「VIVARIUM」鑑賞

昨年の個人的ベスト映画の1つである「THE ART OF SELF-DEFENSE」のイモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグという黄金コンビ(?)の新作。冒頭から出資会社のロゴが10社くらい続けて流れるのに驚くが、ヨーロッパのいろんな会社が関わってるみたい。以下はかなりネタバレしてるので注意。

ジェマとトムの若き夫妻は住む家を探しており、マーティンという奇妙な不動産業者に連れられてヨンダーという住宅地へと足を運ぶ。そこは同じ家が立ち並ぶ人気のない郊外で、そのうちの家の1つの案内を受けた二人は、マーティンに置いてけぼりにされたことに気付く。そして自分たちでヨンダーを出ようとした二人だが、どこに行ってもヨンダーを抜け出すことはできず、同じ家の前に戻ってきてしまう。こうして住宅街に囚われてしまった二人だが、食糧や日常品が入った謎の箱がどこからか送られてくるため、最低限の生活を送ることができた。そしてさらには赤ん坊の入った箱が送られてきて…というあらすじ。

脱出ものというよりも不条理SFホラーという出来になっていて、ジェマ達が具体的に何日間(何年間)ヨンダーで暮らしているのか、といった描写はほとんどなし。二人が脱出を諦めるなか、箱で届けられた赤ん坊は不気味な少年に成長していく。作品の冒頭にカッコウの托卵の光景が映されるのだが、まあわかりやすいメタファーですね。

これ内容はJG・バラードの小説あたりにかなり影響を受けてそうな気がするのだが、実際どうなんだろう?ヨンダーにはジェマ達しか暮らしていないので、テクノロジー三部作とか「殺す」みたいな郊外文化の風刺にはなっていないけど、バラードの初期のSF短編っぽい雰囲気を感じました。

1つのネタで勝負している作品なので、「トワイライト・ゾーン」のエピソードを長くしたというか、99分という尺ながら少し中弛みしている感もあるし、演出がもっと優れていれば(監督のローカン・フィネガンはこれが2作目)、より面白くなっただろうシーンもあるのだが、個人的にはかなりツボにはまった良作だった。エンドクレジットでXTCが流れる映画なんて、人生でそんなに出会えるものじゃないですぜ。「THE ART OF SELF-DEFENSE」とともに早く日本でも公開すればいいのに。

「THE JESUS ROLLS」鑑賞

カルト人気を誇るコーエン兄弟の「ビッグ・リボウスキ」の(非)公式スピンオフ…って何を言ってるか分からないかも知れないが、要するにあの映画でジョン・タトゥーロが演じた変態ボウリング師ジーザス・クインタナを主人公にした映画をタトゥーロが監督したもの。コーエン兄弟はキャラクターの使用を認めた以外は一切製作に関わってないらしい。

「リボウスキ」でのジーザスは子供に露出行為を働いて逮捕された変態として紹介されてたが、さすがにそれだと主人公として扱えないと判断されたのか、あの事件はあくまでも誤解だったということが冒頭で説明される。それでもジーザス自体が犯罪を繰り返してる変態であることは変わりなくて、刑務所でのお務めからショバに出てきたジーザスが、弟分のピーティーに迎えられ、早速また車を盗んだりして放蕩な旅に出る…というあらすじ。

というかこれ、フランス映画の「バルスーズ」のリメークなのですよね。男ふたりが田舎をぶらついて女性とかたっぱしから寝ていくというやつ。俺あれなぜか「さらば青春の光」と併映で早稲田松竹で観ましたが、女性器に銃を突っ込んで自殺する女性のシーン以外は殆ど記憶に残ってないような。

なんで「ビッグ・リボウスキ」のキャラクターを主人公に「バルスーズ」のリメークをやるのか?という大きな疑問は最後まで解消されないわけだが、原作通りに男ふたり女性ひとりが、組んず解れつするロードムービーが繰り広げられます。ジーザスってもとの映画での登場シーンが一瞬だったから強烈な印象を残したわけで、彼を主人公にした映画を作ったら逆に彼の魅力が薄れるような気がするんだけどね。どうなんだろうね。

