・クリストファー・ノーラン監督作品で、それなりの予算がかかってるので大作映画であることは間違いないわけだが、登場人物の大半に名前がなかったり、無名に等しい役者を起用しているあたりはバットマン三部作や「インターステラー」に比べてもかなり実験色の強い作りだな、という印象は受けた。当初はインプロビゼーションを多用した撮影になるという話もあったようで、そう考えると隙の多い脚本もまあそういうものかなと思われてくる。

・でも陸・海・空で時系列がずれてるのは個人的には分かりづらいな、とは思いましたが。冒頭にちゃんと説明がされてるとはいえ、昼だった場面が急に夜になったりするのだもの。

・秒針が刻まれるサウンドトラックも効果的に用いられ、一刻をあらそう撤退作戦の緊迫感はとてもよく醸し出されていたと思う。とはいえやはり登場人物の設定が深堀りされないなかで先頭のシーンがずっと続くため、ノーラン作品としては短尺ながらも若干中だるみするところがあったかな。

・クレジットには大戦時に実際に救出作戦に用いられ、今回の撮影においても使用されたボートの名前が表記されてました。

・マイケル・ケインが冒頭に声だけの出演をしてるのに気付いたので、誰かほめてください。

・イギリス軍が変に美化されず、砂浜に取り残された若き兵士たちがズルをしてでも先に帰還船に乗り込もうとするところとか、フランス兵が全体的に差別されているところをちゃんと描いているのは良かった。軍事的には大失敗であった出来事だが、丸腰で撤退してきた兵士を当時の日本軍ならどう扱っただろうとか、今の日本ではどうだろう、といったことについて、どうしても考えざるを得ないのです。


タイトルだけ見ると「またゾンビものかい!」と勘違いしそうだが、そんなんでは全くなくて真面目な伝記映画。

アマゾンの秘境の探索に心血を注いだ冒険家パーシー・フォーセットの半生を描いたもので、話は20世紀初頭から始まる。イギリス陸軍に所属していたフォーセットは技量を見込まれ、南米のボリビアとブラジルの紛争調停のために両国の国境線の測量を依頼される。親が没落させた家系の出身であるフォーセットは、家の名誉の挽回を狙って依頼を受託し、うだるような暑さのジャングルの奥地へと向かう。そこでは原住民に襲われたりと苦難に見舞われながらも川をさかのぼり任務を達成した彼だったが、そこで陶器の破片や彫像を発見し、かつてアマゾンの奥地には高度に発達した文明が存在したという確信を抱くようになる。フォーセットはその文明の都市を「Z(ゼッド)」と名付け、帰国したのちに学会で発表するものの、他の学者たちには信用されずに嘲笑されてしまう。しかし彼の信念は揺るぎなく、ゼッドの存在を明かすために彼はふたたびアマゾンへと向かうのであった…というあらすじ。

フォーセットはインディ・ジョーンズやチャレンジャー教授のモデルにもなったという話もある冒険家だが、アマゾンでの発見や冒険よりも未知の都市を追い求めたフォーセットの人生のほうに話の重点が置かれている。ジャングルの川をさかのぼって驚異の経験をする話という点では「地獄の黙示録」、さらには「アギーレ 神の怒り」に近い内容だが、あれらの作品が西洋文化の概念がジャングルの奥地で崩壊していく話であったのに対し、こちらではむしろ野蛮なのは西洋文化(形式にこだわる学会員、仲間を裏切る冒険家、フォーセット自身も参戦した第一次世界大戦など)であり、ジャングルやそこで出会う未知の存在はフォーセットにむしろ安泰を与えてくれる存在として描かれている。

もちろんジャングルではいつも極限状態に置かれるのだけど、結構何度も無事に生還しているので、あまり緊迫感が続かないんだよな(劇中では3回の遠征が行われるが、実際は7回行われたらしい)。2時間20分の長尺だが、第一次世界大戦の描写にあんな時間を割く必要はあったのかしらん。

フォーセットの足取りを追った、「ザ・ニューヨーカー」誌の記者による同名のベストセラーをもとにした映画だが、上記の遠征回数のようにそれなりに脚色が加えられているみたい。また劇中ではアマゾンの原住民の文化に寛大な理解を示すフォーセットだが、実際は神智学の熱心な信者で、ゼッドこそは白人文明の発祥の地だと信じて探索を行っていたという話もあるようで…?

