機内で観た映画2017(後半)

またヨーロッパへ出張に行っていたので、飛行機のなかで観た映画の感想をざっと。尺が短い・機内鑑賞用の編集(墜落シーンとか)がされてない・集中して観なくても話がわかりやすい、といった理由で飛行機ではアニメーションをよく観るようにしてます:

・「ボス・ベイビー」:モザイクのかかった性器が出てくるのは、ドリームワークスやピクサーの作品のなかでは初ではないだろうか。兄と弟のケンカで最後まで話を持っていけばよかったんだろうけどね、ネタが尽きたのか途中でふたりが協力し合う展開になるのが残念。7歳の兄は現代っ子なのに、カセットテープの使い方が非常に手慣れているのは何故なんだ。アレック・ボールドウィンが「摩天楼を夢見て」の「Put That Coffee Down」のセルフパロディをやるところだけは良かった。

・「カーズ/クロスロード」:トレーナーが出てきたところで展開が簡単に読めてしまって、全体的に予定調和のお話でございました。何がやりたいんだか分からなかった前作に比べればマシな内容にはなっているものの、ポール・ニューマンへの追悼だけで話を引っ張りすぎだろう。ピクサーの作品のなかでは「カーズ」って凡庸な部類のシリーズだと思ってるのだが、なぜそれで3本も作品を作るのか。

・「怪盗グルーのミニオン大脱走」:これもシリーズがグデグデになった好例。主人公を怪盗にしたいのか正義のエージェントにしたいのかよく分からず。新キャラを出す場合も「主人公より優れてる奴」にして主人公の葛藤を描くのが定石だと思うのだけどね。グルーのあとを着いてくるだけなら新キャラの意味ないじゃん。

・「THE GUARDIANS」:ごく一部で話題のロシアのスーパーヒーロー映画。人体実験によって特殊能力を身につけた4人の男女(能力はテレキネシス、高速移動、獣人への変身、透明化)が、自分たちを作り上げた悪の科学者(コミック版のベインにやたら似ている)と戦う物語。4人が意外と弱いのと、話の展開が雑なので期待していたほどの出来ではなかった。特殊効果のシーンはいい線いってるので、もうちょっと話を練れば面白くなれたんだろうけどなあ。あとタイトルが2回出てこなかったか?

・「否定と肯定」:日本では12月公開の、実話を基にした法廷ドラマ。ホロコースト否定論者から彼を誹謗したと訴訟を起こされた、ホロコースト研究家の教授の物語で、イギリスでは誹謗で訴訟されると、訴訟された側が自らの正しさを証明しないといけないのか。法廷シーンのセリフは実際のやりとりそのままらしい。否定論者との駆け引きよりも、弁護チーム内での作戦論議に時間が割かれていたりして、サスペンスのバランスがいまいち悪い印象も受けるが、過去の出来事を否定する者に対して、論理的に事実を指摘して戦っていくさまは面白い。日本でも関東大震災の朝鮮人虐殺の否定論者とかがいるので、他人事としては観てられないですね。主演は教授役のレイチャル・ワイズだけど、彼女に代わって答弁するトム・ウィルキンソンがいちばん目立つ役になっている。否定論者を演じるティモシー・スポールの演技もいいし、マーク・ゲイティスやアンドリュー・スコットなども出ているぞ。

しかし訴訟を起こした否定論者のデビッド・アーヴィングって、ホロコーストよりもドレスデン爆撃による死傷者数のほうがずっと大きかったと論じた人で、カート・ヴォネガットも「スローターハウス5」でその死傷者数をそのまま言及してたりするのか…。

「THE GIFTED」鑑賞


FOXの新シリーズ。紛らわしいがFOXの映画「GIFTED」とは何も関係なくて、「Xメン」のスピンオフ作品。

ストーリーの舞台は劇場版と同様に、特殊な能力を持ったミュータントたちが出現し、それを恐れた人間たちがミュータントを捕獲・管理している世界。一部のミュータントたちは政府の追跡を逃れ、潜伏して地下組織を作り上げていた。地方検事のリード・ストラッカーは捕獲されたミュータントを尋問する立場だったが、彼のふたりの子供たちがミュータントの能力を備えていることを知り、今までの立場から一転して家族を守るために妻と子供たちとともに逃亡を図り、潜伏しているミュータントたちに連絡をとる。しかし政府組織のセンチネル・サービスの追っ手が彼らに迫っているのだった…というあらすじ。

