「MEDIA LAB」鑑賞


ジョン・オリバーの番組でネタにされていて知ったが、アメリカにはNRA(全米ライフル協会)の運営する「NRA TV」というオンラインチャンネルがありまして、NRAのプロパガンダを24時間タレ流しているのだそうです。資金の潤沢なチャンネル桜みたいなものですかね。オリバーには「彼らの番組はインフォマーシャルでしかない」と切り捨てられていたが、アマゾンとかアップルのTVサービスでも視聴可能らしく、最近の銃撃事件(たくさんある)を受けたNRAのボイコット運動に絡んで、プラットフォームにこのチャンネルを外すことを求める動きも活発化しているそうな。

万人に観てもらってなんぼのチャンネルなので、その番組のすべては公式サイトから日本でも視聴可能。とはいえ当然ながら日本人が観ても面白いものなんて皆無なのだが、オリバーの番組でネタにされていて興味を持ったのが「MEDIA LAB」という番組。

これは元SEALのドム・ラソというホストがハリウッド映画のアクションシーンを解析し、それがどのくらいリアルなのか、実際に再現して検証するというもの(銃が出てくるシーンだけでなく格闘シーンなども検証している)。似たようなことはディスカバリー・チャンネルの「怪しい伝説」でもやってたが、あちらは童顔のグラント・イマハラがデカい銃をニコニコしながらぶっ放してあくまでも科学的な視点から検証をしていたのに対し、こちらは科学?なにそれ?といった感じで、NRAの男ならこうやるね!と言いたいようにシーンを勝手に解釈して再演しているだけで、まるでいい年の男たちが「ごっこ遊び」をしているようでした。

各エピソードは10分弱ほどの長さで、例えば「ヒート」での連絡をとりあいながらの銃撃戦は可能か、とか「アウトロー(ジャック・リーチャー)」の一人対多数の格闘戦はどうやるか、「ホワイトハウス・ダウン」でのフルオート射撃を回避しながらの反撃はどうするか、といった検証が行われていた。もちろん検証といっても科学的な測定などは全く行わないので、映画ではこうしてるけど俺ならこうするね、という再演が(安っぽく)行われるだけで、結論らしき結論が出てくるわけでもなし。もちろん現実味のないシーンも映画では出てくるだろうけど、そりゃフィクションですから!

そしてハリウッド映画のカッコいいシーンを再現するというコンセプトのはずなのに、ホストが「ハリウッド」と口にするときに微妙に侮蔑する感じがあるのがNRAだなあと。ハリウッドの連中は銃のことなんか分かっちゃいない、本物はこうだ、と見せつけて溜飲を下げる雰囲気が根底にあるというか。しかしyoutubeにもあがってる動画に絶賛のコメントが連なっているのを見る限り、こういうのを好んで観る人たちはそれなりの数いるんでしょうね。自分にとっては異質な文化を垣間見た気分になりました。

「ブラックパンサー」鑑賞


公開中なので感想をざっと。以下はネタバレ注意。

・冒頭の戴冠式とかを目にして思ったのは、なんかマーベル的というかディズニー的な作品だなということ。歌と踊りがあってカラフルなあたり、「ライオン・キング」や実写版「ジャングル・ブック」で培ったノウハウを活かしているというか。それ自身は悪くないことだけど、ディズニーとマーベルの融合はこういう形で進んでいくのかな、と思いました。

・話のプロット自体は典型的なものではあるものの、キャストに勢いがあっていいですね。特に(比較的無名な)女性キャストたちが生き生きと演技してるので観ていて楽しかった。「シビル・ウォー」ではMCUで何やってんだか良く分からなかったマーティン・フリーマンもいい感じだし。

・でも尺はもうちょっと削ってもよかったかも。ハーブを飲んで祖先に会うシーンが3回繰り返されたのはさすがに冗長だと感じましたよ。そんなに複雑なプロットではないのに、説明過多になっているシーンが多いというか。