監督はジェームズ・グレイ。前作「エヴァの告白」も高い評価を得てましたが俺は未見。実際にアマゾンの過酷な環境に35ミリフィルムカメラを持ち込んで撮影した映像は美しいですよ。フォーセットを演じるのがチャーリー・ハナムで、彼の相棒の冒険家を演じるのが、最近演技がどんどん評価されているロバート・パティンソン。フォーセットの息子役にスパイダーマンことトム・ホランド。こうして書くとキャストが豪華だな。あとはフォーセットを家で待ち続ける妻役にシエナ・ミラー。なぜかフランコ・ネロもチョイ役で出てました。

興行的には失敗したものの批評家からは高い評価を得た作品だが、ジャングルとイギリスの話を交互に描いたせいか個人的にはテンポが悪いかなと感じました。ジャングルの奥地に向かうことに執念を燃やす男の映画なら、先に「アギーレ 神の怒り」を観ましょう。


日本では「シンクロナイズドモンスター」の題で11月に公開予定。アン・ハサウェイ主演の怪獣映画だぞ。以下はネタバレ注意、

ウェブライターのグロリアは酒飲みがたたって職にあぶれ、ボーイフレンドにも愛想をつかされてニューヨークから故郷の田舎へと帰って来る。そこで幼馴染のオスカーに再会した彼女は彼の所有するバーで働くことになるが、それと同時期に韓国のソウルに謎の巨大怪獣が出現する。その怪獣が彼女の分身であることを直感的に悟ったグロリアは、最初は怪獣を使った悪ふざけこそしていたものの、ソウルに多くの損害を出したことを知って反省するが、物事はさらにややこしくなっていき…という話。

確かに怪獣は出てくるものの上記のようなヒネリが加えられているため、怪獣映画というよりもSFコメディに近いかもしれない。そもそもなんで怪獣が出てくるのかとか、グロリアとどういう関係があるのかといったことに深い説明はされなくて、不条理SFというのかな?そんな内容になっている。全体的なノリは「彼女はパートタイムトラベラー」に近いものを感じました。まあアル中の怖さとか、男性のDVなどのメタファーも含まれてるんだろうけど。

企画時は「ハサウェイ・ミーツ・ゴジラ」みたいなふれこみだった記憶があるが、それに対して東宝が「ゴジラの名前を使うんじゃねー」と実際に訴訟を起こしたという作品でして、最終的な怪獣のデザインはそれで変わったのかな?「ウルトラマン」のギャンゴとラゴンを足したような外見でした。グロリアが操作をやめると姿を消してしまうあたりは「新マン」のサータンっぽくもあったな。

怪獣は着ぐるみではなくCGでどことなくショボいし、あくまでもグロリアの物語なので派手に暴れまわったりするシーンは少ないが、おっ!という展開もあるし、過剰に期待しなければ特撮ファンも楽しめるんじゃないですかね?ボンクラがこんな能力を持ったらどうなるのか?というセンス・オブ・ワンダーはうまく描かれていた。まあ痴話喧嘩に巻き込まれて街を破壊されるソウル市民は迷惑でしょうが。つうか毎晩怪獣が出現するなら、街から市民を退避させようよ!

