「POKER FACE」鑑賞

「ナイブズ・アウト」「グラス・オニオン」でミステリー映画の雄となった感のあるライアン・ジョンソンが、続いて送る米Peacockのミステリー・シリーズ。

事の発端はとある街のカジノで始まる。そこの上客の部屋を掃除していたメイドが、客のノートPCに非常にいかがわしい画像があるのを見つけ、そのことをカジノのオーナーに報告する。しかし上客が法的トラブルに巻き込まれるのを恐れたオーナーは、逆にカジノの警備長に命じて、メイドとその夫を殺害してしまう。警察も夫婦喧嘩による事件と見なしてろくに調査をしないなか、メイドの友人であったウェイトレスのチャーリー・ケイルは何かがおかしいことを見抜くのだった…というあらすじ。

「ナイブズ・アウト」が真犯人を見つけ出すフーダニット形式だったのに対し、こちらは「刑事コロンボ」に代表される、冒頭から犯人とその犯行が明かされ、そのアリバイをチャーリーが崩していく倒叙ミステリ(英語だと「ハウキャッチエム」と言うんだ?)のスタイルを取っているのが特徴。予告編を見れば分かるが映像の雰囲気とかテロップの色とかがレトロ風味で、「コロンボ」や「私立探偵マグナム」といった往年の刑事ドラマにオマージュが捧げられた内容になっている。主人公が町から町に旅して事件に遭遇するのは「超人ハルク」にも通じるところがあるな。

主人公のチャーリーは、人がウソをついているかどうかを完璧に見抜くことができるという超人的な能力の持ち主で、その能力を発揮して犯人のアリバイを崩していく。いちおう頭脳明晰なんだけど性格はズボラで、トレーラーハウスに住んで朝からビールをグビグビ飲んでいるような女性。言いたい言葉が出てこないシーンが何度もあるのには笑った。その能力を活かしてカジノで荒稼ぎしていたためにブラックリスト入りしてしまい、カジノでウェイトレスとして働くことになったらしい。第1話で事件を解決した代償として追われる身になってしまい、エピソードごとに異なる町に流れ着いて犯罪に遭遇することになるのだが、刑事でも探偵でもないので何の後ろ盾もないまま犯人と対決するのが大きなポイント。

ライアン・ジョンソンはいくつかのエピソードの監督と脚本を担当しており、主人公のチャーリーを演じるのは「ロシアン・ドール」のナターシャ・リオン。倒叙ミステリの売りとして、エピソードごとに豪華なゲストが登場し、ジョンソン作品の常連であるジョセフ・ゴードン=レビットをはじめエイドリアン・ブロディ、ベンジャミン・ブラット、ロン・パールマン、ホン・チョウ、ノック・ノルティ、ティム・ブレイク・ネルソンといった錚々たる役者が登場するみたい。

「グラス・オニオン」同様に批評家からは高い評価をえてまして、第1話をみた限りでは確かに痛快で面白いミステリ作品であった。Peacockの有料プランに入ることも検討するくらいの出来。

「RED ROCKET」鑑賞

フロリダ・プロジェクト」のショーン・ベイカー監督でA24製作の映画。2021年末に公開されてたのをやっと観た。

舞台はテキサス州のテキサスシティという小さな港町。カリフォルニアでポルノ男優をやっていたマイキーは職にあぶれ、文無しの状態で故郷のこの町に戻り、元妻の家に居候することになる。まともな職歴がないことからそこでも仕事にありつけず、マリファナの販売に携わることになった彼は、ドーナッツ店で見かけた少女レイリーに惹かれ、彼女と共に再びカリフォルニアに向かうことを夢見るのだが…というあらすじ。

プロットらしきプロットはあまりなくて、憎めない奴なんだけど徹底的なダメ男であるマイキーを中心に、家でタバコ吸ってるだけの元妻とその母親や、隣人のボンクラ男、マイキーを信用してないマリファナの売人などといった、貧しい地域に住む人たちの生き様が描かれていく。全体的にはドタバタが強調されたコメディドラマといった感じかな。

「フロリダ・プロジェクト」もそうだったがショーン・ベイカーってこういう貧困層の人たちの描写が上手くて、ハリウッド映画では見かけない層の人たちが出てくるのが逆に新鮮なのよな。imdbによると製作費はなんと1100万ドルという信じられないくらいの安さだが、それでもちゃんとフィルム撮りしていて、石油タンクの立ち並ぶ夕暮れの街並みとかがすごく美しかった。

出演者も「フロリダ〜」同様にズブの素人が多く、レイリー役のスザンヌ・ソンはほぼ無名の役者だし、他の出演者は監督に道で呼び止められて出演することになった、という人もいるみたい。マイキー役のサイモン・レックスって実際に無名時代にポルノ男優やってたらしく、その後はダート・ナスティー名義でラッパーやったり、「最終絶叫計画」シリーズに出たりと、正直なところパッとした活躍のないまま今に至ってるような人のようだけど、この作品ではそうした実生活での苦労が滲み出た見事な演技を見せてくれているのが素晴らしい。マイキーはポルノ男優やっていた過去を自慢しつつも、今はクスリがないとモノが立たないような状態で、未成年のレイリーをポルノ業界に誘うことに何の悪気も感じてないような奴なのだが、そんなモラルに欠けた人物を絶妙に演じております。

いつものことながら、ダメ男が主人公の映画は個人的に嫌いになれないのですが、自分と同い年のサイモン・レックスが演じるマイキーがとことんダメなこの映画、親近感を超えて哀愁まで感じさせる出来であった。この作品の高い評価を受けてレックスには役のオファーが相次いているようで、彼のこれからの活躍に期待しております。