・話の展開は「ライオン・キング」に似ているんだけど、現在のアメリカのアナロジーとしても通じるんじゃないかと、ふと思いました。王となる権利はいちおう多くの人に与えられていて、それでも王になるのにふさわしい人が選ばれていたのだけど、そしたらチーズバーガー食ってるようなゴロツキが突然現れて、制度を悪用して王様になってしまいました、というあたり。それでその王様は当然ヒドい命令を臣民に与えるわけだが、王様だからって言うことを聞けばいいのか?いやそうじゃなくて反抗して王を倒すべきだろ!という内容は、どこまでトランプ政権を意識したんだろう?たぶんあまり関係はないと思うが、そんなことを考えながら観てました。

・肉弾戦の多い戦闘シーンは迫力があるものの、黒づくめのキャラクターが暗闇のなかで戦うのはなんか見づらかった。ライアン・クーグラーは前作の「クリード」のほうがアクションはずっと優れていたな。

・そしてこれはスーパーヒーロー映画の大きな課題であるのだが、コミックと違って実写映画では、感情的なセリフを話すときはマスクでなく役者の素顔が見えないと効果的でないという問題。このためマスクの下の顔を映したり(「アイアンマン」)、主人公のマスクが吹っ飛んだり(ライミ番「スパイダーマン」)する工夫が必要となるわけですが、今回は幸か不幸かスーツのマスクが自在に付いたり外れたりするものだから、「マスク外す→セリフを話す→マスクつける→マスク外す→セリフを話す」という光景がクライマックスで続くので妙に気になってしまったよ。マスクをつけたままセリフを話したって、バチはあたらないと思うけどね。

・「アベンジャーズ2」に続いて、今回も大規模な韓国ロケが行われている。これによって韓国の映画業界がどれだけのメリットを得たか、みたいな数字は出ているのかな。「アベ2」のときは韓国での撮影はすべて第2班が行ったという話を読んだのだが、世界各地でロケをするほど監督の実質的なアプローチが減っていくことになるんだろうか。

・ベジタリアンの種族の漁師って、何を捕ってるんだ?ワカメ?

・作品の出来としては決して革新的なものではないだろうが、やはり黒人が大半のキャストでスーパーヒーロー映画を作り上げるということが、どれだけ待ち望まれていたかは、非常に好調な興行成績を見ればわかるだろう。最近のコミック映画やTVシリーズにおける、原作では白人のキャラを有色人種に差し替えるトレンドって必ずしも関心しないのですが(それはコミックが長らく白人ばかりを登場させていたツケなのだが)、ブラックパンサーは正真正銘の黒人ヒーローだからね。昨年の「ワンダーウーマン」に続き、マイノリティを主役にしたスーパーヒーロー映画が予算をかけて作られ、幅広い観客層に迎え入れられたということは非常に素晴らしいことだと思うのです。

「Heathers」鑑賞


「スパイクTV」から改名したパラマウント・ネットワークの新作シリーズで、89年の映画「ヘザース/ベロニカの熱い日」をベースにしたもの。公式サイトでは「アンソロジー」と紹介されていて、ミニシリーズなのかオープンエンドのシリーズなのかちょっと不明。

舞台となるウエスターバーグ高校ではヘザーと名のつく3人の少女たち、通称「ヘザース」が生徒たちのあいだで絶大な権力を持ち、他の生徒を自在に仕切っていた。地味な女子高生のベロニカはそんなヘザースのもとでどうにか無難な学生生活を送っていたが、転校生としてやってきた、JDというどことなく陰のある男子に惹かれるようになる。そしてJDはベロニカとケンカしたヘザースのひとりを陥れるために、彼女の恥ずかしい写真を撮ろうと持ちかけるのだが、物事はあらぬ方向に進展し…というあらすじ。

劇場版「ヘザース」はアメリカの高校におけるスクールカースト(クリーク)を早いうちに描いたことでカルト的人気を誇っている作品だが、あちらのヘザースは3人とも白人のお嬢様っぽいキャラ設定だったのに対し、今回のヘザースは一人はデブ、一人は黒人、一人はトランスジェンダーの男子と、以前なら明らかにマイノリティとして扱われていたキャラクターたちが、ジョックやナードたちに君臨する存在になっているのが現代的なところか。また生徒たちの行為(醜態)はSNSを通じて世界中に瞬時に拡散されるため、いまどきの高校生は学校や地元どころか、世界的な評判を気にしなければならない、という描写が面白かったな。