この世界においてXメン(およびブラザーフッド)は長らく消息を絶っている、ということが言及されており、劇場版「Xメン」と同じユニバースの話なのか、それとも別の設定の話なのかは現時点では不明。同じくXメンのスピンオフである「レギオン」とも、恐らくは無関係。ブリンクやサンダーバードといったキャラクターが出ているあたり、「フューチャー&パスト」の(結果的に)変更された未来につながっているのかもしれないが、あまり深く考えても仕方ないでしょう。なおセンチネル・サービスがミュータント狩りに使うのは巨大ロボットなどではなく、「マイノリティー・レポート」に出てきたようなクモ型ロボットになっている。

ストーリーはコミックに準拠せずに完全なオリジナルだが、コミックと同じパワーを持ったミュータントとしては前述のブリンク(テレポート能力)やサンダーバード(追跡能力)のほかに、ポラリス(磁力)が登場している。光を操るヒスパニックのミュータントがいたのでサンスポットかと思ったらエクリプスというオリジナルのミュータントみたい。気になるのはリードのティーンの息子(テレキネシス)と娘(バリアー)の名字が「ストラッカー」だということで、それってヴィランであるフェンリス・ツインのことでは…?まあコミックとは別キャラだろうが、なんでヴィランの名字を一家につけたのかは不明。

出演は「トゥルー・ブラッド」のスティーヴン・モイヤーのほか、「エンジェル」のエイミー・アッカー、「インコーポレイテッド」のショーン・ティール、コービー・ベル、ジェイミー・チャンといったテレビドラマのベテラン勢が揃っている。ショウランナーは「バーン・ノーティス」のマット・ニックスで、プロデューサーにレン・ワイズマンやブライアン・シンガーが名を連ねており、第1話の監督をシンガーが務めていた。

身内がミュータントであることを知り、追う側が追われることになるという第1話の展開は決して目新しいものではないが、ブライアン・シンガーの演出が手堅いので十分に楽しめる。「インヒューマンズ」に比べれば10倍くらいは面白いんじゃないのか。スタン・リーもがっちりカメオ出演してるし(たまたまコミコンで近くにいたのを急いで撮影したらしい)、マーベル・スタジオの番組よりもマーベルっぽいですな。シンガーは「X2」でアイスマンが親にミュータントであることを打ち明けるシーンを、ゲイがカミングアウトする姿のアナロジーとして描いて高い評価を得たが、この番組でもそうした比喩が根底にあって、ゲイのスローガンである「It gets better」というセリフがしれっと使われていた。他にも政府の弾圧を逃れて主人公たちがメキシコに逃げようとするさまはトランプ政権を反映してるんじゃないだろうか。

クリエーターが好き勝手にやれた「レギオン」に比べると、地上波ネットワークの典型的なSFドラマだという印象は拭えないが、それなりに良くできた内容になってるんじゃないですかね?劇場版やコミックに気を使うことなく、あくまでも独自のストーリーを貫けば結構面白いシリーズになる可能性はあると思う。

「Marvel’s Inhumans」鑑賞


ABCの新シリーズで、名前のごとくマーベルコミックスが原作の作品。後述するように最初の2話はIMAXの劇場で先月公開されている。

主人公となるインヒューマンズって日本ではあまり馴染みのないキャラクターたちだが、まあ要するに太古の昔に宇宙人によって実験を加えられたことで特殊な能力を持つようになり、人類の目につかないところで生活を続けてきた超能力者の集団といったところです。彼らは思春期になるとテリジェン・ミストという特殊なガスを吸入する儀式を迎え、それによって各人が固有の超能力(怪力とか、飛行能力とか)を備えることになるのだ。

主要なキャラクターをざっと説明すると、発する声が莫大な破壊力を持つために通常は沈黙しているブラックボルト、その妻で長髪を自在に操るメデューサ、強靭な脚力で地面を叩き衝撃波を発するゴーゴン、半魚人のトライトン、あらゆるものの弱点を見抜いて破壊するカルナック、水や風といった元素を操るクリスタル、そしてテレポート能力を持つペット犬のロックジョウ、などなど。

そんな彼らは一族の王であるブラックボルトの統治のもと、人類を避けて月面に隠された都市アティランに暮らしていたのだが、NASAの月面探査機にアティランが発見されそうになってしまう。さらに地球上ではなぜかテリジェン・ミストが出回り、それによって新たにインヒューマンとして覚醒した若者が謎の集団に命を狙われたために、ブラックボルトの臣下であるトライトンが救出に向かうものの逆に負傷して行方不明になってしまう。こうして王国に危機が迫るなか、ブラックボルトの弟で頭脳明晰なマキシマスは混乱に乗じてクーデターを起こして王座をのっとり、ブラックボルトたちは地球のハワイへと逃げるのだったが…というあらすじ。

