「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey」

うーん、個人的にはかなり残念な映画であった。これタイトルからは3つの展開が想定できると思うのですよね:

1、「BIRDS OF PREY」ということで同名の女性ヒーローチームの物語。しかし確かにハントレスとかブラック・キャナリーといったメンバーが出てくるものの、そもそもチームの真っ当なメンバーでないハーレイ・クインの映画ということでメンバーは脇役扱いに。

2、ハーレイ・クインを主人公にしたコミックやアニメの実写版。内容的にはこれがいちばん近い。ハーレイの大騒ぎがずっと展開されるわけだが、それって読み切りのコミックや30分のアニメだから楽しいわけで、2時間弱の映画にするにはストーリーが弱いな、という印象だった。

3、ハーレイのemancipationの物語。日本ではなぜか「覚醒」と訳されてるけど、「emancipation」って「解放」でしょ。「スーサイド・スクワッド」ではジョーカーとの関係がDV愛のようなものだと示唆されていたハーレイが、彼との主従関係を断ち切って自立する話になるんじゃないかと、自分は勝手に期待してたのですね。ハーレイの名を世に知らしめた傑作コミック「MAD LOVE」だって、自分を支配するジョーカーの下で葛藤するハーレイがテーマだったじゃん。

そうなるとこの映画、ジョーカーが登場してこそ意味があるのでは?と思うのが筋でして、バットマンの登場しない「ジョーカー」に対して感じたモヤモヤを今回も感じてしまったよ。俺だってジャレッド・レトのジョーカーはウザかったけど、主人公が解放される対象を登場させないまま、「emancipation」とか名乗るのはどうかなあ、と思うのです。

ストーリーもね、カサンドラ・ケインを原作とは全く異なる役柄にしているあたり、なんか脚本ありきでコミックのキャラクターを無理やり当てはめたような感がありました。キャナリーのあれとかも突然出てきて、どうも脚本が十分練られていないのでは。マーゴ・ロビー含めキャストは頑張ってるのに、やっつけ仕事みたいな作品になってしまったのが残念。今後の「ブラック・アダム」にしろ「ブラック・ウィドー」にしろ、アメコミのスピンオフ映画は主人公よりも相手役をどれだけ立てられるかがキモになってくるのではないだろうか。

「スキャンダル」鑑賞

この作品、日本のレビューだとニュース局でのセクハラだとかMeToo運動とかとの兼ね合いで語られてることが多くて、それはもちろん間違っていないものの、その舞台となったFOXニュースとは何ぞや?ということを説明しているものが非常に少ないので、その観点からちょっと書き記してみる。俺自身もFOXニュースなんてあまり観たことないし観たいとも思いませんが、「デイリーショー」などでネタの対象にされてることもあってそこそこ詳しいと思うので。

FOXニュースは劇中でも語られるようにルパート・マードック傘下のケーブル局で、モットーは「Fair & Balanced」(公平でバランスがとれた)といいつつも政治的スタンスはコテコテの保守右寄りで、煽動的なコメンテーターを起用することでブッシュ政権時に保守層のあいだで視聴者を増やし、CNNを追い抜いてトップのケーブルニュース局になったんだっけな。

その原動力となったのが本作品の悪者であるロジャー・エイルズで、物事の真相なんぞ気にせずに報道を煽るスタイルでFOXニュースをバリバリ売り込んでいった。劇中にもあるように上司であるマードック一家にも楯突くような人物で、マードック一家が政治的にどのくらい保守なのかは諸説あるようだが、FOXニュースが保守層の絶大な支持を得るようになったのはエイルズの手腕によるものが大きいと言われている。実はこの作品で扱われるエイルズのセクハラ事件、映画公開の直前にSHOWTIMEで「The Loudest Voice」というTVシリーズにもなっている。そちらではラッセル・クロウがでっぷり太ってエイルズを演じているが、未見なので比較はできません。

さて「スキャンダル」はカズ・ヒロによるメーキャップが話題になってアカデミー賞を受賞しているが、ジョン・リスゴウ演じるエイルズはゲイリー・オールドマンのウィンストン・チャーチルと同じで、とにかくデブメイクをすれば似てくるよね、という感じではある。一方のシャーリーズ・セロン演じるメーガン・ケリーはよく似ていて、ニコール・キッドマンのグレッチェン・カールソンはまあまあ似ている、といったところ。むしろ脇役のニュースアンカーたちの似てなさっぷりに驚きまして、ヒゲとグラサンという分かりやすいスタイルのヘラルド・リベラは別として、クリス・ウォレスなんてあなた誰よ、という姿だった。ビル・オライリーはそこそこ似ていて、ショーン・ハニティーはそうでもない、というところかな。