「SMILE」鑑賞

昨年なぜかヒットしたホラー映画。精神科医の主人公が患者を診ていたところ、その患者が笑みを浮かべて突然自殺してしまう。そのあとも主人公の周りで笑みを浮かべて死ぬ人間が続出し、やがて彼女はこれが一種の呪いであることに気づくのだが…というあらすじ。

もともとは配信スルーになる予定だった作品らしく、作りはチープ。肝心の呪いの仕組みとか原因とかの説明はろくに無くて、とりあえず怖そうな展開にしておけばいいや、といった感じ。そこらへん日本のJホラー映画に近いのかな?作りの安さとあわせ、00年代初期にFOXがビデオスルーで出してた一連のホラー映画感(「ミラーズ」とか)がありました。

微笑みの呪いが「人に引き渡されていくもの」だという設定は傑作「イット・フォローズ」のパクリなんだろうけど、あの映画にあったジワジワと恐怖が迫ってくる演出は皆無で、「急にビックリさせる→主人公の幻覚でした→またビックリさせる→これまた主人公の幻覚でした」というパターンの繰り返しなのでストーリーなんてどうでもよくなってしまう。これ元々は10分の短編をその監督が長編にしたものらしいが、全体的に水増ししている感があるのは否めない。

主人公の精神科医を演じるのはケヴィン・ベーコンの娘か。鼻が父親に似てます。頬のホクロに目がいってしまうのよな。あとはカル・ペンとかがちょっと出てました。

とにかくどこかで見たような演出と展開ばかりのホラーで目新しさは全くなし。こういうの作っちゃダメでしょ、という好例のようなホラー映画だった。

謹賀新年

新年あけましておめでとうございます。

まだ50の手前ですが、もう今年で田舎のどこかに家でも買ってアーリーリタイアしようかと本気で考えてまして、どうなるんでしょうかね。ストレス溜めて働いて給料稼いでも、好きな映画やアメコミを楽しむ時間が作れなければ本末転倒だよなあと最近ヒシヒシと感じているのです。定年まで働いて、体が動く10年くらいのあいだ好きなことをやって死ぬよりも、貯金をはたいてでも先にリタイアして20年くらい好きなことやって暮らすのも悪くはないのかなと。まあ独り身なのでそこらへんは気楽なんだけどね。どうなることやら。

というわけで今年はドタバタしそうな感じもしていて、それによってこのブログの方向性も変わってくるかもしれませんが、引き続きよろしくお願いいたします。やはり健康第一ですので、病気にかからぬよう皆様もご自愛ください。

2022年の映画トップ10

今年はそれなりに劇場に足を運んで映画を観た年だったかな。じゃあ傑作が多かったかというと必ずしもそうではないのだが。よってちょっと無理に10本選んだ感もあるが、以下は順不同で。

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム

映画そのものよりも、Youtubeとかにあがってる「海外の観客のリアクション」が面白い作品だった。過去のキャラクターの活躍に大声で狂乱する客とか、日本ではあまり見られない光景だからね。

『ウエスト・サイド・ストーリー』

スピルバーグ健在。冒頭のカメラワークから引き込まれる。ヤヌス・キンスキーの色褪せた撮影スタイルって好きじゃないのだけど、今回はそれが控えめで色調豊かだったのも良かった。

アフター・ヤン

コゴナダの作品は前作の方が好きだったけど、美しい映像で語られる物静かなアンドロイドの物語。

The Innocents

今年の1位を挙げるとしたらこれかな。大友克洋の「童夢」のパクリだろ、と言われればそれまでなのだが雰囲気の盛り上げ方が素晴らしい。

Mad God

グロシーンのいくつかは半年たった今でもトラウマです。

『GOOD LUCK TO YOU, LEO GRANDE』

自分には関係ないテーマとはいえ、老いた女性の性を真正面から扱った良作。エマ・トンプソンの演技が素晴らしい。

『神々の山頂』

これと「アルピニスト」は山好きにとって楽しめる映画だった。原作読んでなかったので比較せずに観れたのも楽しめた理由かな。

Weird: The Al Yankovic Story

これと「マッシブ・タレント」合わせ、メタなコメディが面白かった1年。内輪ネタにならない、絶妙なバランスを突いているのよな。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

ストーリーよりも映像美。3Dで観ることで、なにか新しい映画の視聴形態を体験していることを実感させてくれたのは貴重だった。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

笑って笑って最後には泣かせてくれるという傑作。

自分で選んでおいて何だが支離滅裂だな…。あとは「ノースマン」「Old Henry」なども良かった。『RRR』は未見。世間で評判の良い「トップガン マーヴェリック」は、やはりこう自分がトム・クルーズを好きではないというバイアスがかかってまして…。「ザ・バットマン」「リコリス・ピザ」は完全にハズレ。ウェス・アンダーソンの作品はどんどん感情移入できにくくなっていく。

TVシリーズは「ピースメーカー」「PISTOL」などが秀逸。話数が多いものは自分がキャッチアップできないという理由もあるのだけどね。

あと今年の映画の傾向として、「年配の女性の恋愛(性愛)」の描写が多かったような?自分が年取ってそういうのに気づくようになっただけかもしれないが、 『LEO GRANDE』を筆頭に『エブリシング〜』や『Three Thousand Years of Longing』、あとまあ『X』もそうか。興行収入を稼げる映画スターの年齢層が上がってきているという記事もあったし、かつてハリウッドで言われていた、女性の役者は歳をとると役にありつけなくなる、という悪しきトレンドが変わってきているのかなと思いましたです。