今年の第一弾は香港映画な。自分の詳しい分野ではないが、題材に興味があったのと良い評判を目にしたので。英題は「OUR TIME WILL COME」。

舞台は1941年、日本帝国軍占領下の香港。そこで抗日レジスタンスは日本軍の監視の目をくぐり、作家や芸術家といった知識人たちを中国本土へ脱出させる活動を行っていた。香港で母親と暮らす方蘭は小学校の教師を務める素朴な女性だったが、家の二階を作家の夫婦に貸していたことで、レジスタンスに彼らの脱出の手助けをすることになる。これがきっかけで方蘭はレジスタンス活動に身を投じていくことになる…というあらすじ。

方蘭は実在した女性で、いちおう事実に基づいた話であるという説明がされるものの、どこまでが史実でどこまでが脚色なのかはよく分かりません。レジスタンスの若きリーダーである劉黑仔(これも実在の人物)がやたら強くて、ピストル1つで憲兵隊の小隊を全滅させたりしてまして、まあそういうのは誇張されてるんでしょう。本国では香港の中国への返還20周年にかこつけて宣伝・公開されたらしいが、血湧き肉躍るプロパガンダ映画というよりも、戦争の流れに翻弄される市民たちの物語に焦点をあてた内容になっている。

2時間ちょっとの尺の作品だが最初の30分くらいは方蘭はあまり登場せず、脱出する作家夫婦の話が主に描かれている。そして1時間を過ぎたあたりから方蘭がレジスタンス活動を本格的に行っていくが、最初は抗日を呼びかけるビラ配りを手伝う程度だったのが、あれよあれよと言う間に支部長みたいな立場になっていて、最後には銃撃戦もお手のものになってたりするんだが、レジスタンスとして成長していく過程がまったく描かれないのはどうなんだろう。素朴だった少女が黒服をまとい、目がどんどん据わっていく姿はまるでカルト教団にハマった女性のようでした。

そんな方蘭に対して、彼女の活動に気づきながらも反対はできず、心配しつつ陰ながら手を貸す母親とか、日本人兵士と仲が良くなり、日本軍とレジスタンスのあいだで心が揺れる方蘭の恋人のほうが心情の描写は丁寧に描かれていたかな。あと方蘭の部下だった少年が、数十年後に一連の思い出を記者(監督自身?)に語る、という構造にもなっているのだが、そんなややこしいスタイルをとる必要があったのか?

監督のアン・ホイって香港映画のベテランで、母親は日本人という方なのね。方蘭役に中国を代表する女優のジョウ・シュン、助演にディ・ポンやウォレス・フォと、それなりの豪華なキャストということでいいのかな?日本からは占領軍の大佐役で永瀬正敏が出演していて、「パターソン」といいいろんな作品に出ているな。あとは音楽を久石譲が担当しておりました。

アクションシーンも派手なところと変なところがあるし(ライフル銃の弾が光って飛んでくる!)、前述のように方蘭の心理描写が足りない気もしたので、評判ほどの作品ではなかったように感じたものの、昨年に香港へ旅行したこともあって、いろいろ興味深く観ることができました。今年はアジア映画もきちんと観なければ。これは日本で公開されますかね?

今年はアメコミ映画(スーパーヒーロー作品)が多数公開された年であったことを考慮して、いわゆる『一般作』5位と『スーパーヒーロー作品』映画5位を分けて並べていきます:

<一般映画トップ5(こちらは順不同、観た順に並べる)>
・「メッセージ」
今年は真面目に考えさせられるSF映画の当たり年であった。下の「ゲット・アウト」もSFといえばSFだし。「猿の惑星」「シンクロナイズド・モンスター」なども良作だったが、映像の美しさや話の構造の巧みさもあってこれを代表に挙げる。

「T2 トレインスポッティング」
ちゃんと前作のクオリティに適うものになるのか?という不安を抱きながらずっと鑑賞していた作品であった。結論から言うと前作には届かないものの、前作のキャラクターたちがどう成長し、どう壁にぶち当たったかを丁寧に描き、きちんと話をまとめたという点で、他の続編(「ブレードランナー2049」「最後のジェダイ」など)よりも優れた作品であった。

