「殺しの分け前/ポイント・ブランク」鑑賞

小説も読んだしコミックも読んだ、じゃあ当然次は…ということで観た、「悪党パーカー/人狩り」の映画版。

これが監督第2作目となるジョン・ブアマンの演出はこの頃から既に冴えていて印象的なシーンが続くものの、全体的にアート系映画っぽくなってしまっていてケイパーものの作品としてはテンポが悪い感じがすることは否めない。原作やコミックは最初から最後まで展開がとてもスピーディだったんだけどね。そして主演を務めるリー・マーヴィンはパーカーを演じるには年をとりすぎているような…好きな俳優ではあるのですが、犯罪組織の幹部に「お前は何が望みだ!」と言われ虚ろな目をして「金が欲しいだけなんだけど…」と返答する姿はどうもカッコ悪い。

60年代のサスペンス映画の1つとして観れば良く出来た作品だと思うんだけど(繰り返すが演出は巧い)、いかんせん原作のイメージが強く残っているまま観たのであまり楽しめなかったかな。ブアマンのサスペンス作品では「テイラー・オブ・パナマ」が非常に好きなのですが、あれも原作に比べるとどんなものなんだろう。

ちなみに同じ原作の映画版といえば、「ペイバック」のディレクターズ・カット版は面白いらしいので、機会があれば観てみたいところです。

「アンヴィル!夢を諦めきれない男たち」鑑賞

カーマイン・アピスって既に他界してたかと思ったんだけど、俺の勘違いだったのね。

バンドの努力と挫折を描いた非常に素晴らしいドキュメンタリー。ラーズ・ウルリッヒも冒頭でちょっと言及しているけど、アンヴィルが成功できなかった理由は彼らが「カナダ人であった」ような気がしてならない。国民性としてアクが弱いというか、リップスもロブも基本的にいい人すぎて、生き馬の目を抜く音楽業界で成功することは出来なかったんじゃないだろうか。でも成功したバンドの人なんてのは多くが家庭を崩壊させたり酒や麻薬で死にかけたりしてるわけで、そういう意味では暖かい家庭に恵まれた2人はそれなりに幸せなんじゃないでしょうか。

国民性といえば「日本人はコンサートに早く来る」ことも重要なファクターになっていることも見逃してはならない。あちらでは前座のバンドを律儀に最初から見るなんてことはあまりないですからね。あとアメリカでのライブの光景が1つも紹介されないけど、この作品の撮影時に彼らはどのくらい人気があそこであったんだろう。

それと多くのバンドが抱える悩みである、アルバム製作の資金の工面やアルバムの売り込み、そして配給の問題といった音楽業界の事情についてもそれなりに詳しく取り上げられているのが興味深い。作品中に彼らが仕上げたアルバムはレーベルが見つからず結局自分たちで配給することになったわけだが、そうしたことでバンドの手元に入る利益はどう変わったのかとか、インターネットによって配給の仕組みがどう影響されたかなんて話も聞きたかったな。

日本でのライブで終わる最後は「スパイナル・タップ」そのまんまで感動的。日本政府はこういう年取ったメタルの人たちが安泰に暮らせる保養地のようなものを作って、地方をドサ回りさせたりすればいいんじゃないでしょうか。定年退職したスコーピオンズのファンとかにとってのいい娯楽になりそうなもんだが。

「SPLATTER」鑑賞

こないだ書いたロジャー・コーマン&ジョー・ダンテによるウェブ用ミニシリーズ。他にも脚本をリチャード・マシスンの息子が書いていたり、キャンディマンことトニー・トッドが出てたりとスタッフはそれなりに豪華だったりする。

話の内容は落ちぶれたゴスのミュージシャンが短銃自殺を行い、その通夜に彼のマネージャーや元恋人など5人の男女がやってくるが、ミュージシャンの罠によって彼らは屋敷に閉じ込められ、さらにゾンビとして甦ったミュージシャンによって彼らは惨殺されていくのだった…というもの。

ベテランのダンテが監督しているだけあってカメラのアングルが巧みで、それなりに楽しめる作品になっている。そのぶんウェブ用作品の常としてセットやライティングなどが安っぽく、全体的に悪い意味でチープな感じになっているのが残念なところ。名監督であってもビデオ撮りのショボさは補えませんでしたね。あとホラーなんだから出てくる女性たちはもっと叫ぶように!ゾンビが目の前に出てきても驚かないんだもの。

