「マイレージ・マイライフ」鑑賞

前半はとても良く出来た映画だと思ったんだけどな、これ。企業の解雇通知人として全米を飛び回りマイレージ集めを趣味にしている主人公が、若くて賢い助手をつけられて彼女に仕事のコツを教えているうちに自分のやっていることを再認識するようになるだけでなく、忘れられない女性に出会ったことで根無し草だった自分の人生を見つめ直すという構図が非常に巧みに感じられたのですよ。

いまアメリカでは不況により多くの人々が解雇されているというタイムリーな事実も話に深みを与えていたのに、それが後半になって妹の結婚式というパーソナルな舞台に移ったら話がとても小ぢんまりとしたものになってしまったのが残念。式の当日になって怖じ気づく新郎なんて展開はあまりにもメロドラマすぎるというか。

俺が思うに、この映画の主人公には2つの特徴があって、

A. 全米を飛び回る解雇通知人
B. 結婚を面倒なものだと考えている独身男

というものであり、ストーリーテリングの常としてこれらに何かしらの危機やか挑戦がやってくるわけだが、それらがすべてB.のほうに集中している気がするんだよな。でも彼を主人公として特徴づけているのはA.のほうであるはずなのに、解雇通知人としての行いには明確な因果というか報いのようなものが生じず、彼の助手だけが報いを受けるというのはどうなんだろう。人々にクビを伝え続ける生活というものが、主人公にどう影響するのかを深く掘り下げて描いて欲しかったような気がする。

でも主人公を演じるジョージ・クルーニーは心の葛藤などをうまく表現していてハマり役か。彼の脇をかためるヴェラ・ファーミガとアナ・ケンドリックもいい感じ。その反面、ジェイソン・ベイトマンやザック・ガリフィアナキス、J.K.シモンズ、ダニー・マクブライドといったコメディ畑のそうそうたる面子を揃えておきながら、ベイトマン以外はほとんど出番がなかったのが残念だな。ふつう冒頭にガリフィアナキスのような知られた顔が出てきたら、後でもまた登場すると思うよなあ。

そして最後は実際に仕事から解雇された人々による、いかに家族が励みになったかが語られるインタビューで幕を閉じるわけだが、むしろ独り身のほうがクビになっても家族に迷惑をかけなくていいんじゃないの、と俺のようなひねくれ者の独身男は考えてしまうのです。

ディック・ジョルダーノ死去

77歳だと。80年代からアメコミを読み始めた俺のようなファンにとっては、DCコミックスのナンバー2として、社長のジェネット・カーンとともに「ダークナイト・リターンズ」や「ウォッチメン」を世に出した偉い人なんでありますよ。

邦訳もされた「The Greatest Batman Stories Ever Told」の序文によると、喘息で病気がちだった子供の頃に父親が「バットマン」を買ってきてくれたことがきっかけでコミックスに魅せられたそうだが、その人生のすべてをコミックスに捧げたわけで、60年代にはチャールトン・コミックスの編集長としてザ・クエスチョンやブルー・ビートルといったキャラクターが生まれるきっかけを作ったんだよな。またアーティストとしても第一線で活躍した人で、特にインカーとして肉厚なベタ入れを得意とし、ニール・アダムズやジョン・バーンなどの画を映えたものにしてたっけ。むかしイタリアあたりのコミックを眺めてたら、彼のスタイルにそっくりな作品を見かけて驚いたことがある。

会社側の人間としてクリエイターの権利を認めることには否定的な態度をとってたそうだけど、アメコミに多大な貢献をした人であることは間違いない。合掌。

「フューチュラマ」DVDセット到着

こないだ米アマゾンで「フューチュラマ」のDVDセットが24時間セールとして激安販売されてたので衝動買いしたわけだが、それが本日到着。

思ってたよりもサイズは大きくて、ベンダーのアンテナ部分までの高さは40センチくらい。置き場所に困るかも…。

裏を開けるとDVDが裸でスタックされている仕様が実にアメリカン。一番下のディスクを取り出すのは結構難儀だったりする。

ディスク19枚組の送料込みで8500円ちょっとというのは安いよな。6月くらいにはコメディ・セントラルで新しいエピソードが放送されるらしいので、それまでにチマチマと観ていくことにしよう。