金のかかった「トワイライト・ゾーン」の1エピソード、といった感じの作品でもあるので、110分の尺では後半けっこうダレるところもあったが、まあ大目に見る。それより気になったのは怪獣が「朝の8時にのみ操れる」という設定になっていることで(よって時差によりソウルでは必ず夜に出現する)、そのためバーで飲んでた主人公たちが外に出ると朝になってた、というシーンが何度かあったな。真夜中のすぐあとが朝の8時になっているというか。

監督のナチョ・ビガロンドの他の作品は観たことないっす。出演はハサウェイのほかにジェイソン・スデイキス、ティム・ブレイク・ネルソンそして今年働きまくっているダン・スティーブンスと、妙に豪華。キャストの割には低予算映画で、さらにその予算も回収できないくらいの興行成績だったらしいが、個人的にはかなり楽しめた作品でしたよ。SFファンで鑑賞会とかするのにお勧め。


今年前半に高い評価を得ていたオーストラリアのサスペンス映画。ケイト・ブッシュの同名アルバムとは全く関係なし。

舞台は1987年のパース。両親が離婚したティーンの少女ヴィッキーは、母親に黙ってパーティーに向かう途中、マリファナを買わないかとジョンとエヴリンというカップルに声をかけられる。実はジョンとエヴリンは少女を誘って監禁し、虐待を加えたのちに殺害するシリアルキラーの夫婦で、ヴィッキーも彼らに勧められた酒を飲んで昏倒し、ベッドに鎖で繋ぎとめられてしまう…というあらすじ。

そんでもってヴィッキーを探そうとする母親の姿とあわせて、いろいろしんどいシーンが続くわけですが、エクスプロイテーション的な内容にはなっておらず、どちらかというと心理サスペンスのような出来になっている。ヴィッキーを虐待するジョンも外に出ればチンピラから借金の返済を迫られる小男であり、エヴリンはジョンに精神的な依存状態で彼に逆らえず、ジョンとヴィッキーの関係に嫉妬してしまうほどの女性として描かれている。話はジョンとエヴリンとヴィッキーの微妙な関係を軸に進んで行くわけだが、心理戦という内容ではなかったな。

どうもジョンとエヴリンは80年代のオーストラリアに実在したシリアルキラーの夫婦をモデルにしているらしいが、どこまで彼らの犯行と似てるのかはよく分かりません。

この映画の前にも、ベルリンでバックパッカーの女性がシリアルキラーに長期間監禁される「Berlin Syndrome」という映画をたまたま観ておりまして、なんか女性が誘拐される映画って流行ってるのか(監督はどちらもオーストラリア人)?「Berlin」のほうは女性がストックホルム症候群の一歩手前まで行くような、よりアートシネマっぽい出来だったな。どちらの映画も似たような事件が実際に起きてるので「なぜ少女は○○を使って逃げなかったのか」といったツッコミをするのは野暮でしょう。ただどちらの映画も女性が負けずに戦い抜く、という内容では必ずしもないし、観た後になんか悶々とした気持ちだけが残る内容でありました。デートとかでは観に行かないほうが良いかと。

この「HOUNDS OF LOVE」の監督のベン・ヤングってこれが監督デビュー作で、女性が監禁される映画を最初に撮ってるとことか、話のラストにジョイ・ディビジョンの「アトモスフィア」を持ってくるあたりに中二病的な闇を感じますが、全体的な演出は非常に手堅く、「Berlin Syndrome」よりもこちらのほうが高評価だったのも頷ける。次はマイケル・ペーニャ主演のSF映画を監督するらしい。

まあ観た後に爽快になるような作品ではないですが、これからカルト人気を獲得していくような気がする一本。


日本では10月公開のホラー映画。プロットについて話すと必然的にネタバレになる系の作品なので、以下はネタバレ注意。

これ先に監督のジョーダン・ピールについて語っておくと、もともとThe CWのスケッチ番組「MAD TV」のレギュラーやってたコメディアンで、あの番組が終わったあとに同じくレギュラーだったキーガン=マイケル・キー(なお2人とも黒人と白人の混血)と組んで、コメディ・セントラルで「キー&ピール」という番組を始めた人なんですね。そしたらその番組での人種をネタにした数々のスケッチ(ここで観られるよ)が大ヒットして、2人はいちやく人気者になったのです。そして一緒に「キアヌ」といった映画に主演した一方で、お互いのソロ活動が増えてきて「キー&ピール」は5シーズンで終了。

