「グラン・トリノ」鑑賞

今さらながら。こういう話だったのか!イーストウッド爺さんカッコ良すぎる。年をとるごとにこういう復讐鬼(?)の役が似合っていく役者というのは彼くらいのものじゃないだろうか。ブロンソンでもあの貫禄は出せなかったよな。

「許されざる者」において、「酒を飲むと人を殺すから」という理由で酒を断っていた主人公が、親友が殺されたことを聞いてグビグビと酒を飲みだす場面(しかも非常にさりげなく撮っている)は俺の映画人生のなかでもベスト10に入る名シーンなのですが、この映画もそのシーンを彷彿させるところが多くて素晴らしいのです。最後は牧師を連れて「ローリング・サンダー」的展開にもつれ込むのかと思ったけど、さすがにそれは無かったか。

あと話の進み方とか撮影の手法(特に光の当て方)とかが良い意味で古典的で、こういう映画を作れる人って少なくなったような気がする。難があるとすれば、THE WIREなんかを観てると分かるがギャングの去ったあとには別のギャングがやってくるわけで、ラストの解決法が弱冠安直な感じがすることか?でもまあ文句は言うまい。あとはミャオ族の文化について我々は劇中で紹介されたものを素直に受け止めているわけで、ミャオ族に詳しい人からは異論が出るのかもしれないな。

イーストウッド健在であることを実感した一本。彼とマイケル・ケインにはいつまでも長生きして欲しいところです。

「ポイント・ブランク」鑑賞

これもまたアメリカでは人気あるものの日本では知名度の低い作品。「殺しの分け前/ポイント・ブランク」と題名が似ているがこっちはブラック・コメディなのでお間違えのないよう。

ジョン・キューザック演じる主人公のマーティン・ブランクは一流のヒットマンだが自分の仕事に空しいものを感じるようになり、セラピストに通うようになっていた。そんな彼に高校の同窓会の通知がやってくる。最初は出席を嫌がっていたものの、ちょうど地元での暗殺仕事を引き受けたため彼は10年ぶりに地元へ戻り同窓会に出ることに。いざ地元の町に戻った彼は仕事そっちのけで昔の恋人を見つけ出し、再びよりを戻そうとする。しかしそんな彼を狙う殺し屋たちも町にやって来ていて…というような話。

それなりに派手なドンパチとかもあって面白いことは面白いものの、主人公が終始落ち込んでいるために何かキレが悪い感じがする作品。もっと脳天気な内容にしてもよかったのに。主人公と他の殺し屋と政府のエージェントという3者の関係もいまいち掴みにくい。ジョン・キューザック主演のブラック・コメディだったら「アイス・ハーヴェスト」のほうがずっと面白かったぞ。なお音楽担当はなんとジョー・ストラマー。ザ・クラッシュやヴァイオレント・フェムズをはじめ、スペシャルズやザ・キュアーといった80’sの音楽がガンガン流れる内容になっている。というかオリジナルの音楽はほとんど流れてなかったような。

「摩天楼を夢みて」鑑賞

アメリカでは名作として様々なところで言及されるものの日本では知名度の低い作品って結構あって、これもその1つになるんじゃないかな。

デビッド・マメットの戯曲を映画化したもので、ニューヨークからフロリダの土地をテレマで売りつけるような胡散くさい不動産会社で働くサラリーマンたちの悲哀を描いたもの。ある雨の日に本社からやってきた上役に「テメーらもっと業績を出せ!売上が1位になった者にはキャデラックをやる!2位にはキッチンナイフのセットだ!しかし3位以下のものはクビ!」というアメとムチをもらった4人のエージェントたちは、クビになってたまるかということで必死に売り込みをかけるものの、その晩に事務所に泥棒が入って…というような話。

とにかくキャストが豪華で、アル・パチーノを筆頭にジャック・レモンやケヴィン・スペイシー、エド・ハリス、アラン・アーキン、アレック・ボールドウィン、ジョナサン・プライスといったアカデミー賞俳優たちが勢揃い。特に老いたエージェントを演じるジャック・レモンの演技が素晴らしく、シリアスな演技も出来る彼の力量を再認識した次第です。こんな濃い面子がお互いに罵詈雑言を浴びせながら仕事をしていくわけだが、俺も上司にあんな悪口言ってみたいものだなあ。

マメットの作品だけあってセリフがやたら多いのと、エージェントたちの仕事の仕組みが分かりにくい点はあるが、ボヤいてばかりいるエージェントたちが電話をかけると豹変してカモを狙う姿はなかなか興味深い。必ずしも期待していたほどの作品ではなかったものの、名優たちの手堅い演技が観たい人にはおすすめ。なお邦題はまったく内容と関係なかったぞ。

「イングロリアス・バスターズ」鑑賞

最近よく映画における「話の落とし方」というか「クリーシェの必要性」などについて考えることがありまして、要するに手垢がついたような使い古されたストーリーテリングがあったとしても、それは観客が好んだからこそ使い古されてるわけで、そういう王道のパターンに話を持っていくというのは、変に奇をてらった展開を持ち込む以上に重要かつ技巧が試されることなのではないかなあと。音楽でもコード展開は無数にあるものの、人の耳に快いものは結局限られているのに似ているかもしれない。

そして「イングロリアス・バスターズ」を観ててたらそういうことを連想してしまったんだが、この映画は話の展開にどうも引っかかるところがあって十分に楽しむことが出来なかったのでありますよ。具体的にどう引っかかったのかというと、ネタバレになるから白文字で書かせてもらうが:

