「HONEYLAND」鑑賞

こんどのアカデミー賞でドキュメンタリー映画賞だけでなく外国語映画賞にもノミネートされたマケドニアのドキュメンタリー。以降は最後まで内容を語ってるのでネタバレ注意。

舞台となるのは北マケドニア共和国(「北」をつけないと怒る人たちがいるらしい)の田舎村。そこに寝たきりの母親と住むハティゼ(Hatidze )という女性は高い崖の上にいる蜂の巣や、自分の家の近くに作った蜂の巣から蜂蜜をとり、それをバスに乗って首都のスコピエに行って売ったりして、細々と暮らしていた。そんな彼女の家の隣に、7人の子供をもつ一家が引っ越してくる。彼らは牧畜を生活手段としており、ハティゼとも仲良くなるが、やがてハティゼが行っている養蜂を自分たちも行おうと巣箱を大量に持ち込み…という話。

撮影には3年が費やされたそうだが、作品自体の尺は90分もない。しかもナレーションもテロップもなく、ハティゼの名前もろくに紹介されないまま話がどんどん進んでいくので、登場する人々の素性などをとにかく憶測しながら観ていくことになる。ハティゼの経歴や、彼女がなぜ養蜂を始めたなどかの説明は一切なし、母親が85歳だというので、彼女自身は60前後くらいだろうか。

ハティゼが蜂蜜を集める蜂は岩場のあいだに蜜蝋を作るという、おそらく日本にいないタイプの蜂で、こういう野生の蜂の蜜をとって暮らす人はマケドニアでもごく少数であるらしい。とはいえ必ずしも自然ドキュメンタリーというわけでもなく、とにかく製作者の意向が分からない作品ではあるのだが、個人的には田舎でのミクロ経済が描かれているのが印象的であった。

ハティゼの隣人一家は決して悪い人たちではないのだが、家族を養うために父親がハティゼの蜂蜜に興味を持ち、自分たちも養蜂をやってみようと巣箱を大量に仕入れてくる。ハティゼも親切に養蜂のやり方などを教えていたのだが、父親は商人(だと思う。見るからに強欲そうな人物)に大量の蜂蜜を仕入れるように要求されてしまう。蜜蝋を巣から取るときも半分だけ取り、半分はそのまま蜂のために残すというハティゼと違って隣人の父親は蜜が欲しいために蜂を乱獲するようになり、やがてそれはハティゼの蜂にも影響をもたらすことになる。

結局のところ隣人の養蜂はうまくいかず、おまけに飼っている牛たちも謎の病気によって大量死し、彼らは別の土地へと去っていく。ハティゼも元に暮らしにすんなり戻れる訳ではなく、自分はこのあとどうなるのかと嘆いたりするのだが、母親が無邪気に「結婚すりゃいーじゃん」とか言い出すのが、同じ独身者として観ててひやっとしました。そんな母親もやがて死に、独りになったハティゼが外を歩くシーンで映画は終わる。なおこの映画が高い評価を得て賞などを獲得したことで、製作者たちはハティゼに新しい家を買ってあげることができて、彼女は親族たちの近くで暮らしているんだそうな。

とにかく説明が一切ないドキュメンタリーなので、これを観てどういう感想をいだくかは、人によってかなり違ってくるかもしれない。自然の描写は美しいし、それを寡黙に見つめるハティゼの姿もいろいろ印象的でした。外国語映画としては先日の「MONOS」のほうが良かったけど、ドキュメンタリー部門に選ばれたのは納得できるような作品でした。

「MONOS」鑑賞

昨年のサンダンスで高い評価を得た、コロンビアとアメリカ合作の映画。IMDBなんかでは「猿」という邦題がついてるのだけど、日本公開は決まってるのかな?