「FANTASTIC MR. FOX」鑑賞

邦題は「すばらしき父さん狐」になるのかな?ウェス・アンダーソンによるストップモーション・アニメ。かつてニワトリ泥棒をやっていたミスター・フォックスは妻が妊娠したことをきっかけに泥棒稼業から足を洗い、新聞のコラムニストとして妻子とむつまじく暮らしていた。しかし大きな木の中にできた家に引っ越したとき、そこから3つの裕福な農家を眺めているうちに昔の意欲がムクムクと沸き上がってきてしまい、それぞれの農家に泥棒に入ることに。3件とも泥棒に成功して有頂天になるフォックスだが、これにより激怒した3人の農家たちはフォックスを銃撃し、彼は尻尾を失ってしまう。さらに農家たちがフォックスたちの住む木を爆破したため、彼らは命からがら地中に逃げることに。しかし農家たちの追撃はそこにも迫ってきていて…というようなお話。

ウェス・アンダーソンってあの若さで良くも悪くも自分のスタイルを確立させてしまった人で、前作「ダージリン急行」は話の展開があまりにもそのスタイルにはまっていて食傷気味だったんだが、今回はストップモーション・アニメという技法を用いることで新しい境地に辿り着いたのかな…と思ってたら彼のスタイルは健在でした。微妙に噛み合ないシュールな会話とか、どこかぎこちない家族関係、60年代のブリティッシュ・ロックといったアンダーソン作品ではおなじみの要素があちこちで顔を出すことに。「子供に尊敬されない父親」が主人公だというのは「ロイヤル・テネンバウムス」や「ライフ・アクアティック」に似ているかな。ただし「アクアティック」ではそのマンガ的な展開が空回りしていることが多かったのに対し、今回はまさにマンガ(アニメ)という手法をとったために、どんな滑稽な展開があっても違和感なしに観れてしまうところが強みだな。

アニメの出来は「コラライン」とかに比べると多分にぎこちなくて、教育テレビとかで見かけるものをちょっと立派にしたような感じ。12fpsで撮影されたというのもチープさに影響してるのかな。でも物語の素朴さにはよく合っていると思う。ミスター・フォックスの声をあてているジョージ・クルーニーも、いかにも本人そのままといった感じで気楽に演技しているところが良かったな。

アニメ作品とはいえ、内容はむしろ30〜40代あたりのお父さんに受けるんじゃないかな。日本で宣伝するのはなかなか難しそうだ。まあこれでウェス・アンダーソンは今までと違った映画を作ったわけで、それが彼の今後の作品にどう影響するか期待したいところです。

「Adventure Time with Finn and Jake」鑑賞

iTunesストアで無料だったので、期待せずに観てみたら結構面白かったカートゥーン・ネットワークの新作アニメ(非アダルトスイム)。

ネコミミ帽子をかぶった少年フィンと言葉を話す犬のジェイクが魔法の国で冒険を繰り広げるという内容だけど、ストーリーはとってもシュール。俺が観たエピソードは「ぶよぶよ次元」の住人にジェイクが噛まれてしまい、彼の体がぶよぶよになるのを防ぐため解毒剤を求めてフィンとジェイクはぶよぶよ次元に向かうが、解毒剤は3人のゴロツキに守られていて…といった感じの内容だったけど、ひたすらユルい展開が続くお話でした。

故セス・フィッシャーあたりを彷彿させるポップでカラフルなキャラクターが、腕や体をウネウネさせながら画面中を跳ね回る光景は見ていて楽しかった。これうまく宣伝すれば日本でも受けるんじゃないかな。