「G.I.ジョー」鑑賞

なぜかDVDが手元にあったので。変な訛りのある人たちがいろいろ出てくる映画ですね。本来ならいちばん訛りがあるはずのバロネスに訛りがないのはヒロイン扱いだからか。

とりあえずダメ大作映画の見本のような作品。ストーリーは予定調和というか盛り上がりに欠けるし、CGはショボいし出演者の演技がみんな下手だし。いちばん生き生きと演技してたのがよりによってマーロン・ウェイアンズだったというのは憂慮すべき事実であろう。世界を救えるかという重要な事態が、元恋人たちの痴話ゲンカによって左右されるという展開も最近のハリウッドのトレンドをを象徴しているようで嫌だな。そして原題のようにコブラ軍が勃興して次回に続くのかと思ったら、そのあとすぐ首領が捕まってるのはバカかと。

いちおうラリー・ハマがクリエイティヴ・コンサルタントに就いてたらしいけど、それでこの出来じゃなあ。ラリー・ハマというのは日系のアメコミ作家で、80年代にマーヴェルで「G.I.ジョー」のコミックのストーリーをずっと担当したことで知られ、「G.I.ジョー」における人物設定とかの殆どを創作した偉い人なんですが、映画の設定はコミック版とずいぶん違ってない?特にコブラ・コマンダーの過去については『しがない中古車セールスマンだったが、不幸に見舞われたことでブチ切れて悪の道を進むようになった』というコミック版の設定が完全に無視されたのが至極残念。世界制服をたくらむ元中古車セールスマンなんてのが首領だったら、俺は間違いなくコブラ軍に入隊してるね!

「Sita Sings the Blues」鑑賞

アメリカの漫画家ニナ・ペイリーがほぼ独力で作った大傑作アニメーション。インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をもとに、恋人に捨てられた女性の悲哀を描いた作品になっている。

インドのラーマ王子は訳あって王国を14年のあいだ追放されることになり、妃のシーターを連れて森のなかに住んでいた。しかしラークシャサ(悪魔)の王ラーヴァナがシーターを気に入り、ラーマが不在のときに彼女を誘拐してしまう。ラーマから放され、嘆き悲しむシーター。そこでラーマは猿の大群を率いてラーヴァナのもとに攻め入り彼を倒し、無事にシーターを奪還して王国へと帰還する。しかしその後すぐにシーターが妊娠したことから彼女の不貞が人々のあいだで噂されるようになり、それを気にしたラーマによってシーターは再び森のなかへと追放されてしまう…というようなお話。

本編はインドの伝統画のスタイルで語られ、それに絡めて1920年代の歌手アネット・ハンショウによるジャズ/ブルースをシーターが歌うフラッシュ調のアニメ、およびインド神話の詳細が影絵人形によって解説されるアニメ、そしてラーマとシーターの話と対をなす現代のカップルを描いたラフ・スケッチ調のアニメと、合計4つ(以上)のスタイルのアニメが入れ替わり用いられていくわけだが、アニメの特性を十分に活かした演出がもう美しいのなんのって。こういうのは3Dアニメではまだまだ出来ないですね。スタイルだけでなく歌に合わせたストーリーテリングも女性の気持ちをうまく描いていて非常に秀逸。

例によって音楽の使用権でモメたあげく、クリエイティブコモンズのもと公式サイトから無料ダウンロードできるようにされたんだが(高画質版もあり)、このたびめでたくDVD発売となったそうな。これはぜひ多くの人に観て欲しい作品。上映会とかも無料で行えるらしいので、誰か日本でも開催してくれないかな。日本語の字幕をつけた偉い方がいるようなので、ぜひご覧あれ:

「デイトリッパー」鑑賞

「スーパーバッド」や「Adventureland」のグレッグ・モットーラ監督のデビュー作(1996)。プロデューサーはスティーブン・ソダーバーグ。

ロングアイランドに住むイライザは夫のルイスと幸せな夫婦生活を送っていると思っていたが、ある日夫の服のポケットにラブレターらしき手紙が入っているのを発見してしまう。これに驚いた彼女は実家の両親に相談したところ、直接ルイスに会って真相を問いただすのが最良だと説得され、イライザとその両親、および妹とその婚約者の5人はステーションワゴンに乗り込み、ルイスが働くニューヨークへやってくるのだったが…というような話。

