「Who Is America?」鑑賞


SHOWTIMEで始まった、サシャ・バロン・コーエンの新番組。ジャーナリストや活動家に変装したコーエンが、それを知らない政治家などにトンデモないインタビューをして彼らの本音をさらけ出すという、要するにイギリスで彼がやってた「Da Ali G Show(「ボラット」などはここから生まれた)」のアメリカ版ですかね。第1話で行われるインタビューは以下の4つ:

・保守系ジャーナリストに扮して、民主党のバーニー・サンダース議員にインタビュー。「国民の1%が富を独占していると言いますが、残りの99%がその1%に加わればいいんじゃないですか?そうすれば199%になりますよ?」とか主張するものの、バーニーは根が真面目なのであまり動じず。

・リベラル系の知識人に扮して、トランプ支持者の夫婦と夕食。ニューエイジ風の子育てについて自慢して夫婦を絶句させるものの、あまりオチはなし。

・刑務所に21年いたというアーティストに扮して、アートギャラリーのコンサルタントと面会。収監されているときに自分のウンコで描いたというアートを披露し、褒められる。著名なアーティストたちからもらった陰毛でできたという絵筆を持ち出し、彼女からも1本もらう。

・イスラエルの軍人に扮し、銃の推進派と会話。学校での銃撃事件に対抗して教師を武装すべきだというNRAの案は手ぬるいから、3歳から16歳の子供たちに銃を持たせるべきだと提案し、一緒にコマーシャルを作ったばかりか、共和党の議員などからも賛同のコメントをもらう。

とまあ、リベラルも保守も両方カモにしている感じですかね。最初の2つは不発で、残りの2つが面白かったかな。コーエンは日本未公開の「The Brothers Grimsby」でドナルド・トランプ(大統領選に出馬したころ)がエイズになる、というネタをやってたし、アメリカ政治の風刺をやるのは規定路線といったところか。

このあとはサラ・ペイリンやディック・チェイニーといった著名な政治家なども出てくるらしいが、まあ当然ながらインタビューされる人たちはダマされたわけで、あとになって相手がコーエンだと知って激怒する人もいるらしい。ペイリンは「傷病軍人のふりをして寄ってきたのが許せない」とか言ってる一方で、コーエン側はそんな格好はしていないと主張しており、さてどうなるんでしょ。あと第1話の銃の推進派の人が「実はダマされてることに気づいてたけど、自分たちの主張を伝えるために番組に出てやったぜ!」みたいな言い訳をしているらしいが、番組を観る限りでは単なるアホにしか見えなかったりする。

番組のスタイル的に、イギリスの伝説的な風刺番組「BRASS EYE」と比較する記事もあるみたいだけど、あそこまでの勢いはない感じ。とはいえ変装してアクセントを巧みに操るコーエンの才能は見上げたものだし、インタビュー中に正体がバレたりしないかと結構ハラハラします。

内容にムラがある出来ではあるものの、いまの世の中、こういった番組があってしかるべきなんだろう。政権から訴えられるほどの内容になることに期待。

「I KILL GIANTS」鑑賞


ジョー・ケリー(ストーリー)とケン・ニイムラ(アート)によるイメージ・コミックスの同名作品(邦訳あり)を映画化したもの。ジョー・ケリーって90年台半ばにマーベルが破産申請でゴタゴタしてるときに作品をあれこれ執筆してた人で、なんかマーベルのイエスマンという印象があってそんなに好きではないのですが(これ偏見だろうし、デッドプールのキャラ設定に大きな貢献をしたんだろうけど)、この作品は彼のクリエイターオウンド作品で、彼の代表作といっていいんじゃないでしょうか。

小さな海辺の町に住むバーバラは、いつか町を巨人が襲ってくると信じ、彼らを撃退する罠の準備に専念している不思議な女の子。その町に引っ越してきた少女ソフィアや、学校のモレー先生などは彼女と仲良くしようとするものの、バーバラはなかなかうち解けようとしない。学校でも家庭でも孤立していくバーバラだったが、その一方で彼女のみなす「巨人の前兆」は増えていき…というあらすじ。