そしてこの映画では被害者として描かれるメーガン・ケリーとグレッチェン・カールソンも、FOXニュース時代ではコテコテの保守寄りのコメントを垂れ流してた人たちなのですよね。ケリーは企業が従業員に産休を与えることを批判していたのに、自分が産休に入ったあとはしれっと産休を称賛したり、カールソンは朝の番組でスティーブ・ドゥーシー(ともう一人)と毎日オバマ批判を繰り返していたし。なおケリーは一連の騒動のあとにFOXニュースを去って鳴り物入りでNBCに移籍したものの、自分の看板番組で「ブラックフェイスって悪いことじゃないですよね?」という無神経な発言をしたために番組はすぐさま打ち切られている。つまりケリーもカールソンも、FOXニュースでスピンを繰り広げてた人たちであるのですよ。

これを受けて「FOXニュースで働いてたんだからヒドい目に遭うのは当然だ」という気は毛頭無いのだけども、劇中ではケリーやカールソンの過去の振る舞いがずいぶんスルーされていて、観ていてモヤモヤしてしまったよ。これアメリカの観客もリベラル派は同様にモヤモヤしただろうし、保守派はそもそも劇場に足を運ばなかったんじゃないだろうか。

だからこの映画を観ているあいだ、「これは誰のために作ったんだろう」という考えが頭から拭えなかった。きょう読んだ記事にもあったけど、数年前にニュースになった出来事を映画化するなら、誰もが知らなかった事実とか観点を取り込まないといけないと思うのですよね。ただ物事を整理して映像化するのでは意味がないでしょう。

「1917 命をかけた伝令」鑑賞

公開したばかりなので感想をざっと。いちおうネタバレ注意。

・日本の宣伝では「全編ワンカット」であることが謳われてるが、当然そうではない。作品を観ればわかるが、少なくとも2回は主人公が意識を失うことでカットが生じているし、それ以外にも劇中のあちこちで巧妙にカメラを隠すことなどで、細かいカットが入っているらしい。とはいえ長回しを多用した、切れのない演出を売りにした作品であることは間違いないのですよね。

・そこで出てくる疑問としては、そういう演出って意味あるの?ということでして。実際にワンカットで撮影された「ヴィクトリア」を観た時も思ったが、そういう長回しを使うことで話が面白くなるのでなければ、やる意味あるのかなと、映画製作で一番偉いのは編集者だと見なしている自分などは考えてしまうのです。

・1つの解としては、これがすべてリアルタイムで進む作品であり、ストーリーの最初から最後までを通して見せることで、主人公の与えられた任務の性急さを表すこともできるだろう。でもこの作品は、もっと夜になるまで出発を待つという選択肢が最初に与えられているわけで、果たしてこういうワンカット撮影をする必要が最も適切だったのだろうか。

・とはいえ撮影自体は撮影監督がロジャー・ディーキンス御大ですからね、さすがに見応えのあるものにはなってましたよ。曇り空から夜になっていく光景は、同じくメンデスと組んだ「スカイフォール」を彷彿とさせたな。

・話の内容はいま公開中の「彼らは生きていた」を事前に観てれば、第一次対戦中のイギリス軍の生活がどんなものだったかがわかるので、より深く楽しめるんじゃないでしょうか。主人公が若者とはいえ、なんか全編に渡ってナイーブすぎるのが気になったが(敵兵を捕獲したら武装解除を真っ先にやれよ、とか)、実際の兵士もあんなものだったんだろうか。

・主役のジョージ・マッケイって、「パレードへようこそ」で若手のゲイを演じてた彼か。まだスター然としてなくて垢抜けないルックスが、未熟な兵士役によく似合ってたかと。コリン・ファースやマーク・ストロング、カンバーバッチなどは殆どカメオ出演みたいなものでしたが、セリフが多いストロングがその分印象的でした。

・決して悪い作品ではないものの、「パラサイト」に比べれば内容が凡庸であることは間違いないので、こっちがアカデミー作品賞を獲らなくて良かったな、と改めて実感させてくれるものでした。

「フェアウェル」鑑賞

2週続けてオークワフィナ作品だぜ!日本では4月に公開される映画。

子供の頃に両親に連れられて中国からアメリカに移住した女性であるビリーは、中国にいる祖母がステージ4の癌にかかっていることを両親より知らされる。末期癌は本人には告知しないという中国の風習のもと、ビリーの一家および伯父の一家は、ビリーの従姉妹が結婚式をするという名目で中国に集まり、祖母の前では健気にふるまうのだが…というあらすじ。

咳はするものの自分が癌であることはつゆ知らずに身内のことをあれこれ言う祖母と、そんな彼女に気を使う親族たちの光景を淡々と描いた内容で、あまりコメディ要素はないかな。

