「スカウト/涙の81球」鑑賞

世間が日本シリーズで盛り上がってるなか、すごい展開があると聞いた野球映画「スカウト/涙の81球」{The Scout}を観てみる。何がすごい展開なのかは後で述べるが、邦題の「81球」というので分かる人は分かるかな。

ニューヨーク・ヤンキーズのスカウトを務めるアル(アルバート・ブルックス)は大学を中退させてまで引き抜いた期待の新人が、緊張のためマウンド上でゲロを吐くという失態をやらかしたため、メキシコの奥地へと左遷させられてしまう。ろくな野球場もない土地をさまようアルだったが、彼はそこでスティーブ・ネブラスカ(ブレンダン・フレイザー)という驚異の少年を発見する。投げる球は160キロの豪速球、打席に立てばすべて場外ホームランという彼の凄まじい才能に驚愕したアルはさっそく彼をスカウトしようとするが、ヤンキースの上司には話を信じてもらえず逆にクビになってしまう。それでもアルはネブラスカ君をアメリカに連れて帰り、全球団のスカウトの前で彼の凄腕を披露することに成功する。この天才少年に度肝を抜かれたヤンキーズは、オーナーのスタインブレナー(本人出演)による札束攻勢で4年間5500万ドルという大型契約を結ぶことに。ネブラスカ君が長髪だというのも全然オッケーらしい。

成功に酔いしれるアル。しかし契約には1つの条件があった。それはネブラスカ君にメンタル面でのチェックを受けさせること。仕方なくアルは彼を精神分析医のところへ連れて行くが、そこでネブラスカ君の天真爛漫な性格の裏には、極度の緊張と恐怖が隠れていることを告げられてしまう。そして慣れないニューヨークの生活のなかで、ネブラスカ君の心はますます不安定になっていくのだった。そんななかついにネブラスカ君の初登板の日がやってきた(ワールドシリーズ初戦!いいのか新人なんかに登板させて)。不安にかられて国歌斉唱の場を離れ、スタジアムの屋根に逃げ登るネブラスカ君。アルは彼のあとを追って屋根に上がり、必死の説得を行う。そして2人の心が通じ、自信を取り戻したネブラスカ君はヘリコプターに乗ってマウンドへ降り立ち、カージナルズを相手にピッチングを始めるのだが、ここからがすごい展開。

彼の速球は次から次へとストライクを重ねていき、迎える打者はすべて三球三振、しかも自分はバックスクリーンホームランをかっ飛ばす活躍ぶり。そしてついに迎えた最終打者はオジー・スミス(これも本人)。そこでもネブラスカ君は170キロ近い豪速球でスミスを三振に打ち取り、なんと27奪三振(よって81球)という前人未聞の記録を立てて勝利を飾り、アルと一緒に歓喜するのでした…めでたしめでたし。

こんなベタな話はマンガでもそうありませんぜ。最初この27奪三振のことを聞いたときは、ストーリー上もっと前のほうの出来事で、それで高慢になった主人公がケガとかスランプで落ちぶれ、そこから見事復活するという映画かと思ったんですよ。それが話のクライマックスにこんな離れ業をもってきたって、相手が手も足も出ないからまるで盛り上がらないじゃん!ファミコンでいえば無敵コマンドを使って最終ボスを倒したような、なんか空しい達成感の残る作品ではあった。あと登場人物の設定がまるでできてなくて、ネブラスカ君の過去とかがろくに説明されないものだから、なぜ彼がメキシコの奥地にいて、なぜ不安を隠しているのかということが全然分からないんだよね。だからアルの説得シーンも心に訴えるようなものが何も無くて、いつの間にかネブラスカ君はホイホイと屋根から降りてくるし。とりあえず映画としてはダメダメの出来。27奪三振というネタだけは凄いけど。

「X線の眼を持つ男」鑑賞

ロジャー・コーマン大先生の監督作の代表作の1つである「X線の眼を持つ男」(1963)を観た。主演はレイ・ミランド。アカデミー賞俳優(後で穫った人たちを除く)とコーマンが組んだ作品ってこれくらいじゃないかな。でも内容はバリバリのB級ムービーですが。

主人公のエグゼビア博士は人間の眼の機能を飛躍的に向上させる薬を開発し、それを自らに試したことで透視能力を身につける。そうなると当然女の子の服が透けて見えたりするのですが、博士はそれに満足せず(なぜだ!)薬の量を増やすことでさらに多くのものが透視できるようになるものの、精神的にその能力をうまくコントロールすることができず、誤って同僚を殺してしまったために追われる身になるのだが…というのが大まかなプロット。

チープな特撮(「スペクトラマ」という名前つき)やカーチェイスに入り混じって、人知を超えた能力に対する哲学的なスピーチがあったりするのがコーマン作品っぽいところではある。でも博士は自分の能力に困惑してるくせに「能力が弱まった」といって薬をすぐ使うし、薬の研究費が欲しいためやたら金にガメつく、しまいにはラスベガスでカードを透視して大勝ちするなど、まあ都合のいい展開が続いてばかりなんだけどね。「不法侵入者」などに比べれば劣るけど、娯楽作品として割り切ればそれなりに楽しめる映画なんじゃないでしょうか。

「There Is No Authority But Yourself」鑑賞


その思想がアナクロだとか非現実的だとか言われようが、俺が敬愛してやまないパンク・バンド「クラス」のドキュメンタリー「There Is No Authority But Yourself」を観る。公式サイトではうまく視聴できなかったけど、グーグルビデオでタダで観れるぞ

