「北極の基地/潜航大作戦」鑑賞

ハワード・ヒューズのお気に入りだった映画として知られる「Ice Station Zebra」こと「北極の基地/潜航大作戦」(1968)を観る。

雪嵐によって孤立した北極の基地ゼブラから送られて来た救難信号。実はゼブラの付近に人工衛星が墜落しており、それにはアメリカとソ連のミサイル基地などを撮影したフィルムが収められていたのだ。フィルムを入手するためにイギリスのエージェントを乗せたアメリカの原潜が北極に向かうが、ソ連もまたフィルムの入手を目指していた。そして原潜には東側のスパイが潜入しており、凍てつく海の中で原潜は沈没の危機に見舞われる…といったような、冷戦まっただなかの時代の軍事サスペンス。

極寒の基地で何が起きたのか?というようなミステリやスパイ探しのスリル、迫り来るソ連軍などそれなりに面白い要素があちこちに見受けられるばかりに、全体的に間延びした感じがするのが悔やまれる。160分という長尺だが、あと30分は短くできたんじゃないかな。隊員がクレバスに落ちるシーンなんてまるで必要ないのに。主演のロック・ハドソンは貧乏人のグレゴリー・ペックといった感じで味気ないが、アーネスト・ボーグナインが相変わらず濃い顔で共演しているほか、「プリズナー」に主演してた頃のパトリック・マクグーハンが、ナンバー6そのままのクールな雰囲気で冷徹なエージェントを演じているのが一番のみどころかな。

ちなみに個人的には極地でのミステリというと「遊星からの物体X」とかクトゥルフ神話の物語とかを連想してしまうので、画面の隅から触手がウニョウニョと出てくるんじゃないかと思いつつ観てたのであります。

「Star war – The Third Gathers: Backstroke Of The West」鑑賞

ついこないだその存在を知ったんだが、2005年に「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」が公開されたとき、中国では例によって海賊版のDVDが速攻で流出されたわけだが、流出させた方々はご丁寧にもDVDに中文字幕だけでなく英文字幕も追加させておられたそうな。それがなぜか英語のセリフをそのまま転写したものではなく、中国語から翻訳し直した字幕であったために翻訳過程で誤訳・珍訳が続出し、その凄まじいインパクトが西側諸国で話題になったのがこの「Star war – The Third Gathers: Backstroke Of The West」というわけ。ルーカスフィルム作品の海賊版の映像なんて見つけるの難しいかな、と思っていたらyoutubeに全編がアップされていた。すげえ。当然ながら映像は汚いし、スクイーズもかかってますが。タイムコードが表示されていることから察するに、原盤を流出させたのは業界関係者だよな。映画館での撮影を取り締まる以前に、こういう悪徳業者を捕まえるのが先だと思うけど。

そしてその翻訳だけど、題名からしてスゴいことになってるのは見ての通り。中国題は「星際大戰三部曲:西斯大帝的復仇」だそうなので「西」が「west」と訳されたんだろうというのは想像つくけど、残りの「斯大帝的復仇」がなぜ「背泳ぎ(backstroke)」となったのかはまるで見当もつかない。冒頭のシーンもインパクト大で、あの奥にスクロールする黄色い英文字幕が出ているにもかかわらず、その上に珍訳だらけの英文字幕がかぶさっているという、実にシュールな展開で映画がスタート。もちろん本編もずっとこんな感じで、「R2 go back」というセリフが「R2 come back」なんて誤訳になってるのはまだ可愛いくらい。「the west ages is already on doing not reply」などといった文法的にも破綻した翻訳がほぼ全ての字幕に対して行われ、もはや字幕というよりもダダイストの詩を読んでいるかのような気分になってくる。「像」を「象」と読み間違えたのか「I can’t lose again your elephant」なんて字幕がでてきたり、もうすごいのなんのって。単純に機械翻訳にかけてるのかと思ったけど、中から英への機械翻訳って初歩的な文法ミスも回避できないのか?

あと固有名詞の翻訳も強烈で、アナキン(阿納金)は「allah gold」だし、オビワン(歐比瓦)は「ratio tile」、ジェダイ評議会は「Presbyterian Church」などといった、元の言葉からは想像もつかないような単語のオンパレード。そしていちばん最後にダース・ベイダーが「Nooooooo」と叫ぶ、演出のマズさで悪名高いシーンの字幕はなぜか「do not want」。これって「Nooooooo」=「イヤだ」=「do not want」ということなのかな。この「do not want」はそのインパクトゆえに一種のインターネット・ミームになったそうな。