A24製作のアメリカ映画だが内容は完全に中国映画で、監督のルル・ワンの実体験に基づいた話なのだとか。親族が集まったということでやたら料理の量の多い食事シーンが続くなか、中国とアメリカの違いとか、変わりゆく中国の風景などがいろいろ語られていく。中国に残った親族がビリーの母に「金持ちになりたいなら中国に来ればいいのに〜」とか言うのが時代ですかね。ビリーの父が「俺はアメリカ人だ」と言うのに対し、日本に移住したというビリーの伯父が「俺は中国人だ」と言うのも興味深かった。その伯父の息子が日本人と結婚式を挙げるということでみんな中国に集まったわけだが、中国語を離せない日本人女性にやはり一番共感を抱いてしまったよ。

オークワフィナは従来の役回りとは違って、中国人とアメリカ人のアイデンティティの間で揺れながら、親族のなかでもしっくりこないビリーの役を好演。中国語もペラペラ喋っていて、「バーニング 劇場版」のスティーブン・ユァンもそうだけど、バイリンガルのアジア人俳優っていろんな役が出来るよなあ。ビリーの父親役はツィ・マーで、祖母を演じる赵淑珍も中国では名の知られた女優なのだとか?

なおこの作品、実話をもとにしただけに製作後にちょっとした出来事があって、映画のラストに関わることなので白文字で書きます:

劇中の最後において祖母は亡くならず、現在においても元気であることが伝えられるのだが、映画製作の時点まで彼女が癌であることは彼女に告知されず、周囲は必死に隠してたそうだが、製作後のレビューを読んで彼女は初めて自分が癌であることを知ったそうな!お祖母さんタフだねえ。

自分も年老いた親を持っているので、いろいろ考えさせられる作品であった。よくできた小品。

「HONEYLAND」鑑賞

こんどのアカデミー賞でドキュメンタリー映画賞だけでなく外国語映画賞にもノミネートされたマケドニアのドキュメンタリー。以降は最後まで内容を語ってるのでネタバレ注意。

舞台となるのは北マケドニア共和国(「北」をつけないと怒る人たちがいるらしい)の田舎村。そこに寝たきりの母親と住むハティゼ(Hatidze )という女性は高い崖の上にいる蜂の巣や、自分の家の近くに作った蜂の巣から蜂蜜をとり、それをバスに乗って首都のスコピエに行って売ったりして、細々と暮らしていた。そんな彼女の家の隣に、7人の子供をもつ一家が引っ越してくる。彼らは牧畜を生活手段としており、ハティゼとも仲良くなるが、やがてハティゼが行っている養蜂を自分たちも行おうと巣箱を大量に持ち込み…という話。

撮影には3年が費やされたそうだが、作品自体の尺は90分もない。しかもナレーションもテロップもなく、ハティゼの名前もろくに紹介されないまま話がどんどん進んでいくので、登場する人々の素性などをとにかく憶測しながら観ていくことになる。ハティゼの経歴や、彼女がなぜ養蜂を始めたなどかの説明は一切なし、母親が85歳だというので、彼女自身は60前後くらいだろうか。

ハティゼが蜂蜜を集める蜂は岩場のあいだに蜜蝋を作るという、おそらく日本にいないタイプの蜂で、こういう野生の蜂の蜜をとって暮らす人はマケドニアでもごく少数であるらしい。とはいえ必ずしも自然ドキュメンタリーというわけでもなく、とにかく製作者の意向が分からない作品ではあるのだが、個人的には田舎でのミクロ経済が描かれているのが印象的であった。

ハティゼの隣人一家は決して悪い人たちではないのだが、家族を養うために父親がハティゼの蜂蜜に興味を持ち、自分たちも養蜂をやってみようと巣箱を大量に仕入れてくる。ハティゼも親切に養蜂のやり方などを教えていたのだが、父親は商人(だと思う。見るからに強欲そうな人物)に大量の蜂蜜を仕入れるように要求されてしまう。蜜蝋を巣から取るときも半分だけ取り、半分はそのまま蜂のために残すというハティゼと違って隣人の父親は蜜が欲しいために蜂を乱獲するようになり、やがてそれはハティゼの蜂にも影響をもたらすことになる。

結局のところ隣人の養蜂はうまくいかず、おまけに飼っている牛たちも謎の病気によって大量死し、彼らは別の土地へと去っていく。ハティゼも元に暮らしにすんなり戻れる訳ではなく、自分はこのあとどうなるのかと嘆いたりするのだが、母親が無邪気に「結婚すりゃいーじゃん」とか言い出すのが、同じ独身者として観ててひやっとしました。そんな母親もやがて死に、独りになったハティゼが外を歩くシーンで映画は終わる。なおこの映画が高い評価を得て賞などを獲得したことで、製作者たちはハティゼに新しい家を買ってあげることができて、彼女は親族たちの近くで暮らしているんだそうな。

とにかく説明が一切ないドキュメンタリーなので、これを観てどういう感想をいだくかは、人によってかなり違ってくるかもしれない。自然の描写は美しいし、それを寡黙に見つめるハティゼの姿もいろいろ印象的でした。外国語映画としては先日の「MONOS」のほうが良かったけど、ドキュメンタリー部門に選ばれたのは納得できるような作品でした。