猟奇殺人もののドラマで、そんなに目新しいものではない。ケーブル局の番組なので死体の描写とかは結構キツいこともやってるが、そんなとこで差別化を図れるものでもないし。19世紀末のグロだったら「ザ・ニック」や「ペニー・ドレッドフル」もやってたな。なお実在の人物としては警視総監にセオドア・ルーズヴェルトが出てくるが、どのくらい史実に基づいてるのかは分かりません。

まだ殺人と心理学の関係が理解されていなかった時代にプロファイリングを行って、殺人者の素顔に迫っていこうとするクライズラーの革新性を強調すればよかったものの、そこらへんの描写が曖昧なのでなんか話がもたついてる気がするんだよな。おどろおどろしい雰囲気を組み立てたい気はわかるのだが、クライズラーが「犯人の動機を理解するために、私もまた犯人の目をもって物事を見ることにしよう」とか言うの、猟奇殺人もののクリーシェですがな。

出演はクライズラーにダニエル・ブリュール、ムーア役にルーク・エヴァンズ、ハワード役にダコタ・ファニングと、低予算映画だったらそれぞれが主役をはれるくらいの非常に強力なメンツ。さらにテッド・レヴィンとかロバート・ウィズダムとかいい役者を揃えているのに、この程度の内容になってしまったのが残念。これだけの役者を集めたのにもったいないよな…。

「Columbus」鑑賞


昨年のサンダンス映画祭で公開されて高い評価を得た作品。

舞台となるのは、著名な建築物が多いことで知られるインディアナ州のコロンバス。そこに住む建築家の父親が倒れて意識不明の状態になったことから、アメリカを離れて韓国に住んでいた息子のジンはコロンバスへとやってくる。父親の容態が変わらないためコロンバスに滞在することになったジンは、地元の図書館で働くケイシーという少女と知り合うことになる、というあらすじ。

監督のコゴナダ(Kogonada)は主人公のジンと同じく韓国系アメリカ人で、小津安二郎を大変にリスペクトしているほか、キューブリックやウェス・アンダーソンなどに関するビデオ・エッセイを作っていた、という経歴らしい。つまり映画批評から映画製作に入った人になるわけだが、奥行きを生かした画面の構図の見事さとか、自信をもってゆったりと進むストーリーテリングとか、とにかくこれが初監督作だとは思えないほど素晴らしいのですよ。普通のサンダンス系映画かな、と思って観たらその映像の美しさに驚愕してしまった。

どのシーンも映画の教科書で使われてもおかしくないほどの巧みな構図というか。監督デビュー作でここまで映像が美しいのはアレックス・ガーランドの「エクス・マキナ」以来だが、あっちは脚本家として現場に関わっていたわけで。今までのアートハウス系の監督のデビュー作って、ジャームッシュであれリンクレーターであれ、セリフが先行して映像的には未熟で、それから作品を重ねるうちに洗練されていく感があったが(ケヴィン・スミス、お前はダメだ)、これはもう最初からベテランの域に達している。

ストーリーは父親の容態が改善する(もしくは死亡する)までコロンバスに留まらざるを得ないジンと、街を出て都会で学びたいと考え、周囲にもそう勧められているのに、一緒に暮らす母親を置いていけないケイシーという二人の男女の人生が交錯していくわけだが、決して急な展開が起きるわけではなく、かといって退屈になるわけでもなく、落ち着いたペースをもって、いずれ街から出ていくことを考えているふたりの話が描かれていく。ポストロック・バンドのハモックによる音楽も効果的。

ケイシーは街の建築物を紹介するボランティアをしようと勉強していて、ジンは父親の蔵書を読んでコロンバスの建築について知っており、物語の大半はふたりが街の建物について語り合うシーンで占められているのだが、決して衒学的になることもなく、建物について語ることでふたりの心情がうまく描かれていく。街の光景が第二の主人公、というのは陳腐な言い回しだが(特にニューヨーク映画)、この作品は本当にそんな感じ。建物のデザインがすでに優れているのに加え、それらがさらに効果的に撮影されている。おれコロンバスといえばオハイオしか知りませんでしたが、この街に行ってみたくなりましたよ。日本のご当地映画も、これくらいの出来のものがあればいいのにね!