舞台となるのは南米の某国。内戦が続くその国において反政府ゲリラは高地に建つ廃墟を占領し、そこに誘拐したアメリカ人女性を人質として拘留していた。その廃墟の管理にあたるのは10代の少年少女からなる8人の兵士たちで、彼らの上司はごくまれに指導にやってくるのみ。兵士とはいえまだ若者である彼らは他愛ない遊びに明け暮れるような日々を過ごしていたが、戦火が拡大したり人質が逃走を試みたことで彼らはやがて野蛮化していき…というあらすじ。

話の背景はかなり曖昧にされていて、舞台となる国もコロンビアのようだが明確にはされていない。ゲリラ組織の名前はそのまま「組織(THE ORGANIZATION)」で、彼らが何と戦ってるかの説明はなし。高地を守る少年少女たちは上司には「モノス(猿)」と呼ばれ、メンバー同士は「ウルフ」「ドッグ」「レディー」「ブームブーム」といったニックネームで呼びあうほか、「ランボー」という兵士は性別も曖昧な感じ。彼らの監視下に置かれる人質も「ドクター」と呼ばれるだけ。そうした意味ではかなり抽象的な内容になっている。

内容はゴールディングの「蝿の王」にインスパイアされたそうで、自分たちの世界を与えられたあどけない少年少女たちが疑心暗鬼に陥り、仲間割れしていくさまが生々しく描かれている。そんなに予算は高くないと思うが撮影が非常に美しくて、標高4000メートルを超える高地における雲の光景とか、ジャングルにおける水中撮影とかが綺麗に撮られている。これ軍隊とか地元スタッフの協力があったのかな。あれだけの高地で撮影された映画ってそう多くはないはずなので、後半から舞台がジャングルに移ったのが少し残念ではあった。

監督はコロンビア人のアレハンドロ・ランデス。役者は人質を演じるジュリアンヌ・ニコルソンと、少年たちのリーダー役を務めるモイセス・アリアス以外はみんな演技経験ゼロの人たちを起用したそうだが、それでもスタントなしで激流に身を投じたりして、体当たりの演技を見せ付けています。モイセス・アリアスってディズニーの「ハンナ・モンタナ」出身だそうだけど、アイドルみたいな雰囲気はゼロで怖いリーダーを演じ切ってます。あとゲリラの上司を演じる人が低身長なのに筋肉モリモリですごいのだが、実際にコロンビア・ゲリアで戦ってた人なんだそうな。

音楽を「アンダー・ザ・スキン」のミーカ・リーヴァイが担当していて、音楽が流れるシーンは多くないものの、使われている箇所では非常に印象的な音楽になっている。というか音楽が派手すぎてシーンを食っちゃっているような印象も受けるのだけど、そういうのは監督がどこまで意図しているのだろうかと、こないだ同じくリーヴァイが音楽を担当したジョナサン・グレイザーの短編を見たときも考えてしまったのです。

ゲリラのメンバーが上司の前でお互いの不正をチクりあうシーンもあって、連合赤軍などでも同様のことが行われたんだろうか。ただ映画自体は決して政治的なものではなく、もっと人間の本質に迫るようなものであった。高い評価も納得の傑作。

2019年の映画トップ10

3年前にやったように、上位5位と下位5位を順不同で観た順に並べていく。ちなみにみんな大好き「アイリッシュマン」は未見な。

<上位5位>
・「アベンジャーズ/エンドゲーム
前作よりもずっと楽しめる内容になっていたし、きちんとキメるところはキメて、長年にわたるマーベル作品の流れをきちんと締めくくる出来になっていた。これから何が続くにせよ、この作品までの盛り上がりを再現するのは難しいだろう。

・「アド・アストラ
今年は「ハイ・ライフ」もそうだったけど、孤独な宇宙探索ものって個人的に好きなのです。この監督の前作に続き、探検に執着する父子の姿が良かった。ブラピは「ワンス・アポン〜」とあわせて今年は良い演技を見せていたな

・「BOOKSMART
飛行機で観たので、内容はたぶんカットされていると思う。それを置いておいても、同級生たちのあいだで空回りするガリ勉女子ふたりの青春物語が、観ていて大変切ないのです。

・「THE ART OF SELF-DEFENSE
これも飛行機で。巷で話題になったToxic Masculinityが男性に及ぼす効果を、暗く、そして面白おかしく描いた傑作。主役のジェシー・アイゼンバーグがとにかくハマっている。これもっと話題になっても良いのになあ。いずれカルト人気を誇る作品になってほしい。

