「Philip K. Dick’s Electric Dreams」鑑賞


英チャンネル4とアマゾンによる、フィリップ・K・ディックの短編小説を映像化したアンソロジーシリーズ。プロデューサーやライターにはロナルド・D・ムーアとかブライアン・クランストンなどが名を連ねていて、イギリスとアメリカの両方で撮影されたのかな?

原作となった短編は「地図にない町」「父さんもどき」「自動工場」などなど。おれディックの小説はほとんど読んでるし、短編もそれなりの数読んでるはずなのですが、いかんせん学生時代の話なので20年以上前で、どの話がどんな内容だったかろくに覚えてなくて…「パーキーパットの日々」みたいなメジャーな作品ならまだしも…あれ「パーキーパットの日々」ってどんな結末だっけ…。まあ後述するように映像化されるにあたって多少の脚色はされてるようで。

第一話「The Hood Maker」は「フードメイカー」を原作にしたもので、舞台は荒廃したイギリスの近未来。人の心を読み取るテレパス能力を持った、「ティープ」と呼ばれるミュータントたちが人類のなかで出現していたものの、彼らは普通の人間に虐げられ、ゲットー暮らしを強制されていた。そんななか、ティープの読心能力を遮る被り物(フード)が何者かによって巷に出回るようになる。ティープの能力を犯罪者の尋問に使用しようとしていた当局は、若き刑事とティープのコンビを調査にあたらせるのだが…というあらすじ。

これ原作読んだかまったく記憶にないので、ラジオ・タイムズの記事を参考にしましたが、ずいぶん原作に改変が加えられているみたい。原作ではもっと当局の役職者がフードの作成者の調査にあたるのに対して、映像では刑事とティープのふたりが主人公になっている。立場の違う刑事とティープの仲が深まるあたりは「ブレードランナー」に通じるものがありました。

原作は18ページほどの物語ということで、いろいろ脚色されるのは仕方ないにしろ、少し話が間延びするところもあったかな。チャンネル4のSFアンソロジーといえばテクノロジーの悪夢を描いた「ブラック・ミラー」が有名だが、こちらは50年以上前の小説を原作にしているために、テクノロジーよりも人間の置かれた環境に焦点をあてた内容になるのかもしれない。

第一話の脚本は「ライフ・オン・マーズ」のマシュー・グラハムで、主演はリチャード・マッデンおよびこないだの「STRIKE」に出てたホリデー・グレインジャー。全体主義社会にはイギリスがよく似合いますね。アメリカだと国土が広すぎる気がして。

これからはブライアン・クランストンやテレンス・ハワード、ジャネール・モネイ(!)といったアメリカ組のエピソードも放送されるので、原作がどう映像化されるかに期待。短編集ざっと読み直すかな…。

「THE DEUCE」鑑賞


「ザ・ワイヤー」のデビッド・サイモン&ジョージ・ペレケーノスによるHBOの新作ドラマ。音楽もブレイク・レイだぞ。第1話が無料公開されてたので例によってIPアドレスをゴニョゴニョと。

オープニング・クレジットからして「ザ・ワイヤー」っぽいね。

舞台となるのは70年代初頭のニューヨークで、売春や麻薬取引などが蔓延するなかでのポルノ業界の合法化と勃興を描いたものになるとか?「ザ・ワイヤー」同様に多数の登場人物が出てくる群像劇になっていて、バーで働いているがギャンブル好きの双子の兄弟のおかげでマフィアに借金返済を迫られ、家庭では遊び人の妻に愛想をつかして家を出る男ヴィンセントを主人公に、ピンプ(ポン引き)につかずに単身で頑張っているものの年齢による衰えを感じている売春婦のキャンディ、田舎からやってきてピンプに雇われて売春婦になる少女、麻薬を買って逮捕される大学生の少女、といった人物たちの人生が絡み合っていく話になるみたい。第1話は90分あるものの話の進展がゆっくりなので、彼らの大半はまだ出会いもしなかったりする。売春していた女性たちがピンプを離れてポルノ業界で働くようになり、ヴィンセントがそれに関わる話になっていくのかな?