そのあとキーガン=マイケル・キーはいろんな映画やテレビ番組に出まくってて、ピーボディ賞の司会とかもやってたんだけど、ジョーダン・ピールのほうはメディア露出がグンと減って、何してるんだろうと思ったらホラー映画を監督してるという話が聞こえてきて、そして初監督作として世に出たのがこの「ゲット・アウト」。初週から大ヒットをとばして製作費の何倍もの収益を稼ぎ、黒人監督のデビュー作としては最も興行的に成功した作品になったとか。

話が長くなったけど、要するに作品紹介などで使われる「コメディアンによるホラー映画」というのは正しいんだけどあまり意味がなくて、ピールもキーもすごく頭がいいのはインタビューなどから明らかだったし、ピールが往年のホラー映画が大好きでよく研究していることも公言してたので、ホラー映画のファンが熱意をもって作った作品だと思って観ればいいんじゃないかと。

そして肝心の内容ですが、都会でカメラマンをやっている黒人のクリスは、白人のローズという女性という恋人がおり、2人ははじめてローズの両親たちの住む田舎町を訪れる。自分が黒人だということを懸念していたクリスだが、ローズの両親は人種など一切気にせずにクリスを暖かく受け入れる。恋人の実家で受けた歓迎に安心するクリスだったが、やがて何かが微妙におかしいことに気づき…という内容。

警察のいない田舎町で遭遇する恐怖、というのはホラーの定番だが、ここに人種の要素が入っているのがこの映画のミソ。明確な人種差別の描写などはない一方で、白人が黒人をベタ褒めするとき、裏にはなにか魂胆があるんじゃね?といった疑心暗鬼の雰囲気がうまく醸し出されている。奴隷制とかのメタファーも巧妙に隠されており、これすべての謎がわかった後にもう1度観ても面白いんじゃないかと。コメディではないんだけど現代社会への皮肉がうまく盛り込まれていて、ホラー映画の定石を巧妙にアレンジしてたり、謎解きの要素が強い点などは「キャビン(・イン・ザ・ウッズ)」に似ているところがあるかな。

その一方ではどうしてもホラー作品にするために、「人種差別の怖さ」の表現が薄れてしまったところもあるかな。劇中に明確なレイシストは登場せず、もっと別の意味でクリスは身の危険にさらされることになる。また話の重要な道具に「催眠術」を持ってきたのはちょっとズルいんじゃないかと。主人公も最後になってやたらケンカが強くなるし、いささか設定に粗さが目立ったことは否めない。

主役のクリスを演じるのはイギリス人のダニエル・カルーヤ。最近は黒人の役もイギリス人ばかりが演じていると問題視されてるとかなんとか。恋人のローズを演じるのは「ガールズ」のアリソン・ウィリアムズ。他にはキャサリン・キーナーやブラッドリー・ウィットフォード、スティーブン・ルートといった俺好みの役者が揃ってます。

監督のピールは映画の構想時は「オバマが大統領になったし、人種差別なんて過去のものじゃね?」とか考えてたらしいが、ところがどっこい、先週末のバージニアでの騒ぎにも象徴されるように、アメリカの人種差別は猛威をもって再び台頭しようとしているわけで、そういうご時世がこの映画の大ヒットにつながったんだろうな。今年のTVシリーズの新作も、警察と黒人コミュニティの軋轢をテーマにしたものが比較的多いし。そういう背景が日本の観客にどこまで理解されるのか、という不安はあるのだが、これは普通にホラーとしても良くできた作品なので、「キャビン」とか「イット・フォローズ」みたいな独創的なホラー映画が好きな人は楽しめると思う。