ドラマーのペニー・ランボーへのインタビューを主体に、アートワーク担当のジー・ヴァウチャーやボーカルのスティーブ・イグノラントといった元メンバーたちの証言を通じて、クラスの歴史と思想が語られていく内容。クラッシュなどのパンク・ムーブメントに触発されてバンドを始めた彼らは、すぐに商業主義のバンドたちとは一線を画して徹底して反体制を貫き、アナーキズムの代弁者として数多くのチャリティ・ギグを行っていく。まだサンプラーもなかった時期にサッチャーとレーガンの会話の記録を偽ったテープを作成し、それが話題になってKGBが接触してきたなんていう話が面白い。自分たちの知らないところでバンドのマーチャンダイズが作成され続けていて、いつの間にかデビッド・ベッカムのような大金持ちまでもがクラスのTシャツを着ていたなんていう話は痛烈な皮肉でもある。そういえば日本でもどこぞのデザイナーがバンドのTシャツ着てカッコつけてたっけ。

今ではイギリスの田舎に土地を買って自給自足の生活をし、若者を従えたコミューンのなかで暮らしているランボーだけど、音楽活動は続けていて相変わらずメッセージ色の強いパフォーマンスを行っているらしい。これって理想的なパンクスの老い方なんじゃないでしょうか。少なくともバターの宣伝をするジョニー・ロットンよりかはマシだと思う。

「アイアンマン」鑑賞

冒頭からサバスの「あの曲」がかかったらどうしようかと身構えて(?)いたら、流れてきたのは「バック・イン・ブラック」でありました。

「ダークナイト」に比べれば劣るものの、キャラクターのツボをきちんとおさえていて非常に良い出来の作品。正義のヒーローが死の商人であるという設定も、予想以上にうまく描かれていた。アン・リーの「ハルク」に欠けてたのはこれなんだよな。ひ弱なブルース・バナーが新型爆弾の開発者であり、人類にとって脅威なのは実はハルクではなくバナーであるという設定が無かったんだよな。

CGやアクションも一流。メカフェチでない俺でもカッコいいと思うくらいのメカスーツの出来。「スパイダーマン」同様にクライマックスになると主人公がマスクを外すのはご愛嬌ですが。個人的に好きなウォーマシンが登場しないのが残念ですが、「次の機会にな」とジム・ローズが言ってるので続編には登場するのかな。配役もいい。ダウニーJr.の演技の巧さは相変わらず。ジェフ・ブリッジスの悪役ぶりもいい。彼については「トロン2」にも期待してるのです。グウィネス・パルトロウだけが浮いているような気がするけど、まあ女性キャラを入れたかったんでしょう。

日本の観客には馴染みの薄いキャラかもしれないが、映画がまるまるオリジン・ストーリーになっていることもあり、予備知識がなくても十分楽しめる作品と思うんだがどうだろう。まあでもSHIELDとか知ってるとさらに楽しめるんですがね。

この映画で大ヒットを記録したマーヴェルだけど、はたしてこのままヒットを連発して、無事アヴェンジャーズ結成までもっていくことが出来るんだろうか。

「ダークナイト」鑑賞

すげー。

「アメコミ映画」という表現を蔑視するわけではないのですが、これを単なるアメコミ映画として片付けるわけにはいかないような。今までのアメコミ映画が扱わなかった部分にいろいろ挑戦して、すべて成功してしまった奇跡的な作品かもしれない。キャラクタースタディの勝利というか、登場人物がすべてメタファーの塊になっていて、バットマンやジョーカー、ツーフェイスといったキャラクターの枠を超え、彼らが象徴する「法」や「混沌」そしてその「グレーな中間」の葛藤がこれでもかというばかりに語られていくんですよ。個人的にジョーカーやツーフェイスの性格設定には100%同意するものではないけれど、演出があまりにも濃厚のでそんなことも気にならずにどんどん話に引き込まれていく。もちろんアクションシーンも迫力満点だし、「バットマン・ビギンズ」が凡作に見えるほどの出来になっている。

あと個人的に好きだったのが、「バットマン・ビギンズ」もそうだったけど、ゴッサムのマフィアやゴロツキがきちんと「街の脅威」として描かれてること。多くのアメコミ映画では派手なヴィランだけに焦点が集まってしまい、部下の悪党どもはショッカーの戦闘員のごとくザコ扱いされてたが、この作品ではイタリアン・マフィアやロシアン・マフィアが街を脅かす存在であり、バットマンが彼らの撲滅に手を焼いていること、そしてジョーカーが彼らと手を組むことで自分の破壊活動をさらに加速させていく姿がうまく描かれていて、単に「ヴィランを倒せば街は平和に戻ります」的な展開にならないところがいい。また私利私欲で行動するマフィアたちに対し、ジョーカーが何ら明確な動悸を持っていないというのも見事なコントラストを生んでいるのかな。あとエリック・ロバーツは濃い顔のオヤジになったなあ。

難点があるとすれば尺がちょっと長い点で、例えばウェイン・エンタープライズのバカ社員のプロットは省いてもよかったような気もするけど、中ダレせずに2時間半の濃厚なドラマを描ききった点は本当に凄い。あとヒース・レジャーはアカデミー賞とかに絶対ノミネートされるべきでしょう。この映画の大ヒットにより早くも続編の噂がいろいろ出ているけど、果たしてこれだけの傑作を超えることができるのかな。