脚本をケリー自身が手がけているので、原作に忠実な映画化ということになるのかな。ただし眼鏡っ娘でウサギ耳をつけたバーバラは原作だともっと芯の強いタイプに描かれていたし、
ソフィアもミッドティーンくらいの少女だったけど、映画版ではバーバラはもっとファンタジー少女っぽくて、ソフィアはもっと幼い感じになっている。これ製作をクリス・コロンバスがやっていて、「ハリー・ポッター」みたいなお子様ファンタジーにしたかったのかなあ。

ただね、全体的に話がまどろっこしいのよ。周囲の善意にもかかわらずバーバラがウジウジしている描写がずっと続いて、肝心の巨人との対決についても何か拍子抜けでスッキリせず。原作の勢いがないというか、話のメリハリに欠けるのよ。最後で明らかにされるバーバラが心の葛藤を抱えている理由についても、もっと伏線を貼っといてよかったんじゃないかとか、彼女にとって巨人を倒すということは何なのかとか、もうちょっと深く描いていれば面白い作品になったと思うのだがなあ。監督のアンダース・ウォルターってこれが長編デビュー作らしく、なんか力量不足だなという感は否めない。

バーバラを演じるのはマディソン・ウルフ。ほかにイモジェン・プーツとか、ゾーイ・サルダナなど。撮影時15歳だったウルフをはじめ、役者の演技はそんなに悪くない。なんか疲れてる学校の先生役にソーイ・サルダナは似合うなあと。あと一瞬だけノエル・クラークが出ています。

もっと主人公の内面に迫った話にしていれば、いろいろ改善されたはずなのがちょっと残念な作品。

「The League of Extraordinary Gentlemen: The Tempest #1」読了


ついに始まりましたよ「The League of Extraordinary Gentlemen」の新シリーズ。「LOEG」の最終シリーズとなるばかりか、アラン・ムーアとケヴィン・オニールの作者ふたりにとっても最後のコミック作品となることが告知されている作品だが、少なくともムーア御大は過去に何度も引退をチラつかせてるので、あんまり真剣にとらえないほうがいいかも。また「Necronomicon」のときのように、税金を払う必要が出てきたらコミック書いたりするんじゃないかと…まあいいや。

全6話のシリーズで、今までの「LOEG」って第1話はプロローグ的な、比較的ストーリー展開が少ないものだったようなきがするが、今回は過去のキャラクターがいろいろ出てきて話にギアが入っておりまして、密度の高いストーリー展開が今後も期待できそうなこってす。以降はネタバレ注意。著作権の関係で名前が変わっているキャラクターは、便宜上元になったキャラクター名で記します。

・まずは昨年亡くなった、BEANO誌の「ミニー・ザ・ミンクス」や「バッシュ・ストリート・キッズ(読め!)」のクリエーターとして知られるレオ・バクセンデールに捧げる追悼コラムみたいなのが冒頭についてます。彼の功績を讃えるとともに、いかに彼が出版社によって搾取されたかを綴ってるのがムーアらしいなと。

・プロローグが3つ。一つは「2009」の終わりからそのまま続き、アフリカでアラン・クオーターメインを葬ったミナ・マーレイとオーランドー(女性形)とエマ・ピールが若返りの泉に赴き、エマが「Black Dossier」のころの年齢に若返ります。

・2つ目は白黒のSFコミック風で、火星からの勢力によって荒廃させられた2996年の地球(?)においてレジスタンスを続ける男女のスーパーヒーローがタイムマシンを奪還し、来たる大災害を警告するために女性のほうが1958年の世界にタイムスリップするというもの。これが後述のセブン・スターズに関わってくるのかな。

・最後のプロローグは全体主義が続く2009年のイギリス。エマ・ピールがミナたちと失踪したのを受けて、MI-5の新しいトップに「Black Dossier」のジェームズ・ボンドが「M」として着任します。

・一方でロンドンではミナが60年代に所属していたスーパーヒーロー・グループ「セブン・スターズ」の元メンバーであるマーズマンとサテンが、2996年の災害を防ぐために他のメンバーを探そうとします。サテンが実はプロローグに出てきた女性であり、タイムスリップにより長年災害の記憶を失っていた、ということらしい。なおセブン・スターズ時代のミナ・マーレイは透明人間のヒーローであり、誰も彼女の正体を知らない、というのがミソ。