ニューヨークの郊外ロケを多用した撮影や、変にインテリな会話が始まる展開なんかはいかにも90年代のインディペンデント映画という感じだけど、1日の旅において家族の絆と価値観が見直され、家族みんなが何かしらの形で成長していくさまが手堅く描かれていて面白い。またキャストが異様に豪華で、ホープ・デイビスやリーヴ・シュレイバー、パーカー・ポージー、スタンリー・トゥッチ、キャンベル・スコット、マーシャ・ゲイ・ハーデンなど後に主役級の役者となる面々が揃っているのが結構凄い。母親役のアン・メアラ(ベン・スティラーの母親)がいちばん熱演してたかな。

全体的に少し古めかしい気がするのは否めないが(ワールド・トレード・センターが出てくるだけで時代を感じるようになってしまった)、よく出来た小品。個人的には「Adventureland」よりもお薦めかも。

「SUGAR」鑑賞

野球が題材のアートハウス・シネマなんて初めて観た。

ドミニカ共和国の野球クラブでピッチャーをしていたミゲル・”シュガー”・サントスは、スカウトに教えられたナックル・カーブが認められてカンサス・シティーのメジャーリーグ・チームのキャンプへと招かれる。家族を離れてフェニックスのキャンプ場にやってきたシュガーはそこでも実力が認められ、アイオワのド田舎に拠点を置くマイナー・リーグのチームでプレーすることに。慣れない環境に戸惑いながらも徐々に力をつけていき、勝利を重ねるようになったシュガーだが、足を怪我したことでスランプに陥ってしまい…というのが大まかなプロット。

話の前半はそれなりのサクセス・ストーリーなんだけど爽快感などはまるでなく、レストランのメニューも読めないような選手が異国のマウンドに立つことの壮絶な孤独感がうまく描かれている(全体的に撮影が巧い)。成績が出せなければ即刻で解雇される環境のなか、周囲の人間とろくに意思疎通もできずにプレッシャーに押しつぶされていくシュガーの姿が哀愁を誘っていた。

そしてシュガーやその代わりのピッチャーがどれだけ活躍したとしても所詮はマイナー・リーグでの話であるわけで、アメリカの野球界の選手層がどれだけ分厚いかを実感させてくれる映画であった。前に「フープ・ドリームス」を観たときもNBAの選手層の厚さに驚いたけど、メジャー・リーグの場合は海外にも太いパイプを持っているぶんさらに選手の層は厚いんじゃないかな。故郷にいてもろくな職につけないなか、アメリカン・ドリームを夢見てアメリカにやってくる選手たちは数多いんだろうけど、そのなかで大成できるのは本当にごく限られた一部なんだろうな。

「My Wrongs 8245–8249 & 117」鑑賞

愉快なテロリストたちを描いた映画「Four Lions」がついに完成して今度のサンダンスで公開されるらしいクリス・モリスが、脚本と監督を手がけた2002年の短編映画。

ある男性が友達の家で留守番をして犬の面倒を見ていたところ、犬が自分に命令しているように感じるようになり、彼は犬にうながされるまま手綱を持って犬と外出することに。そして手綱を自分の首にかけたとたんに犬が暴走して彼は公園の池に飛び込んでしまう。そしてついに犬は男性に語りかけるようになり、自分は男性が犯した罪に対する弁護士だと主張するのだが…というような内容。

ひたすらシュールな展開が続く作品で、男性が犬に引き回されて公園やバスや教会に連れてかれる展開が非常にスピーディだし、レジデンツのPVを彷彿させる実験映画っぽい特殊効果もあってなかなか面白い。ワープ・レコーズの映画部門が関わっているということでオウテカっぽい音楽もなかなかいいぞ(音楽もモリスによるものだとか)。BAFTAの短編部門賞を受賞したというのも頷ける。

なお主役の男性を演じるのはパディ・コンシダイン。彼って無骨な役柄のイメージがあったけど、こういう困惑した人物の役も似合うんですね。