まあこのときは中国のアホ翻訳が話題になったけど、日本も対岸の火事だとは思ってられないんじゃないですかね。「All your base are belong to us」のようないわゆるengrishは巷でいろいろ目にするし、いわゆるプロの字幕翻訳家だってとんでもないミスをしてる例もありますから。とりあえずこの映画から学べる教訓としては「海賊版を作るときは自国の言語の字幕だけ付けとけ」ということでしょうか。

「ダージリン急行」鑑賞

遅ればせながら。冒頭からビル・マーレイが出てきて、スローモーションの映像にキンクスの音楽がかぶさるところで「ああ、俺はウェス・アンダーソンの映画を観てるんだなあ」という気分になってしまう。

「オニオン」でもネタにされてたけど、この人の作品は良くも悪くもスタイルが確立されてしまいましたね。今回はインドというエキゾチックな土地を舞台にしているけど、オーウェン・ウィルソンや家族間の問題、シュールなコメディ、ブリティッシュ・ロックのサントラなど、今までの作品にあったテーマがそのまま流用されてる感じ。見慣れたものを観て安心するか、新しいことを期待して失望するかで評価が分かれる作品かもしれないな。俺はどちらかというと後者かもしれない。まあ変に大掛かりなセットを組んで失敗した「ライフ・アクアティック」よりかは話がコンパクトにまとまっていて良いけどね。ウィルソンの顔の傷とか父親の形見のトランクなどのメタファーはあまりにもベタで感心できなかったが。

ここまでのアンダーソン作品を、個人的に好きな順に並べるとこんな感じ:
1、天才マックスの世界
2、ロイヤル・テネンバウムズ
3、アンソニーのハッピー・モーテル
4、ダージリン急行
5、ライフ・アクアティック

どうしても初期の作品のほうが新鮮さがあったという意味で上位に来てしまうな。みんなどれも面白い作品なんだけど。

「アイス・ハーヴェスト」鑑賞

それなりに良い評判を聞いていたハロルド・ライミス監督の「アイス・ハーヴェスト 氷の収穫」を観る。確かに面白い、良く出来たフィルム・ノワール。

舞台はカンザス州ウィチタのクリスマス。マフィアとつながりのある弁護士のチャーリー(ジョン・キューザック)は相棒のヴィック(ビリー・ボブ・ソーントン)とともにマフィアの金を横領し、街の外へ高飛びしようとするものの、悪天候のため一人で時間をつぶす羽目に。そんなとき不運にもマフィアの手下が街に来たり、泥酔した友人の面倒を見ているうちに物事は意外な展開に発展していき…といった感じの作品。ブラックな展開のなかにシュールなコメディが多分に含まれていて、コーエン兄弟のサスペンス作品に良く似た雰囲気があるかな。チャーリーとヴィックとマフィアたちによる心理的な駆け引きもスリル十分だし、クリスマスの飾りが輝く街と雨と氷にまみれた郊外の対比も美しい。当然ながらファム・ファタールも出てくるぞ。

主人公のチャーリーも含めて登場する人物はみんな人生に失敗したようなダメ人間で、現状からの脱出を願って大金を手にしようとするわけだが、あまり話は湿ったものになりすぎずにサクサクと進み、89分という短い尺のなかで非常にタイトな展開を見せてくれる。日本だけでなくアメリカでもあまり知られてないような映画だけど、フィルム・ノワール好きの人にはお勧めしたい佳作。

「アメリカン・サイコ」鑑賞


原作読んでないけどさ。クリスチャン・ベールがバットマンとして知られるようになった今になって観てみると、ブルース・ウェインの両親が殺されずに彼がスポイルされて育ったなら、この映画の主人公のような狂ったヤンエグ(死語)になったんじゃないかという裏の見方ができるのもまた楽しい。

猟奇的だの暴力的だの女性蔑視だのいろいろ叩かれた作品だけど、80年代のヤッピー文化の空虚さの風刺としては素晴らしい出来ではないですか。同僚の名刺の出来に敗北感を感じて冷や汗を流したり、ジェネシスやヒューイ・ルイスのCDについて熱く語りながら喜々として惨殺を繰り返す光景は実はひたすら笑えたりする。そのため後半になって主人公の錯乱が進んで冷静さを失い、警察と撃ち合いをして慌てふためく辺りからは彼がただの凡人のようになってしまうのが残念なところか。主人公が最後までイっちゃっていれば「ファイト・クラブ」にも負けない傑作になってたと思うんだが。

ちなみにこの映画で描かれたようなやっピーってまだ存在してるんですかね。最近の株価大暴落などによりその生存数は激減してると思われるんだが。希少動物のごとく誰かがちゃんと保護してあげないといけないのかもしれない。舌が肥えているのでエサ代は高くつきそうだけど。