「ディストピア パンドラの少女」
ゾンビ映画もネタが枯渇したかと思われた時に出てきた秀作。これも考えさせられるSF映画でしたね。世間的な評価はあまり高くないかもしれないが俺は好きだ。

・「ベイビー・ドライバー」
強いて今年のベストを挙げるならこれかな。冒頭からずっと勢いで飛ばす快作。音響のいい映画館で観たら本当に素晴らしかった。ケヴィン・スペイシーのスキャンダルが発覚する前に公開されて本当に良かったね…。

「ゲット・アウト」
これもアイデアで勝った作品。人種間の緊張という時事ネタをうまく昇華させてホラー映画に落とし込んでいる。古典的なホラーのプロットの現代版といえば「エイリアン:コヴェナント」もそうなのだけど、あっちよりずっとよく出来ていた。

あとは「シンクロナイズドモンスター」「ムーンライト」「ダンケルク」「A Ghost Story」などが良かったです。

<スーパーヒーロー作品トップ5(こちらは評価順に>
・「LOGAN/ローガン」
フランチャイズありきのスーパーヒーロー映画のなかで「シリーズの終焉」をガツンと持ってきた傑作。ヒーローが老いて死ぬということはどういうことかを、真っ向から描いていた。

・「スパイダーマン:ホームカミング」
マーベル・シネマティック・ユニバースの外で「ローガン」の様な傑作が作られてしまうと、スパイダーマンをMCUに入れてしまうのはどうよ、という不安もあるのだけど、今まで以上に若々しいピーター・パーカーの奮闘はやはり見応えがありました。

・「 マイティ・ソー バトルロイヤル」
・「ワンダー・ウーマン」
この2つは3位タイ。「ソー」は軽いノリで楽しめたし、「WW」は女性監督ならではの繊細な描写が秀逸であった。どちらも戦闘シーン『以外』のところが面白かったのも共通していて、そろそろアクションに時間をかけないアメコミ映画が出てきても良いと思う(主人公が最後に勝つこととか、もう分かるでしょ?)。

「ジャスティス・リーグ」
興行的にも批評的にもイマイチだったけど、自分の好きなキャラクターたちが集結するのはやはり爽快であった。ワーナーはこの失敗にメゲずに、優れたDCコミックス映画を作って欲しいところです(ザック・スナイダーは外してな)。

「レゴバットマン ザ・ムービー」
ギャグアニメなので評価しづらくて5位にしたけど、いろんな映画の悪役が勢ぞろいする展開は凄いと思ったし、従来のバットマン映画以上にバットマンの本質を鋭く突いた作品であった。

この下に「ガーディアンズ2」があって、その下に「ドクター・ストレンジ」といったところ。「インヒューマンズ」は論外。

評判のいい「アトミック・ブロンド」や「グッド・タイム」は未見。「ジョン・ウィック チャプター2」や「スリー・ビルボード」はまあまあかな。「マザー!」は俺じゃなくても別の人がきちんと評価してくれるさ!

邦画は毎度のことながら、Netflixをはじめとする配信独占の作品をいろいろ取りこぼした1年であった。来年はさらにこれが細分化されるんじゃないですかね。あとディズニーのFOX買収により製作される映画の本数が減少することが予想されますが、FOXが独自のスタジオとして映画製作ができるのは来年いっぱいになるのかな?スタジオ上役たちのセクハラ問題とあわせていろいろ再編の波が来ていますが、これがより良い作品が生み出されるきっかけになることに期待したいところです。


タイトルが長すぎてきちんと表示されないかな?「WORLD OF TOMORROW EPISODE TWO: THE BURDEN OF OTHER PEOPLE’S THOUGHTS」です。