・親の仇は子が討たなければいけない。
・最後にドンパチがある場合、主人公はそこで活躍しなければいけない。あるいは少なくとも主人公はその場にいないといけない。
・敵役が非道な方法で殺される場合、その敵役はその死に方に見合うだけの悪人として描かれなければならない。職務に忠実な軍人として描かれ、観客の共感を得るようなことはあってはならない。

というような「お約束事」がみんな破かれていたので、どうも違和感を感じずにはいられなかったのだよ。かといって悪い意味で常軌を逸した映画かというと必ずしもそうではなくて、個々のシーンの演出などはきちんとできているから評価に困ってしまう。特に地下の酒場のシーンなんかはスリリングで非常に良い出来なんだが、あとでよくよく考えてみると、あそこまで時間を割くほど重要なシーンだったのかは疑問が残ってしまう。この映画はなんかそういう変な感触がいろいろな点で残る作品であった。それと実際にタランティーノがどこまで戦前のドイツ映画を偏愛してるのか知らないけど、パルプ映画やヤクザ映画のときと違って、クラシック映画の蘊蓄が語られるあたりにはどうもスノビズム的なものを感じてしまったよ。

まあ個人的に昔からタランティーノの作品は、好きとか嫌いとか以前にどうも感覚的に受け付けないところが多々あって、それはティム・バートンの作品もそうなんだけど、俺は彼らの趣味についてけない客層の1人になるのかな。俺の前の席では外人連れたおねーちゃんがやけにオーバーなリアクションで手を叩いて笑ってたりしたけど、ああいう感じで映画を楽しめなかったのがなんか残念。

「THRILLA IN MANILA」鑑賞

DVD買ってから知ったんだけど、これNHKで放送したの?まあテレビ持ってないから別にいいけどさ。

かの素晴らしき「モハメド・アリ かけがえのない日々」の対極に位置するようなドキュメンタリー。モハメド・アリと3度の激闘を行ったジョー・フレージャーを中心に、彼とアリの長年にわたる確執を描いている。

60年代にベトナム戦争への徴兵を拒否したことでボクサーとしての資格を剥奪されたアリに対して、フレージャーはアリが再びリングに立てるよう大統領などに働きかけ、金銭的援助もアリに行っていた。しかしいざアリにリングへの復帰が認められ、フレージャーとの対戦が決まるとアリの態度は一変し、フレージャーに対して侮蔑的な言葉を投げつけるようになる。ネーション・オブ・イスラムに操られ白人を敵視するようになったアリは、フレージャーが貧しい家庭に育ち人種差別を日常的に受けていたにも関わらず、白人のパトロンが多かった彼を「アンクル・トム」やゴリラ呼ばわりして世間の笑い者にしていく。

そして「世紀の一戦」と呼ばれた彼らの第一戦はアリ優位という世間の予想を覆し、フレージャーが判定勝ちを収める。これを不服としたアリはさらにフレージャーを罵倒し、テレビ番組でケンカをするほどの仲になってしまう。そして彼らの第2戦が行われるのだが、アリに優位なジャッジが行われたことと、既にフレージャーがジョージ・フォアマンに負けてチャンプの座を失っていたことなどから、アリが勝利したこの一戦はあまり大きな意味を持たなかった。その後アリは「キンシャサの奇跡」においてフォアマンを倒してヘビー級王座を奪還し、フレージャーとの因縁の第3戦が組まれることになる。

「スリラ・イン・マニラ」と呼ばれたこの一戦はマルコス大統領の独裁政権下にあったフィリピンのマニラで行われ、アリは自分の勝利を楽観視していた。しかしうだるような暑さのなかでの対戦が始まると、アリの攻撃にもめげずフレージャーはダウンせず、徐々に試合のペースを自分のものにしていく。そして第4ラウンドあたりから形勢は逆転してフレージャーの鋭いパンチがアリを脅かすようになり、両者による激しい撃ち合いが続くことになる(フレージャーのマウスピースが客席まで飛ばされるパンチが圧巻)。この激戦の明暗を分けたのは、60年代の事故によってフレージャーが左目をほぼ失明していたという驚愕の事実だった。アリの連打により右目が腫れ上がり何も見えなくなったフレージャーはファイトの続行をすがるものの命の危険を感じたセコンドにより試合は終了させられてしまう。一方のアリも体力の消耗が激しく、負けを意識してグローブを外す寸前だったという話が興味深い。勝利を宣告されてもろくに立ち上がれず、リングに倒れてしまうアリの姿がこの一戦の凄まじさを物語っている。

この戦いのあともフレージャーとアリはボクシングを続け、やがて引退したわけだが、世界的なスーパースターとして富と名声を手にしたアリとは対照的に、フレージャーは地元のスラム街のさびれたジムで60歳を超えた今でもコーチを務めている。そんな彼の経歴がアリやフレージャーの関係者、およびフレージャー本人から語られていくわけだが、後にアリと和解したフォアマンなどと違い、今でもアリに遺恨を抱き、パーキンソン病に苦しむ彼の姿を見て「奴は過去の行いの報いを受けてるのさ」と冷たく言い放つフレージャーの姿が非常に印象的である。明らかにフレージャーの側に立ったドキュメンタリーだが、でもね、アリというのは我々凡人の善悪の概念を超えたところにいるような存在だと思うのですよ。いくら彼を悪者として描こうとしてもあの強烈な存在感がすべてを打ち消してしまうような。

ちなみに現役時代から「こいつはろくに話せねえ」とアリに嘲笑されてたフレージャーだけど、確かに言葉が不明瞭でなに言ってるのか分かりにくいのが悩ましいところ。DVDに字幕付けてほしかった。