「トロン:レガシー」鑑賞


以下いちおうネタバレ注意。あまり期待しないで観たので、まあこんなものかなという感じ。雰囲気が似てるなと思ったのが「スター・ウォーズ:エピソード2」で、CGは見事なんだけどストーリーが弱いところが同じかと。若造とヒロインにオッサンという主人公たちの組み合わせも一緒だし。

俺は世代的にオリジナルの「トロン」をテレビで(初放送時に?)観た人でして、その今まで観たこともない異世界の描写に衝撃を受けた覚えがあるのですが、あちらはプログラムの顔が変色していたり、バイクが直角に曲がったりするところでセンス・オブ・ワンダーが十分に満喫できたんだよな。それに対して今回の「レガシー」はプログラムが結構普通の人間っぽくなっていて、話が進むにつれて「光るコスプレをした人たち」にしか見えなくなってしまったよ。何でプログラムがブタの丸焼きを食べてるんだか。バイクも直角に曲がらなくなってたし。あとMCP出して欲しかったよMCP。

CGは確かに凄いし各デザインも非常に凝ってるんだが、肝心のストーリーがダメダメなので全体的に薄っぺらい印象を受けてしまう。そもそも「アイソー」って一体どういう存在で、何が特別だったのか殆ど説明されてなかったよね?他にもキャスターが想像以上にヘタレだったり、足跡を追跡できるはずのリンズラーが物陰にいる大人2人を探知できないなど、ものすごいご都合主義的な展開はどうにかならなかったものか。1つの世界を造り上げるのにはもっと綿密な設定が必要なはずで、「彼らはどこからともなくやって来た」なんて説明したらいかんだろうに。

ちなみに特殊効果でいちばん凄かったのはライトサイクルでもディスク飛ばしでもなくて、やはりジェフ・ブリッジスの若返らせ方だろう。まるで違和感がなかったぞ。あの技術がハリウッドに蔓延したら、ドリュー・バリモアなんて永遠に女子高生を演じ続けられるんじゃないだろうか。あといつもは不気味顔のオリビア・ワイルドが結構可愛く見えたのもCGのおかげかしらん。

いかにCGが立派でも、ストーリーが破綻してたら良い映画にはならないということの好例のような映画。異世界を経験したいなら「インセプション」を、ゲーム的な映画を観たいなら「スコット・ピルグリム」を代わりに観ることをお薦めします。

「The Kids Are All Right」鑑賞


キャスト的にあまり興味なかったんでスルーしてたんだけど、皆が褒めてるもんで。でもあまり面白くなかったかな。邦題は「キッズ・オールライト」になるの?

レズビアンのカップルであるニックとジュールズは精子銀行からの精子で妊娠して2人の子供を産み、家族4人で仲良く暮らしていた。しかし子供たちがその精子の提供者であるポールという男性を探し出したことで、4人の生活にポールが関わってくることになり…というプロット。

ストーリーの最大の特徴はもちろんカップルがレズビアンだという点だが、意外とそこはあっさりと描かれていて、差別される描写とかはないし、子供たちも結構普通にそのことを受け止めていたりする。だから内容的には普通のファミリードラマに近いかな。それでも何となく監督(レズビアン)のメッセージみたいなものがセリフのあちこちに感じられて、教育映画を見せられてるような気になってしまったよ。出てくるキャラクターがみんな真面目で、「遊び」のようなものが無いのでストーリーにもクセがなく、どうも無味乾燥な内容になってしまったような。この題材でジョン・ウォーターズが監督してたら相当面白いものが作れていただろうに。

このため役者の演技もあまり印象に残ってないなあ…ジュリアン・ムーアがすっぴんで頑張ってたことくらいですかね。あとやっぱりミア・ワシコウスカって話し方が変なような気がする。かしこまり過ぎてるというか。「アリス〜」のときはそれが合ってたんだけどね。ちなみにサントラのギターはマーク・リボーが弾いてるぞ。