ジーザスの相棒ピーティーを演じるのがボビー・カナヴェイルで、彼らを行動を共にする女性マリー役にオドレイ・トトゥ。みんなムダ脱ぎしてます。あとは俳優が監督をやった作品にありがちな、友達のよしみで有名俳優が大量にチョイ役で出演していて、コーエン兄弟組ではティム・ブレイク・ネルソンやマイケル・バダルッコ、あとはジョン・ハムにスーザン・サランドンにクリストファー・ウォーケン、ピート・デビッドソン、グロリア・ルーベン、さらにはジプシー・キングスとかが3分くらい出演して消えていってます。

アメリカでは散々な評判を受けた作品だが、有名俳優が次から次へと出てくる気ままなロードムービーといった感じで、個人的には思ったよりかは悪くなかった。作る必要があったのか?と聞かれると考え込んでしまう映画ではありますが。

「PALM SPRINGS」鑑賞

サンダンス映画祭において史上最高の額で購入された作品…なのだが米HULUへの配信ストレートだったりする。これ内容は何も知らないほうが楽しめると思うので、以降はネタバレ注意な。

舞台は当然カリフォルニアのパーム・スプリングス。妹の結婚式のためにそこを訪れていたサラは、ナイルズという奇妙な男性と出会う。式場を抜け出したふたりはねんごろな仲になるが、突然何者かにナイルズが弓で射たれてしまう。負傷したナイルズは近くの洞窟の中に入り、サラにはついて来るなというものの、サラもその洞窟に入ってしまう。そして次の朝に目を覚ましたサラが見たものは、妹の結婚式の準備をするスタッフたちだった。つまりサラは同じ日を何度も繰り返すタイムループのなかに入り込んでしまっており、アンディは彼女よりも前に同じループのなかに入っていたのだ。こうして同じ日を何度も繰り返して経験することになったふたりは、あり余った時間をどうやって使うか考えるのだった…というあらすじ。

つまりアメリカでは映画ジャンルとして確立された感のある「恋はデジャ・ブ」ものの最新版ですかね。今作のポイントは同じ日を繰り返すループに入ってるのが2人いるというところか。別に洞窟に入らなくても眠ったり死んだりすれば1日がリセットされるために、ループから抜け出すのを諦めたふたりはずっとビール飲んだりバカ騒ぎをしたり。

ナイルズはサラよりも長くループに入っていたためにより多くの体験をしており、その一方でサラには明かせない秘密を抱えているし、サラもまたナイルズに言えないことがあったりする。永遠に同じ1日を過ごすなかでお互いの気持ちをどう整理するかに後半は焦点が当てられており、コメディなんだけれどもロマンスに重きが置かれている内容になってました。

ナイルズを演じるのがアダム・サムバーグで、周囲が彼の言動に慌てふてめくなかで余裕の振る舞いを見せる演技は「ブルックリン・ナイン-ナイン」のジェイクそのまんま。例によって彼の属するザ・ロンリー・アイランドの人たちもプロデューサーに名を連ねてます。サラ役を演じるクリスティン・ミリオティは「ウルフ・オブ・ウォールストリート」とかに出てたらしいけど記憶になく…でも自分に自身の持てない女性を好演してました。サラの妹と結婚する新郎役がタイラー・ホーチンで、あとは詳しく書かないけど重要な役でJK・シモンズが出演してます。

ストーリーは最終的にはある方法で決着がつくのだけど、そこに至るまでの流れが男女の違いをうまく表していて、あーなるほどねーと妙に納得してしまった。アメリカでは批評家や視聴者に絶賛されてるようで、この楽しめる内容が皆に受け入れられたんだろうな。日本での公開・配信はどうなるんですかね?

「グレイハウンド」鑑賞

こないだiPhone買い換えたので、アップルTV+の映画が観られるのだよ。トム・ハンクス主演のWWII映画。

初めて駆逐艦の艦長を務めることになった主人公が、大西洋を横断してアメリカからイギリスへ物資を運ぶ船団の護衛任務に就くというもので、当然ながら途中ではドイツ軍のUボートが船団を狙って目を光らせているため、いかに奴らを撃破して船団を守れるか…というあらすじ。

91分という短い尺のなか、最初から最後までUボートが攻めてくるという内容のため観ていて飽きさせない。艦長はろくに食事をする描写がされていて(それでも美味そうな食事が出てくるのがアメリカ軍だなあと)、Uボートを一隻沈めたら急いで船団の護衛に戻って、そしたら新たな敵が現れて…とてんてこまい。ちょっとタワーディフェンス系のアプリゲームを連想してしまったよ。