インヒューマンズって元々は「ファンタスティック・フォー」誌の脇役として登場したキャラクターたちで、マーベルの歴史のなかでも比較的マイナーな存在であったことは否めない。それがここ5〜6年くらいのあいだにマーベル・ユニバースのなかで大プッシュされていて、自分たちのコミックも出たりしてるのだが、なんでそんな破格の扱いを受けているかというと、ひとえに「経営陣の意向」があるのですね。

マーベルにおける「特殊能力を持った隠れた集団」といえば1にも2にも「X-メン」であったはずなのだが、ご存知のようにX-メンの映像権はディズニーでなくFOXが持っていて、X-メンにどんなに人気が出ようともマーベル・シネマ・ユニバースとのシナジーは望めない。ならばX-メンは隅においやって、X-メンによく似たインヒューマンズをゴリ押しすればいいんじゃね?ということで最近のコミックではX-メンのウルヴァリンやサイクロプスが死なされた一方で(違う時系列の連中が登場したが)、インヒューマンズは大量に新キャラが登場し、X-メンを凌駕する集団として大活躍をしているのであります。ムスリムのヒーローとして話題のミズ・マーベルことカマラちゃんもインヒューマンだったな。

X-メンと同様にFOXが映像権を持っている「ファンタスティック・フォー」に至ってはなんと連載終了・チーム解散の憂き目に遭っている一方で、そこから派生したインヒューマンズはこの扱いですからね。こういう商売的な理由が見え透いたキャラクターの売り込みって、個人的には勘弁して欲しいと思うのです。失礼な言い方をするとね、インヒューマンズなんて所詮は二流のX-メンですよあんた。60年代から試行錯誤を繰り広げて人気を獲得したX-メンに比べ、今まであまり人気のなかったキャラクターが突然人気者扱いされるのってどうもしっくりこないのよな。G・ウィロー・ウィルソンの「ミズ・マーベル」とかウォーレン・エリスの「カルナック」とかは優れたコミックがが、あれらはライターの手に負うものが大きいわけで映像化の成功につながるものではないよね。

ここからはあくまでも噂の領域だが、マーベルのCEOのアイク・パールムッターがFOXを敵視していて、X-メンとファンタスティック・フォーの格下げとインヒューマンズのゴリ押しを支持しており、実際にインヒューマンズは数年前に映画化が発表されていた。それに対してマーベル・スタジオを指揮するケビン・ファイギはインヒューマンズの映画化に乗り気でなくて、まあパールムッターとファイギの仲が悪いのはよく知られてますが、それで両者の顔を立てるために今回の「インヒューマンズ」は「最初の2話をIMAXで先行公開」というすごく変則的な形で劇場公開されたんじゃないだろうか。

でも劇場公開されたのは1話と2話を編集した短尺版だし、ハワイの風景は美しいものの別にIMAXシアターで公開する必要はないよね、という出来。おかげで興行的には散々だったらしいが批評的にも酷評されていて、観たら確かに残念な内容だった。ショウランナーのスコット・バックって同じく評判の悪い「アイアン・フィスト」も担当してた人で、まあ全てが彼の責任ではないだろうけどもうちょっと頑張れよなあ。

それなりに予算はかけてるはずなんだけどセットやコスチュームがどうも安っぽくて、ブラックボルトの宮殿がまるで荘厳に見えないのをはじめ、長髪を自在に操るはずの女王メデューサの髪はCGでショボショボ動くだけだし、その他のインヒューマンズの特殊能力もあまりカッコよくなくて、まるで「アンドロメダ」とか「クレオパトラ2525」みたいなシンジケーション番組のようなチープさであったよ。

役者の演技もなんかヒドくて、そもそも有名な役者は出てないのだが、何も語らぬ王ブラックボルトはただムスっとして顔をしかめているだけだし、代わりにメデューサが彼の意思を理解して話すのだけどおかげで説明調のセリフがやけに多い。そして策略を図るマキシマスを演じる役者は背が低くて、なんかスネ夫みたいだったぞ。王族のあいだの愛憎劇を描いているあたり、この作品も例によって「ゲーム・オブ・スローンズ」にあやかろうとしてるのだろうけど、「スローンズ」はおっぱいが出せるから人気が出たんだと何度言えば分かるんだよ!おっぱいがなければ「スローンズ」じゃないんだよ!