・「パラサイト 半地下の家族
そしてこれも飛行機で。どこに話が着地するのか分からないまま、ハラハラ感を抱きながら観続け、やがて社会格差を鋭く突いたオチに驚く。韓国映画は「バーニング 劇場版」も良かったが、あれもまた社会格差をテーマにしていた。

<下位5位>
・「アクアマン
DCコミックスが「ジャスティス・リーグ」の呪縛から離れて、好きにやろうぜ!というスタンスをとったらちゃんと面白いものができてしまった。「シャザム!」も「ジョーカー」もそうだけど、無理にユニバース作りとか気にしなくてもええんよ。

・「WHAT WE LEAVE BEHIND
映画なのか?と言われると微妙だけど、まあ劇場公開したしぃ。自分が出資した「DS9」のドキュメンタリーが完成したのを見ると嬉しいじゃないですか。元ライターたちが1日だけ集まって続編のプロットを投げ合う光景も大変勉強になった。

・「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」
ストーリーが雑なのは重々承知しているのですが、とにかく監督の怪獣愛がひしひしと伝わってくる作品でした。怪獣がいればすべてオッケー!株価も上がるしあなたもモテモテ!みんなハッピー!といったラストは、多くの映画人が見習わなければならないと思う。たぶん。

・「アンダー・ザ・シルバーレイク」
日本だと昨年公開ですが、アメリカ公開にあわせて観たということで…個人的にはすごくトマス・ピンチョンの小説に似ていると思った。主人公が意味不明な陰謀に巻き込まれていく様が大変面白かったです。

・「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密
純粋なフーダニットかというとそうではないかもしれないけど、豪華キャストがお互いを罵倒しながら話が二転三転していくのが面白かった。ライアン・ジョンソンはやはりSFよりもミステリーが似合っている。

「シルバーレイク」を昨年の作品として省くなら、「THE NIGHTINGALE」あたりが入るかな。世間の評判が高い「ワンス・アポン〜」や「ジョーカー」はさほどでもなかったような。昨年の「ROMA」にしろ今年の「アイリッシュマン」にしろ、配信系のオリジナル映画もちゃんとチェックしないといかんですね。

「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」鑑賞

ディズニーがFOXを買収した後の作品なので、あの往年のFOXファンファーレ&ルーカスフィルムのロゴのオープニングが観られるかと期待してたんだが…ネズミはそんなに寛容ではなかった。以後はネタバレ注意。

結局やはりエイブラムスだよねえ。何をすれば観客が喜ぶかを計算して映画を作っているだけで、自分の芸術性などは二の次。だから結局のところ無難な作品した作れなくて、過去のレガシーにおんぶにだっこしてるだけ。彼の作家性を伺わせるトレードマークといえば、目障りなレンズフレアくらいじゃ無いだろうか。しかも今回顕著なのは、自分が撮らなかった前作を嫌ってるんじゃね?と思わせる展開があったこと。

いや確かに「最後のジェダイ」はプロット的にはいろいろ問題あったけどさ、少なくとも「エピソード4」の焼き直しだった「フォースの覚醒」よりかは新しい要素を取り入れようとしていたじゃん?フォースはジェダイのみが持つ特権ではなく、もっと誰もが秘めているものという扱いだったじゃん?それが今回はあからさまな血統主義にとらわれていて、ジェダイもシスもみんな先祖が偉大だったのでフォースを使えるんですという展開。「ファントム・メナス」でミディクロリアンのコンセプトが紹介されたときは満遍なく叩かれたけど、少なくともあっちは自然の生物と一体になることでフォースが使えるようになる、という考えがあったわけで、祖父がフォース使えたので自分も使える、というのよりもずっと理に適ってると思うけどね。いちおう擁護しておくと一般人のフィンがフォースを感じられるようになっているのは明白だったが、そこを深掘りすることは全くなかったな。

あとプロットについて言うと、今回に始まった話ではないが、ストームトルーパーって命令に従順に従わせるためにクローン培養してるんじゃなかったっけか?なんで命令に背くような一般人を拉致してストームトルーパーやらせてるんだ?

