「THE HUNT FOR GOLLUM」鑑賞

イギリスの「指輪物語」のファンたちが作った40分ほどのアマチュア映画。このサイトで視聴可能だよ。60万円ほどの低予算で作られたらしいが、160人近いスタッフが関わったとのことなので大半は無償で働いたんじゃないかな。

物語はいわゆる前日談的なもので、1つの指輪を探す闇の勢力が迫るなか、指輪のありかを知るゴラムを闇の勢力よりも先に捕獲するために、ガンダルフの命を受けてアラゴルンは1人で旅立つのだった…といったもの。森の影に隠れながら敵たちを始末していく馳男さんの活躍がカッコいいぞ。さすがにオークの集団を1人でノシてしまったのには「あなた強すぎじゃない?」と思ったけど。

ビジュアル的にはピーター・ジャクソンの映画版のそれを徹底的に踏襲しており、アラゴルンの役者なんかもそっくり。撮影はウェールズで行われたらしいが神秘的な森の雰囲気が良く出ているし、アマチュア映画とはいえ十分に楽しめるクオリティの作品になっている。ゴラムをCGで描写するのは金がかかるためか、殆どのシーンで彼は袋の中にいたり影しか見えなかったりするんだけど、逆にそれが臨場感を生んでいて良いんですよ。最後に出てくるCGの顔が逆にショボく見えるくらいで。CGに頼る前にまず演出で勝負しろという好例じゃないですかね。

今回は非営利での公開を条件としてトールキン財団からキャラクターの使用許可を得ているらしいけど、こうした有志によるファンムービーでもきちんと利益を上がられるようなビジネスモデルが近々に必要になってくるんでしょうね。映画配給会社に頼るようなものではなくて。

「ウォッチメン」鑑賞

ゴミ。カス。クズ。

この映画を観てるときにずっと考えてたのが「あの作品を映画化する意味はあったのか?」ということなんだけれども、悲しいかなその答えは最後まで見つからなかった。「V・フォー・ヴェンデッタ」もそうだったけど、原作に変に忠実になろうとして、物語の大まかな部分をとりあえずなぞって、ラストをちょっといじくるような映画作りをしてるんだったら映画化する意味なんて無いんですよ(そういう意味では原作とは別物になっていた「リーグ・オブ・レジェンド」は俺はそれなりに評価している。脚本家がジェームズ・ロビンソンだからというのもあるけど)。

致命的なのはやはり3時間弱という尺では原作の濃厚な、徐々に謎が明らかになっていく展開が描けてないことで、それでも登場人物の説明はしないといけないから彼らのオリジン話にばかり時間がとられていて、肝心の現代の話の展開が希薄になっているということ。原作をあれだけ特別な作品にしていた細かい描写が全部抜け落ちてるんだよな。いちおう4時間バージョンも後に公開されるらしいけど、たぶんダメでしょ。そして映像のペースもあの監督お得意のタルいスローモーションが延々と続くけど、アラン・ムーアって物語のペースに人一倍気を使う作家で、どこで話を速めてどこで緩くするかを緻密に計算してるんだが、それがこの映画では全て無視されてるような気がする。最後のロールシャッハ&ナイトオウル対オジマンディアズの格闘ももっと優雅なんだけどね。単なるアクション映画の格闘シーンにしてどうするんだよって感じ。

キャラクターの設定はドクター・マンハッタンが単なるデクノボーになってるのが一番気になった。彼は自分の運命を変えられないにしても、自分を操る糸を見ることができる存在であるはずなのに、この映画では他人に翻弄されてばかりの青チンコに成り下がってるんだよな。おかげでラストの展開も変な風になって、あの最も重要なセリフ(だと思う)「Nothing Ever Ends」を彼ではなく他の人物が言うという愚挙に出ているし。彼に限らず全ての登場人物に深みが欠けているような気がする。

最初に書いたように、映画として面白いのであれば原作に無理に従う必要はないと思うんですよ。かといって不必要な暴力描写や格闘シーン、ハリウッド好みのサントラをくっつけてもらっても嬉しくないわけで。この映画を観て、原作の奥の深さを改めて認識した次第です。