さほど製作費は多くないらしいが、駆逐艦vs潜水艦の戦いはテンポ良く迫力感もあり、急旋回して魚雷を避けながら対抗砲火を打ち込む流れがリアルに描かれている。ドイツ軍側の兵士は登場しないため駆け引きのドラマとしてはちょっと弱いかもしれないが、鉛筆やコンパスといったアナログな道具を使って敵の位置を探り当てようとするさまが、逆に今の時代には新鮮に感じられましたね。

トム・ハンクスは主演だけでなく脚本も担当していて(原作小説あり)、海軍用語がポンポン飛び出してくるあたり、いろいろ勉強したのだろうなあ。監督のアーロン・シュナイダーは撮影監督出身で、映画監督としては数本しか撮ってないのかな?ハンクス自身が監督としてアクションを撮れるとは思えないから、脚本だけ書いて監督は比較的無名の人に任せたんだろうか。あとは副長役をスティーブン・グレアムが演じています。イギリス人なのに米海軍の兵士を演じられるのが彼の演技の巧さを表してますね。

例によってコロナウィルスの影響によって劇場公開が見送られ、配信での提供になってしまった作品だが、大海原のシーンとかは美しいので、劇場のスクリーンで観たらもっと面白かったろうなと思う。

「Welcome to Chechnya」鑑賞

HBOで放送されて高い評価を得ていたドキュメンタリーをBBC経由で鑑賞。ロシア連邦の一部であるチェチェン共和国における、同性愛者への迫害を扱ったドキュメンタリー。

チェチェンでは2017年ころから同性愛者の迫害が始まり、彼らを不純なものと見なすラムザン・カディロフ首長のもと、同性愛者の暴行・誘拐・拷問・法的な手続きのない処刑などが行われている。実際に彼らがボコボコにされる映像が何度か登場するし、有名な歌手も誘拐されて行方不明になっているそうな。そんな迫害を受けている彼らを助けようとする、デビッド・イスティーフをはじめとする活動家たちを追った内容になっていて、まずはチェチェンから連れ出してモスクワにある極秘のシェルターにかくまい、海外の団体の協力を得て国外に脱出させるというネットワークが出来上がっているらしい。

いちおうモスクワでの同性愛者の扱いはチェチェンに比べれば緩いようなのだが、プーチンがカディロフを好き勝手やらせているため、チェチェン警察からは脱出した同性愛者およびその家族に脅しの連絡が届き、モスクワにおいても彼ら(さらにはその家族)の身は安全ではない。よって必要であればほんの数時間のうちに、危険に晒された人をチェチェンから脱出させたり、国外に逃げさせなければならない。ここらへんの緊迫した光景もそのまま撮影されてて、「CITIZENFOUR」のサスペンス感に通じるところもありました。

そんな当局から身を隠している人たちを撮影して大丈夫か?というのは誰もが思うところでして、監督のデビッド・フランス(HIVを扱ったドキュメンタリーでアカデミー賞ノミネート)が取った案は、彼らの顔をデジタル処理して、他の役者の顔と差し替えるというもの。上のポスターの男性もフェイクの顔だよ。あまりにも処理後の表情がナチュラルなので、本当に差し替えたのかよ?と思ってたけど、最後にこの男性の素顔が明かされて、確かに顔が変わっていることに驚きました。この技術が普及すれば、従来の「顔にモザイク」というドキュメンタリーのスタイルが変わっていくのかな。

チェチェンの姿勢にならった他の共和国も同性愛者の迫害を始め、やがてその波がモスクワに届くのではとイスティーフたちが危惧する一方で、彼らの活動資金は減り、活動家自身も国外逃亡を余儀なくされたりして、彼らの前途は決して明るくない。迫害されたゲイの男性が勇気を出して記者会見を開き(ここで彼の素顔が明かされる)、モスクワの法廷にチェチェンの迫害を訴えたりするものの、にべもなく棄却されていた。

2年ほどのあいだに活動家たちは150人ほどの人を国外に脱出させ、そのうちカナダは50人弱ほどを受け入れた一方で、トランプ政権のアメリカは0人だとか。映画の公式サイトに彼らの活動が細かく紹介されてるので、興味のある方はチェックしてみてください。