ドン・ハーツフェルトにおる、アカデミー賞候補になった短編アニメーション「「WORLD OF TOMORROW」の続編。22分ほどの短編な。

前作の主人公である少女エミリーのもとに、また未来のエミリー(前作とは別のもの)が現れる。エミリー6と呼ばれる彼女はエミリーの第三世代のクローンのバックアップであり、エミリーの記録を保持するために作られたのだが、その記憶が不完全なものであったために、未来からエミリーに会いに来たのだという。そしてエミリー6はエミリーの記憶を得るために二人の記憶を連結させ、二人はお互いの記憶の世界をさまよっていく…というあらすじ。

話の設定は前作とよく似ているものの、直接的なつながりはなくて、前作がどちらかといえば未来のエミリーの外部の環境を扱ったものだったのに対し、今回はエミリー6の記憶が主なテーマになっている。エミリー6はエミリーの記憶の容器として造られたものの、彼女自身の人生もまた経験しており、幼少時に仲の良かったまた別のエミリーのクローンの話とか、ダンサーになりたかったという夢などが語られていく。現在のエミリーが経験したことは彼女の記憶となってエミリー6にも瞬時に伝わり、さらにはエミリー4とか7といった別のクローンにも伝わる、というタイムトラベルの原理を用いた入れ子のようなプロットがあり、さらには記憶をテーマにした哲学的な話が語られて、その可愛らしい絵柄とは裏腹に内容はかなり難しかった…。もういっかい見直してみます。

エミリーをはじめとするキャラクターは相変わらずの単純な線で描かれたハーツフェルト特有のスタイルだが、今回は前作以上にCGの背景が美しくなっていて、星のきらめきとか記憶の世界の花の描写などが大変素晴らしい。これ映画館のスクリーンで観ても迫力あるんじゃないかな。

死にゆく世界に生まれ、エミリーの記憶のなかに自分の存在を見出そうとするエミリー6のもの哀しさがきっちり描かれた、コミカルなようでしっかりとしたSFアニメーションであったよ。前作はエミリーの声をハーツフェルトの4歳の姪っ子があてていたが、今回は彼女は5歳になってたそうで、これからも彼女の成長にあわせた続編を作っていく可能性をハーツフェルトは示唆しているとのことなので、今後のエミリーの冒険がどのようなものになっていくか興味深いところである。


ことし高い評価を映画を得た作品。監督のデヴィッド・ロウリーって、ディズニーの「ピートと秘密の友達」なんてメジャー作を撮ってる一方で、「UPSTREAM COLOR」の編集をやったりしてる人なのね。以下はネタバレ注意。

舞台となるのはテキサスの郊外にある小さな平屋。そこには若いミュージシャンの夫とその妻がつつましく暮らしていたが、ある日夫は交通事故で命を落としてしまう。だが夫は幽霊として蘇り、「あの世」に行く機会も断り、悲観にくれる妻の待つ家へと戻る。しかし妻の目に夫は見えず、夫もまた幽霊として妻を眺め続けることしかできなかった。やがて妻は家を去るものの、夫の幽霊は家に留まって、ひたすら何かを待ち続ける。そして家にも様々な変化が訪れ、幽霊も時を超えて物事を眺められるようになり…というあらすじ。

幽霊が出てくるといってもホラーではないよ。かといって「ゴースト」のようなロマンチックな話でもなくて、夫の幽霊の外見は上のポスターにあるように、白いシーツをかぶっただけの姿。いちおう物を操ることはできるものの、声を発せず、妻とコミュニケーションをとろうともせず、ただ妻の姿や家に起きる変化を傍観していく。幽霊になりたての頃は妻の後に来たヒスパニックの家族が好きになれなくて、ポルターガイスト現象を起こしたりするものの、そのあとは家の住人がパーティーを開こうとも動ぜずに、ずっと彼らを眺めているのだ。