・ミナたちを執念深く追うボンドこと「M」の物語は新聞連載の3コマ漫画形式で語られ、映画の歴代のジェームズ・ボンドが揃った「Jシリーズ(「カジノ・ロワイヤル」のウディ・アレンまでいる!」という精鋭のエージェントをひきつれ、プッシー・ガロアを尋問して得た情報によってアフリカに向かいます。そこで彼は若返りの泉を発見し、「Black Dossier」の頃の若さに戻ります。他の者が泉を使用できないように爆破したあと、ミナたちの探索を続けるのでした。

・そして追われる立場になったミナたちは、キャプテン・ネモの子孫であるジャックに助けを求めようと、原子力潜水艦スティングレイを奪い、さまざまな国をめぐって情報を得たのちにジャックの住む島へと向かいます。「イエロー・サブマリン」のペパー・ランドの廃墟なども出てくるぞ。しかし島の目前で、彼女たちは謎の巨人に捕まってしまい…。

・巻末にあるのはいつもの小説ではなく、セブン・スターズを主人公にした白黒のコミック。ヒーローたちの会合の形式をとりつつ、ミナが透明ヒーローになった由来や、謎の敵の登場、マーズマンの過去などが語られます。そしてその裏では、アメリカをベースにしたセブン・スターズに対抗するため、イギリス政府は独自のヒーローチーム「ヴィクトリー・ヴァンガード」を結成させるために暗躍していたのだった…。

とまあ、冒険活劇やらSFやらスーパーヒーローと話は盛りだくさんだし、「Vol.3」と「Black Dossier」のストーリーが集大成を迎える流れで期待は高まるばかり。「Vol.2」の火星襲撃のプロットも関係してくるのかな?「2009」では強力な助っ人を送ってきたブレイジング・ワールドのプロスペローの助けはもう期待できない、みたいな台詞も出てくるけど、シリーズの題名が「テンペスト」であることを考えると後できっと登場するのでしょう。

例によって細かいネタが散りばめられていて、元ネタが分からないものの多々あったので、そこらへんはまたジェス・ネヴィンズ氏あたりが注釈まとめてくれることに期待しましょう。第2話は9月発売だそうで、まあムーア御大のことだから刊行が遅れるんじゃないかという懸念もありますが、かなり面白いシリーズになりそうなので辛抱強く待ちましょう。

「LOST IN LONDON」鑑賞


最近いちばん劇場で目にしている(ハン・ソロ、猿の惑星、スリー・ビルボードetc.)気がする役者であるウディ・ハレルソンの初監督作品。といっても舞台の演出に近いのかな。ロンドンを舞台にハレルソン本人がさまざまな不遇に見舞われ四苦八苦するさまがリアルタイムで撮影され、それが「生放送で」イギリスの映画館において上映されるという、一緒のライブビューイング的な鑑賞が行われた作品なんだそうな。いちおう世界初の試みだそうで。

ハレルソンが以前にロンドンのタクシーの灰皿を壊したために警察に追われることになった実体験を脚色したもので、ハレルソンが本人自身を演じている。舞台出演のために家族を連れてロンドンに来ていたハレルソンだったが、前夜に3人の女性と乱痴気騒ぎをやらかしたことがパパラッチされてしまい、それを知った妻は当然ながら激怒。ホテルに戻る前に頭を冷やすよう命じられる。仕方なしに時間を潰す羽目になった彼はイランの王子たちに遭遇し、彼らに連れられてナイトクラブへ向かう。そこでは旧友のオーウェン・ウィルソン(これも本人)に出会うものの、ささいなことから喧嘩となってしまう。さらにハレルソンの災難は続き、しまいには警察に追われて収監されてしまうことに…というストーリー。