ただこの「かつては体育会系が仕切っていた高校も、いまはマイノリティが人気がある」というのって、2012年の「21ジャンプ・ストリート」あたりがやったときは目新しいものの見方に思えたけど、最近はちょっとまたステレロタイプ化してきた気もする。特にこの番組ではここらへん明らかに狙ってんな、というセリフが多くてちょっと興ざめ。演技や撮影もちょっと安っぽくて、昨年のヒット作である「リバーデイル」ほどの出来ではないか。

あとこないだのフロリダの高校での銃乱射事件を受けて、高校生たちが結束してSNSを通じた活動を行い、大人の政治家を言い負かすような行動をしているのを見ると、アメリカの高校生って別にフリークの集団とかではなくて、意外とちゃんとしてるんじゃない?とも思ったりはするけど、まあそんな要素をブラックコメディの番組に求めるのは門違いというものか。

メインキャストはそんなに有名な役者は出ていないみたいだけど、JDの母親役として、劇場版のヘザーのひとりだったシャナン・ドハーティーがちょっと出ています。乳がんからは回復したのかな。あとはセルマ・ブレアも別の生徒の母親役で登場するみたい。

劇場版は生徒の地位の逆転劇を短い時間で描いて、文字通りドカーンと爆発して終わらせることができたのに対し、TVシリーズはどうやって話を引っ張るんですかね?予告編を観る限り、むしろヘザースが自分たちの地位をどう維持するか、という話になるのかな?まあポテンシャルはあると思うので、今後の展開に期待。

「LUCKY」鑑賞


邦題はまんま「ラッキー」で日本では3月公開。昨年91歳にして亡くなった名優ハリー・ディーン・スタントンの最後の主演作にして実質的な遺作。

アメリカの片田舎に住む老人ラッキーは高齢ながらも比較的健康で、彼を気にかけてくれる町の住民に止めろと言われながらも、タバコを日に何本も吸うようなガンコ老人だった。しかしある日自宅で倒れたことで、自分にも死がいずれやってくることを彼は悟り、それに恐れを抱きながらも彼なりの人生を送ろうとするのだった…というあらすじ。

いわゆる難病ものとかではなく、大きな展開があるわけでもなく、ただラッキーの日常が淡々と描かれる内容になっている。一度倒れたとはいえラッキーは酒場でケンカを売ろうとするほどピンピンしてるし、老人介護とも無縁のまま、人生の終わりに近づいた男性の話が語られていく。

つうかこれスタントンのために作られたような映画なんですよ。監督も脚本家もこれが初仕事だし、スタントンのために皆が協力して撮った作品という感じ。彼が実際に海軍で沖縄戦の戦車揚陸艦に勤務していたこととかも脚本に組み込まれているし、電話の受話器を持って顔の見えない誰かと長々と話すシーンは「パリ、テキサス」のオマージュだろうか。さらにはデビッド・リンチばりの奇妙なシーンもあったりするよ。個人的には「ストレイト・ストーリー」で出てきたスタントンのキャラの後日談のように感じました。

その初の監督業を行ったのが、ハリウッドの渡辺久信ことジョン・キャロル・リンチ。小難しいセリフが多いところは監督に慣れてないっぽいな、と思う一方で、ベテラン俳優だけあって演出は手堅かったです。

さらにキャストも豪華で、スタントン絡みなのか珍しくデビッド・リンチが役者として出演もしている。彼の飼っているリクガメが逃げたというのが1つのプロットになっていて、俺らは老衰で死んでもカメさんはさらに長生きするんだよな、という話になっている。さらにはエド・ベグリー・Jr.やロン・リビングストン、トム・スケリット(「エイリアン」つながりだ!)なんかも出てきます。スケリットは元海兵隊員という設定で、スタントンとともに沖縄戦における日本人の悲惨な状況を語るところは見ていてちょっとドキドキしました。あと意外だったのは「ディープ・スペース・ナイン」のヴィック・フォンテーンことジェイムズ・ダレンが出ていたことで、結構久しぶりに顔を見たのだけど、この映画のプロデューサーが「DS9」のアイラ・スティーブン・ベアーなのでその繋がりかな。