出演者はね、リチャード・E・グラントが出てたのが嬉しかったな。ここ数年はアメリカの話題作になぜかよく出ているのだけど、往年のファンとしては嬉しいこってす。あとおれはドミニク・モナハンをずっとジミ・シンプソンだと思って観ていました。

もちろん前述したように観客を喜ばせるツボはちゃんと押さえているので、及第点はとれている出来にはなっていると思うのですよ。美しいショットもいくつかあったし、えらく懐かしいキャラも出てきたし。その反面、話をとにかく予定調和にまとめようとしているのが残念であった。

そんでこれによって「スター・ウォーズ」が完結するかというと、当然そんなことはなくて、金を産む限りはネズミがひたすら絞り取るでしょ。それでもエピソード1〜9の枠からは外れたものになるだろうから、その際はエイブラムスなどではなく、もっと新しいことをやるのに意欲的な監督を起用してほしいところです。

「THE NIGHTINGALE」鑑賞

カルト人気を誇る「ババドック~暗闇の魔物~」のジェニファー・ケント監督による2作目で、今回はホラーというよりもオーストラリアン・ウェスタンになっている。

舞台は1825年のタスマニア。その地に犯罪人として送られ、夫と幼児とともに暮らすアイルランド人のクレアは、自分の刑期が終わって3ヶ月が経ったのに未だ釈放の承認が下りず、英国軍の士官ホーキンズに労働を強いられ、さらには彼の慰みものにされるという辛い日々を送っていた。彼女の扱いに激昂した夫のエイダンはホーキンズに殴ってかかり、その報復としてホーキンズはクレアの家に押し入り、エイダンと幼児を殺し、クレアを部下に陵辱させる。そしてホーキンズはタスマニア北部に去るが、夫と子を殺されて復讐の鬼と化したクレアはビリーというアボリジニの青年を案内人として雇い、ホーキンズを追うのだった…というあらすじ。

監督自身がオーストラリア出身で、自国の暗い歴史に興味があったらしく、暴力に満ちた追跡劇が繰り広げられていく。飲んだくれの兵士たちが幅をきかせる土地において女性の権利など無いに等しく、クレアだけでなくアボリジニの女性がホーキンズに誘拐されて慰みものにされるシーンもあり。劇中の暴力描写は本国でも議論を呼んだらしいが、女性監督の方が女性への暴力描写を容赦なく描けるのかもしれない。

女性だけでなく原住民のアボリジニもまた虐げられた存在であり、島にやってきた白人たちによって土地を奪われ、奴隷扱いをされていく。クレアに雇われたビリーも当初は金だけが目当てだったが、イギリス人が嫌いなアイルランド人とアボリジニということで結束し、二人の仲が深まっていくことが作品の大きなテーマになっている。犬のような扱いを受けたビリーが「ここは俺らの国だったのに…」と泣くシーンが印象的だった。

劇中で話されるゲール語(アイルランド語)やアボリジニの言語をはじめ、撮影にあたっては入念な時代考証が行われたらしい。復讐に燃える親の追跡劇、という点では「レヴェナント」に似たところがあるが、あちらは大自然の光景を前面に出していたのに対し、こちらは4:3の画面比率を使って人物の背景などをあまり映さず、緊迫した雰囲気を出しているのが特徴的であった。

主人公のクレアを体を張って演じているアイスリング・フランシオシって、流暢なゲール語を話すなと思ったらアイルランド系イタリア人なのですね。あとは有名どころだとホーキンズ役に「ハンガー・ゲーム」のサム・クラフリン。イケメンなのでいい奴のように見えるけど、かなりのクズを演じてます。彼の部下役が「ワンハリ」でチャーリー・マンソンを演じたデイモン・ヘリマンで、こっちは見事なくらいにクズの役でした。ビリー役のベイカリ・ガナムバーは新人らしいが大変素晴らしい演技でしたよ。

暴力描写などのために万人受けするような作品ではないだろうが、オーストラリア(あるいはどこの国でも)における暴力の歴史を真正面から扱ったものとしては興味深い作品でした。