ハレルソンは実物よりも(たぶん)もっとB級セレブ的な扱いをされていて、殆どの人が彼のことを知らないか、90年代の作品を覚えている程度。役者が本人を自虐的に演じるパターンですね。オーウェン・ウィルソンとの会話もウェス・アンダーソンの映画とかに関する楽屋オチっぽいものになっていて、そういうのあまり好きではないけどまあ役者ふたりが本人同士を演じるとそういう内容になるのでしょう。ハレルソンとウィルソン以外はそんなに有名な役者は出ていないが、U2のボノ(とその奥さん)が電話越しに声だけカメオ出演しているほか、終盤になってなぜかウィリー・ネルソンが登場していた。ウィリー・ネルソンとハレルソンといったら、一緒にマリファナをキメてハイになる展開でしょ、と思ったらそうでもなかったな。

ウディ・ハレルソンってそのテキサス訛りのせいか、あまり演技に幅のある役者だとは思ってなかったけど、これを観ると体を張った多様な演技ができる人だな、というのが良く分かる。一発撮り作品としては「ヴィクトリア」よりも手が込んでいるんじゃないかな、これ?車の運転手と会話しながらも移動するシーンが2回くらいあるんだが、あれ役者が本当に運転しながら移動したのだろうか?ハレルソンが車に追いかけられるシーンとか、よく一発で撮れたなと感心するところもいろいろありました(自分が観たバージョンは、生放送されたものに多少の編集が加えられてるかもしれないが)。

まあ一発撮り作品の欠点として、カットすればいいような場面もカットされておらず全体的にテンポが悪いし、単なるギミック映画と言ってしまえばそれまでなのだが、ハレルソン渾身の演技もあって以外と楽しめた1本でした。

「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」鑑賞


公開されたばかりなので感想をざっと。ロン・ハワードが8割くらい撮り直したらしいので、ミラー&ロード版だったらどうなってたか、と論じるのは野暮でしょ。以降はネタバレ注意。

・前に「ローグ・ワン」もそうだったし、SW映画なのにオープニングのテキストクロールがないとか、画面のワイプがないことに不平を言うつもりはない。しかし前半ずっと画面が暗かったのは何なんだろう。戦場のシーンとか列車強盗のシーンとか、リアリズムを出すつもりならそれは失敗していると思うし、誰もSW映画にそんなものは求めてないと思うのだがなあ。後半になって明るくなったからよしとするが。

・現在進行形であるエピソード7〜8が、古参の俳優が枯渇していっているためにフランチャイズを方向展開していってジェダイやフォースなどから離れて行っているのに対し、こちらはプリクエルとして別の俳優を起用して過去の伏線回収というかプロットの補足をバンバン行えるわけで、まあオールドファンを喜ばせられる強みはあるわな。

・個人的には「ケッセルランを12パーセク」はソロがでっちあげたホラ話であってほしかったけど。観客の想像に委ねればいいことをいちいち余計に補填してくれるのが、SWプリクエルの大きなお世話ですな。

・全体の4分の1を脱出ポッド(しかも進行方向にある)が占める宇宙船って何だよ。

・ハリソン・フォードは演技が下手ながらも「不敵にニヤッと笑う」ことだけは完璧にできてた人なので、それに比べるとオールデン・エアエンライクはまだその域に達してないかな。若き頃の姿とはいえ、なんかディズニー化されているというかいい人すぎる設定なのよな。ファンの間で論議を呼んだ「先撃ち」をやったのは良かったけど。

・エミリア・クラークはなんかぷにぷにしていて、最初から貧困感がなかったような。ドナルド・グローバー演じるランド・カルリジアンよりもベスピンのヘッドセットの人の登場を期待してたのですが、出てこなかったですね。

・最後の赤い人の登場、今作が「エピソード1」よりも後の話であることを忘れていたよ。なんかスピンオフのために無理して伏線張ってるような気もするが。彼の声がアニメ版と同じになっていることも含め、アニメシリーズへの言及がずいぶん多いようですね。

前述したようにオールドファンを喜ばせるという仕事はしていて、可もなく不可もない作品といったところか。工業的にこけたことで、今後のスピンオフ展開もいろいろ見直しが入ってくるんだろうが、変なテコ入れがはいってこないことを願うばかりです。