無味乾燥な感じがする一方で欠点とかも特にないので、そういう意味では悪くない映画かも。「どこかやっぱり足りない」のは同性愛者だけじゃなくて、ヘテロであっても子供であっても皆そうなんだけど、それでもみんなが補いあって生活してるんだよ、ということは良く分かる作品ですよ。

「メニルモンタン」鑑賞


Dimitri Kirsanoff – Menilmontant (1925)
ロジャー・イバートが「ポーリン・ケイルが最も好きだった映画」として紹介していた、フランスの1925年のサイレント映画。40分弱の作品なのでメシを食いながら気楽に観ようとしたら、その出来の素晴らしさに仰天させられてしまったよ。

いきなり農村で少女姉妹の両親が惨殺されるシーンから始まってインパクトは抜群なんだけど、実はそのシーンは話とあまり関係がなくて、身寄りをなくした2人の姉妹がパリのメニルモンタンにやってきてけなげに暮らすところからが本編。美人の妹はある男性とねんごろな仲になってついに体を許してしまうが、それを妬んだ姉によって男性を寝取られてしまう。それを知ってショックを受ける妹だったが、彼女はすでに男性の子供を身ごもっていた。姉のところに戻るわけにもいかず、生まれた赤子を抱えて妹は通りをさまようことに…というような話。

ストーリー自体は凡庸なメロドラマのように聞こえるかもしれないが、演出と編集がとにかく素晴らしいのですよ。サイレントであるうえに字幕を一切使わず、二重露光などといった当時としては斬新なテクニックを用いてまったくの無駄なくストーリーを伝えることに成功している。たぶんセリフが無いためにかえって多くのことを短い時間で表現できたんだろうな。変に会話シーンとかがあれば2時間ドラマみたいになっていただろう。でもちょっと実験色が強すぎたのかラストの展開は意味不明なところもありましたが。

そしてナイーブな妹を演じるナディア・シビルスカヤ(監督のディミトリ・キルサノフの妻だったらしい)が美しいこと!恋人が来るのを待ちわびる姿とか、老人にパンを恵んでもらって大粒の涙をこぼしながら食べるシーンとかは本当にもの哀しくて胸を打つ。

こういうのを観ると、現代の映画製作者がサイレント映画から学ぶべきことはまだまだ多いと思わされますね。上の映像のリンクから全編が視聴可能なので、40分の時間がある方はぜひご鑑賞を。

「YOUTH IN REVOLT」鑑賞


こないだ「スコット・ピルグリム」観たばかりなのでマイケル・セラ主演の映画をまた観るのはどうかと思ったんだけど、米iTunesストアで値引き販売されてたので。

カルト人気のある小説?が原作の作品で、主人公のニックは内気なティーンで当然ながら童貞。両親が離婚したので母親とその恋人のもとで暮らしていたが、避暑地に行ったときにそこに住むシーニという女の子と出会って恋に落ちた彼は、どうにかしてシーニと一緒にいようと画策し、さらに内気な自分とは違ったフランソワ・ディリンジャーという反抗的な人格をつくって周囲の困難に立ち向かおうとするのだが…というような話。

なんか可も不可もないコメディだなあといった感じ。別に悪くはないんだけど、かといって記憶に残るようなシーンもないというか。ちょっと下ネタの多い、普通のボーイ・ミーツ・ガールもののコメディといったところか。女の子とエッチしようとして女子寮に潜入し、見つかって裸で逃げ出すなんていうガチな展開もあるし。車での移動シーンが突然人形アニメになるところは「普通じゃない」を連想したけど、あっちも微妙なコメディ映画でしたね。最大の特徴であるフランソワが出てくるシーンも結構あっさりと描かれているし、どうも話にヒネりが足りないような気がするんだよな。

マイケル・セラは相変わらずマイケル・セラだったので置いておくとして、シーニを演じるポーシャ・ダブルデイって女優が全然可愛くなくて、なんであんな娘に主人公が夢中になるのかよく分かりません。変にマセていてニックにも積極的にせまってくるくせに、肝心なところで清純になるという、どうも好きになれないタイプですね。そして脇役にはザック・ガリフィアナキスやスティーブ・ブシェミ、レイ・リオッタ、ジャスティン・ロングといった強力な面子が顔を揃えているんだが、彼らが揃いつつもこんな凡庸なコメディ映画しか出来なかったのが残念なところではある。

「Exit Through The Gift Shop」鑑賞


神出鬼没のストリート・アーティスト、バンクシーを扱ったドキュメンタリー…かと思いきや、なかなか一筋縄ではいかない作品であったよ。以下ネタバレ注意!