主役のジンを演じるのはジョン・チョー。短命に終わってしまったシットコムの「Selfie」でもそうだったが、白人女性に対してまっとうな相手役を演じられるアジア系の役者って、ハリウッドではこの人が筆頭格だろうな。珍しく韓国語を話すシーンもあるでよ。ケイシーを演じるのは「スプリット」などに出演しているヘイリー・ルー・リチャードソン。あとはちょっと久しぶりに顔を見た気がするパーカー・ポージーや、ローリー・カルキン、ミシェル・フォーブス(!)といった手堅い役者が脇を固めている。

あまり期待しないで観たら大変素晴らしい作品でありました。これからコゴナダ監督がどういう作品を撮っていくのかわかりませんが、注目に価する作家ではないかと。

「ブラック・ライトニング」鑑賞


DCコミックスのスーパーヒーローを主人公としたThe CWの新作シリーズ。日本でもネットフリックスでやるとか?

舞台となるのはフリードランドという都市。そこではザ・ハンドレッドという黒人系のギャングが幅をきかせて街の治安を最悪なものにしており、これによって警察の黒人に対する取り締まりも非人道的なレベルにまで達し、善良な黒人の市民たちは辛い暮らしを強いられていた。そんな善良な市民のひとりであるジェファーソン・ピアスはかつて電撃を自在に操るヒーロー「ブラック・ライトニング」としてギャングと戦っていたが、連日のように重傷を負って帰って来る彼を見かねた妻が彼のもとを去ったことから、ヒーロー業は引退してふたりの娘を育て、高校の校長として健全な若者の教育に勤めていた。しかし娘の一人がザ・ハンドレッドのメンバーに連れ去られたことから、怒りに燃えるピアスはブラック・ライトニングのコスチュームをまた身につけ、悪と戦うことを決意する…というあらすじ。

DCコミックスのブラック・ライトニングは1977年に登場したキャラクターで、マーベルのルーク・ケイジと同様に、当時のブラクスプロイテーション映画の人気に影響されて登場したといっていいのかな。スーパーマンの本拠地メトロポリスのスラム地区でギャングと戦うヒーローという設定で、当初は細身で胸をはだけたファッションで、確かアフロのウィッグも被っていたんじゃないかな?

彼のソロ・シリーズは比較的すぐに終わってしまったものの、80年代前半にはバットマン率いるバットマン&ザ・アウトサイダーズの一員として活躍しまして、俺も彼のことを知ったのはこのシリーズにおいてだったな。その後はクリエーターのトニー・イザベラとの権利的な?ゴタゴタがあった関係で90年代前半はDCユニバースに登場しなかったキャラクターなのです(いちおうイザベラが執筆したシリーズが当時あったが、イザベラが投げ出すような形ですぐ終わった)。

それが解決したのか2000年代になって再登場したときはスキンヘッドになってガタイも良くなり、もっと大人になったキャラクターになっていた。今回のTVシリーズのコスチュームはこの当時のものをベースにしているみたい。彼のふたりの娘たちもこのころ登場して、彼女たちをスーパーパワーを持っていることから、それぞれ「サンダー」および「ライトニング」というヒーローになって今に至っている。TVシリーズのほうも、少なくとも長女のアニッサはサンダーとして活躍することになるみたい。

もともとThe CWでなくFOX向けのシリーズとして作られたこともあり、プロデューサーとしてグレッグ・バーランティが関わっているものの、いわゆる「アローバース」の作品ではない。まあ「スーパーガール」も当初はアローバースの作品ではなかったわけで、これも来年のスイープス(視聴率調査月間)のころにはザ・フラッシュとクロスオーバーしてるんじゃないですかね…?

キャストの大半が黒人だというのは言わずもがな、主人公がティーンの子供をもった年配のヒーローということもあり、他のDCコミックス系のドラマとは毛色の変わった作品になっている。批評家のあいだでは思慮深いヒーローが登場した、ということで評判が良いみたいだけど、まだ第1話を観ただけでは何ともいえんな。警察が市民に横暴的なあたりは、最近のドラマの流行りの「Black Lives Matter」を反映した内容になるかと思ったが、警察よりもギャングがメインの悪役になるみたい。まあ結局のところThe CWのスーパーヒーロー番組であって社会派ドラマというわけではないが、「他の街で活躍している連中はみんな『ヒーロー』と呼ばれるのに、(黒人の)ブラック・ライトニングは『ビジランテ』だけと呼ばれるのは何故なのか」というようなセリフが出てきたのは興味深かったです。