カルナックはアジア人俳優のケン・レオンが演じていて、あまり悪いことは言いたくないのだけど、前述したようにいまコミックのほうではカルナックが非常にカッコよくなっているので、それと比べると貧相であることは否めない。ゴーゴンがちょっと横柄なキャラになってるのだけど、コミックではもっと思慮深買ったよね?クリスタルはいかにもなティーンエイジャーといったとこと。なおインヒューマンズにおいてもっとも好かれるキャタクターは実は犬のロックジョウだと思ってるのだが、テレポート犬としてはまあ及第点。CGのキャラだというのがバレバレだけど大目に見る。

ちなみにインヒューマンズのあいだではテリジェン・ミストを吸入しても超能力を(少なくとも外見的に)取得しなかった者は「人間」呼ばわりされて蔑まれ、アティランで奴隷扱いされるようなのだが、これを容認してるブラックボルトって実はヒドい統治者ではないのか?原作でこんな設定あったっけ?カルナックはテリジェン・ミストを経験してない人間だよな?

第1話ではこうしてマキシマスの奸計によってブラックボルトとその臣下たちが離散するさまが描かれるが、演出も全体的に貧相であった。メデューサの力を封じるためにマキシマスが彼女の髪を剃るシーンでは、電気屋で売ってそうなバリカンを持ち出して罰ゲームのように剃ったりするのだもの。もっと刃物で憎々しく髪を切るとかいった描写はできなかったのか。またフラッシュバックでは自分の力をコントロールできなかったブラックボルトが両親を殺してしまったさまが明らかにされるが、それもボルト少年が一言喋ったら両親が吹っ飛んで壁のシミになるという冗談のような演出。ここ本当に笑いをねらってやってるのかと思った。

まあ長々と書いたが、とにかく残念な出来の作品。マーベルのTVシリーズとしてはFOXがX-メンをベースにした「THE GIFTED」を同時期に開始していて、あちらも完璧ではないのだけど、少なくともストーリーが最初にあって、それに必要なキャラクターを加えていっているような印象は受けるのですね。それに対してこの「インヒューマンズ」は、まず売り込むキャラクターがいて、そのためにとりあえずストーリーを考案してみました、といった感じ。その手法が悪いとはいわないけど、作り手の熱意などがどうも感じられないのよな。

ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーのように同様にマイナーなキャラクターたちが映画化されて大ヒットしたのを見ると、このインヒューマンズたちもきちんと予算をかけて映画化すべきだったと思うべきか、それとも評判の悪いTVシリーズで(たぶん)ひっそりと終わるのが幸いだったと思うべきか。何にせよマーベルはコミックにおけるインヒューマンズのゴリ押しをそろそろ止めるべきだと、一読者としては思わずにいられないのです。

「The Opposition With Jordan Klepper」鑑賞


コメディ・セントラルの新番組。「コルベアー・レポー」と「ナイトリー・ショー」に続く、「デイリーショー」からの3つ目のスピンオフ番組。

司会は先日まで「デイリーショー」に「特派員」の一人として出演していたジョーダン・クレッパー。ジョン・スチュワートが司会やってたときから番組にいたベテランだし、トレバー・ノアが病欠したときは代理で司会を務めていたナンバー2的な存在だったので、今回晴れて自分で番組を持つことになったわけだ。企画にはスチュワートもノアも絡んでいるよ。

「デイリーショー」でのクレッパーはロブ・コードリーやジェイソン・ジョーンズに続く「頭の回転の鈍い白人」というような役回りだった。番組で数少なくなった「白人男性の出演者」という立場を利用して、トランプ支持者の集会で参加者にインタビューを行い、支持者の怒りを買いかねないキツい冗談を彼らの前でサラっととばす腕前がなかなか見事な人であったのです。

かつて「コルベア・レポー」でスティーブン・コルベアはブッシュ政権支持の保守系コメンテーターというキャラを演じたが、この番組でのクレッパーはさらに時代にあわせ、いわゆる「オルト・ライト」の司会者という設定で、メインストリーム・メディアによるフェイクニュースのウソを暴く人、というキャラクターを演じている。