このように、移り変わる物事を幽霊がじっと見守るという内容の作品。映像の画角が1:33という正方形に近い比率になっており、さらに画面の四隅が丸っこくなっていて、むかしの8ミリカメラによる家族の記録映像を見ているような気分になるのも効果的に働いている。話の展開もゆっくりしていて、悲しんだ妻がパイをやけ食いする姿を9分間もずっと見せられたりするので、まあこれを退屈と思う人もいるだろうな。幽霊が家にずっと留まり、時間だけは過去にも戻って家の歴史を目にするあたりは、アラン・ムーアやイアン・シンクレアの作品に出てくるサイコジオグラフィーの概念を彷彿とさせました。

主役の夫と妻には名前すら与えられておらず、それぞれ「C」と「M」という役名がつけられているだけ。二人のラブストーリーでありながらも、彼らについて多くの説明はされず、ひたすら淡々とした関係の描写が続くのだが、それがただ彼女を待ち続ける幽霊の姿にうまく反映されてるなとも思いました。夫を演じるのが昨年アカデミー賞を受賞したケイシー・アフレックで、妻を演じるのがルーニー・マーラ。ちなみに幽霊の「中の人」を演じてるのは必ずしもアフレックだけではないらしい。あとミュージシャンのボニー・プリンス・ビリーがパーティの客人役で出ていて、彼が文明の終わりについて饒舌に語るシーンだけなんか浮いていて好きになれなかったな。

批評家には評判が良かった一方で、万人受けする作品ではないと思うが、愛する人を眺める幽霊が哀しくて個人的にはいい作品だと思いました。特に話の終わり方が秀逸であったよ。


デイヴ・バウティスタ主演のアクションサスペンス。あまり期待しないで観たら結構面白かった。

舞台となるのは題名通りニューヨークはブルックリンのブッシュウィック地区。そこに住む女学生のルーシーは恋人と地下鉄の駅を出ようとしたところ、突然地上からは銃撃戦の音と爆発音が鳴り響き、火だるまとなった人物が飛び込んできた。慌てて二人が出口に向かうとそこは戦場のようになっており、何者かの集団と住民たちのあいだで銃撃戦が行われていた。ルーシーの恋人は様子を伺いに外へ飛び出すものの、爆発に巻き込まれて死んでしまう。一人となったルーシーは自宅を目指すものの、重武装した兵士やギャングに襲われ、路地裏の小さな地下室へと逃げ込む。そこに住むのは元兵士のスチュープであり、彼に助けられたルーシーは二人で彼女の家へと向かい、混沌とした物事の真相を把握しようとするのだが…というあらすじ。

ネタバレになるけど言ってしまうと、ブッシュウィックに侵攻してきたのはテキサスを中心とする南部の市民軍で、ふたたびアメリカ合衆国から離れることを大統領に認めさせるために北部の州を襲撃したのだという。ブッシュウィックが狙われたのは非白人が多いということと、銃規制が厳しいから住人の反撃には合わないだろうと推測されたという説明がされるのだが、そこはアメリカ、ブルックリンの住民だってみんな銃は持ってるのだ!ということで後半は市民軍に抵抗する住民の市街戦が繰り広げられていく。銃と火炎瓶で戦うユダヤ教徒がなんかカッコいいぞ。

最近流行りの、ゲーム視点的な長回しシングルショット風のスタイルで全編が撮られており、まあところどころ編集が入っているし、「トゥモロー・ワールド」ほどの凝った長回しは無いものの、冒頭の地下鉄のシーンなどでかなり効果的に緊張感が盛り上げられている。

スチュープを演じるのがデイヴ・バウティスタ。「ブレードランナー2049」でもそうだったけど、肉体的なピークを過ぎた、どことなく陰のある大男を好演しており、ここらへんはアクションに偏重しがちな他のWWE出身の俳優たち(ロック様含む)とは一線を画していますね。そんな彼と組むルーシーを演じるのが「ピッチ・パーフェクト」のブリタニー・スノウ。それ以外はそんなに有名な役者は出ていないかな。

まあB級映画かといえばB級映画だし、ラストの展開もなんか落とし所を間違えているような気がするのだけど、思っていた以上に楽しめる作品であったよ。もし日本のレンタル屋とかでも見かける機会があったら、鑑賞を一考することをお勧めします。