主人公のピアスを演じるのはクレス・ウィリアムズ。「Hart Of Dixie」ででっかい市長を演じていた彼か。日本語のウィキペディアにも「とても身長が高い。」とだけあるように、とても身長が高い(193センチ)人なので、別にスーパーパワーなくてもケンカ強いんじゃね?とは思うものの、1970年生まれという結構な歳のせいかアクションにあまりキレはないです。なおブラック・ライトニングは単に手から電撃を放出するだけでなく、それで人を持ち上げたりもできるのだが、あれどういう仕組みなのだろう。自ら人を殺めたりはしないものの、ギャングの体を銃撃戦で盾に使うくらいのエゲツないことはやってます。

その彼に敵対するザ・ハンドレッドのボスがトバイアス・ホエールというのだけど、アルビノの黒人というキャラクターにちゃんとアルビノの黒人俳優(ラッパーのクロンドン)を適用するあたりがハリウッドの多様なところか。あとはピアスの娘たちや元妻、警察の刑事などに加えて、ピアスの親代わりだったという仕立て屋が登場するのだけど、バットマンにおけるアルフレッドみたいな役回りで、ピアスの引退中も黙々とブラック・ライトニングのスーツを改良していたというマッドサイエンティストぶりがなんか格好よかったぞ。

第1話を観た限りではそんなに特筆するほど際立った作品だとは思わなかったけど、本国の批評家の評判は概ね良いようなので、ピアスだけでなく娘のサンダーも活躍するようになると面白くなってくるのかも知れない。とりあえず今後の展開に期待。

「HARD SUN」鑑賞


「刑事ジョン・ルーサー」のニール・クロスによるBBCの新作ドラマ。以降はネタバレ注意。

ロンドンで働く刑事のチャーリー・ヒックスは、新しく自分の部署に異動してきたエレイン・レンコとともに、団地で起きた自殺の調査を始める。最初は普通の飛び降り自殺のように思われたが、死亡したのがNASAにもハッキングしたという敏腕のハッカーだったことから、何か重要なデータを彼が入手し、それを彼のパートナーが奪って彼を殺した疑いが強まり、ヒックスとレンコはそのパートナーを追跡する。そのデータが取引される現場でパートナーとその取引相手を逮捕した二人だが、その直後にMI5らしきグループの襲撃を受け、逮捕した二人は殺されてしまう。ヒックスとレンコはどうにか襲撃から逃れ、回収したデータを確認すると、「ハード・サン」と名付けられたそのプログラムには、今から5年後に壮絶な災害が地球を襲い、人類は絶滅するという衝撃的な予測データが記されていた。その内容にショックを受けるヒックスとレンコだったが、そのデータを狙う一味の魔の手はヒックスの家族にも迫り…というあらすじ。

「マッド・マックス」みたいな「ポスト・アポカリプティック(大災害のあと)」の話じゃなくて、「プリ・アポカリプティック(大災害のまえ)」のドラマ、と巷では紹介されてたりするが、何じゃそりゃ、という印象は否めない。「フラッシュフォワード」みたいなSF風味はなくて、基本的には犯罪サスペンスのドラマといった感じ。データをめぐる話に加えて、レンコが以前に息子に殺されかけた話とか、ヒックスの前の同僚が謎の死を遂げており、実はレンコがそれについて探っているとか、いろいろ伏線は張られているものの、それらが「ハード・サン」とどのように関わっていくかは現時点では全くわかりません。

主演はレンコ役にモデルのアギネス・ディーン、ヒックス役にジム・スタージェス。どちらもあまりよく知らない役者だな。スタージェスってホワイトウィッシュだと叩かれた「ラスベガスをぶっつぶせ」に出てた人か。ディーンはモデル出身とはいえいい演技をしています。

まあこれからどういう展開になっていくのか、第1話を観ただけでは何とも分からんねー。「トーチウッド」みたいなダークなSFになるのか、それとも犯罪サスペンスで押していくのか?そもそも5年後に人類破滅が待ち受けているなか、どこまで話を引っ張れるのか?あまりにも話の設定が漠然としていて、次回も観たくなるほどではなかったものの、まあ海外のレビューサイトなどであらすじは追うようにします。