日本でもマイロ・ヤノプルスとかトミ・ラーレンといったオルト・ライトのコメンテーターはそこそこ知られてるが、クレッパーのキャラのモデルになってるのは「インフォウォーズ」というサイトやラジオ番組をやっているアレックス・ジョーンズというオッサン。ヒラリー・クリントンは宇宙人の子供を産んだ!というようなズブズブの陰謀論を繰り広げているアレな人だがなぜかトランプ支持者には人気があって、先日のピザゲート事件も彼がデマを拡散していたような。

そんなジョーンズばりにクレッパーは突拍子もない陰謀論を述べたりするのですが、事前の報道によってクレッパーが自分の真似をすることを知ったジョーンズが怒りを自分の番組でぶちまけており、その映像をさらにクレッパーが茶化すという展開が第1回目では繰り広げられていました。

番組にはクレッパーのほかにも、「デイリーショー」の特派員のごときサブの出演者が何人か出てくるほか、番組の後半にはゲストが登場してクレッパーとトークをする構成になっていた。

第1回目を観た印象としては、やはりまだこなれてない感じがするし、過激なキャラクターを演じるというネタがどこまで長続きできるかな、という気もする。しかし人種差別をメインに扱ったためにどうしても真面目にならざるを得なかった「ナイトリー・ショー」が比較的早めに終了してしまったことを考えると、こういうはっちゃけたキャラで勝負するのも悪くはないかと。

不幸にも「オルト・ライトのキャラ」というのは非常に今の時代を反映しているわけで、それをコメディに昇華させるのは難しいかもしれないけど、「コルベア・レポー」のような成功をすることに期待しましょう。

「THE BIG SICK」鑑賞


「フランクリン&バッシュ」や「シリコン・バレー」などで日本でもお馴染み(?)のコメディアン、クメイル・ナンジアーニの伝記的映画。奥さんのエミリーとの出会いを描いたもので、脚本も二人が執筆したものになっている。

シカゴに住むパキスタン系のクメイルはウーバーの運転手をしながらコメディクラブに出演しているコメディアンで、ある晩にエミリーと知り合って二人はすぐに恋に落ちる。しかし彼の両親は伝統的なムスリム教徒で、パキスタンの伝統にのっとってパキスタン系の女性とクメイルを結婚させようと躍起であり、さまざまな女性をクメイルに紹介していた。このためクメイルは白人のエミリーのことを両親に紹介できず、それがたたって二人の仲は険悪なものになってしまう。そんなときにエミリーが謎の疾患によって昏睡状態になってしまい、クメイルは彼女の看病にやってきたエミリーの両親に出会うことになる…というあらすじ。

監督は「ザ・ステイト」出身のコメディアンのマイケル・ショワルターだが、プロデューサーをジャド・アパトウが務めていて、全体的な雰囲気もアパトウ作品っぽいかな。ドラマとコメディの比率が8:2くらいなとことか、微妙に必要以上に尺が長いところとか。

クメイルとエミリーは出会ったその晩にヤッてしまうくらいの相性なのですが、クメイルはエミリーを自室に連れ込むなり「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」を見せたり、3回目のデートでは「怪人ドクター・ファイブス」を見せつけるという筋金入りのオタク。そんな趣味についてこれる女性がいるかよ!とは思うがまあ実際にあったことなんだろうなあ。その一方でそれなりに事実に脚色がされていて、クメイルの両親は実際もっと話がわかる人たちだったみたい。

話の前半でエミリーが昏睡状態になって、そのあとの話はエミリーの両親とクメイルが互いに打ち解けていく過程が中心になっていく。コメディアンとしてのキャリアを築こうとするクメイルの奮闘も並行して描かれるが、感情的になってステージ上で全然笑えないセットを披露してしまうくだりはね、他の映画でもたくさん見てきた展開なのでクリーシェすぎたです。

クメイルを演じるのはクメイル自身だが、エミリーはゾーイ・カザンが演じている。エミリーの両親をレイ・ロマーノとホリー・ハンターというベテラン勢が演じていて、最初はクメイルのことを敵視しているハンターの演技がすごく良かったな。クメイル・ナンジアーニのコメディって、どことなく無感情というか突き放した感じがあって個人的にはそんなに好きではなかったけど、この作品では激昂して暴れるシーンとかもあって結構面白かったです。

なんとなく先が読める予定調和の話ではあるし、スタンダップコメディの世界とかパキスタン系アメリカ人の結婚事情なんてのは日本人にはとっつきにくい題材かもしれないが、ほんわりとしたロマンティック・コメディであって結構楽しめる作品でしたよ。「ベイビードライバー」と並んでこの夏に高評価を受けた作品であるというのも納得。