「バーン・アフター・リーディング」鑑賞

だめー。「レディキラーズ」がなければ俺にとってのコーエン兄弟のワースト作品かも。

彼らに映画作りの何たるかを説く気は当然無いけれど、サスペンスだろうとコメディだろうと観客が感情移入できる登場人物が最低1人はいないといけないと思うのですよ。それがこの映画の登場人物って私利私欲に取り憑かれた軽薄なバカばっかりで、誰がどんな運命に遭おうとも大して気にならないんだよな。国家機密と私生活という点ではジョゼフ・コンラッドの小説「密偵」を連想したけど、あちらは壮大な国家のイデオロギーが登場人物のケチな私欲に合わせてシュルシュルと矮小化されていく皮肉が痛快だったのに対し、この映画には別にイデオロギーなんてないからね。あとCIAが基本的に無能だという描写はブッシュ政権下だったらもっと効果的に見えたかもしれないが、今となっては、ねえ。コーエン兄弟はこの映画と「ノーカントリー」の脚本を同時期に書いていたらしいが、最終的な結果は水と油のごとくきれいに差が出たような感じ。

というわけで前回に続き、自分にとってのコーエン兄弟作品をランキング化してみる:

1、「ミラーズ・クロッシング」
2、「ブラッド・シンプル」
3、「ノーカントリー」
4、「ビッグ・リボウスキ」
5、「赤ちゃん泥棒」
6、「バートン・フィンク」
7、「オー・ブラザー!」
8、「ファーゴ」
9、「バーバー」
10、「ディボース・ショウ」
11、「未来は今」
12、「バーン・アフター・リーディング」
13、「レディキラーズ」

昔の作品は自分のなかで美化されつつあるのかな。世間的には「ブラッド・シンプル」の評価は高くないけど、床の血だまりをウインドブレーカーで拭こうとして逆に広げてしまう描写とかは非常に好きなんだよな。その一方で「ファーゴ」はやはり好きになれませんが。

帰国

ああ疲れた。ヒザが痛い。行きと違って帰りは良質の映画を2本観た。

まずは「フロスト/ニクソン」。フランク・ランジェラがニクソンよりもプレジネフに似ているという点に目をつむれば、インタビューにまつわる葛藤がうまく描かれた作品。インタビューがウォーターゲートの核心に迫るにつれ2人の背景が暗くなっていく演出も巧み。でもこれって歴史的背景が異なる日本じゃまずヒットしないだろうね。

そしてアカデミー賞受賞の「スラムドッグ$ミリオネア」。確かに感動的で素晴らしい出来の作品。これはみんなにお薦めします。ダニー・ボイルはその映像美にかなり独特のセンスをもった監督だと思うんだが、この作品でそれが頂点に達したような感じ。これ以上やるとたぶんコテコテになりそうなので、次の作品ではスケールバックするのか、それとも別の方向に行くのかにも期待したい。

出張中

またおフランスより。
いちおうリゾート地のようなとこなんだが天気は悪かったりする。

行きの飛行機ではゴミ映画を2本観た。まずは「地球が静止する日」で、何の理由でリメイクしたのかまったくもって不明な作品。感情のないエイリアンに仏頂面のキアヌ君を持ってきたのは分からなくもないが、いかんせん表情のない主役というのは観ていて退屈。ジェニファー・コネリーも相変わらずの「困ったママさん」という表情をしてるだけだし。脇役にもジョン・クリーズとかキャシー・ベイツとかカイル・チャンドラーとかいい役者を使っておきながら、みんな芸を殺すような役回りにしているのが最悪。あとオリジナルではあれだけ重量感があったゴートが、今回はサイズがデカくなっているくせにやたら軽く感じられる。ああいうのを観ると、CGが映画をつまらなくしているというのを実感しますね。

で次は日本未公開の「マックス・ペイン」。原作のゲームってよく知らないんだけど、何をやりたいのかまるで分からない作品。スーパーナチュラルなものかと思いきや全然そうでもなくて…。マーキー・マークはキアヌ同様に表情がいつも一緒だし。いくら薬でハイになっているからって、至近距離から撃たれて死なないというのはズルいよなあ。あとここ半年でオルガ・キュリレンコの出てる作品を3本観たけど、みんな「ワンピースを着た、淫らそうで実は筋の通ったねーちゃん」という役回りなのは何故なんだろうか。

こんな映画を2本観るよりも「チェンジリング」を観ればよかったと至極後悔。