第1話では5人の男女のうち2人が殺される展開。あとは誰が死ぬかが視聴者の投票によって決定され、次回の11月6日までに急ピッチで製作が行われるとのこと。ちなみにミュージシャン役のコリー・フェルドマンがつい先日奥さんに離婚訴訟を起こされたらしいので、いっそセットに奥さんを誘い出して殺してしまったりすれば史上最強のホラー・ギミックになりそうなもんなんだが。

「ADVENTURELAND」鑑賞

アメリカンなティーンの物語って個人的にはあまり好みじゃないんだが、この映画を監督したグレッグ・モットーラのインタビューを読んだらとても素晴らしかったので「これは観なければ!」と思った作品。何が素晴らしかったのか要約すると:

・僕(モットーラ)はティーンのときに脱毛症になってハゲになった。
・おかげで自分が化け物になったような気がして女の子とデートすることもできず、リプレイスメンツやスミスやREMといったカレッジ・ラジオを聴き込むことで正気を保つことができた。
・このため僕はティーンの時代に強いこだわりを持っている。
・僕(とその世代)はベトナム戦争のような大人になるための通過儀礼を経験できず、いつまでも大人にならないことができた。僕は最近やっと大人になる心構えができて、44歳になって2歳弱の子供がいる。

…といったもの。これを屈折してるとみなして笑いたいなら笑うがいいさ。俺はとても心に響くものを感じたよ(ハゲていないけど)。そして映画の冒頭から流れるのはリプレイスメンツの「Bastards Of Young」!監督、直球勝負すぎ!作品の内容もコテコテなボーイミーツガールもので、ピッツバーグに実在する遊園地アドベンチャーランドを舞台に、女の子にフラれたばかりの多感な童貞少年と、美しいんだけど家庭に問題を抱えていて年上の男性とつきあっている少女の一夏の恋を描いた内容になっている。登場人物も話の展開もとってもベタだけど、変に下ネタで笑いをとったりせず、10代の独特のやるせなさというか残酷さをストレートに描いてるところは評価できるかな。コメディというよりもドラマに近い作品ですよ。「フリークス学園」のマーティン・スターが相変わらず非モテなオタクを演じているのもいい感じ。

ただ舞台が1987年だというのと、ハスカー・ドゥやルー・リードが使われたサウンドトラック(音楽はヨ・ラ・テンゴが担当)からも分かるように、俺よりも上の世代を対象にしたような内容なんだけど、個人的には30半ばにもなってティーンエイジャーのボーイミーツガールものを観ることになんか複雑な思いを抱いてしまって、話を十分に楽しめなかったのも事実ではある。俺は本来ならば子育てや住宅ローンに関する映画を観てるべきなんじゃないかという思いが頭のなかに残ってしまって。いつかは俺もこうした映画を客観的に観れるほど大人になれるのかな。

※追記:あー登場人物は大学卒業して酒飲んでるんだからティーンのわけないか。すんません「20代前半の若者の物語」だと思ってください。

「ANGEL OF DEATH」鑑賞

クライム色の強いアメコミを書くことで知られるエド・ブルベイカーが脚本を担当した、ゾーイ・ベル主演のウェブ用映画。

敏腕の殺し屋のイヴはある人物の暗殺に成功するものの、格闘中に脳天にナイフを突き刺されてしまう。奇跡的に命をとりとめた彼女だったが、暗殺の際に一緒に殺してしまった14歳の彼女の姿が目の前に浮かぶようになっていた。そして良心の呵責に責められるようになった彼女は、意を決して暗殺を命じた彼女のボスたちに立ち向かっていくのだった…というような話。

いくら殴られても刺されても死なないベル姐さんはカッコ良いし、ウェブ用映画にしてはそれなりに話がきちんとまとまっているものの、チープなB級アクション映画の域を出るものではないかな。照明に金をかけられなかったのか、やけに画面が暗いような気がしたけど。そしてもうちょっとイヴの心境とかを描いても良かったのに。もともと数話に分けられて公開されたために、例によって話のペースがずっと同じで、大きく盛り上がったり落ち着いたりする展開に欠けてるんだよな。あとテッド・ライミとかルーシー・ローレスが友情出演してるけど殆ど出番はなかったりする。

ウェブ・シリーズ作品としては良く出来ていてDVDムービーにも劣らないくらいの内容だけど、ブルベイカーのコミックに比べたら圧倒的に劣っている作品。