「PLANETARY vol.4: Spacetime Archaeology」読了


ウォーレン・エリス&ジョン・カサディの傑作コミック「プラネタリー」の最新単行本にして最終巻。刊行の歴史を見れば分かるように、最終話の#27が出るのが非常に遅れたので、前回から5年ぶりの単行本になるのか。

全体的な展開としては従来の「地球の奇妙な歴史を調査する」という話が減り、プラネタリーの宿敵である「THE FOUR」との対決に向けて盛り上がっていくところに重点が置かれている。また「THE FOUR」がファンタスティック・フォーの奇怪なパスティーシュであるのを始め、さまざまなコミックやパルプ小説の登場人物をモデルにしたキャラクターが出てくるのが「プラネタリー」の最大の特徴だったんだけど、今回はローン・レンジャーとザ・シャドウに似たキャラクターが出てくる程度で、多元宇宙やデジタル物理学(のようなもの)、ミクロコスモスといった理論に焦点をあてた、よりSF色の強い内容になっている。

ウォーレン・エリスの作品ってアイデアは抜群な一方で話が進むとすぐにダレるイメージが強かったんだが(「トランスメトロポリタン」とか)、この「プラネタリー」では年に数話というスケジュールが役立ったのかどの話も読み応えがあるし、伏線もきちんと回収されていて上出来。これに加えてジョン・カサディのアートも大変素晴らしい。こないだ邦訳が出た「アストニッシングX‐MEN」で彼のアートに興味を持った人はこちらを持った人はこちらをチェックしてみてもいいんじゃないかな。

スーパーヒーローものにSFやパルプ小説、香港映画といったさまざまな要素を絡め合わせた「プラネタリー」は唯一無二のコミックであった。もはや新刊を首を長くして待つ必要はないものの、これで終わりかと思うと少し寂しい気もするのです。

「The Complete D.R. and Quinch」読了

まだ駆け出しだった頃のアラン・ムーアが、アラン・デイビスと組んで80年代前半に「2000AD」誌に連載していたコミック作品を全話収録したもの。ジェイミー・デラーノがストーリーを担当したカラーの話も収録されてるほか、ムーアのスクリプトもちょっとだけ紹介されてるぞ。

これはウォルド・”D.R.” (Diminished Responsibility”)・ドブスとアーネスト・エロール・クインチという2人のエイリアンのティーンエイジャーが巻き起こすトラブルを描いたコメディ・タッチのSF作品で、空飛ぶバイクを暴走させながら銃をぶっ放す2人のイタズラは半端じゃなく極悪非道だったりする。第1話からしてタイムマシンを使って地球の歴史を改竄し、しまいには地球を破壊させるような話だからね。その他の話もDRとクインチが軍隊に入れられたり、恋人ができたりとプロット自体は一般的なものだが、大量の犠牲者が出てオチになる展開はかなりシニカルなものがあるな。

ウィキペディアによると2人のモデルは「ナショナル・ランプーン」誌のキャラクターにあるとのことだけど、あれは読んだことないので良く分かりません。むしろ「BEANO」とか「DANDY」といったイギリスの少年向けコミック誌に出てくる、デニス・ザ・メナスのような悪ガキたちのSF版といった感じがしたな。ムーア自身もDRとクインチのことを「核兵器を持ったバッシュ・ストリート・キッズ」なんて表現していたような記憶がある。ただしあちらの悪ガキたちは最後はイタズラの報いを受けて父親や先生に尻を叩かれるオチが大半だったのに対し(当時はああいう体罰が普通に描かれてたけど、今はどうなんだろう)、DRとクインチはどれだけ周囲に迷惑をかけようともノホホンとしてるあたりが、ムーアの毒々しさを感じさせるな。

まあ後のムーアの作品に比べるとストーリーはとても単純だし、デイビスのアートも既に巧いとはいえまだ粗削りなところがあるし、これを買うお金があったらムーアの他の作品を先に買うことをお勧めします。というかムーアの初期の作品としてはぜひ「マーヴェルマン」を再販してほしいところですが…。

ダーウィン・クックの「悪党パーカー」第2弾

リチャード・スタークの犯罪小説「悪党パーカー」シリーズを原作にしたダーウィン・クックのコミック第2弾「The Outfit」のプレビューが公開されていた

俺が知る限りこれはシリーズ第3作を原作にしたもので、クックは以前に語っていたとおり第2作目の「THE MAN WITH THE GETAWAY FACE」は割愛することにしたのかな。今回の主人公パーカーは整形手術をして新しい顔を得たという設定なので、第1作と主役の顔が変わっているというのがコミックでは特に強調されて奇妙な感じがするね。個人的に前作は必ずしも満点の出来ではなかったけど、ダーウィン・クックは非常に好きな作家なのでこれもいずれ買うことになるかな。

フランク・フラゼッタ死去

巨星墜つ。アメコミ画家といよりもイラストレーターの人でしたが、彼のアートの影響がアメコミや映画に与えたものは多大なものがあるかと。ジョージ・ルーカスなどにも影響を与えているはずだし、彼が表紙を手がけたことで「コナン」シリーズの売上が大幅に伸びたなんて逸話も読んだことがあったっけ。彼のスタイルは上の「Death Dealer」のようなマッチョなものが有名ですが、まだ駆け出しの頃に描いてたコメディ漫画とかでも、そのレイアウトとか人物描写は卓越したものがあったんだよな。アメコミでペインテッド・アートを用いる人は多いけど、彼みたいなヒロイック・ファンタジー向けのアートを描く人はずいぶん少なくなったような気がする。リチャード・コーベンとかサイモン・ビズリーとかも最近は画風がずいぶん変わってしまったし。

リンク先の記事によると晩年は認知症になっていたり親族内での権利争いなどがあって苦労してたみたいだけど、その作品はこれからも長く人々をインスパイアし続けるであろう。合掌。

ジャック・カービィの知られざるキャラクターたち

俺もよく知らなかったんだけど、アメコミ界のキングことジャック・カービィは70年代後半から80年代にかけてコミックを離れてアニメーション・スタジオで働いていた時期があったそうな。そのうちの1つであるルビー=スピアーズというスタジオのためにいろいろなキャラクターのコンセプト・アートをカービィは描いていて、それらの作品がこんどフランチャイズ化されることになったらしい

いろいろ描かれたキャラクターのなかには赤毛の女性版インディ・ジョーンズともいうべき「ロキシーズ・レイダース」や、キャプテン・アメリカのごとくシールドを持ったヒーロー「ゴールデン・シールド」なんてのがいて、どことなくバッタもんのような感じもするものの、カービィの力強いデザインを見ていると「2012年に世界を破滅から救おうとする古代マヤ族の戦士!」なんて設定がとてもカッコ良く思えるのですよ。

具体的にこれらのキャラクターがどうメディア展開していくのかは不明だが、このルビー=スピアーズの人たちはカービィの才能を絶賛する一方で「彼はあくまでも雇われ人だったので、作品の権利は明らかに我々にあります」なんて喜々として言っているのが鬼畜だなあ。なおカービィがマーヴェル・コミックスで生み出した有名キャラクターたちの権利についてはこないだ遺族がマーヴェル相手に訴訟を起こしたんだとか。

まあ何にせよこうしてカービィの知られざるキャラクターたちに脚光が当たったのは嬉しいことなので、今後の展開に期待したいところです。