HBOのドラマなのでふんだんに金が使われ、「ボードウォーク・エンパイア」もそうだったように、セットは70年代当時の雰囲気を忠実に再現しているみたい。衣装なども当然70年代ファッションが炸裂しているわけですが、黒人のピンプたちの服装がもういかにもピンプといった格好で、あれってステレオタイプではなく実際にああいう外見だったんだろうなあ。公民権運動がどうピンプの登場につながっていったのかとか、そういう歴史も調べたら面白そう。なおテーマがテーマなのでオッパイとかチンコとかいろいろ見えてまして、日本で放送する際はいろいろボカシが入るでしょうな。

ヴィンセントとその兄弟を一人二役で演じるのがジェームズ・フランコ。最近はコメディの出演が多い気がする彼だが、やはりシリアスな役を演じると上手いのよ。キャンディを演じるのがマギー・ギレンホールで、体を張った演技を見せています。あとは有名どころだとゾーイ・カザンやラルフ・マッチオ。「ザ・ワイヤー」からはベンガ・アキーナベイやローレンス・ジラード、メソッドマンなんかが出ていた。

まあ話がこれからどういう展開になっていくのかはよく分からないのだけど、第1話の評判はずいぶん良いようだし、デビッド・サイモンの作品なので注目に値するんじゃないでしょうか。日本でも放送予定。

「ダンケルク」鑑賞


・クリストファー・ノーラン監督作品で、それなりの予算がかかってるので大作映画であることは間違いないわけだが、登場人物の大半に名前がなかったり、無名に等しい役者を起用しているあたりはバットマン三部作や「インターステラー」に比べてもかなり実験色の強い作りだな、という印象は受けた。当初はインプロビゼーションを多用した撮影になるという話もあったようで、そう考えると隙の多い脚本もまあそういうものかなと思われてくる。

・でも陸・海・空で時系列がずれてるのは個人的には分かりづらいな、とは思いましたが。冒頭にちゃんと説明がされてるとはいえ、昼だった場面が急に夜になったりするのだもの。

・秒針が刻まれるサウンドトラックも効果的に用いられ、一刻をあらそう撤退作戦の緊迫感はとてもよく醸し出されていたと思う。とはいえやはり登場人物の設定が深堀りされないなかで先頭のシーンがずっと続くため、ノーラン作品としては短尺ながらも若干中だるみするところがあったかな。

・クレジットには大戦時に実際に救出作戦に用いられ、今回の撮影においても使用されたボートの名前が表記されてました。

・マイケル・ケインが冒頭に声だけの出演をしてるのに気付いたので、誰かほめてください。

・イギリス軍が変に美化されず、砂浜に取り残された若き兵士たちがズルをしてでも先に帰還船に乗り込もうとするところとか、フランス兵が全体的に差別されているところをちゃんと描いているのは良かった。軍事的には大失敗であった出来事だが、丸腰で撤退してきた兵士を当時の日本軍ならどう扱っただろうとか、今の日本ではどうだろう、といったことについて、どうしても考えざるを得ないのです。

「The Lost City of Z」鑑賞


タイトルだけ見ると「またゾンビものかい!」と勘違いしそうだが、そんなんでは全くなくて真面目な伝記映画。

アマゾンの秘境の探索に心血を注いだ冒険家パーシー・フォーセットの半生を描いたもので、話は20世紀初頭から始まる。イギリス陸軍に所属していたフォーセットは技量を見込まれ、南米のボリビアとブラジルの紛争調停のために両国の国境線の測量を依頼される。親が没落させた家系の出身であるフォーセットは、家の名誉の挽回を狙って依頼を受託し、うだるような暑さのジャングルの奥地へと向かう。そこでは原住民に襲われたりと苦難に見舞われながらも川をさかのぼり任務を達成した彼だったが、そこで陶器の破片や彫像を発見し、かつてアマゾンの奥地には高度に発達した文明が存在したという確信を抱くようになる。フォーセットはその文明の都市を「Z(ゼッド)」と名付け、帰国したのちに学会で発表するものの、他の学者たちには信用されずに嘲笑されてしまう。しかし彼の信念は揺るぎなく、ゼッドの存在を明かすために彼はふたたびアマゾンへと向かうのであった…というあらすじ。