数年前に読んだインタビューではスタントンの記憶力もかなりおぼつかないものになっていて、今回もちゃんと演技できるのかいな、と観る前には思ってたのですが完全な杞憂でした。体はヨボヨボとはいえ枯れた名演技を見せてくれるし、やはりあの顔がいいですね。

この映画が公開される2週間前に残念ながらスタントンは他界してしまったわけだが、こんな主演作を最後に作ってもらえて、幸せだったんじゃないかな、彼。

「BATTLE OF THE SEXES」鑑賞

今年のFOXサーチライトによるアカデミー候補作品だったはずが、そのお株は「スリー・ビルボード」と「シェイプ・オブ・ウォーター」に奪われ、日本公開もいつになるか分からないから(7月?)観てしまったよ。

女子テニス界の草分け的選手であるビリー・ジーン・キングを主人公にした作品で、70年代初頭においてキングは世界的な大会で活躍する選手であったが、当時のテニス界は男女の賞金の格差が激しく、女性のテニスは軽視されて男性よりも圧倒的に少ない賞金が与えられていた。それに憤慨したキングは女性選手だけのツアーを開催し、スポンサーもつけてそれなりに人気を博する。一方40年代に活躍した男性選手のボビー・リッグスはギャンブルで私生活に問題を抱えていたが、資金を得る方法として女性選手との試合を起案し、キングに試合を持ちかける。そのギミックっぽさを嫌ったキングに試合を拒否されたリッグスは、キングのライバルであるマーガレット・コートと勝負をして圧勝し、さらにキングとの勝負を要求する。このままでは女性選手の名誉にかかわることになると感じたキングはリッグスの挑戦を受け入れ、ふたりは全米が注目するなか男女の勝負に挑むのだった…というあらすじ。

女性選手が男性と同様の資格を得ることができるようキングが奮闘する一方で、結婚している身でありながらもヘアドレッサーの女性と恋に落ち、自分がレズビアンであることに自覚していく姿が描かれている。実際はこの女性とのちに破局して訴訟を起こされて大スキャンダルになってスポンサーを失ったり、保守的なクリスチャンであるマーガレット・コートには女性との関係を非難されたりといろいろあったらしいが、そこらへんは映画では扱われず、あくまでも恋とウーマンリブのために頑張る女性の話になっています。

ビリー・ジーン・キングを演じるのはエマ・ストーン。以前は化粧の濃い人だなというイメージがあったけど、今回はすっぴんか薄化粧にして、体を張った役を演じています。対するボビー・リッグスを演じるのがスティーブ・カレルで、これがリッグス本人にえらく似ていて気色悪いくらい。どちらもスタントを使ってるとはいえ、テニスの試合のシーンはなかなか盛り上がっていいですよ。あとはビル・プルマンやエリザベス・シュー、アラン・カミングといったベテラン俳優が脇を固めています。

なおサラ・シルバーマンが女子選手のツアーのマネージャーみたいな役を演じているのだけど、彼女がスポンサーとして連れてくるのがタバコ会社のフィリップ・モリス。まあこれは史実なんだが、「スポンサーを喜ばせるためにタバコを吸ってね」みたいなセリフもあって、最近のハリウッド映画にしては珍しくタバコが大きく扱われた作品でした(クレジットでは例によって「タバコ会社から一銭ももらってません」と出るが)。

話としてはベタな展開だし、典型的なフィールグッド映画ではあるものの、観て楽しくなれるんだからそれはそれでいいじゃないの。昨年の「ドリーム」が好きな人はこれも楽しめると思う。話のテーマだって過去のものとは思うなかれ、例えばサッカーなどでは男女間の給料の差が激しいと問題になっているのに、それが当然だという男性の意見もヤフコメあたりでざくざく見かけるわけで、これを観て男女間の格差について改めて考えるのも良いかと。