作品の中心人物となるのはバンクシーではなく、LAで洋服屋を営んでいるティエリー・ グエッタという人物。あらゆるものをビデオ撮影したがる癖のあった彼は、従兄弟がストリート・アーティストをしていたことからストリート・アートの世界に興味をもち、やがてシェパード・フェイリー(オバマの「HOPE」ポスターで有名な人)といった著名なアーティストとも知り合いになり、彼らの行動を撮影していくようになる。そしてついに彼はイギリスの謎のアーティストであるバンクシーにも紹介され、彼のパフォーマンスに関連して警察に捕まったときも口を割らなかったことからバンクシーに信頼され、イギリスに招かれて彼の行動を撮影するようになった。さらにティエリーは彼らを撮影するだけでは飽き足らず、自らもアーティストとして活動するようになり、最初は自分のステッカーを作って貼る程度だったのが、ストリート・アートが世間的にもビジネス的にも認知されるにつれて彼のパフォーマンスは派手なものになっていき、ロクな才能もないのに大々的な個展を開いて世間の注目を浴びることになっていく…というような話。

要するにこれはストリート・アートの商業化に対する露骨な批判になっていて、思想も才能もない人間がアーティスト気取りでウォーホルまがいのアートを作って世間に売り込み、それをメディアやアート・ディーラーが素晴らしいものだと思って祭り上げていくさまがなかなか狡猾に描かれている(村上隆の作品もちょっと出てるぞ)。メッセージ色の強いアンダーグラウンドのアートとして始まったストリート・アートが、世間で話題になるにつれてストリートからギャラリーへと活動の場を移し、作品がとてつもない額でオークションにかけられる姿はなかなか皮肉なものがありますね。

これとは別にストリート・アーティストの活動を撮影した作品としてもよく出来ていて、段ボールを切り抜いたステンシルを準備していくさまや、キンコーズで巨大コピーした紙を夜中にさっと壁に貼付けていく姿は結構面白い。個人的にはグラフィティとかはあまり好きではないんだけど、仕事場で電話ボックスを切断し、トレーラーで運んで路上にデンと置いていく光景などはスケールがでかくて圧倒されますね。日本の暴走族の落書きなどとは規模が違うわけで。

ただしこれがまっとうなドキュメンタリーかというと疑わしい点があるわけで、ティエリーのキャラが立ちすぎているような気がするんだよな。フランス語訛りで話す愉快なオッサンという姿に加え、何であんなに世界中を旅することができるのかとか、夜間撮影がやけに上手いとか、撮影をしている彼の姿を撮影してるのは誰なのかとか、よく考えると不自然な点がいろいろ
あるのですよ。

よって彼はこの作品のために演技をしているキャラクターであるという声はアメリカとかでも挙ってるみたいだ。ただしティエリー自身は実際にアーティスト活動をしていて、こないだもマドンナのアルバムのジャケットをデザインしたらしい。この作品はアカデミー賞のドキュメンタリー部門の候補に挙がってるらしいけど、内容の真偽の審査とかはしないのかね?でもまあどこまでが本当なのかという議論は置いといても、何がアートなのかということや、ゲージュツに踊らされる世間について考えさせられる、とても面白い作品であった。

ちなみに劇中で紹介されるバンクシーのパフォーマンスで一番痛快だったのが、エリザベス女王の代わりにダイアナ妃の顔を印刷した偽札をバラ撒こうとしたもの!でもさすがに偽札製造で逮捕される可能性があったため、印刷しただけでオクラ入りになってしまったらしい。