フォーセットはインディ・ジョーンズやチャレンジャー教授のモデルにもなったという話もある冒険家だが、アマゾンでの発見や冒険よりも未知の都市を追い求めたフォーセットの人生のほうに話の重点が置かれている。ジャングルの川をさかのぼって驚異の経験をする話という点では「地獄の黙示録」、さらには「アギーレ 神の怒り」に近い内容だが、あれらの作品が西洋文化の概念がジャングルの奥地で崩壊していく話であったのに対し、こちらではむしろ野蛮なのは西洋文化(形式にこだわる学会員、仲間を裏切る冒険家、フォーセット自身も参戦した第一次世界大戦など)であり、ジャングルやそこで出会う未知の存在はフォーセットにむしろ安泰を与えてくれる存在として描かれている。

もちろんジャングルではいつも極限状態に置かれるのだけど、結構何度も無事に生還しているので、あまり緊迫感が続かないんだよな(劇中では3回の遠征が行われるが、実際は7回行われたらしい)。2時間20分の長尺だが、第一次世界大戦の描写にあんな時間を割く必要はあったのかしらん。

フォーセットの足取りを追った、「ザ・ニューヨーカー」誌の記者による同名のベストセラーをもとにした映画だが、上記の遠征回数のようにそれなりに脚色が加えられているみたい。また劇中ではアマゾンの原住民の文化に寛大な理解を示すフォーセットだが、実際は神智学の熱心な信者で、ゼッドこそは白人文明の発祥の地だと信じて探索を行っていたという話もあるようで…?

監督はジェームズ・グレイ。前作「エヴァの告白」も高い評価を得てましたが俺は未見。実際にアマゾンの過酷な環境に35ミリフィルムカメラを持ち込んで撮影した映像は美しいですよ。フォーセットを演じるのがチャーリー・ハナムで、彼の相棒の冒険家を演じるのが、最近演技がどんどん評価されているロバート・パティンソン。フォーセットの息子役にスパイダーマンことトム・ホランド。こうして書くとキャストが豪華だな。あとはフォーセットを家で待ち続ける妻役にシエナ・ミラー。なぜかフランコ・ネロもチョイ役で出てました。

興行的には失敗したものの批評家からは高い評価を得た作品だが、ジャングルとイギリスの話を交互に描いたせいか個人的にはテンポが悪いかなと感じました。ジャングルの奥地に向かうことに執念を燃やす男の映画なら、先に「アギーレ 神の怒り」を観ましょう。

「Strike – The Cuckoo’s Calling」鑑賞


J・K・ローリングがロバート・ガルブレイス名義(匿名にするつもりがバレちゃったやつ)で執筆した探偵小説「カッコウの呼び声 私立探偵コーモラン・ストライク」を映像化したBBCのミニシリーズ。

アフガニスタンで軍警察を務めていたコーモラン・ストライクは爆弾で片足を失って帰国し、さびれた事務所で私立探偵をやっている男。キャンセルしたはずなのに派遣会社から秘書としてロビン・エラコットを1週間だけ寄こされた彼は、かつての学友のつてから、謎の飛び降り自殺を遂げたスーパーモデルの死の真相の調査を依頼される。モデルの関係者から調査を行っていくストライクだが、彼女の肉親から手を引くよう忠告され、さらには新たな死者がでることになり…というあらすじ。

原作読んでないので本との比較はできないのですが、ストレートなガムシューものといったところか。ストライクは無骨なようで真面目に聞き込みとかして調査を行うし、謎の死を遂げたスーパーモデルの部屋は完全防音だったので一種の密室殺人事件のようになっている。

真面目な推理ものであるという一方では比較的地味な内容であり、同じくBBCの「シャーロック」みたいな派手な活劇を期待してるとガックリするかもしれない。ストライクは義足なので走れず、容疑者が走って逃げると追いかけられないのですもの。また「シャーロック」のように手がかりがCGで表示されたりもしないから、調査がどこまで進んだのかちょっと分かりにくいところがあるかも。登場人物が多いものの名前だけが呼ばれると「あれそれ誰だっけ?」と困惑してしまったのは単に俺が注意力散漫なだけか?

主役のストライクを演じるのは「マスケティアーズ/三銃士」のトム・バーク。彼の有能な秘書のロビンを演じるのがホリデイ・グレインジャー。あとは特に有名な役者は出ていなかったかな?

3話で完結だけど、原作者の知名度もあるしシリーズ残りの2冊も映像化するんでしょうな。地味な作品ではあるものの手堅い作りになってるので、悪い番組ではないですよ。「シャーロック」(あるいは「ハリー・ポッター」)的なものを期待しなければ楽しめる内容かと。